2010年7月15日 第96回「今月の言葉」
脚本分析・・・オバマ大統領は大丈夫か(補足②)

 ●(1)オバマ大統領に興味を持ち始めてみると、面白いように情報が集まるのには驚いています。
 もう打ち止めにしようと思い、最終回を書いたのですが、さらに興味深い情報が集まり、「補足」を書きました。しかし、さらに私(藤森)の説を裏付ける情報が入ってきていますので、今回の「補足②」に続いて、来月「補足③」を書きます。次回はさらに面白いものになると思いますので、ご期待ください。  オバマ大統領がうまくない人生を歩むことは望みませんが、しかし、私の、少々、先走った「学問的な判断が正しい」ことが裏付けられそうな雲行きになってきています。果たしてどうなるのか、少なくても、現在までは「脚本」に沿って事態が進行しているように私(藤森)には感じます。  アメリカは、現在、極めて困難な時代を迎えています(日本はもっと困難な時代ですが)。その時代的なタイミングとして、オバマはミスマッチのように思えてなりません。

 下記の(2)、読売新聞の「地球を読む」は、第1面と2面に大きく掲載された署名入りの記事です。オバマの先行きを、非常に暗示しているように思えます。次回の「補足③」で詳しく書きますが、どうやらオバマは、リーダーシップ力が不足しているようです。
 大衆を扇動するような演説がうまかっただけで・・・それは一般に非常に魅力的な武器ではありますが、困難な時代を迎えた世界の大統領には、むしろ、安直過ぎて怖いものではないでしょうか?

 さて、オバマ大統領は不思議な人です。
 分かれば分かるほど、百年に一度の大問題に遭遇する大統領のようです。百年に一度がとても多い。それを列挙してみます。

①史上最大の原油漏出事故・・・・・メキシコ湾の原油流出事故

②史上初・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大統領選挙で、候補者に政府から支給される8500万ドル(約90億円)の受け取りを拒否

③ベトナム戦争を超える・・・・・・・・・アフガン戦争はベトナム戦争を超えて、アメリカ史上最長の戦争

④百年に一度の不況・・・・・・・・・・・リーマンショックはオバマが就任する直前ですが、対応のほとんどすべては、オバマが就任してから

⑤米国史上初・・・・・・・・・・・・・・・・・国民皆保険制度

⑥連邦議会の最も保守的な民主党議員は、最もリベラルな共和党議員よりもリベラルだ。こんなことは、過去100年間で初めてである<下記の(2)より>。

⑦大統領在任中に、ノーベル平和賞を受賞する。多分、史上初ではないでしょうか?

 まずは、下記の新聞の記事を、時間をかけてじっくりお読みください。

●(2)平成22年6月27日、読売新聞の1面・2面「地球を読む」(「フランシス・フクヤマ」米政治哲学者・・・1952年生まれ。米コーネル大学卒。国務省勤務などを経て、スタンフォード大学シニアフェロー)

 <米政治2極化>

 <「拡大」中国に対処できず>

 現在の米国は、政治的にひどく二極化している。そのせいで、米国の相対的な力と威信の低下を口にすると、「敗北主義」のレッテルを張られてしまう。だが、あえて言う。相対的な衰退の兆候は豊富に存在する。
 米国の失業率は10%近くを推移し、短期的に活発な経済回復が起きる見通しは暗い。他方で中国は、巨大な景気刺激策によって、地球規模の不況を1四半期で脱し、猛烈な経済成長を維持している。

 中国の自信は、昨年のコペンハーゲン気候変動会議でも如実に表れた。中国代表団は国益を激しく主張し、アフリカや中南米の親中諸国がそれに追随した。彼らは、欧州諸国の困惑を尻目に、国際制度の促進や、成長戦略の選択肢を縛る二酸化炭素削減に全く関心を示さなかった。
 これに対し米国は、大きな役割を全く演じられなかった。長期的なエネルギー政策に関する国内的な総意を達成できなかったからである。

