2010年3月15日 第92回「今月の言葉」
脚本分析・・・オバマ大統領は大丈夫か? PART②

●(1)じっくりとご覧ください。脚本に沿ってキレイに生きていることがお分かりだと思います。これほど明確だと、「交流分析」や「脚本」の意味がわからなくても、なにか妙にひっかかるものがあることにお気付きかと思います。

 順を追って解説してみます。
 「祝福されし者」という名前こそ、意味が深長です。ノーベル賞を受賞するまで、全ては「祝福されている」人間に相応しい経歴です。しかし、ここにこそ結末が暗示されています。「暗示」されているものは最後に述べるとして、「結末を暗示」していると思われるものを解説をします。

①まず、オバマ大統領の母親は黒人(父親はケニア人)と結婚しますが、母親の両親は、黒人と結婚したことを残念がります。

②オバマの父親は奨学金を獲得してハワイ大学で学び、そこでオバマの母親と出会い、結婚します。しかし、オバマが2歳のときに、ハーバード大学の奨学金を獲得しますが、多分、単身で移動したものと思われます。
 父親は頭が良かったのでしょう。オバマも頭が非常に良かったようで、ハーバード大学法科大学院を優等で卒業します。
 しかし、その父親は、オバマが3才のときに離婚して、ケニアに帰国します。この経過は「オバマの父親のある種の人間性」を感じます。
 母親はインドネシア人と再婚し、ジャカルタに移ります。ここでオバマは人種問題に直面し、その後、ジャカルタからオバマは一人帰国し、貧しい祖父母と同居します。
 ここにオバマの「脚本」の原型が見られます。

 1)まず、頭が良い。そのために色々なことが可能で、多くの成功体験をします。

 2)母親は、黒人と結婚することで、両親に残念がられています。つまり、両親に対する反抗心が見られます。その後も、インドネシア人と結婚し、ジャカルタに移住するということは、両親との葛藤が強く見られます。

 3)2才のときに、父親がハワイ大学からハーバード大学に移り、3才のときに両親が離婚します。ということは、(私の臨床経験では)オバマが生まれたときから、両親は不仲で、まさに「祝福されし者」どころか、望まれない誕生の可能性があります。というよりも、私(藤森)はそのように推測します。
 いずれにしても、3才の幼児には心理的に巨大な影響があります。しかも、その後、一時、母親からも離れて暮らします。これは、猛烈な寂しさが内包されることを意味します(オバマ自身、親に見捨てられたと感じていた。父親はそばにいなかったし、母親さえも、しばらくの間、離れていた)。
 だからこそ、さらに寂しさを強化するような小学校に入ります(これは、交流分析でいう「ラケット感情」を味わうためにですが、交流分析に詳しくない方は、そういうものだとご理解ください)。

 第一に、白人の生徒が大部分の学校に入っています。今から40年も前の時代を考えるならば、かなり差別的な雰囲気が残っていたのではないでしょうか?

第二に、その学校は、大部分が裕福な家庭で育っている児童です。両親と離れ、祖父母と一緒に寝室2つの窮屈なアパートに住む黒人が通うには、本人が言うように「孤立感」を深めるのは当然のことです。だからこそ、自分のアイデンティティに悩み、そして、ドラッグにも手を出したはずです。

 4)頭が良いがために、やりたいことが次々と実現することで、一箇所に落ち着かない性格傾向が強く見られます。一箇所に長く居ないということは、まさに「孤立感」を深めたり、「アイデンティティ」に悩む「脚本」には好都合です。

③かくいう私(藤森)自身、会社を転々として、「アイデンティティ」に苦しみました。30才過ぎに、心身共に破綻して、ゼロからのスタート状態になり、それから「アイデンティティ」を確立するのに本当に苦しみました。
 しかし、私とオバマ大統領との本質的な違いは、頭脳明晰か否かです。私(藤森)の場合は、頭が悪かったために、オバマ大統領と違い、何をやっても成功せず、そのために30才過ぎに人生が破綻してくれたお陰で、ゼロから再スタートすることができました。
 しかし、オバマ大統領は、やる事全てが大成功です。敢えて失敗をあげれば、連邦議会議員に落選したことですが、それさえも4年後にリベンジして当選し、さらには大統領に当選し、挙句は、実績のないノーベル賞も受賞しました。

