2007年9月15日 第62回「今月の言葉」
「瞑眩」「治癒反応」「自己成長反応」

●(1)「瞑眩(めんげん)」は「漢方」の用語、「治癒反応(ちゆはんのう)」は「西洋医学」の用語、自己成長反応(じこせいちょうはんのう)は、私(藤森)の造語です。

●(2)瞑眩(めんげん)は、服薬後に現われる悪心、頭がクラクラする、胸が苦しくなるなどの反応で、「薬を服して瞑眩せざれば、その疾病いえず」(中国漢方医語辞典)

●(3)治癒反応(ちゆはんのう)は、<略>リンパ球がある程度増えると、ガン組織の自然退縮がはじまります。この治癒の現象が、日常茶飯事のごとく起こるのを私(著者)たちの仲間の臨床医たちは目のあたりにしてきました。同時に、副交感神経を優位にする治療の過程で、三分の二ぐらいの患者さんが、熱がでてだるい、あるいは節々がすごく痛むというような、ちょうど自己免疫疾患と同じような症状を体験します。そうした症状を体験した、そのあとにガンの自然退縮が起こってきます。
では、こうした不快な症状は、どうして起こるのでしょうか。ガン細胞を攻撃するのは、おもにNK細胞、胸腺外分化T細胞、傷害性T細胞と自己抗体産生のB細胞の4種類です。
これらの白血球の細胞がガンをたたくときには、必ず炎症反応が起こって、発熱、痛み、不快を伴います。あるいは下痢をすることもあります。肺ガンなら咳がでてきたりします。大腸ガンだと血便がでたりしますし、膀胱ガンだと血尿がでたりします。それが、治癒に向かっている反応なのです。もう少しくわしくメカニズムを説明します。副交感神経というのはリラックスの神経ですが、急激に活性化されると、プロスタグランジン、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエンなどの物質をだします。これらはどれも、発熱や痛みをだす物質
なので、不快な症状が現われます。

 ところが、ふつうの患者さんも、免疫のことをきちんとわかっていない医師たちも、こういう症状が治癒の過程で自然に起こるということがわかっていないものですから、つい、症状を止めたくなるのです。そのため、鎮痛剤、消炎剤、解熱剤、とくに、ステロイド剤を患者に服用させてしまいます。
もちろん、痛みとか発熱が止まりますから、そのときは元気がでてきます。しかし、これは、治癒反応を止めているわけで、ガンを根本から治していくという意味では、まったく逆効果なことをやっているのです。
じっさいには、ガンの自然退縮につながる治癒反応がはじまると1週間ぐらいは寝込むようなつらい症状が続きます。その後、リンパ球が増えてガンが退縮しはじめます。
じつは、この治癒反応は昔から、傍腫瘍症候群(パラネオプラスティック・シンドローム)という名前で、ガン患者の治癒過程で必ず起こる反応として知られていました。ところが、忘れられてしまったのです。戦後、抗ガン剤を使うようになって以来、この反応がでなくなってしまったからです。
 免疫が活性化して攻撃する反応ですから、抗ガン剤を使って免疫を抑制する治療が行なわれると、当然この反応が起こらなくなります。傍腫瘍症候群(パラネオプラスティック・シンドローム)の中で、昔からいちばんよく知られているのは、黒色肉腫、メラノーマが自然退縮するときの反応です。発熱して、節々が痛くなり、その後で、アルビノ(白子)状態の斑点がでてきて、黒色肉腫が自然退縮します。

