2010年4月15日 第93回「今月の言葉」
PART③
●(1)オバマ大統領の「脚本分析」は、ひとまず、今回を最終回としたいと思います。
私(藤森)が、日ごろから感じていることは、心理学、特に「交流分析」を深く勉強している多くの人が、ご自分の「脚本」を分析しようとしない「不可思議さ」です。 しかし、ほとんどの人(学者、専門家やセミナーなどで詳しく学んだ人)は、「交流分析」を学んだり、研究を続けるが、本来の「交流分析」の目的に取り組もうとしません。ということは、多くの方は「脚本」が人生に与える「本当の意味」を、あまりご存じないと「解釈」せざるを得ません。「本当の意味」が理解できていれば、心の底から取り組もうと思うはずです。いや、取り組まざるを得ないはずです。 最後に、「女優 ハル・ベリー」の「生い立ち」と、その生い立ちが人生に与えている「巨大な影響」も併せてご紹介しますので、「脚本」が人生に与える影響を十分に噛み締め、理解されることを祈っています。願わくば取り組まれることを。 なお、「精神分析」では、人生の「基礎」は小学校に上がるまで、つまり6歳までに形成されるといいます。同様に、「交流分析」でいう「脚本」も、6歳までにほぼ完成されると考えてください。 ただし、「脚本」を書き換える作業(リプログラミング)は、「交流分析」ではできません。「交流分析」は「理論」であって、実際の作業は他の「技法」を活用することです。活用する「技法」は沢山ありますので、その状況に合わせて、その状況に有効な「技法」を活用することです。「交流分析」の真髄にいくら徹しても、それは単に理論的にわかったというだけのことです。変わるための工夫をしなければ、わからないこととほとんど同じです。 そのために理解すべき課題は、私が連載させていただいている「イーマ」のホームページに詳しく解説してありますので、それを参考にすることをお薦めします(<このHPの表紙>から、<リンクしているイーマのホームページ>をクリックしてください)。 |
●(2)さて、オバマ大統領の「脚本分析」ですが、私(藤森)は、アメリカの歴史や現状をほとんど全く知らない人間です。ましてや、英語のこともわかりません。そういう意味で、これから解説することに、万一、ミスがありましたら、ご一報賜れば幸いです。
オバマは、2008年11月の「受託演説」の最後に、下記の演説をしました。「深層心理」を専門にする私(藤森)にとっては、非常に重要な部分、見過ごすことのできない部分に思えますので、ご紹介します。 ・・・(略)・・・そして、そのたゆまぬ支えがなければ私が今夜ここに立っていることはなかっただろうと思われるのが、16年来の私の友人であり、わが家の強い支えであり、私の生涯の伴侶であり、この国の次期ファーストレディでもあるミシェル・オバマです。 ●(3)上記の「たゆまぬ支え」は、<the unyielding support(アンイールディング・サポート)>となっていて、<unyielding>の単語の訳として<屈することのない、揺ぎない>とあります。 また、「わが家の強い支え」は、<rock of my family>となっていて、<rock>の単語の訳として<堅固な支え、よりどころ>とあります。 英語では、こういう言葉が普通に使われるのかもしれませんが、オバマの「脚本」がわかる私にとっては、非常に不自然な表現に思われます。何故ならば、多くの場合、「無意識」、特に「深層心理」の中にあるものとは反対のことを「表現」したくなるものです。 「親に見捨てられたと感じていた」オバマが、「親の愛」を知るわけがありません。「親の愛」を知らなくても、愛情が大切であることがわかり、学問を積めば、いくらでも「愛情表現」ができると思うのは「完全な間違い」です。 「脚本分析」して、書き換えない限り、「人間性」、それも表面的な部分ではなく、より深い部分を変えるには、学問だけでは不可能です。