2021年9月15日第227回「今月の言葉」「アメリカ経済の驚くべき実態(今月の映画・ノマドランドの補充②ー②)」
(1)下記の国別オリンピックのメダル獲得数をご覧ください。オリンピックとパラリンピックのメダルの一覧表を見た瞬間、閃いたものがあり、チェックしてみました。
「オリンピック」のメダル獲得数の上位10カ国を比較すると、日本とアメリカだけは、パラリンピックのメダル獲得数が減っています。 これは一体、何を意味するのでしょうか?極めて、意味深長だと思われます。
<<オリンピックの「金」「銀」「銅」メダル合計数の上位10ヶ国>>と⇒⇒の次の数字は<<パラリンピックのメダル合計数と順位>>です。 ①アメリカ(金)39(銀)41(銅)33(合計)113⇒⇒④104 ②中国 (金)38(銀)32(銅)18(合計)88⇒⇒①207 ③ROC(ロシア)(金)20(銀)28(銅)23(合計)71⇒⇒③118 ④イギリス(金)22(銀)21(銅)22(合計)65⇒⇒②124 ⑤日本 (金)27(銀)14(銅)17(合計)58⇒⇒⑪51 ⑥オーストラリア(金)17(銀)7(銅)22(合計)46⇒⇒⑥80 ⑦イタリア(金)10(銀)10(銅)20(合計)40⇒⇒⑧69 ⑧ドイツ (金)10(銀)11(銅)16(合計)37⇒⇒⑫43 ⑨オランダ(金)10(銀)12(銅)14(合計)36⇒⇒⑨59 ⑩フランス(金)10(銀)12(銅)11(合計)33⇒⇒⑩54 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ⑫ブラジル(金)7(銀)6(銅)8(合計)21⇒⇒⑦72 ㊹ウクライナ(金)1(銀)6(銅)12(合計)19⇒⇒⑤98 |
(2)「連載スペシャル企画②」(堤 未果さんに聞く「貧困大国アメリカ」)(THE BIG ISSUE・ビッグ・イシュー・VOL.228,平成25年12月1日)
<若者を借金奴隷に。公教育の崩壊と教育の市場化に苦しむアメリカ> <日本にも忍び寄る教育の市場化と商品化> 2001年同時多発テロ後、変節する米国に危機感を抱いた堤未果さんは米国から帰国し、ジャーナリストに転職。日本の近未来を警告する三部作『ルポ 貧困大国アメリカ』『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』『(株)貧困大国アメリカ』を岩波書店から次々に執筆した。そんな堤さんに聞くインタビュー。前回「食と農業」(226号)に続く、続編のテーマは「教育と若者」。 ≪つつみ・みかさん・・・ジャーナリスト。東京生まれ。NY市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連婦人開発基金(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナルNY支局員を経て、米国野村證券に勤務中、9・11同時多発テロに遭遇。以後、ジャーナリストとして各種メディアで発言、執筆・講演活動を続ける。ベストセラーになった三部作『ルポ 貧困大国アメリカ』(700円+税)『同Ⅱ』(720円+税)『(株)貧困大国アメリカ』(760円+税)(すべて岩波新書)、『社会の真実の見つけかた』(840円+税)(岩波ジュニア新書)、『政府は必ず嘘をつく』(角川SSC新書)など、著書多数。J-WAVE Jam the world 水曜日ナビゲーター。≫≫ 以下、(3)(4)(5)に続きます。 |
(3)<教育、未来への人材投資からマネーゲームの商品へ>
