2015年3月15日 第152回「今月の言葉」
「交流分析」の「ラケット感情」とは?⑥ー⑥

●(1)最終回です。

 「ラケット感情」は、一般に理解されにくいものかも知れませんが、極めて重要なものです。逆に言いますと、「ラケット感情」に精通していないと、本来の人間指導は不可能と言っても過言ではありません。ラケット感情に対応しながらの指導こそが指導の極みだと思います。
是非、熟読玩味して、納得していただきたいものです。

 下記の(5)(6)は、⑥ー①からの続きの番号です。

●(5) <Ⅳ:ラケットとラケット感情>

1)ラケット感情(スチュアート、ジョインズ)
A)いろいろなストレス状態で経験される、馴染み深い感情
・・・・・人生の中でいろいろなストレス・困難な状況に陥ると、決まって、昔から味わっている「嫌な感情(ラケット)」を味わってしまいます。
B)子供時代に学習され奨励された感情
・・・・・「脚本」は、精神分析でも、交流分析でも、小学校に上がる6歳までに完成すると言われています。そのために、「ラケット感情」も、6歳までに、家庭環境の中で、しばしば体験させられたこと、つまり、学習させられた感情です。
C)成人の問題解決の手段としては不適切な感情
・・・・・不適切な感情であることは当然です。何故ならば、幼児期に、しかも、両親を中心にしたその人の家族の中で学習した「特殊な感情」ですから、その環境以外には適用できないにもかかわらず、私たちは、一旦身につけた感情を手放さないわけですから、人間関係は難しいということになります。

2)ラケット
A)自分がラケット感情を感じるようにお膳立てして、その感情を感じる過程(当人はその過程に気づいていない)・・・・・「ラケット感情」が完成すると、しばしば、その感情を味わうための行動をするようになります。しばしば、仕事を間違えるとか、事故を起こすとか、忘れ物をするとか・・・・・。

 私が自己成長に取り組み始めたころに体験したことです。
 通勤電車の中に、傘を忘れるということが何度かありました。「しまった!」という後悔の念を感じたある日、それが私の「ラケット感情」だと気がつきました。それ以後、電車の網棚に傘を乗せると、心の中で「新宿で降りるとき、手を伸ばして傘を取ってから降りる」と3回繰り返しました。以後、傘を忘れることが無くなりました。
B)脚本の思い込みを正当化する過程
①一組の脚本化された行動
②環境操作の手段として、意識せずに用いる
③ラケット感情の経験を伴う

3)ラケットと脚本
A)ラケット感情を経験するとき、あなたは脚本の中にいる・・・・・傘を忘れて「しまった!俺はダメな人間だな」と感じている時は、「脚本」の中のラケット感情を味わっていることになります。逆に言いますと、「今、ここ」(here & now)に生きていないことになります。
B)ラケット感情は、「今、ここ」での問題解決には役立たない・・・・・「脚本」は6歳までのものですから、その時に家族関係の対応に必要なものだったわけですから、「今、ここ」での問題に役に立ちません。人間関係が難しいと錯覚するのは、ここの問題です。自分の両親や家族と同じ関わり方をしても、全く、現在の状況には役に立ちません。つまり、私たちは「大いなる錯覚」をしているのです。これに気づくことが極めて重要です。
C)何故あなたに重要か・・・幼少時と同じ支持を得たい(環境操作)(他者変容)・・・・・寂しい顔をしたら、例えば、お母さんが優しくしてくれた・・・だから、今、寂しいので優しくして欲しいという願望ですが、今、ここで出会った相手に理解できません。「どうしたの?」と怪訝な顔をされかねません。

4)ラケット感情と真実の感情
A)ラケット感情は幼少時に禁止された別の感情の代用品である・・・・・典型的例は「怒り」の感情です。私たちは、一番対応が難しいのは「怒りの感情」です。幼児が怒って、オモチャやペットボトルを投げつけたとします。こういう怒りの感情を適切に受け止められる母親(父親)は、残念ながら、ほとんどいません。多くの場合、叱ることと思われます。しばしば、叱られるとしたならば、寂しそうな顔をしたり、悲しそうな顔をしたりするかもしれません。そうすると、母親は可哀想になって、優しくするかもしれません。
これが繰り返されると、「怒り」を感じると悲しくなる子になります。つまり、怒りの代用品ということになります。

B)ラケット感情は本物の感情を覆い隠すために使われる
C)真実な感情とは・・・①怒り②悲哀③恐怖④喜び

5)未完の状況とラケット感情(トムソン)
A)ラケット感情の表出は「今、ここ」での問題解決には役立たない
B)真実の感情は、問題の状況を完結させる
①正当な怒り  ②悲哀の仕事

6)ラケット行動(イングリッシュ)
A)タイプⅠa・・・無力(悲しげに哀れを誘う人)・・・すねる、ひねくれる
B)タイプⅠb・・・ガキ(マイナスのCP)・・・・・・・・・・かみつく、くってかかる
C)タイプⅡa・・・援助(マイナスのNP)・・・・・・・・・・おせっかい、過保護
D)タイプⅡb・・・ボス的(マイナスのCP)・・・・・・・・問い詰め
*ラケット感情は、しばしばゲームに変形する(藤森注:ゲームとは、こじれた人間関係の交流)