 これは自己応答性T細胞(胸腺外分化T細胞)や自己抗体が、ガンの黒色肉腫細胞と正常のホクロ細胞をまとめて攻撃したからなのです。黒色肉腫は、皮膚の上、目に見えるところにあるから、この反応がいちばんわかりやすくて知られていたわけですが、もちろん、これは黒色肉腫だけではなく、ほかのガンでも起こることです。
 せっかくこういう反応があってガンの自然退縮が進むことが知られていたのに、抗ガン剤治療が広まった50年ぐらい前から、抗ガン剤の使用によりこの反応が消え、医師たちも忘れてしまっていた。
 ところが、いま、私たちの仲間の医師たちが免疫を活性化させる治療を実践すると、またこの症状が現われるさまを経験するようになりました。この症状を経て、ガンが自然退縮に向かっていきます。
 先ほど述べた、発熱、痛みのほかに、しびれなどの神経症状もでてきます。これは、ガンが上皮で起こるものであるためです。上皮には神経が張りめぐらされています。ですから、ガンが攻撃されると、即座に神経も刺激を受けます。すると末梢神経刺激が興奮してきて、しびれや痛みがでるのです。傍腫瘍神経症候群(パラネオプラスティック・ニューロロジカル・シンドローム)とよばれます。この反応も覚えておくとよいでしょう。
傍腫瘍神経症候群は、忘れられてから50年も経ってしまったために、いまの若い医師たちは、この治癒反応の存在自体を知らないことが多いようです。抗ガン剤や放射線などの、免疫抑制の治療しか経験がないので、見たことがないのです。まさに、50年ぶりに息を吹きかえした現象なのです。
だから、もし免疫活性の治療にとりくんでいる過程で、こうした不快な症状が現われたら、すぐにそれを止めようとしないで、治癒反応である可能性を考えてください。もし治癒反応だと判断できたら、その症状を少し耐えて乗り越えましょう。すると、その先には、ガンの自然退縮が待っています。
 (「免疫革命」安保徹<新潟大学大学院医学部教授>著、講談社インターナショナル)

●(4)「自己成長反応」は、私(藤森)の造語ですので、これから少し詳しく、そもそもから説明します。そして、これからが、今回の主目的です。
「瞑眩(めんげん)」という言葉を知ったとき、これは「漢方」独特の考え方だと長い間、思っていました。ところが、上記の「免疫革命」を読んで、西洋医学にもあるのには驚きました。
「漢方」にも「西洋医学」にもあるならば、「心理」の世界にあっても良いだろうと思い、今回、勇を鼓して発表する気になりました。●(5)「瞑眩(めんげん)」は「漢方」の用語であり、「治癒反応(ちゆはんのう)」は「西洋医学」の用語ですが、その意味するところは全く同じです。

 漢方薬を服用して、その効果が上がるときは、効果が上がる前に、必ず、不快な反応が起こる。西洋医学でガンの治療効果が上がってくると、同様に不快な反応が起き、その後に、ガンの自然退縮が始まるということです。
 実は、「心理学」的な世界においても、効果が上がりはじめると、必ず、同様の不快な問題が発生します。 もう一度、漢方の紹介をしますと、
 「薬を服して瞑眩せざれば、その疾病いえず」(中国漢方医語辞典)とありますが、恐らく、多くの漢方の専門家は、この「瞑眩(めんげん)」を、適切に知らない可能性があります。

 同様に、
 <抗ガン剤治療が広まった50年ぐらい前から、抗ガン剤の使用によりこの反応が消え、医師たちも忘れてしまっていた。><傍腫瘍神経症候群は、忘れられてから50年も経ってしまったために、いまの若い医師たちは、この治癒反応の存在自体を知らないことが多いようです。抗ガン剤や放射線などの、免疫抑制の治療しか経験がないので、見たことがないのです。>(「免疫革命」安保徹著)

●(6)「瞑眩(めんげん)」や「治癒反応(ちゆはんのう)」と同様、私のこれから述べる

 「自己成長反応」を知らない心理の専門家が、非常に多い、というよりも、ほとんどいないと言っても過言ではありません(ほとんどとは、もちろんゼロではありません)。
もちろん、私の造語である「自己成長反応」という言葉は知らないのが当然ですが、「瞑眩(めんげん)」や「治癒反応(ちゆはんのう)」と同様に、「心理の世界」においても、効果が上がると、必ず、不快な反応が起きるということを、ほとんどの専門家(心理学者、精神科医、カウンセラーなどの専門家)は知らないと思われます。

●(7)では、「自己成長反応」とは何か?
「ウツ」を例にとって説明してみます。「ウツ」とは、簡単に説明しますと、両親に対する「怒り」の感情を放出できず、怒りの感情を抑圧して、自分にはその感情が無いかのように振る舞います・・・これが「いい子」です。
沸騰するような怒りの感情を抑圧して、「いい子」、つまり無理に無理を重ねて「過剰適応」する結果、耐え切れなくなって発症するのが「ウツ」です。それがいつ発症するかは、「いい子」の度合いの問題や、環境、つまり「仕事」や「勉強」や「人間関係」の厳しさなどの影響によります。
もともと、「怒り」のエネルギーを抑圧するだけでも、かなりのエネルギーを浪費する上に、無理に無理を重ねて、両親や周囲に「過剰適応」するのですから、高速道路を「ロー」や「セコンド」のギアで走行するようなもので、やがてエンジンが焼けてエンストを起こしてしまいます。この状態が「ウツ」です。