ミシェル・オバマはこう言います。
 「私がバラクを尊敬する理由のひとつは、彼が理解しているからです。『多くを与えられた者は多くを求められる』のであり、恵まれている人は恵みの上にあぐらをかいてはいけないのだということを。そして、どのようにその恵みを活用すれば、最も多くの人々に分け与えられることになるかを考えなければいけないのだということを」

 こういう考えは、表向きは正しいのですが、「深層心理」を考える上では、非常に重要なことです。多くの場合(というよりもほとんどの場合)、「思い」「考え」と「無意識・深層心理」は逆です。だから私たちの人生は思うようにいかないのです。それを探るのが「脚本」です。
 往々にして、ミシェル・オバマが上記のようにいうことの本来の意味は、「多くの人々に分け与えようとするもの」は、実は「オバマ本人が必要としているもの」です。ここにオバマ大統領の人生の危うさを感じます。

●(2)略歴をさらに簡単に列記してみます。

*2才で、父親が、ハワイ大学からハーバード大学に移っています(おそらく、父親は一人で東部に移住したのでしょう)

*3才で、両親が離婚

*5才で、ジャカルタに移住、人種問題に直面する

*10才で、母親と離れて、ジャカルタからハワイに戻り、祖父母と暮らす。しかも、大部分が白人で、大部分が裕福な家庭の生徒が通う名門の小学校に、黒人で、貧しい家庭のオバマが通う

*アイデンティティに悩み、ドラッグに手を出すが、やがて、ロサンゼルスのオキシデンタル・カレッジに入学する

*2年後に、コロンビア大学に編入。卒業すると、教会を拠点とする団体のコミュニティ・オーガナイザーの仕事に就く

*いくつものささやかな成功を収めるが、数年後には、欲求不満が高まり、ハーバード大学法科大学院に出願し、入学が認められる

*1年目を終えると、シカゴのシドリー・オースティン法律事務所のサマーアソシエイトになる

*1991年、ハーバード大学法科大学院を優等で卒業。シカゴにある公民権専門の法律事務所に就職し、ようやく落ち着き、コミュニティと教会の一員となる。

*1993年、政治家としての活動を開始し、イリノイ州議会の上院議員に当選

*3年後、支持率の高い現職を相手に、連邦議会議員選挙に、オバマは急いで、「その次の地位」へ進みたいという思いが強く、打って出たが破れる。

*4年後、上院議員に出馬し、圧勝した。この年の民主党大会の基調演説で、全米の注目を集める

*上院議員として、最初の任期を半分残して大統領に立候補することを宣言する。

*大統領に当選して、1年を経ずに、ノーベル賞受賞が決まる。

●(3)上記のように、頭が良かったからでもありましょうが、多くのものが、中途のまま、次のステップに進み、そして、多くのものを成功させています。
 しかし、「世界最大かつ最高のアメリカ大統領」になり、そして、「最高のノーベル賞」を受賞したならば、若いオバマにとって、その次の目標は何でしょうか????

 どうやら、この経過を辿ると・・・・・飛行機の離陸に喩えてみますと、幼児期は、滑走路を飛び立つのに苦労しながら、やっと離陸に成功。それからドンドン機首を上げていき、加速しながら「垂直に上昇するような軌跡」を辿っています。
その次にあるのは、一体、何でしょうか???

 どうも、オバマ大統領にとって、よろしくない状況が多いように思えます。よろしくない状況だからこそ、アメリカはオバマという一人のヒーローを選択したのかもしれません。いずれにしましても、アメリカの文化というのは、日本とは恐ろしく違います。どうやら私(藤森)が、脚本から結末を推測するような出来事が多いように思えます。もう少し、メディアに掲載されたものを紹介してから、私が推測する結末をご紹介したいと思います。