 中国の興隆は、国際システムに二つの危険をもたらす。
 第一は経済である。国際金融危機の根源には、米国の財政・金融構造の不均衡をあおった中国の資本輸出があった。低コストの資本供給は、一種の麻薬となった。米国民は喜んでその中毒にかかり、低金利のローンを借りまくった。そして住宅バブルが膨らみ、やがて弾けたのである。

 中国は、意図的に人民元の価値を低くすることによって、自国の輸出産業を支援すると同時に、事実上、世界中に産業空洞化を生んだ。米国だけではない。中南米やアジア、アフリカの低コスト製造業も、中国の輸出に直面して、軒並み閉鎖されつつある。

 中国は20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、人民元相場の弾力的運用を約束した。だが、輸出産業の政治的重要性を意識して、切り上げは小出しに行なわれるだろう。いずれにせよ、過去10年間の人民元政策が及ぼした被害は、もう取り返しがつかない。
 過小評価された人民元は、理論的に、輸出産業への補助金と変わらない。もし補助金だったら、米国を始め各国は、不公正な貿易慣行として世界貿易機関(WTO)に提訴し、報復関税の脅しをかけたはずだ。

 ところが、頭の固い米当局者たちは、強硬な貿易制裁は一種の保護主義にあたるとして、中国を相手に退屈な説教を続けた。結局のところ米国は、米国債を買ってくれる中国に対して、強力な行動を何一つ取れなかったのである。

 <国際的指導力の回復を>

 第2の危険は、中国の軍事的な挑戦である。米国は過去10年間、アフガニスタンとイラクでの消耗戦の泥沼にはまっていた。米軍は、訓練と戦術を、ハイテク戦争から対反乱作戦に切り替えた。それは他のどの国よりもうまく行なわれている。だがその間に、東アジアにおける中国の軍事能力は飛躍を遂げたのである。

 中国の通常弾頭中距離ミサイルは、今や西太平洋において、米軍の接近を阻む能力を持つ。中国は衛星迎撃ミサイルの実験を行い、中国人ハッカーたちはグーグルの検索エンジンに入り込んでいるのである。
 現在の中国は、切迫した軍事的脅威ではない。だが、その野心は拡大しつつある。中国がもたらす挑戦に立ち向かえるのは、指導力と集団的な行動である。だが、そのどちらも、欠如したままである。

 その理由は、米国が世界の主導権争いから身を引いていることにある。米国が抱える最大の問題は、景気後退が多大な打撃を与えているものの、経済ではない。それは政治である。
 米国の制度は、日本と同様に、機能不全に陥っている。直面する重大な諸課題に関して、予防的な行動を取ることを、政治的二極化が阻んでいるのである。

 米国の憲法は、行政権力に対する一連の監視・均衡手段を制度化し、意図的に、強力な政府が現れないようにしている。これは、米国の歴史を通じて良好に機能してきた。だが、そこには秘訣があった。
 国家的な非常時には強力な指導者が出現し、必要な行動に関する総意を築いたことだ。

ところが現在の米国政治は、最近の歴史の中の、いかなる時期よりも二極化の度合いが大きい。
 オバマ大統領は、2008年の大統領選挙の結果を誤って解釈した。改革の方向に鋭く舵を切り、医療保険制度の大規模補修を行なうことに関して、負託を得たと考えたのである。

 だが、まだ有権者には、そこまで大きく政府が自分たちの生活に入り込むことを、認める用意がなかった。このため、非常に毒々しい反発が生じた。最も端的な現われが、共和党内の「茶会」運動の高まりである。

 そして、共和党の右派は一様に更に大きく保守化し、レーガン時代初期の思想に凝り固まっている。長期的に見て財政赤字の縮小が必要なのは明白なのに、彼らは、いかなる種類の増税にも頭から反対する。金融危機からメキシコ湾での原油流出事故に至るまで、最近のトラブルの原因は不十分な政府規制だという事実にもかかわらず、同党は「大きな政府」に反対し続けているのである。

