2009年8月15日 第85回「今月の言葉」
ドビルパン前仏首相の正義

●(1)朝日新聞に掲載された、ドビルパン仏前首相のインタビューがすばらしいので、全文を下記に掲載します。
 彼の考え方は、一人の人間の「成長(自己成長)」に通じるものがあります。下記のインタビュー記事の後に、私たちが、いろいろな課題に直面して、それを達成していくプロセスをダブらせて、解説してみたいと思います。
 まずは、今年の2月、読売新聞に掲載された全文をご覧ください。
○(2)読売新聞、平成21年2月3日「この危機 文明の転換期」

 <ドビルパン前仏首相インタビュー>
 外相時代にイラク戦争回避に動いて脚光を浴びたフランス前首相ドミニク・ドビルパン氏(55)が朝日新聞のインタビューに応じた。世界が直面する経済危機、ブッシュからオバマに移行した米国などを踏まえ、「力の支配」の時代の終わりと、あるべき新しい理念の必要性について語った。(パリ=国末憲人)

 <世界の共存 正義の理念こそ必要>
・・・・・世界はいま、金融危機に見舞われています。
 前例のない規模の危機だ。「困難な時期を乗り越えればまた景気がよくなる」という日本のバブル崩壊のような危機ではない。エネルギー、環境、食糧などの枠組みを揺るがす長期的な「構造危機」だ。いまは文明の転換期だからだ。
 5世紀にわたり欧米が支配してきた世界の権力秩序が、巨大な国内市場を持つ中国やインドなどの新興国の台頭で根本的に変わりつつある。そのなかで、共存のための規則を築く必要がある。新しい理念が必要だ。
 この10年間は、ブッシュ米政権とネオコン(新保守主義者)による「力の支配」だった。9・11テロの恐怖がもたらした発想で、力で世界秩序を築き、平和も創出しようとした。だが、これは成就しなかった。新たな理念は何か。私は「正義」であるべきだと考える。
 不正義は暴力の源、テロの背景となる。不安定を助長し、ストレスを高め、屈辱心を植え付ける。苦しむ人々について知り、不正義の存在に気づくことが、変化につながる。不正義をただすことで「身勝手な力が世界を支配する時代は終わった」と内外に示すことができる。

 ・・・・・どのように「正義」を新理念として実現させますか。
 今回の危機は、世界が一つだという感覚や地球共同体の意識を目覚めさせるきっかけになるかも知れない。今後の世界的ガバナンスの基礎として国連の正当性をもっと高める必要がある。国連が真に世界を代表するシステムとなるよう、安保理の常任理事国を拡大し、力のあるすべての国が発言権を持つように改革すべきだ。
 国際通貨基金(IMF)や世銀、欧州中央銀行、米連邦準備制度理事会などそれぞれの活動が世界全体の利益となるよう調整する「経済安保理」の創設など、国連の組織も強化すべきだ。紛争解決能力を持つ軍隊も国連に必要だ。

○(3)<イラク戦 仏は「ノン」通した>

 ・・・・・仏外相としてイラク戦争の回避に動いた時、正義は通用すると思っていましたか。
 イラク戦争を巡る私たちの闘いは、結果がどうであれ遂行しなければならなかった。もちろん私たちは戦争が起きないことを望んだが、戦争が起きた時、それが国際的なお墨付きを得たものではないことを明確にする目的もあった。国連が戦争に同意していたら、国連の信用は失墜していただろう。戦争の責任は米国とごく一部の国にとどまる必要があった。世界を分断する争いにしてはならなかった。
 欧州は米国支持で一枚岩ではなかったし、物事を力で解決する発想に傾いていたわけでもない。そのような欧州の実像を、私たちは守ることができた。

 ・・・・・当時、いつ「戦争は避けられない」と思いましたか。
 はっきり悟ったのは、国連安保理の外相級会合を翌日に控えた03年1月19日だった。その日私はパウエル米国務長官と会い、彼自身が戦争は避けられないと考えていると知った。
 私が米国に警告を発しようと考えたのは、この日からだった。フランスは国際社会が戦争に引きずり込まれることを決して認めないこと、そのために拒否権行使も辞さないことを、はっきり告げようとした。戦争を防げなくても、この闘いは国際社会にとって、政治的にも文化的にも極めて重要だった。

 ・・・・・その結果、米仏関係が損なわれたとの指摘もあります。
 私は米国で育ち、米国で勉強し、米国に親愛と尊敬の念を抱いてきた。ただ、人生と歴史の中では「ノン」と言える時がなくてはならない。あの時フランスはその使命を担っていた。