 <オバマ大統領に関する資料は、「オバマ演説集」朝日出版社刊を参考にしました>

 ●(4)平成22年2月19日、池上彰の「鳥の目、虫の目」

 <週刊ポスト「バカ高報酬にNO!オバマ流金融規制は“現代版グラス・スティーガル法”だ」>

 <平均年収が4500万円!>

 「公的資金で助けてもらっておきながら、危機が去れば、再び高給ととってもいいのか」・・・・・そんな「反ウオールストリート感情」の風に押され、オバマ大統領は今年1月21日、新たな金融規制案を発表しました。
 発端は、2008年秋に発生したリーマン・ショック。金融不安の嵐が世界を襲い、各国政府は自国の金融システムを守るために多額の税金を投入しました。目的は「金融システムの保護」でしたが、実際にやったのは銀行への公的資金投入。つまり「国民の税金で銀行を救った」ということになります。
 これにはアメリカ国民の多くが反発。そこでオバマ政権は、昨年2月、公的資金の投入を受けた金融機関の経営者の年間報酬を最大50万ドル(約4500万円)に制限しました。
 ところが、一息ついたアメリカの金融機関は、相次いで公的資金を返済。この回復力は見事ですが、「公的資金を返済すれば、政府から文句を言われる筋合いはない」とばかりに、社員や経営者の給料・ボーナスを大幅に引き上げました。
 たとえばゴールドマン・サックスの昨年1年間の社員の給料は平均で約50万ドルと報じられています。全社員の平均がこの額ですから、経営陣の報酬はいったいどれだけの額に上がったのか、推して知るべしです。

 <銀行は本分を守れ>
 金融機関が巨大化して、短期的な利益を追求し、経営陣や社員が多額の報酬を受け取るという構造が、巨大なバブルを生み出し、それがはじけて深刻な金融危機を生み出した、というのがオバマ大統領の認識です。この認識に基づいて提案された改革案は、「銀行は本分を守れ」「一般の金融機関はバクチをするな」という内容です。
 アメリカの商業銀行(日本の銀行に該当)は、ヘッジファンドを所有したり、ヘッジファンドに投資したりすることを禁止されることになります。客から預かった金で、ヘッジファンドに投資すると、ヘッジファンドが破綻したら銀行本体も破綻する恐れがある、との危機感からでした。
 また、銀行の自己勘定つまり自社のお金でリスクの高い商品を取引することも禁止。客の要求に基づくケースのみ認めることになります。これも銀行の経営破綻を守ることが目的です。
 まさに、「銀行は本分を守った仕事に専念しなさい」というわけです。

 <「レバレッジ」引き締め>
 もうひとつの「一般の金融機関はバクチをするな」とは、過度の借り入れをするな、というものです。
 リーマン・ショック以前、リーマン・ブラザーズをはじめアメリカの金融機関は、手持ちの資金は少なくても、巨額の借り入れで資金を集め、それをリスクの高い取引に投入しました。これにより、当初の手持ち資金だけでは実現できなかった高収益を実現していました。これを「レバレッジをかける」と表現しました。つまり、小さな力で大きなものを動かす「梃子(レバレッジ)の原理」です。
 この手法は、儲かるときは多額の利益が出ますが、いったん損失を出すと、天文学的な数字になることがあるという恐ろしいもの。
 そこでオバマ大統領は、そもそも多額の借金ができないようにすれば、リスクを小さくすることができると考えたのです。
 多額の借金を抱えたまま倒産したら、社会や経済に与える影響は莫大です。金融危機のときに、よく言われるのは、「大きすぎて潰せない」・・・・・巨大な金融機関を倒産させると金融危機を引き起こす恐れがあるという意味です。
 ブッシュ政権は、リーマンのような巨大金融機関の倒産を座視したことによって、世界金融不安の引き金を引きました。
 でも、借金できる額が少なければ、倒産しても、影響は小さくて済みます。つまり、今回のオバマ構想は、金融機関の規模の拡大を阻止し、「大きすぎて潰せない」という事態にならないようにすることです。
 ということはつまり、今後、金融機関に経営の危機が訪れても、政府は助け舟を出さないよ、という宣言でもあります。