 こうした潮流は、実に驚くべき二極化をもたらした。今や連邦議会の最も保守的な民主党議員は、最もリベラルな共和党議員よりもリベラルだ。こんなことは、過去100年間で初めてである。医療保険制度に関する審議は、落胆すべき様相を呈した。それは、右派も左派も、重要な争点を静かに理性的に討議する能力がないことである。

 実際問題として連邦議会には、国が直面する大問題に真剣に取り組む用意が全くない。現在、最も深刻になりつつある争点は、不況下で爆発的に増大した赤字支出である。もし11月の中間選挙で、共和党が予想通り議席を増やせば、米国は、政治的な行き詰まりの年月を、更に重ねることになりかねない。

 国際システムにとって現在の中国は、手に負えない問題ではない。だが、その対処には、各国が共同戦線を張ることが求められる。かつての米国は、そうした対応を構築する上で不可欠な指導的役割を演じた。いま生じている指導者の不在は、近い将来、いかなる国にも埋められそうもない。

 かくして中国問題と米国の国内政治は、重要課題として収斂する。国内での弱さは、米外交政策の選択肢に害を及ぼすからである。つまり、米国の政治制度が自ら活性化を図れるかどうかに多くがかかっている。

 <「茶会」運動・・・・・オバマ政権の「大きな政府」路線に反対する草の根保守派の運動。名称は、米東部が英植民地だった1773年、英国の重税政策に反旗を翻した「ボストン茶会事件」にちなむ。「茶(TEA)」には、「もう税金はたくさん(Taxed Enough Already)」の意味も込められている>

●(3)平成22年6月24日、読売新聞「米、アフガン戦略痛手」

 <「批判」司令官更迭か 大統領と面談  【ワシントン=黒瀬悦成】アフガニスタン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官が米誌「ローリング・ストーン」の記事でオバマ政権高官を批判し、戦況が一向に好転しないアフガン情勢に深刻な影を落とすのは避けられなくなった。オバマ大統領は23日、ホワイトハウスに司令官を召喚し、発言の真意を問いただしたが、司令官は、アフガン安定化の「切り札」として登用された経緯があり、更迭の是非をめぐり大統領が苦しい判断を迫られるのは確実だ。  ホワイトハウスによると、大統領と司令官の会談は約20分で終了。司令官は、引き続き予定されていた政権高官によるアフガン戦略をめぐる月例会合には出席せず、車で立ち去った。
 「暴走司令官 本当の敵はホワイトハウスの腰抜け共だ」などと題された問題の記事は、フリー記者のマイケル・ヘイスティングス氏が司令官に長期にわたり密着取材し、司令官や側近の発言を紹介したものだ。これがオバマ大統領ら政権高官の逆鱗に触れたのは、司令官や側近が、全軍司令官である大統領やアフガン政策に関与する政権高官を片っ端から批判し、戦時下の文民統制を脅かし、指揮命令系統を混乱させる行為と見なされたためだ。

 記事によると司令官は、自らが提唱したアフガンへの大規模追加増派に反対したバイデン副大統領を「誰だい、そいつは?」と言って笑い飛ばした。また、アフガニスタン・パキスタン問題を担当するリチャード・ホルブルック特別代表に関しても、作戦に口出しをする厄介な存在と見なし、同代表の電子メールは「開ける気もしない」と述べた。

 対テロ戦闘など特殊作戦の専門家である司令官は昨年6月、更迭されたデビッド・マキャナン司令官に代わり、ゲーツ国防長官らが「最適の人材」と強く推して就任した。ジョン・マケイン共和党上院議員ら、司令官の増派戦略を支持する勢力は、現時点で司令官が交代すれば夏以降に実施される南部カンダハル攻略作戦など、今後の戦略に悪影響が及ぶとして「更迭すべきでない」と主張するが、政権内では司令官を擁護する声は少ない。