どんなにボランティア活動をしようが、社会に貢献しようが、命をなげうって活動しようが、学問的に立派な業績を上げる学者であろうが、どんなに宗教的な活動や宗教的な学識が深まろうが、本来の人間性とは全く関係ありません。 さて、英語表現としては普通のことかもしれないですが、「深層心理」を専門にする私(藤森)は、ここは「看過」できない部分です。むしろ「壊れやすい」からこそ、「rock of my family」と言いたくなるのです。 さらに重要なことは、<君たちには想像もつかないほど、お父さんは君たちふたりを愛している>と強調するおかしさ。 「親に見捨てられたと感じていた」オバマは、親に愛されていない・・・というよりも、「親に冷たくされた」わけですから、自分が親の立場になったからといって、どうして「子供」を愛せるでしょうか。愛し方を知らないはずですから。 私(藤森)の父は、私が子供のころ、いろいろなことに手を出しましたが、ことごとく失敗しました。お陰で私は「失敗」の仕方を学んだので、失敗ばかりの人生を、私自身が生きてきました。ですから、私は「失敗」する方法は、一冊の本をかけるくらい詳しく知っていますが、残念ながら「成功の仕方」は知りません。私の人生は、父と同様、ことごとく失敗してきました。 体験しなければわからないことの例をもうひとつ挙げてみます。 オバマの生い立ちから考えれば、両親が削除されていることはよくわかります。しかし、「削除」したままの「幸せ」は、「幸せぶりっ子」です。アメリカ的かどうかわかりませんが、全米に向かって、いかに自分が幸せであり、家族を大切にし、家族に支えられているかを強調することは、政治家としては重要なことなのかもしれませんが、私には、オバマが強調すればするほど、「脚本」通りになる「確信」が持てます。つまり、強調していることとは「逆」の人生になることが強く予感されます。 今まで、アメリカの大統領が就任するというようなことに関心を持ったことがないので、歴代の大統領がどんな受託演説をし、どんな就任演説を行ったのか、私には全くわかりません。 私(藤森)の「脚本」と良い勝負ができるくらいに「酷い脚本」ですが、(前回にも述べましたが)私と決定的に違うのは、オバマは頭が良くて、私は頭が悪いことです。その結果、「王子のオバマ」と「乞食の私(藤森)」になっています。 しかし、ここからが面白いことです。私は還暦まで乞食のような失敗ばかりの人生を生きてきたお陰で、晩年になって、人生にとって、あるいは人間にとって、「一番大事なことは何か?」ということに気づくことができました。そのお陰でなんとか、人生の最後を穏やかに過ごせそうです。安らかに人生を終えることができそうです。 さらにオバマの将来を予感させるような資料をご紹介します。 |
●(5)平成20年8月15日・22日号、週刊ポスト「池上彰の鳥の目、虫の目」(あるときは国際情勢を俯瞰し、あるときは人々の暮らしの視点からニュースを考えるコラム) <補助金90億円の受け取り拒否!オバマ候補「金権選挙」の皮算用><ヒラリー、オバマを支援> アメリカ大統領選挙の本選挙は今年11月。これまでの「選挙活動」は、民主党や共和党の候補者になるための予備選挙でした。 共和党はマケインが早々と候補に決まっていましたが、民主党は、オバマとヒラリーが最後まで激しく争いました。あまりに激しい戦いだったので、オバマが候補者に決まった後も、両者の間の溝が埋まらず、ヒラリーの支援者はオバマにそっぽを向くのではないかと言われていました。 民主党の大統領候補がオバマに決まると、ヒラリーは「撤退宣言」を出して公の場から姿を消します。「やはりヒラリーはオバマを応援しないのか」という観測が流れたのですが、6月末になって、ヒラリーは再登場。オバマの支持者の前に姿を見せ、オバマを支援することを宣言。二人は抱き合って今後の共闘を誓いました。 これをきっかけに、オバマの支持率は急上昇。6月末時点ではマケインを大きく上回りました。ヒラリー支持者がオバマを応援するようになった結果だと見られています。 