 <世界恐慌時の規制を復活>
 2つの規制案のうち、特に最初の「商業銀行はヘッジファンドを所有するな、ヘッジファンドに投資するな」という内容は、かつての「グラス・スティーガル法」を思い出させます。
 1929年にニューヨーク証券取引所で発生した株価の大暴落をきっかけに、世界恐慌が引き起こされます。これを教訓に、1933年に実施されたのが、この法律です。提案者の議員の名前がつけられています。
 これは、銀行と証券の兼営を禁止する法律です。銀行が、一般預金者から集めた資金で株取引をして多額の損失を出したことを教訓に、銀行部門と証券部門を切り離すことが求められました。
 たとえばアメリカの大手金融機関JPモルガン・チェースは、かつてのモルガン商会が、この法律によって分離されたうちの銀行部門が源流です。一方、証券部門は、モルガン・スタンレーになりました。
 ところが、やがて世界恐慌の記憶が薄れますと、グラス・スティーガル法が金融の自由化を妨げているという声が出て、金融自由化の掛け声のもと、クリントン政権時代の1999年に撤廃され、総合金融機関化が進みました。オバマ大統領の規制案は、いわば現代版グラス・スティーガル法の復活なのです。

 <株価暴落を超えて>
 オバマ大統領がこの規制案を発表しますと、株価は暴落しました。
 最近のアメリカの金融機関の好業績は、自己勘定による証券投資や債券投資、商品ファンドへの投資によってもたらされています。こうした行動が規制されたら、収益に悪影響が出ると考えられたからです。
 金融機関は、巨大化してこそ収益も上がると考える金融関係者にすれば、オバマ政権の方針は、邪魔者以外の何物でもありません。
 その一方で、金融業界に節度ある行動を求めたいという一般国民の素朴な感情もあります。金融機関の役割とは、そもそもどんなものかが、あらためて問われているのです。

 <いけがみ・あきら・・・・・1950年長野県生まれ。慶応大学卒業後、73年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、94年から「週刊こどもニュース」のキャスターに。わかりやすく丁寧な解説が人気を集める。05年よりフリージャーナリスト近刊に『池上彰の「世界が変わる!」』『政権交代と日本の未来。』がある。>

 ●(5)平成22年1月30日、日刊ゲンダイ「マネーの深層」(作家・相場英雄)

 <オバマ大統領の暴走?>

 <米金融規制強化案の危うさ>

 オバマ米大統領が発表した大手金融機関への規制強化策が金融市場に波紋を広げている。大統領は先に、同国大手企業に注入した公的資金の損失を穴埋めするため、大手銀行から「危機責任税」を徴収する方針を示したほか、銀行によるヘッジファンドの保有・出資禁止を柱にした規制強化策を発表。「米国では銀行窓口で(銀行幹部の)高額給与への不満をぶちまける顧客が多い」(金融筋)とされ、日本で考える以上に大統領が世論を強く意識している。が、「支持率回復のため、やみくもに銀行叩きに走っている」(米系運用会社)との警戒感が市場関係者の間で強まっているのだ。
 「責任税」「ファンド投資禁止」の両施策は、「金融機関の機能が完全に回復していないタイミングで、市場からカネを吸い上げるう実質的な『金融引き締め』につながる」(エコノミスト)との側面があるためだ。米FRBは景気回復に向けゼロ金利政策を維持している。一方、一連の規制強化策が議会で成立すれば、税支払いに備え銀行が貸し渋りに走ることが想定されるほか、「規制強化でヘッジファンドから一斉に融資を引き上げる公算が大」(先の運用会社)。つまり、市場にダブついていた資金が急激に減ってしまう現象が起こり得るのだ。
 現在、ヘッジファンドなどの投機筋は低利で調達したドルと銀行融資を元手に、日本株など世界各地の金融資産で運用を続けている。規制強化策が実行されれば、投機筋は種銭を失う。つまり、世界に散らばった投資マネーが一気に逆流・収縮する事態が起こり得るのだ。米銀の野坊図な給与改革は急務だが、「人気取り政策の行き過ぎも危険」(先の運用会社)。大統領の暴走は止まるのか、注視が必要だ。

 <あいば・ひでお・・・・・67年生まれ。元時事通信社記者。「デフォルト」(角川文庫)でデビュー。最新作は「みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎~奥津軽編・完黙~」(小学館文庫)>

 ●(6)平成22年3月1日、読売新聞「ワールドスコープ」(中山俊宏)

 <「放っておいて」反オバマ運動>

 一年前は予測しえなかったことだが、「反オバマ運動」とでもいうべき現象がアメリカにおいて勢いを増している。そもそもオバマ候補を当選させたオバマ運動のような熱気を放っていたが、反オバマ運動も同様に草の根のエネルギーを吸収して人々の参加意識を駆り立てている。