○(4)<オバマの米国 協力の時代へ>

 ・・・・・米国にオバマ新大統領が誕生した意味は何でしょう。
 オバマはアフリカ系(黒人)の象徴にとどまらない。差別と格差を乗り越える力の象徴だ。恐怖と困難に直面した時に人びとを結集する能力を持っている。米国だけでなく、東洋と西洋、南と北の国際社会の結集にも力を発揮するに違いない。

 ・・・・・米国の単独行動主義も終わりますか。
 超大国の時代、単独行動の時代は過去のものとなり、一極主義の時代から協力の時代に移行しつつある。オバマは、多国間の枠組みの中で役割を演じる意識を持っている。
 そうなれば、欧州諸国や日本など影響力のある国もそれぞれ責任を負わなければならない。米国が協調的となった世界で、世界の主要な国々は活発に動かなければならない。
 米国はロシアや中国だけでなく、イランもパートナーとして認めることになるだろう。イランは地域に大きな影響力を持っている。米国とイランの対話はきっと成果を生む。

 ・・・・・米国の信頼も回復しますか。
 オバマ政権誕生はその大きなチャンスだ。ただ、それですべては解決しない。「正義」の存在が不可欠だ。

○(5)<日本と中国 未来築く関係を>

 ・・・・・イラク戦争で、日本は米国に追従しました。
 いや、政治的歴史的に難しい日本の立場はよく理解していた。重要なのは、当時の経験から教訓を引き出すことだ。
 伝統を維持しつつ近代化を達成した日本は今も活力を保っており、私にとって一つのモデルだ。間違いなく世界は日本から多くを学ぶことができる。
 また、日本は最も大きな変化を迎える地域の中心に位置している。アジアは、何世紀もの繁栄の後に衰退期を迎え、今再び巨大な能力を備えて浮上しつつある。国際社会が中国と関係を持つ際、日本の役割は極めて重要だ。日本が中国と未来に向けた関係を築くことができれば、この2国で多くの問題を解決できる。地域のリーダーシップを発揮して欲しい。  ・・・・・地域のリーダーに必要な資質は何でしょう。
 歴史と地理、文化を踏まえつつも、新しい関係を築く自由な発想だ。伝統と新しさ、正当性と独創性といった相反するものの融合だ。これら二つの間の境界を乗り越える能力こそ、世界が必要としているものだ。
●(6)さて、上記のインタビューの中から、私(藤森)が中心テーマとしている「自己成長」に関係していると思われるものを拾い出してみます。
 まず、最初の枠の中からピックアップしてみます。  <<新たな理念は何か。私は「正義」であるべきだと考える。>>  家庭の中で、何か、問題が発生したとします。例えば、子どもが「不登校」になった、「ウツ」になった、「拒食症」「過食症」、或いは「イジメの問題」、「夫婦関係の歪み」等などが発生したとします。
 このときに、「新たな理念」、つまり、今まで、その家庭の中で支配していた「理念」、その「理念」から発生した歪みを是正するための「新たな理念」が必要になります。多くの親御さんは、従来の「理念(価値観)」を維持したまま、発生した「歪み」を是正しようとします。そのため、「歪み」はますます増幅されてしまいます。
 その家庭の中に潜んでいる「歪んだ理念(歪んだ価値観)」は何か、それに気づいて、「新たな理念」を構築することが重要です。
 そして、その新たな理念は、もちろん、抽象的ですが、「正義」です。「歪んだ理念」を正すこと、つまりそれは「正義」です。

 <<不正義をただすことで「身勝手な力が世界を支配する時代は終わった」と内外に示すことができる。>>

 ある家庭に、問題が発生した場合だけでなく、問題が表面化していなくても、その「源(影)」は、存在するのですが、私たちは表面化しないと、「潜んでいる歪み」に気づくことはできません。
 ですから、「禅」では、「困ったときは喜べ」と言います。つまり、「困る」ということは、潜伏していた問題が表面化することで、表面化してくれたからこそ、それを正すことが可能になります。
 家庭の中で、何か、問題が発生したということは、「身勝手な心理的何かが、世界ならぬ家庭を支配」しているものです。それに気づいたならば、ドビルパン氏流に表現するならば、「不正義をただし」て、新たな価値観(正義)を構築することが、問題解決に不可欠です。

 <<紛争解決能力を持つ軍隊も国連に必要だ。>>

 軍隊が必要です。もちろん、家庭ですから「軍隊」ではありません。「腕力」「暴力」が必要です。もちろん、「正義の腕力」、「正義の暴力」です。長年の癖を修正するのに、話し合いなどではとても解決しません。どうしても、「正義の腕力」「正義の暴力」が必要になります。それは国連でも同じはずで、「腕力」「暴力」の裏づけの無い国連の調停は、踏みにじられる可能性が大きいものです。