と、ここまでは美しい話ですが、7月9日、オバマは、自分の資金集めのパーティーで、ヒラリーへの資金援助も呼びかけました。ヒラリーは、オバマとの激しい予備選挙で政治資金を使い果たし、私財まで投じたのですが、それでも足りず、日本円にして20億円以上の借金を抱えています。その借金返済に協力してほしい、というわけです。 ヒラリーがオバマへの支援を打ち出す一方、オバマは支持者にヒラリーへの資金援助を呼びかける。お金でつながった二人だったのですね。オバマの公式ホームページには、早速「ヒラリーありがとう」という欄が登場し、インターネットでヒラリーへの政治献金ができるようになりました。この手際の良さ。 <大統領選挙は金がかかる> 政治には金がかかるのは日本もアメリカも同じですが、アメリカの場合、群を抜いています。選挙運動に日本のような規制がほとんどないため、候補者がテレビ広告を大量に打ちます。これに多額の資金がかかるのです。 前回(2004年)の大統領選挙では、ブッシュ、ケリー合わせて10億ドルから15億ドル(約1060億円から約1500億円)を使ったとみられています。 <ネットで集める政治献金> アメリカの政治献金の集金方法としては、インターネットが大きな役割を演じるようになっています。それぞれの候補者の公式ホームページには、政治献金の欄があります。たとえばオバマのホームページを見ますと、政治献金の寄付額が、10ドル、25ドル、50ドル、100ドル、250ドル、2300ドル、4600ドルに分かれています。寄付したい人は、選んだ金額をクリックし、クレジットカードの番号を入力すれば、それでOK。まるで通信販売を利用するように政治献金が完了するのです。 ちなみに個人献金は、予備選挙と本選挙で、それぞれ上限が2300ドルと定められています。合計で4600ドルまで寄付できるというわけです。 <政治献金は個人献金中心> アメリカの個人献金は、候補者以外にも、民主党や共和党の全国委員会に年間2万5000ドル、地方の党組織に年間1万ドルなどと上限が決まっています。 候補者とは別のPACを組織し、資金を集めて政党に寄付するという手法が広がりました。政党は、あくまで「政治活動」をするという名目で大統領候補を支援する費用に使います。 <「5億ドルの男」という呼称> これまで本選挙で政府からの補助金受け取りを拒否した候補はいません。オバマが、初の候補なのです。 アメリカ大統領選挙のあまりの「金権選挙」ぶりには気が遠くなりますが、多数の支持者から少額の資金援助を得て選挙活動をまかなうというのは、民主主義そのもの、と言うこともできます。これが、オバマの強みなのでしょう。 (藤森注・・・・・私は、何かの本か週刊誌だったか忘れましたが、オバマは小口の献金を集めたかのように思われているが、実は、大口献金のほうが多いということを読みました。その資料をいくら探しても見つからないので、私の記憶違いということにしておきますが、これだけ多額の献金を考えれば、大口の献金説に妥当性があるように思えます。 どう考えても、貧しい育ちをし、黒人のオバマが、連邦政府から8500万ドル(約90億円)もの大金を受け取れるのに、それを断る、しかも、史上初めてというのは、異常としか思えません。これだけの「金権体質(数百億円!)」「アメリカ大統領」「ノーベル賞受賞」。ありったけの「運」を使い果たさないほうが不思議です。「チェンジ!」「イエス、ウイ、キャン」と絶叫しただけで、過去にほとんど実績のないオバマが、あっという間に「金権体質」などと呼ばれるほど、巨額のお金を自由に使えるような立場になりました。人生が狂わないほうが私にとっては不思議に思えます) <いけがみ・あきら・・・・・1950年長野県生まれ。慶応大学卒業後、73年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、94年から「週刊こどもニュース」のキャスターに。わかりやすく丁寧な解説が人気を集める。05年よりフリージャーナリスト。近刊に『14歳からのお金の話』『「見えざる手」が経済を動かす』がある> |