 その運動には組織的な中心もなければ、はっきりとした政策目標があるわけでもない。しかし、オバマ政権の「大きな政府」志向ともいうべき取り組みに対する巨大な違和感を梃子にして、活力ある拒否勢力としてオバマ政権の前に立ちはだかっている。この動きは、アメリカ独立革命の引き金となったボストン・ティーパーティー事件(1773年)に因んで、ティーパーティー運動とも呼ばれている。なにが、この運動を突き動かしているのだろうか。

 政権発足以来、オバマ大統領は躊躇することなく大胆な政策を導入してきた。政権発足して間もなく、7870億ドルにも及ぶ景気刺激策を通過させ、続いて多額の公的資金を導入して、銀行、保険会社、自動車会社を救済してきた。さらに春以降は、選挙中からの公約である医療保険制度改革の実現に向けて数々の手を打ってきた。

 オバマ政権の大胆な取り組みに対しては、手を広げすぎだとの批判は当初からあったものの、政権は巨大な問題群に直面する中で、それらを個別に処理するのではなく、政権発足時の勢いを背景に一気に手がけることを選択した。オバマ政権には、個々の政策の合理性をしっかりと説きさえすれば、国民の支持を取りつけられるとの自信があった。

 しかし、その自信はアメリカ国民の思考を根深いところで規定している原風景的な感覚に対する感性を鈍らせてしまうことになりはしなかったか。この原風景的な感覚とは、保守主義の方向に大きく傾斜しつつも、必ずしも党派的な感情ではなく、むしろ生活感覚に根ざした連邦政府に対する不信感である。それは「大草原の小さな家」的な感覚に依拠し、自分の生活圏に連邦政府が不当に介入してくるという構図に対しては、時に過激に反応する。とにもかくにも「放っておいて欲しい」という感覚は、すぐれてアメリカに特殊な感覚だといえる。

 リベラル派は、しばしばこの感覚を「反知性主義」として退け、克服されるべき退行的感覚と見なしてきた。しかし、そうする度に、リベラル派はこの感覚のしぶとさをいやというほど思い知らされてきたのも事実である。オバマ政権の大胆な取り組みが、ティーパーティー運動を構成する人々の目にはどのように映っていたのか。そのことに無頓着であったことが、大きな拒否勢力のうねりをつくり出していったことは疑いない。
 (津田塾大学准教授、日本国際問題研究所客員研究員・アメリカ政治外交)

 ●(7)平成22年3月7日、読売新聞「地球を読む」

 <米医療改革案>

 <国民皆保険なぜ不人気>

 今年1月に行われた米国マサチューセッツ州の上院補欠選挙で、民主党が47年にわたり維持してきた議席を無名のブラウン共和党候補に奪われた出来事は、米国ばかりか世界の今後にも影響が大きい。
 これにより民主党は、審議妨害を排除して法案を可決するのに必要な上院での安定多数を失った。そのためオバマ大統領が政策の柱としてきた「医療改革法案」も成立が難しくなった。

 11月に実施される議会の中間選挙に、大統領は医療改革の実績を掲げて挑む公算だったが、もはや実現性が薄い。それで大統領は金融規制の強化に急遽標的を変えた。だが、庶民に実感の薄いこの政策では人気挽回は難しかろう。結局、追い詰められて保護貿易政策に走る危険性もある。
 それだけではない。秋の中間選挙で民主党が過半数を失えば、政権は政策遂行能力をなくす。経済危機とイラン核問題を抱えた世界で、米国政治がマヒに陥れば大変なことだ。

 下院が上院の医療改革案を丸のみすれば、制度上単純多数決で採決が可能なので、民主党がこの強行策で法案を成立させる道がまだ残る。しかしそれにも問題がある。ブラウン氏が医療制度改革に反対して補選に勝利したことと、世論調査によれば国民の6割が医療改革に反対なことだ。これでは強行は難しい。
 
 それにしても先進国で唯一国民皆保険を実現していない米国で、その実現を目指す改革がなぜ不人気なのだろう。GDP比で17%という日本の水準の2倍、240兆円(日本は40兆円)もの額を医療に費やしながら2割の国民が医療保険に未加入という米国の問題はよく知られている。一昨年の大統領選でも有力候補は皆医療改革案を提示した。