●(4)平成22年6月25日、読売新聞「米“アフガン戦”引き締め」

 <司令官更迭 後任はイラクで実績>

 【ワシントン=黒瀬悦成】オバマ米大統領が23日、オバマ政権高官を批判したアフガニスタン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官を解任したのは、アフガンの戦況が厳しさを増す中、全軍最高司令官として厳正に部下の「反抗」に対処し、政権の求心力を維持する狙いがある。しかし、イラクを安定化に導いた後任のデビッド・ぺトレイアス中央軍司令官をもってしても、アフガンの戦局打開は容易ではない。

 大統領は、マクリスタル司令官の解任を「残念」としながらも、軍律維持と文民統制尊重の観点から、解任は「必要な措置だった」と断言した。大統領は、同司令官をわざわざホワイトハウスに呼びつけて解任を通告し、戦争を取り仕切る責任者が誰なのかを印象づける演出まで行なった。

 同司令官は、イラク戦争当時は特殊作戦軍司令官としてフセイン元大統領の拘束やアル・カイーダ最高幹部の殺害・拘束を指揮し、軍人としての評価は高い。記者や政治家に率直に意見を述べることから、外部からの人気も高かったが、今回はそれが裏目に出た格好だ。

 後任のぺトレイアス司令官は、上院の承認を経て就任する。マクリスタル司令官が進めていた、米軍の大規模増派によって旧支配勢力タリバン掃討と住民保護を図る一連の戦略は、ぺトレイアス氏がイラク駐留米軍司令官をしていた当時に成功を収めた増派戦略を下敷きにしたものだ。それだけに、同氏の起用は「最善の選択」との声も多い。

 しかし、アフガンでは、米軍が戦闘で住民を巻き添え死させるのを慎重に避けているのを逆手に取り、リバンが非武装の市民を「人間の盾」として利用する方法がイラク以上に巧妙だ。このため、住民保護優先の観点から戦闘の自制を要求する今の戦略に現場の兵士は不満を募らせており、同氏を悩ませるのは確実だ。

 アフガンでの戦闘は今月6日、開戦から満8年8ヶ月に達し、ベトナム戦争を抜いて、米史上、最長の戦争となった。ぺトレイアス氏としては、来年7月の米軍撤収開始を柱とする出口戦略に明確な道筋をつけることが急務となっている。

<藤森注・・・・・この新聞の記事が出た前後に、しばしば、テレビでもこの問題が放映されていました。その中で、更迭されたマクリスタル司令官が、非常に注目すべき発言をしていました。
オバマ大統領とホワイトハウスで会った時、マクリスタル司令官は、バイデンの「増派反対」に抗議したようですが、そのとき
「オバマ大統領はオドオドしていた」と発言しました。これは、私が「脚本分析」しているオバマ像にピッタリ合致します。非常に有効な裏づけになると同時に、来月の興味深い情報とも一致します。>

●(5)<「人を動かす」D・カーネギー著、山口博・訳>

 <略><藤森注・・・・・アメリカの南北戦争当時、名将・リー将軍の南軍におされていたが、物量にまさる北軍がやっと反攻し始めたときの話です>

 1863年の7月1日から3日間にわたって、ゲティスバーグ(ペンシルヴァニア州南部の都市)に、南北両軍の激戦がくりひろげられた。4日の夜になると、リー将軍きか(漢字がでません。意味は「ある人の指揮の下にある部隊」)の南軍が、おりからの豪雨にまぎれて後退を始めた。敗軍をひきいて、リー将軍がポトマック河まで退却して来ると、河は夜来の豪雨で氾濫している。とても渡れそうもないし、背後には、勢いずいた北軍が迫っている。南軍は全く窮地に陥ったのである。

 リンカーンは、南軍を壊滅させ、戦争を即刻終結させる好機にめぐまれたことをよろこび、期待に胸をふくらませて、ミード将軍に、作戦会議は抜きにして時をうつさず追撃せよと命令した。この命令は、まず電報でミードに伝えられ、ついで、特使が派遣されて、ただちに攻撃を開始するように要請された。