●(6)平成22年3月25日、読売新聞「オバマ支持 回復の兆し」
<医療改革 世論は好感> <共和党、中間選挙へ反撃態勢> 【ワシントン=黒瀬悦成】オバマ米大統領が内政上の最大懸念としてきた医療保険制度改革法が23日、大統領の署名で成立した。オバマ政権は、歴代民主党政権が成し得なかった「歴史的成果」を追い風に、一気に求心力の回復を図る構えだ。しかし、改革法案の審議の過程でオバマ政権との亀裂を決定的に深めた共和党や保守勢力は、11月の中間選挙をにらみ、早くも反撃態勢を固めつつある。 「我々は、大志を萎縮させるようなことはしない。疑念や不信に陥らなかったからこそ、今の我々がある」 実際、ギャラップ社の世論調査では、大統領自身の支持率は、下院が法案を可決した直後の22日の時点で51%と、数日前に就任以来最低の46%を記録したのに比べ、若干持ち直していることが分かった。 大統領としては、法案の成立を受けて医療保険改革を直ちに軌道に乗せ、改革への国民の評価を定着させたい考えだ。署名式の演説でも「国民皆保険」の実現に向け、従業員の保険料を負担する小規模事業者への税控除や、既往症を持つ人々の保険加入促進に即刻着手するとアピールした。 <14州の司法長官が法の無効訴え提訴> 一方、不安材料も少なくない。フロリダ州など計14州の司法長官は23日、連邦政府を相手取り、同法の無効確認を求める訴えを連邦地裁に起こした。国民の保険加入を義務付けた同法は、「個人の自由と州の主権を侵害し、憲法違反だ」というもので、ビル・マッキカラム同州司法長官がテキサスなど他の12州の長官の提訴を取りまとめた。バージニア州の長官も同様の訴えを別に起こした。 法律専門家は、訴えが認められる可能性は低いとみている。ただ、14人の長官は1人を除き全員が共和党員で、マッカラム氏は州知事選立候補も取りざたされ、訴訟は中間選挙をにらんだ共和党による巻き返しという政治色が強い。 |
●(7)上記の「医療改革」は、もちろん、すばらしい政策だと思います。また、そうあるべきものだと私(藤森)は思います。 しかし、良い政策が必ずしも「正しい」とならないところが難しいところです。私が思うに、この「医療改革」には、二つの間違いがあるように思えます。①その国には、その国の歴史的背景があります。ただ単純に、今考えてみて「正しいこと」だから正しいとならないものがあります。その一つが、この改革です。 「個人の自由と州の主権を侵害し、憲法違反だ」という訴えは、確かに13州の長官が共和党員であり、「中間選挙」をにらんだ政治色が強いのは事実でしょう。 しかし、たとえ「政治色」がいくら強くても、アメリカの文化に合わない主張であれば、むしろ彼ら自身が有権者から反感を買うはずです。いくら利害打算が働いたとしても、それが国民感情を刺激しなければ、党利党略にもならないはずです。 つまり、「個人の自由と州の主権を侵害し、憲法違反だ」という訴えは、国民感情に訴える効果があるからこそ、党利党略で訴えたはずです。「国民皆保険制度」は、われわれ日本人には当然のことのように思っていますが、アメリカは驚くほどこういう精神構造を強く持っていることを理解しないと、共和党員の感情の理解は難しいでしょう。 日本でも、自民党は、多分、党利党略で、民主党の鳩山総理大臣と小沢幹事長の「金」の問題を強烈に攻撃しているはずです。しかし、歴史的背景を考えれば、自民党のほうがはるかに根の深い大きな問題であることを国民はわかっているので、民主党の支持率が下がっても、自民党の支持率が上がらないのです。 政治に関する「金」の問題は、戦後の日本の歴史的背景を考えれば、自民党の攻撃に胡散臭さを感じるのは当然です。せめて、金の問題に全く縁の無さそうな若手を総裁や幹事長に抜擢して、民主党の「金」の問題を追及すれば、かなり効果があったように思われますが、大変失礼ながら、自分たちも関わってきたように思われる自民党のベテラン国会議員がいくら攻撃しても、「目くそが鼻くそ」を笑っているように思えてしまうのではないでしょうか? 