 だがこれは厄介な問題だ。2期を務めたクリントン大統領も皆保険だけは実現できなかった。なぜなのか。答えは医療についての国民意識に帰着する。これは伝統の問題なのだ。
 医療費高騰については日本でも関心が高く、原因として制度の欠陥がしばしば指摘される。しかし最大の原因は他にある。過去30年間の医療費高騰の最大の原因は「医学の進歩」だというのが米国の医療経済学者の8割の意見だ。

 技術進歩にはIT革命のようにコスト削減につながるものもある。しかし医療の場合、延命を可能にする高額な先端医療が技術進歩の中心だ。それゆえ医学の進歩が続くかぎり寿命が延びて、医療費は上がる。金を出して寿命を買うことを意味する消費行動そのものを抑えなければ、医療費高騰は避けられない。
 消費といえば、どの国もほとんどの商品は自由で、たとえば高所得者は低所得者より多くの金を出して高価な衣服を自由に購入する。だが医療の場合は別だ。

 <医療消費の自由 制限嫌う>

医療については、衣服と同じような消費の自由を認め、低所得者が助からない病気でも、金を出した高所得者は助かることを認める国と、認めない国の二つのタイプがある。

 世界のほとんどの国は認めない。だが米国は認める。これは二つの異なった伝統で、どちらが良いとは言えない。だが認める国に認めない国の伝統を押し付けたり、認めない国に認める国の伝統を押し付けたりすれば国民は抵抗する。

 米国は格差社会だから高所得者と低所得者の購買力が違う。いくら着飾っても健康でなければ幸福は得られないから、消費の自由を認めたら高所得者は医療消費に一番金を使う。
 それで医療費が上がり、医療が上がり、医療が高級品となって低所得者が締め出されるわけである。米国でも高齢層と貧困層には公的医療保険制度があるために、実際に締め出されるのは「中若年の中間所得層」だ。

 国民の2割が医療保険に入れず、しかも平均寿命も他の先進国に比べ低いのはこのためだが、米国の制度には長所もある。何しろ米国の医療は240兆円市場である。その巨大市場向けに研究開発がされるのだから先端医療が米国で一番進むのだ。つまり「医学の進歩をどれだけ促進するか」により評価すれば間違いなく米国の医療制度は世界最高である。

 それでも保険未加入者の増加は放置できないとして、オバマ政権皆保険を目指したのだが、そうなれば、皆保険を実現している国々の制度を一部導入せざるを得ない。
 そうした国々は公的組織を通じ、低所得者を援助する仕組みを作り、同時に医療サービスを配給制にして供給を管理することで、医療消費の自由を制限している。それで医療費と財政負担の膨張を抑えるのだ。

 配給制は譲ったとしても、低所得者を保険に加入させるための援助の仕組みがなければ、皆保険は絶対実現不可能だ。事実、「医療保険への加入が難しい低所得者を政府が援助する」のがオバマ政権の医療改革案の柱である。
 しかるに改革が不人気な理由がまさにこれなのだ。補選で勝ったブラウン候補のメッセージは明確だ。いわく政府は保険未加入者のために諸君から所得を奪おうとしている。この指摘は正しいが、それが問題だというならば皆保険は永遠に実現しない。

 2割の国民が医療保険に未加入なのは、逆に8割の国民が加入している事実の裏返しだ。その8割にとって今回の改革は、保険料か、税か、いずれかでの負担増を意味する。
 経済が好調ならば国民は負担増を容認するかもしれない。だが現在は不況で、雇用も危ういために国民は不寛容になっている。その不寛容な国民に負担増を押し付けたのだから医療改革が不人気なのは当然だ。オバマ大統領は伝統への配慮を欠くという致命的ミスを犯した。

 日本では、国に一任する代わりに、組織別の保険組合が医療保険を管理しているため、所属する保険組合により医療保険料は異なる。しかし高齢化による医療費の増加で、企業の運営する健康保険組合は財政状況の悪い組合の支援を迫られ負担増を被っている。
 そのため企業側からは、公的医療によっては「最適水準」ではなく、「最低水準」だけをカバーし、その差の部分を自由診療でカバーする形での「混合診療解禁案」が提言されている。