 ところが、ミード将軍は、リンカーンの命令とまるで反対のことをしてしまった。作戦会議を開いて、いたずらに時をすごし、いろいろと口実をもうけて、攻撃を拒否した。そのうちに、河が減水して、リー将軍は南軍をひきいて向こう岸へ退却してしまった。
 リンカーンは怒った。

 「いったい、これはどういうことだ!」
 彼は、息子のロバートをつかまえて叫んだ。
 「くそっ!なんということだ!敵は袋の鼠だったじゃないか。こちらは、ちょっと手を伸ばすだけでよかったのに、わたしがなんと言おうとも、味方の軍隊は指一本うごかそうとはしなかったのだ。ああいう場合なら、どんな将軍でも、リーを打ち破ることができただろう。わたしでもやれるくらいだ」

 ひどく落胆したリンカーンは、ミード将軍にあてて一通の手紙を書いた。このころのリンカーンは言葉づかいがきわめて控え目であったということを念のためにつけ加えておこう。それで、1863年に書かれたこの手紙は、リンカーンがよほど腹を立てて書いたものに違いない。

 拝啓
 私は、敵将リーの脱出によってもたらされる不幸な事態の重大性を、貴下が正しく認識されているとは思えません。敵はまさにわが掌中にあったのです。追撃さえすれば、このところわが軍の収めた戦果と相まって、戦争は終結にみちびかれたに相違ありません。しかるに、この好機を逸した現在では、戦争終結の見込みは全く立たなくなってしまいました。

 貴下にとっては、去る月曜日にリーを攻撃するのが最も安全だったのです。それをしも、やれなかったとすれば、彼が対岸に渡ってしまった今となっては、彼を攻撃することは、絶対に不可能でしょう。
 あの日の兵力の三分の二しか、今では、使えないのです。今後、貴下の活躍に期待することは無理なように思われます。事実、私は期待していません。貴下は千載一遇の好機を逸したのです。そのために、私もまた計りしれない苦しみを味わっています。

 ミード将軍がこの手紙を読んで、どう思っただろうか?
 実は、ミードは、この手紙を読まなかった。リンカーンが投函しなかったからだ。この手紙は、リンカーンの死後、彼の書類のあいだから発見されたのである。

 これは、私(著者)の推測にすぎないが、おそらく、リンカーンは、この手紙を書き上げると、しばらくのあいだ、窓から外をながめていたことだろう。そして、こうつぶやいたにちがいない・・・・・。
 「待てよ、これは、あまり急がないほうがいいかも知れない。こうして、静かなホワイト・ハウスの奥にすわったまま、ミード将軍に攻撃命令を下すことは、私にとっては、いともたやすいが、もしも私がゲティスバーグの戦線にいて、この一週間ミード将軍が見ただけの流血を目のあたりに見ていたとしたら、そして、戦傷者の悲鳴、断末魔のうめき声につんざかされていたとしたら・・・・・多分、私も、進んで攻撃を続行する気がしなくなったことだろう。

 もし私がミードのように生まれつき気が小さかったとしたら、おそらく、私も、彼と同じことをやったにちがいない。それに、もう万事手をくれだ。なるほど、この手紙を出せば、私の気持ちはおさまるかも知れない。だが、ミードは、どうするだろうか?自分を正当化して、逆にこちらを非難するだろう。そして、私に対する反感をつのらせ、今後は司令官としても役立たなくなり、結局は、軍を去らねばならなくなるだろう」

 そこで、リンカーンは、この手紙を、前述のとおりにしまいこんだのに相違ない。リンカーンは過去のにがい経験から、手きびしい非難や詰問は、たいていの場合、なんの役にも立たないことを知っていたのだ。

 セオドア・ルーズヴェルトは、大統領在任中なにか難局に出くわすと、いつも、居室の壁に掛かっているリンカーンの肖像を仰ぎ見て、
 「リンカーンなら、この問題をどう処理するだろう」
と、考えてみる習わしだったと、みずから語っている。

 <以上は「人を動かす」昭和33年11月初版、昭和52年10月刊、創元社

●(6)時代が違うとはいえ、実に、今回の司令官更迭の事件と似ていませんか?