私が、強くこの気持ちを抱いたのは、中国で麻薬の密輸を企てた日本人3人が「死刑」の判決を受け、処刑された報道がきっかけです。1.5キログラムの麻薬所持で「死刑」は厳しすぎないかという意見に対して、ワイドショーのあるコメンテイター(弁護士)が、「中国にはアヘン戦争でメチャクチャになった歴史的背景があるから、アヘン所持には厳しいのだ」と発言していたのを聞いて、私は「なるほど」と思いました。 日本では「政教分離」が常識ですが、諸外国の多くの国では違うのではないでしょうか。 ですから、「国民皆保険制度」というわれわれの文化から考えれば非常にすばらしい制度であっても、アメリカの西部開拓史や独立戦争などを考えると、特に伝統を強く意識する層(共和党員や保守勢力など)には、「個人の自由と州の主権を侵害し、憲法違反だ」などと言いたくなる背景があるのでしょう。かなり「過激」かもしれないが、でも「国民感情」を刺激するだけの根拠や、それなりの正当性があるのでしょう。 つまり、十分に豊かな人たちは良いでしょうが、生活が苦しくなってきているアメリカ国民、精一杯のところで頑張っている人たちが、このような制度によって、さらに税金を取られるとなると、怒りを爆発したくなるのではないでしょうか。 ③そして、言いにくいことですが、そして、残念なことですが、そういう歴史的背景を無視し、疲弊した経済状況の中、負担を増加させる制度を強行する大統領が「黒人」であるということを、一部の過激的な国民にはどのように映るでしょうか。 ●(8)上記(平成22年3月25日、読売新聞「オバマ支持 回復の兆し」)の記事を見ると、オバマ大統領が法案に署名をしている写真が載っています。その写真をみると、ペロシ下院議長が覗き込んでいますが、それはまるで、「ワアー凄い!ステキ!!」とでもいう様子が感じられます。このように、大賛成という国民と、大反対という国論を二分する制度になってしまって、火種を残した感じがします(あくまでも「脚本」の立場から)。 その前日、下院の議会でオバマ大統領は、法案を通すための演説をしましたが、ペロシ議長から紹介されて登壇したときのオバマは、やや穿ってみますと、驕った雰囲気が感じられました。驕っていたというよりも、「尊大さ」が私(藤森)には感じられました。それは私のように「独断と偏見」でものをいう人間には、「虚勢」を張っているように思えてなりません。 さて、ここで私が日ごろ尊敬している曽野綾子先生の興味深いエッセイをご紹介します。 |
●(9)平成21年だと思われます。一生の不覚で、週刊ポストの発効日と、2ページにわたるエッセイの2ページ目が紛失されています。不覚をお許しいただいて、エッセイの内容から、大体の発効日を推測してください。
週刊ポスト「昼寝するお化け」(曽野綾子著) <私生活覗き> 私も凡庸に他人の生活を覗くのが好きなのだが、噂を元に興味をかき立てるのは好きではない。全く根拠がないデータを元に考えても時間潰しになるだけだからだ。 朝日新聞が、旧日本軍の残虐の証拠として、大陸で毒ガスを使ったという写真を発表したこともあった。その写真が載った新聞が配られた日の早朝、私の家では夫がおかしそうにその記事を私に見せに来た。これは一目瞭然で毒ガスではないという。理由は平地に煙が立ち上がっているからだ。毒ガスは空気より重いものだから、有効に使おうとしたら、谷間のような狭いところで低い空間に濃く溜まるようにせねばならない。平地では、その日が無風としても、拡散してしまって効果がない。当時、毒ガスの見分け方と使われ方は中学で習ったので、皆知っているという。 オバマは天を支え続ける巨人アトラスのような仕事を、自分から望んで抱え込んだ人物である。その途方もない重い責任を、彼は「イエス、ウィ、キャン」と引き受けた。私には理解できない恐ろしい自信で、個人としてはほとんど暴挙に近いとさえ私は感じている。