 小泉首相の時に定められた、高齢化による毎年1兆円の自然増から2200億円ずつ医療費を中心に社会保障費を削減する自民党政府の方針も、おそらく「最低水準」への転換が目的だ。
 しかし、これまで医療消費の自由を制限することで全国民に同一医療サービスを提供してきた伝統を持つ国に、医療消費の自由を認める国の伝統を持ち込むのは慎重にするべきだ。
 さもなければ国民の抵抗を呼ぶ。もしかしたらその抵抗はすでに始まり、昨年8月の総選挙での自民党敗北の一因になったかもしれない。

 <竹森俊平氏・・・1956年生まれ。慶大、米ロチェスター大を経て97年から現職。主著に「経済論戦は甦る」(読売・吉野作造賞)、「世界デフレは三度来る」など>

 ●(8)平成21年12月29日、日刊ゲンダイ「過去最大の激変」

 <来年のこの問題はどうなるか>

 <略>

 <オバマは暗殺されるのか>
 就任前から「暗殺」が懸念されてきたオバマ大統領。1年目の2009年は、なにごともなく過ぎたが、危険性が弱まったわけではない。むしろ、懸念は強まっている。
 ワシントン・ポスト紙の元記者、ロナルド・ケスラーの新著「大統領のシークレットサービスの内部」によると、大統領就任以来、「殺すぞ」といった脅迫は1日30件もあるという。ブッシュ政権時代の3倍以上だ。

 本紙でコラムを連載している名大教授の春名幹男氏によると、オバマの大統領就任以降、白人優越主義者など「武装右翼」の活動が活発化し、2000年に全米で602あったこの種の組織は、5割以上増え、926になっているという。
 米国メディアがタイガー・ウッズの不倫スキャンダルをしつこく報じているのも、黒人の活躍をおもしろく思っていなかった白人社会が、「ざまあ見ろ」と溜飲を下げているからだという。

 いつ、過激な「白人至上主義者」に狙われてもおかしくない状況なのだ。国際政治学者の浜田和幸氏がこう言う。
 「オバマ大統領に対するアメリカ国民の不平不満は、強まる一方です。不況が悪化し、失業率は10%を突破。食料を買える政府発行の『フードスタンプ』を求める低所得者が4000万人にのぼっている。支持率は50%を割り込み、『やっぱり黒人はダメだ』というキャンペーンにつながっている。心配なのは、白人至上主義者がこうした国民の不満に乗じるだけでなく、不況の打撃を受けた一般の国民が過激な行動に走りかねないことです。財政難から大統領の警護が50人から25人以下に減らされているから、不安は強まります」
 オバマは就任以来、10キロも体重が減っている。不況が強まれば強まるほど、キナ臭さが強まりかねない。

 <略>

 ●(9)「ドル亡き後の世界」副島隆彦著、祥伝社刊(平成21年11月5日初版第1刷、11月30日第3刷)

 「まえがき」

 <略>

 私がこれまで他の本たちで書いてきたとおり、アメリカのオバマ政権は長くは保たないだろう。金融危機の責任を取らされて、バラク・オバマは任期半ばで辞任してゆく。
次の大統領はヒラリー・クリントンが取って代わる。2010年末にはアメリカは恐慌に突入する。

 そして2012年に「ドン底」がやってくる。

 おそらく、この「副島シナリオ」どおりに世界は動くだろう。
 その後、3年をかけて世界覇権はアメリカ合衆国から中国へ移ってゆく。2015年には中国が新たな世界覇権国となる。

 私はこれまで直球で自分の予測(予言)を書いて勝負してきた。私はこれまでのところ自分の予測(予言)を外していない。このことを私の本の読者は知ってくれている。予測を大きく外した金融・経済評論家は、客(読者たち)からの信用と評判を落として退場してゆくのである。もうあと何人も残っていない。私はこの本でも直球で勝負する。

 ●(10)ある著名な大学教授は、カーター元大統領と同様、オバマは一期4年で終わる可能性が高いと発言する。

●(11)さて、私(藤森)の「脚本分析」は・・・・・

①上記のように、一番穏当なものは、一期4年で終わることでしょう。私としても、そうであってほしいと願っています。オバマ大統領の「脚本」を分析してみると、一期4年を全うすることが、望みうる最高の結末であると思います。
 これだけの脚本を持ち、かつ、これだけの経過をたどれば、一期4年を全うして、大統領職を終えれば、白人社会に風穴を開けたこともあり、最高の結末です。