 アメリカは、巨大な軍事力を持っています。世界を相手にしても戦えるほどの軍事力です。しかも、年中、戦争をしているために、兵器は最新中の最新です。ですから、こと戦争に関しては、アメリカはダントツのナンバーワンです。

 しかし、これからの世界の戦争(?)は、テロとの戦いです。特に、アフガンのように一般市民を「人間の盾」とする戦闘には、アメリカ軍が勝つのは容易ではありません。それを証明するのが「ベトナム戦争」です。異国の地、アフガンで、アメリカ人の多くの若者が戦死することに、アメリカ国民は耐え切れなくなってきています。
 だからこそ、オバマ大統領は来年の7月から、順次、米兵を撤収すると言うのでしょう。そうであるならば、米軍にとって、最も苦手な戦争、アフガンの戦闘のような戦いは、マクリスタル司令官のような、少々、お行儀は悪いかもしれないが、アフガンでの戦闘に最も相応しい司令官こそ、リンカーン大統領に倣って、継続させる度量が欲しかったと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?

 もちろん、私(藤森)には、そんな度量はありません。しかし、一国の、しかも天下のアメリカの大統領になる人間が、建前を優先させていたのでは、最も困難な戦闘に勝てるわけがありません。
 最高司令官が誰であるかを示すために、そして、リーダーシップを示すために、わざわざ、ホワイト・ハウスに呼びつけて「クビ」を宣告するのは、いかにオバマの「自我」が脆弱であるかを証明しています。
 一番重要な時期に、一番重要な司令官を交代させるようでは・・・・・もうすでに「ベトナム戦争」を超える戦闘は、案外、オバマの政治生命を危うくしそうな感じになってきました。

 しかも、因縁とは面白いものですね。奴隷解放はリンカーンの功績です。そのリンカーンの150年後に、リンカーンと逆の対応をしたのが、黒人のオバマです。いろいろな面でオバマは、リンカーンを参考にすべきだったように思われます。
 しかし、残念ながら、私(藤森)と同様、酷い「脚本」を持っているオバマには、「自我の成熟性」を求められるこの種の対応はまったく苦手なはずで、これこそがキリスト教でいう「愛(仏教でいう「慈悲」)」に近いもの(「愛」と「自我の成熟性」はほとんど同義語)だと思われます(このあたりは、次号をお楽しみください)。

●(7)平成22年6月26日、日刊ゲンダイ「アフガン駐留米軍 マクリスタル司令官解任劇」

 <第2のベトナム化>

 <これはオバマの命取りになる>

 オバマ大統領がアフガン駐留米軍トップのマクリスタル司令官(55)を更迭し、後任にぺトレイアス米中央軍司令官(57)を起用すると発表した。
 マクリスタルの解任はオバマ政権の高官への批判が原因だ。今月発売の米誌「ローリング・ストーン」で、米軍増兵に反対したバイデン副大統領やジョーンズ大統領補佐官をバカにする発言をしたのである。

 アフガン駐留の米軍はこの7月から大規模作戦を実施する予定で、作戦を準備してきたのがマクリスタルだった。作戦は米軍がアフガンで仕掛ける最後の“切り札”だった。軍事ジャーナリストの神浦元彰氏が解説する。
 「タリバンの拠点であるカンダハル州の掃討作戦です。従来のような空爆や砲撃ではなく、民家やビルなどを一軒ずつしらみつぶしに調べて、武器庫や弾薬庫、仕掛け爆弾、タリバンの資金源であるアヘンを押さえる特殊作戦。かなりの兵員を要しますが、完了すればタリバンの壊滅につながるため、昨年からマクリスタル氏が着々と準備を進めてきたのです」