7)スタンプ
A)あとでまとめて使うために、ラケット感情をせっせと貯めること
B)八つ当たり、お門違い、玉砕

8)転移(土居)とラケット感情
A)転移・・・治療関係において、患者の最も内奥にある精神感情がそこに暴露されたもの(患者の生身)
 患者の幼時の本能的感情生活そのもの・・・・・私たちは、私(藤森)を含めて、誰でも、当然の如く、親に対して不満を持っています。不満があるほうが健全です。不満が無いと錯覚している人は、「反抗期」がありませんから、「反抗心」はとんでもないときに出てきます。多分、「大塚家具」の経営問題で、創業者の父親と、現在の社長である娘が壮絶な争いをしているのも、今が反抗期を迎えている・・・というのが私の判断です。
 これは実の親子の争いではありますが、「転移」と言っても過言ではありません。本来の反抗や反抗心が転移されたと考えたほうが分かりやすいです。
 

B)抵抗・・・裸の精神になることへの躊躇
  本当の裸の姿を見まいとする自己防衛的態度が無意識の中に働いている・・・・・この「抵抗」が自己成長の最大の難敵です。この「抵抗」が無ければ自己成長は簡単なことです。例えば、スポーツや武術、芸術、楽器の演奏などのように、その技術を習得するのに何年もかかるというようなことはほとんどありません。

 例えば、子どもに優しく接するということは、新たに習得することではなく、いつでも簡単にできることです。しかし、大事な場面で、何故か優しくしたくない気持ちが湧いてきて、分かっているにもかかわらず、優しくせずにトラブルを起こしてしまうものです。

 ご主人が「オーイ、ビール!」と言ったとします。直ぐに持っていかないとトラブルことが分かっているにもかかわらず、サッと持って行きたくない気持ちがあるものです。理由はともかく、後でトラブル事が嫌なはずではあっても、抵抗感があって、分かっちゃいるけど・・・・・です。

 ですから、心理学とか自己成長的なセミナーやカウンセリングのほとんど全てはこの問題であるにもかかわらず、この問題が、問題として取り上げられることはほとんどありません。私が知る限り、ほとんど全ての指導は、立派なことを指導することに主眼が置かれていて、「抵抗」を考慮している指導はほとんど全く見当たりません。

C)なぜ転移は治療に対する最大の抵抗となるか
①患者は幼児的な状態に退行している
②対象の判然としない母子関係の再現
③幼児の生活状況の再現

●(6)<Ⅴ:ラケット・システム>

1)~5)は省略

6)ラケット・システムの例
A)脚本の基になる信念と感情
①信念(思い込み)
a)自分について
*私は大事な人間ではない
*私はまったく一人ぼっち
 「大事な人間ではない」「一人ぼっちだ」などは、案外、生育歴の中で思い込まざるを得ない環境が、意外に多いものです。もちろん、親がそのように思って育てているつもりはありませんが、子どもがそのように受け止めてしまうことは、結構多いものです。それは、多くの場合、親は一人で育てる、つまり、父親は会社に行っているために、一人で対応せざるを得ません。兄弟姉妹が多ければ、一度に二人、三人、四人に対応できません。そうすると、不思議と、割を食う子どもがいるものです。
割を食う子どもは、いつも、無視をされているような気持ちになってしまうものです。

 例えば、下の子が0歳~1歳くらいの場合、下の子を抱いて、上の子は歩かされることがあります。そういう親子を、私は観察するようにしていますが、疲れて抱っこしてもらいたい上の子、例えば、3歳くらいの子は、抱っこを要求しても無視されるか、叱られます。母親にしては当然のことではありますが、上の子はブスッとします。しかし、一方、下の子は、母親に抱っこしてもらって、ニコニコとハシャいでいます。この時、3歳の子は「僕は大事な子ではないのだ」と思っても、状況的に止むを得ないのではないかと思います。

 親の側に、よほどの余裕が無い限り、校いう時に適切に対応することは不可能で、3歳の子が愚図れば愚図るほど叱ってしまいます。その度合いが強ければ、「一人ぼっち」の感覚が強くなってしまいます。

b)他人について
*他人は大事な人ばかりだ
*誰も私のことなんか必要としていない
*誰も私を愛していない
c)人生について
*人生は困難で、淋しいところだ
*人から好かれ、愛されるためには、人の世話をすることだ
*それを自分でするしかない
 上記a)の体験をすると、他人や人生について上記のb)やc)のような僻みを抱くものです。私(藤森)自身、こういう僻み根性を持っていましたが、こういう僻み根性がある人に、立派なことをいくら指導しても、りっぱな内容を知的に理解するだけで、納得しないものです。この僻み根性の処理をしない限り、いかなる立派な指導も、ほとんど無効です。

②抑圧された感情
*傷心
*怒り

B)ラケットの表われ方
①観察される行動
*悲しい姿         *静かさ(沈黙)
*一人で時間を過ごす  *すべての仕事を一人でやる
*相手の目を見ない   *他人のニードを代わって訴える
*自分のためには要求しない

②身体内感覚
*首筋がこる・・・感じたことを言わないでおく
*頭痛
 ここで説明されている身体感覚は、東洋医学や生体エネルギー法などの観点から判断すると、感情の種類は「怒り」です。

③ファンタジー
*一人淋しく老後を迎える
*人の世話をしてきたので、皆から感謝される

C)強化因子としての記憶
*兄弟の方が私より優先する
*悲しそうな母・・・私の面倒をみる余裕がない
*友だちがあまりいない
*相手にされない、無視される
*皆の仲間に入れてもらえない、招かれない

く文責:藤森弘司>

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