 現実の国際紛争は、軍隊の出動無しにはどうにもならないでしょう。仮に、軍隊が出動しなくても、軍事力の裏づけが必要です。私(藤森)は、軍隊が無くても良い地球になってほしいと願っていますが、現実には、軍事力が無くては、つまり丸腰外交では通じないでしょう。日本が、アメリカのサイフ、51番目の州などと言われるのも、アメリカの軍事力の庇護の下にあるからではないでしょうか。
 戦後の国力が疲弊していたときは、非常に効率が良く、国力発展には好都合でしたが、そのために、いつまでも成人しない国になってしまったように思えます。つまり、経済発展のために、人間性をアメリカに売ってしまったような国になってしまったように思えます。

●(7)<<戦争が起きた時、それが国際的なお墨付きを得たものではないことを明確にする目的もあった。>>

 子どもの身勝手な行動を、今すぐにどうすることもできなくても、それを「黙認」しているのではない。あくまでもいけないものはいけない、という姿勢を貫く必要があります。

<<世界を分断する争いにしてはならなかった。>>

 世界を分断・・・・・子どもは、夫婦(両親)の分断、つまり仲たがいが一番辛いものです。私たちは、ついつい、子どもの前で夫婦喧嘩をしてしまいますが、子どもにとって、これはとても辛いものです。

<<人生と歴史の中では「ノン」と言える時がなくてはならない。あの時フランスはその使命を担っていた。>>

 「ダメなものは、ダメ!!!」と、頑固なほど、「ダメだ」と主張する必要があるときがあるものです。そして、その使命を担っているのが、父親です。もちろん、正しい場面である必要があることは、当然ですが、その場面であるか否かを判断する能力が無いとき、安全策を取って、優しい父親という軟弱な位置に甘んじてしまうものです。戦後のそれも最近の日本は、それが目に余るようになってきました。

●(8)<<差別と格差を乗り越える力の象徴だ。恐怖と困難に直面した時に人びとを結集する能力>>

 <差別と格差>私たちは、差別や格差など家庭には無いと思いがちですが、じつは、大いにあるものです。それが「不正義」で、家庭の中にある「差別や格差」を発見することが重要です。その差別は、「兄弟間」であったり、「親子間」であたり、「夫婦間」であったりです。
 例えば、子どもの中に、より可愛いと思える子と、憎らしく思える子・・・・・共働きをしながら、家事・育児が妻の専門であったり・・・・・こういうことは、非常に多いものです。
 専業主婦であっても、家事・育児は大変なものです。ましてや共働きをしながら、家事・育児をやったならば、残念ながら、まともな育児ができるわけがありません。これは、まさに「不正義」です。

<<恐怖と困難に直面した時に人びとを結集する能力>>
 
 多少、こじつけっぽいですが、これはオバマならぬ父親の役目です。「新型インフルエンザの強毒化」や「関東や東海の大地震」が心配されている昨今、こういう問題を直視し、可能な範囲で対策を講じること、これこそが父親の役目です。日頃は、グウタラ親父でも構いませんが、こういうことに直面する危険性が囁かれているときこそ、毅然として、対策を講じるお父さんであってほしいものです。

<<米国とイランの対話はきっと成果を生む。>>

 さらにこじつけっぽいですが、子どもが問題(不登校やウツなど)を起こしたときは、米国とイランならぬ、仲の悪い夫と妻が真剣に話し合うことが必要です。そこに「不正義」が存在していることに気づくはずです。

 家庭の中には、その家庭なりの<<「正義」の存在が不可欠>>です。

 それにしても、日本の政治家とはかなり様子が違いますね。

●(9)平成21年8月16日(日)午後9時からの「NHKスペシャル」で、「気骨の判決」という番組がありました。読売新聞の「試写室」を転載させていただきます。

 <戦時下に冷静な判断>

 「翼賛選挙」と呼ばれた戦時中の総選挙に無効判決を下した裁判官(吉田久)の葛藤を描く。
 1942年4月に行なわれた総選挙では、国民一丸となって戦争を遂行しようとする翼賛政治体制協議会が候補者を推薦、その候補者たちが圧勝した。だが、非推薦候補者に対する選挙妨害があり、各地で選挙無効を求める訴えが起こされた。鹿児島二区を担当することになった吉田らは、証人尋問を行なうため、鹿児島へ出張する。
 空気を読むことに敏感と言われる日本人にとって、波風を立てる行動は取りづらい。ましてや戦時中だ。どうして吉田に冷静な判断が可能だったのか。セリフの端々に表われる吉田の考えには、現代にも通じる知恵に富んでいるように思えた。(川辺隆司)

<藤森注・・・・・正義ではないでしょうか>

<文責:藤森弘司>

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