 いわゆる“ローラー作戦”。成功すれば、アフガンの治安は一気に良くなる。米軍は作戦を完了させ、来年7月にアフガンからの撤退を開始する予定だ。

 <大規模作戦の直前なのに・・・・・>

 ところが、この特殊作戦が失敗する可能性が出てきた。特殊作戦のプロであるマクリスタルの抜けた穴が大きいというのだ。
 「マクリスタル氏以外の将兵はそのまま残留して作戦にあたりますが、不安は大きい。タリバンが激しく抵抗したら、マクリスタル氏を欠いた米軍は迷走する可能性が出てくる。すでにアフガン戦争は01年から約9年におよぶ戦闘で、あのベトナム戦争より長い。1110人の米国人が死亡するなど、まさに泥沼。起死回生を狙った今回の作戦が失敗したら、アフガンからの撤退も延期せざるをえなくなり、戦闘状態がさらに長引きます。泥沼から抜け出せると期待している軍人や米国市民の失望は大きいでしょう」(神浦元彰氏)

 作戦が失敗したら、オバマ大統領は万事休す。退陣の可能性もなくはない。就任して1年半。オバマは大ばくちを打った・・・・・。

●(8)平成22年7月8日、読売新聞「アフガン米司令官」

 <重火器・空爆制限 緩和も>

 【イスラマバード=酒井圭吾】アフガニスタンで、駐留米軍や国際治安支援部隊(ISAF)の空爆や重火器使用を制限する交戦規定の見直しに注目が集まっている。
 アフガンではかねて、誤爆や誤射による一般市民の犠牲が、国民の反米感情の大きな要因となっていた。

 <兵士の犠牲増加 方針転換を示唆>

 2009年に就任したマクリスタル前駐留米軍司令官は交戦規定の改正に取り組み、重火器は攻撃を受けた後で使用することとしたほか、住宅地での空爆などにも厳しい制限を設けた。
 しかし、今年に入って米軍の被害状況が悪化すると、「旧支配勢力タリバンは厳格な交戦規定で外国軍の攻撃が鈍ったのを見透かしている」との批判が米メディアでわき上がった。

 舌禍で退任したマクリスタル氏を継いだぺトレイアス新司令官は4日、「アフガン人を守るためにも武装勢力を掃討する必要がある。兵士の安全確保のためにあらゆる手段をとる」と語って、交戦規定を再び見直す考えを示唆した。
 ただ、前司令官時代の厳格な交戦規定の結果、09年に駐留外国軍による誤爆などで死亡した住民が前年比で28%も減少したのも事実。規定再改正となれば、カルザイ大統領やアフガン国民の反発を招くのは確実だ。

●(9)平成22年6月24日、読売新聞「原油依存の地域経済配慮」

 <掘削凍結「無効」 米政権に新たな難題>

 【ワシントン=山田哲朗】米南部ルイジアナ州ニューオーリンズの連邦地裁は22日、深海油田の新規開発を凍結する政府命令を差し止め、オバマ政権の決定を「恣意的で場当たり的」と批判した。地裁の決定は地元の意向を強く反映したもので、沖合開発の推進と規制の間で揺れる政権にとって新たな難問となりそうだ。

 沖合いの開発解禁は、オバマ大統領自身が今年、民主党内の反対を押し切って決断した。産業界寄りの共和党に譲歩し、地球温暖化対策法案の上院での審議をテコ入れする狙いがあった。

 しかし4月20日にメキシコ湾で原油流出事故が起こり、米国史上最悪の環境被害が発生。深海掘削に反対する世論が高まりオバマ大統領は5月27日、自らの決定を覆す形で、推進152メートル超での新たな油田の開発許可を6ヶ月停止し、33カ所の試掘を凍結すると発表した。

 ところが漁業や観光業が盛んなメキシコ湾の沿岸は、原油漂着の被害を受けると同時に、石油業界が地域経済の柱でもあり、凍結措置は「二重の苦しみ」(地元自治体)となった。
 操業できず経済的に打撃を受ける掘削関連企業は凍結措置の撤回を求めた。原告の訴えを全面的に認めた地裁の決定を、ルイジアナ州のボビー・ジンダル知事も支持した。

く文責:藤森弘司>

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