普通の神経なら、自分には、人類の未来を左右する才能があるとも、またその任に就きたいとも願わないものだろうが、政治家という人たちの神経は違うのである。 その意味で私はこのごろ、政治家の世襲に次第に賛成と言いたい気持ちに傾いて来た。こんな恐ろしい仕事を自ら望んでやりたいと言ってくれるような人たちはなかなかいるものではないだろうから、そういう種族は大切に保存すべきだとういう思いである。 私はオバマ個人にはほとんど関心がない。しかしイスラム系の名前を持ったアフリカ系黒人が手にした、アメリカ大統領という社会的背景と機能には、興味を持つのである。私自身がアフリカの文化と、民主主義以外の心情を持つ世界に関心があるからだ。 写真によると、オバマは左利きであった。クローズアップした写真では、議会での演説の草稿に最後まで自分で手を加えている。漢字の読めない総理と違って、オバマがかなりの能力を持った書き手であることは、その著書『マイ・ドリーム』で私は知った。演説の草稿を検討することは、小説の推敲とはまた違った無限の危険を内包した、一種の戦いなのだろうと思う。 <後略> |
●(10)平成15年3月3日、日刊ゲンダイ「第一線美女を解剖する」
<女優 ハル・ベリー> “007シリーズ”の20作目「ダイ・アナザー・デイ」が8日に公開される。世界各地で大ヒット中のこのアクション大作は女優、ハル・ベリー(34)が出ていることで話題だ。オスカー女優初のボンドガールである。 <オスカー女優で初のボンドガールの迫力> <トラボルタ絶賛のボディー> <男に虐待され続けた半生>家庭内暴力で4年後に離婚「離婚後はうつ病彼女は睡眠薬自殺を図りました。殴られて左耳の聴力を8割も失った。男運は最低だ。 「昨年4月、映画『ダイ・アナザー・デイ』を撮影中に夫の不倫が発覚し、ショックのあまり、彼女は睡眠薬自殺を図りました。不倫は夫のセックス中毒が原因と考えてベネットを強制入院させたのですが、彼の女好きは以前のままです」(芸能ライター) <ミスコン出身の元モデル> 68年8月14日、米オハイオ州クリーブランド生まれ。黒人の父と白人の母の間に2人姉妹の妹として生まれる。4歳で両親が離婚し、看護婦の母に育てられた。 85年、17歳でミス・ティーン・オール・アメリカンに選ばれ、翌年、準ミス・アメリカに選ばれて芸能界入り。89年にコメディードラマ「リビング・ドールズ」の主役で注目され、91年に「ジャングル・フィーバー」で映画デビュー。 |
●(11)書けばきりがないので、この辺りで結論を出したいと思います。オバマの人生は、社会的に非常にすばらしい・・・というよりも最高級の人生を生きていると言えますが、その中に脆さ・危うさを包含しているよう思えます。
社会的な評価は、往々にして、その人の深層心理を反映しています。深層心理とは反対の形を取りながら、社会的な評価をうけるような生き方をするものです。ですから社会的に評価を受けるような業績を上げながらも、その背後に隠れている「脚本」を感じさせるものが潜んでいるものです。それをどう読み取るか、その難しさはありますが、「脚本」を感じさせるものは、絶対に隠し通せるものではありません。 オバマが両親の愛情に恵まれない生い立ちであることがハッキリしていること、そして、その後の人生も明確であり、そしてさらにはほとんど業績を上げることなく猛烈なステップアップをしています。 大統領としては4年を全うできない可能性があります。全うできても、果たして、どれほどの成果を上げて全うできるのだろうか。また仮に、大統領の職は全うできても、その後の人生を順調に過ごすことは絶対に不可能です。少なくても、穏やかに一生を終えることは不可能です。 それほど「幼時体験」は重要で、そこに書き込まれたもの、つまり「脚本」は、その人の人生を拘束します。そのため、私たちは、「脚本」を書き換えるというチャンスに恵まれない限り、脚本通りに生きざるを得ません。 |
く文責:藤森弘司>
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