②「パート①と②」を通して考えて見ますと、任期半ばで辞任するような予感が、若干、あります。
 私(藤森)は、政治も経済も、ましてやアメリカの事情にも詳しい人間では全くありません。「強毒性鳥インフルエンザ」の脅威があって、万一、発生したならば、経済的にも強烈な打撃になることを知って、少々、興味を持った程度の人間です。
 そうして、若干の情報を集めてみて、そして専門の「深層心理」の分野からオバマ大統領を分析してみると、アッと驚く結果になった次第です。どう考えても、人生をうまく全うできる生い立ちには思えないと思っているところに、「ドル亡き後の世界」で、著者の副島隆彦氏が「任期半ばで辞任」とあるのを発見しました。副島氏は「経済」の分野からの分析ですが、私の「深層心理」の分析(脚本分析)とも一致します。

 喩えて言いますと、公園の小川の中に置いてある飛び石というのでしょうか、それをポンポンと順調に飛んでいって、最後の石(大統領とノーベル賞)の次には何もない「ドボン」を暗示しています。
 ただし、「脚本分析」は、いつ、どこで、どういう形になるか・・・・・ということを予測するものではなく、いつか、どのような結末を迎えそうかという抽象的な予測ができるだけです。
 ですから、オバマ大統領が、人生を、どういう風に具体的に結末を迎えるのかを予測するものではありませんが、天下の大統領で、しかも、黒人初の大統領ということで、情報が十分にあるという偶然があり、また、アメリカの置かれている状況の厳しさもあるので、私(藤森)にとっては、かなり予測しやすい傾向にあります。

③アメリカは、ご存知のように「銃社会」です。ライフル協会のロビー活動はかなり重量級のようです。またケネディ大統領のこともあります。2008年の11月、受託演説のときは、防弾ガラスで守られていました。
 さらには、<オバマ大統領は伝統への配慮を欠くという致命的ミスを犯した>ともあります。アメリカでは、こういうミスは本当に怖い社会です。ましてや、それが黒人であるとなると、白人至上主義者や原理主義者などの過激派の動きが気になります。

 ゴルフのタイガー・ウッズがかなり騒がれましたが、一説によると、黒人の活躍を面白く思わない多くの白人たちが、「ざまあみろ」という心理が働いて、騒ぎを大きくしている傾向にあるとのことです。
 両親が離婚し、貧しい家庭に育ち、アイデンティティに苦しんだ。さらには、頭が良いために、ドンドン、大学や仕事を変えて、出生街道を驀進してきた若きオバマ大統領・・・・・そのオバマ大統領が、超大国・アメリカを経営するに足る信頼できる腹心が、いったい何人いるでしょうか?いったいどれだけ優秀なスタッフを自前で揃えられるでしょうか?

 「バラク・オバマ大統領は、ホワイトハウスの執務室にいて、日常たった3人の人間としか口をきかないそうである。この3人とは、奥さんのミシェルさんと、大統領首席補佐官のラーム・エマニュエル(恐ろしいイスラエルとの二重国籍の男)と、経済学者のラリー・サマーズNEC(国家経済会議。大統領直属の諮問委員会)委員長である。」(ドル亡き後の世界)。

 これは「脚本」を連想させるものですし、出生街道を驀進してきたオバマの人脈の少なさを連想させるものではないでしょうか?

 「ドル亡き後の世界」は、こうも言います。

 <略>

 このように書くと、私は「一部の読者から、鼻白んで猜疑心の目で見られた。だが、「オバマが大統領になる」と、その3年も前から予言して当てたのも私だということをお忘れなく。ヒラリーでもマケインでもなく、オバマが勝つ。そのように初めから大きく仕組まれているのだ。それが世界政治というものだ、と書いて、そして当ててきた。私のこの実績にケチをつけることができる人はいない、と私は豪語する。

●(12)おそらく10年後、心理学者はオバマ大統領を「脚本分析」の対象にするであろうと、私(藤森)は推測します。
 オバマ大統領の「脚本」については、多少、知識・経験のある方には十分にご理解いただけるものと思いますが、さらに詳しく・具体的に理解されたい方は、勉強会などの機会にご質問ください。

く文責:藤森弘司>

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