●(8)「ロー」や「セコンド」で高速道路を走行することで、やっと周囲から評価を得ていた人が、エンストを起こしてしまうと、長年得ていた「いい子」の評価が得られなくなってしまいます。
 そうすると、長年、抑圧していた「怒り」のエネルギーが、「いい子」をやれない自分を責め始めます。
 心身が疲労困憊してダウンしている自分自身を、「こんなことじゃ、ダメだ!ダメだ!」と責め続けるのですから、二重三重の苦しさです。その苦しさに身動きが取れない状態が「ウツ」です。
 自分の部屋に引きこもり、カーテンを閉めて暗くし、ボーっとしているのですから、家族は、単にサボっている、単に怠けているのだと思ってしまいます。良い悪いはともかくとして、つい先日までは「いい子」で感じがよく、自慢の息子であったのですから、両親にさえ理解ができず、サボっているように見える息子を、さらに責める結果になってしまいます。
 「ロー」や「セコンド」で高速道路を走行してきたために、疲労困憊してダウンしているのに、そういう自分を、自分自身が「ダメだ!ダメだ!」と、まるでムチ打つように、責め続けます。そうやって、傷だらけになっている息子を、両親がさらにムチ打つように、責め続けます。
頭がガンガンしてきて、割れそうになるほどの苦しみでしょう。身動きが取れないほど、全身を拘束しています。その状態が、ますます、周囲の理解が得られないことになってしまいます。

●(9)運良く、このクライエントの方をお世話することになったとします。やがてこの方のエネルギーが回復してくると、怒りの感情が湧いてきます。特に両親に対する怒りの感情が湧いてきて、同居していたり、心配して電話したり、訪れてくる両親を怒鳴り散らすようになります。
長年、親孝行で通ってきた本人も、両親も、悪化したのではないかと思ってしまいます。しかし、これは「ウツ」から「回復」するために、必ず起こる必要がある反応です。
何故ならば、もともと、怒りの感情を抑圧して、「いい子」を演じ、そのメカニズムが「ウツ」になったのですから、より良く「ウツ」から回復するためには、抑圧している「怒り」の感情を放出することは、絶対に必要なことです。
ところが、本人も周囲も「いい子」だと思っていた人が、乱暴な言動をするのですから、本人は「罪悪感」に苦しみ、両親は「悪化」したと思うのですから、その場は、かなり険悪になってきます。その本人や家族の間に入って、回復するまで支え切る覚悟と根性が、対応する側に求められます。
このように、「瞑眩(めんげん)」や「治癒反応(ちゆはんのう)」と同様の反応が現われてきます。「薬を服して瞑眩せざれば、その疾病いえず」と全く同じで、心理的な対応をして、このような反応が出ないと、まさに「その疾病いえず」です。
「ウツ」のメカニズムを正しく理解していないと、専門家のほうも悪化したと誤解してしまうでしょう。ガンの場合と同様に、その反応を止めたくなりますが、ここが肝心です。
また、西洋医学のほうでは、「ウツ」の治りかけは「危険」だと言いますが、それは、このメカニズムがわからず、正しい治療が行なわれていないために、治りかけが「危険」になるのです。このメカニズムを正しく理解し、正しく対応すれば、治りかけが危険ということは、絶対にありません。
また、このメカニズムを正しく理解していれば、横綱の朝青龍が「ウツ」になるということがありえないことがわかるでしょう。あれだけ勝負強く、テレビカメラや相手を睨みつけることができるし、ウソを言ってサッカーに興じることができる人が、「ウツ」にはなりません。これは「ウツ」とは反対の性格ですし、あの程度の処分が下されたからといって、急にウツになるわけがありません。

●(10)2007年9月9日、読売新聞の相談欄より

 <「うつ」心の弱い人がなるのか>

 横綱の朝青龍の問題をきっかけに、ストレスによる精神疾患が話題になっていますが、うつなどの病気は、やはり心が弱い人がなるのでしょうか。性格的になりやすい人がいるのですか?(神奈川・40歳男性)

 ○○○○(浜松医大名誉教授)<新聞は実名>
 うつ病や不安神経症に悩む人は非常に多くいます。これらの病気は脳の神経の働きが一時的に損なわれたもので、人格とは関係ありません。しかし、この病気になると「気が小さい」とレッテルを張られ、それがストレスとなり、回復やリハビリの障害になります。
英国のチャーチル首相や、米国のリンカーン大統領もうつ病で苦しみました。この2人が気が小さいわけではないことは、歴史上の活躍を見れば分かっていただけると思います。また不安神経症では、高所恐怖症とか、社会恐怖などの異常を示す人がいます。
高所恐怖症で飛行機に乗ることを避ける人に対して、「気が小さい」という人は少ないでしょう。社会恐怖とは、例えば自分ひとりで楽器を演奏する時はうまく弾けるのに、人前では弾けず、演奏に恐怖を感じることなどをいいます。
チェロの名手パブロ・カザルスとか、ピアニストのアルトゥール・ルビンシュタインは、舞台に出ることを恐れましたが、医師の処方薬を飲んで舞台に出ると、すばらしい演奏をしたのです。このような恐怖心は実力がないからではなく、脳がその症状を起こさせるに過ぎないのです。
うつ病がきまじめな人に起こりやすいと言われますが、むしろ、ものの考え方を変えることができない、硬直した考え方をもつ人に多いようです。「窮すれば通ず」(困り切った時に、かえって活路が見いだされる)といわれるように、困難にあったら考え方を変えてみましょう。これがうつをふせぐ決め手です。

●(11)上記の、浜松医大名誉教授の説明は、矛盾していることにお気づきでしょうか?

1)<脳の神経の働きが一時的に損なわれたもので、人格とは関係ありません。>

2)<脳がその症状を起こさせるに過ぎない>

3)<困難にあったら考え方を変えてみましょう。これがうつをふせぐ決め手です。>

 これがいかにおかしな回答であるかを、これから実証してみます。
 まず、1)や2)が正しいのならば、3)は可能でしょうか。
 脳がその症状を起こしているというのに、困難があったら考え方を変えてみましょう。これがうつをふせぐ決め手です、などと言えるのでしょうか?脳が症状を起こしているのならば、そして、人格とは関係ないのならば、どうして「考え方を変えてみましょう」などと言えるのでしょうか?

 さらに、私(藤森)が日頃から強調している「学者」と「職人」の問題がここに出ています(2007年8月31日「今月の映画」第61回「シッコ」の中の(16)参照)。もし、この学者である浜松医大名誉教授が言うように、<困難にあったら考え方を変えてみましょう。これがうつをふせぐ決め手です。>というほど、これが決め手ならば、何故、そんなにすばらしい「決め手」を実行する「具体的な方法」を明示してくれないのでしょうか?

 私がしばしば言及する「学者」と「職人」の違いが、ここに典型的に表われています。<困難にあったら考え方を変えてみましょう。>こういうことができる人は、「うつ」にならないし、「うつ」になる人は、できないから「うつ」になるのです。

 それを<困難にあったら考え方を変えてみましょう。これがうつをふせぐ決め手です。>などと能天気、無責任に言えるとは、驚くほどの無神経です。ましてや、回答には「うつ病」とあります。「うつ症」ではなく、「うつ病」です。「うつ病」という重症な病気になった方に、<困難にあったら考え方を変えてみましょう。>などと言えるのは、「うつ病」を治した経験がない、学者の無責任な発言で、よくこんな無責任なことがいえるのか、心理の世界は恐ろしいものです。

さらに、もし<脳の神経の働きが一時的に損なわれたもので、人格とは関係ありません。><脳がその症状を起こさせるに過ぎない>のが事実ならば、心理的な対応だけで、何故、「うつ」が回復するのでしょうか。
重症になってから、私(藤森)のところにお見えになる方が多いために、当初は、精神科医が処方している薬を飲み続けていただきますが、やがて、薬は不要になります。
人格に関係なく、脳の問題なのに、何故、心理的な対応だけで回復するのでしょうか?

●(12)さて、これからが本題です。
 「自己成長反応」についての説明ですが、何故、「うつ」が改善されることを言うのに、「自己成長(反応)」という言葉を使うかです。これが「漢方」や「西洋医学」や、多くの他の「心理療法・カウンセリング」などと、「根本的に違う」ところです。

これについては、かなり十分な説明が必要ですので、この続きは次回の「第63回」とします。

<文責:藤森弘司>

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