多くの人が米国の公立大学に対してもつイメージは、学費が安く、学びたい人は誰もが学べる、開かれた大学だろう。私もそう信じていた一人だが、『ルポ貧困大国アメリカ』『同Ⅱ』を読んで、そんなイメージは跡形もなく吹き飛んだ。そこに描かれていたのは、たとえば、不況のあおりで卒業しても就職できず、学生時代に借りた高額の学資ローンを滞納し続けた結果、ブラックリストに載って社会から転落していく若者たちの姿だった。 ・・・なぜ、米国の教育に対する考え方がガラリと変わってしまったのでしょうか? 堤・・・教育の位置づけはレーガン政権から大きく変わりました。教育は“未来の人材への投資”から、“個人に利益をもたらす個人投資”になったのです。 ・・・そのような転換がどうして可能になったのでしょうか? 堤・・・かつてアメリカでは、ソ連の共産主義に対し、アメリカは違う、がんばれば報われるアメリカン・ドリームの国だというイメージを強調し、税金は社会保険や医療、教育という社会的共通資本を通して人々に還元する政策をとっていました。 ところが、大国がアメリカ一国になったことで、市場主義に転換して企業の国際競争力を高めていこう、法人税は減税し社会保障を減らし、教育は自己責任にして各家計が未来へ投資をしましょう、という方向に舵を切ったのです。こうして企業の寡占化がどんどん進み、ウォール街がそれをマネーゲームのネタにする。たとえば、「サブプライムローン」(*1)では住宅がマネーゲームの商品になり、食の業界では、食品が先物取引(*2)として商品になった、次が公教育なのです。 ・・・教育が商品になるというのは、具体的にいうと? 堤・・・投資の対象になるのです。まず小中高の公教育に競争が導入される。2002年に始まった「おちこぼれゼロ法」の導入によって一斉学力テストが開始され、競争に負けた学校は予算カットで先生が解雇されたり廃校にされ、株式会社経営のチャータースクール(*3)に替わられていきました。こうしたステップが教育現場、親たち、子どもたち、そして社会にどういう弊害を与えるか?このあたりのことは、『社会の真実の見つけ方』(岩波ジュニア新書)に詳しく書きました。 が、実はこれを中高生向けの新書で刊行した最大の理由は、「次は日本だ」という焦燥感からでした。10代の若者とその親たちに一刻も早く知らせたかった。何故なら本当に、すぐそこまで迫ってきているからです。 (*1)米国の信用力の低い低所得者向けの住宅ローン。05年をピークに住宅価格が急激に値下がり、返済延滞や債務不履行の問題が浮上、リーマンショックの原因となった。 (*2)将来の売買についてあらかじめ現時点で約束をする取引のこと。 (*3)州政府とチャーター(特許状、特許契約書)を交わした上で、保護者、教師、地域団体などが公費で自主運営する公立学校。 |
(4)<学費でパンクする学生たちは生活のために派遣社員として戦場へ>
・・・教育が自己責任化されたことで、米国の大学に何が起こったのでしょうか? 堤・・・大学もマネーゲームの対象になり、競争が激化してゆきました。州税が大幅に減り続け、ほとんどの自治体が破産寸前の中、州立大学は2つのことをせざるを得なくなります。 ・・・その2つとは? 堤・・・一つは、学生集めや研究費獲得のための、人気教授のヘッドハンティング。そして二つ目は、授業料をどんどん上げることです。 ・・・それが、大学生の3分の2が借りている学費ローンにつながっていく? 堤・・・もちろんです。大学に行くことはかつてのように夢をかなえるためというよりも、フードスタンプで飢餓を回避する底辺に落ちたくないという強迫観念が支配するようになってきた。なのに授業料はどんどん上がる。選択肢はどんどん減っているのです。 ・・・日本でも奨学金という名の学資ローンを借りる人が増えていますね。 堤・・・日本はここでもアメリカのあとを追っています。国立大学の授業料はすでに私立なみですし、政府は返さなくてもいい奨学金を縮小して、利子つきの学資ローンを増やしている。日本には連帯保証人制度があり、親が保証人になることが多いですが、親に迷惑をかけたくない学生が無理をしてパンクするケースも急増しています。今や、大学生の3人に1人が学資ローンを借りていて、延滞率がものすごく上がっています。 ・・・この高額ローンの中身はそれほど知られていない? 堤・・・学資ローンについては『貧困大国アメリカⅡ』に実態をくわしく書いたのですが、アメリカでは教育における世代間の考え方に時差があるんですね。かつて親世代は安い授業料で州立大学に行くことができ、卒業したら就職もあった。だから、自分の子どもに「大学に入りなさい、学資ローンを借りなさい」と言うのです。 ところが公的な学資ローンより人気の高い民間ローンは利子が非常に高い。4ヶ月延滞するとクレジットカードが使えなくなるとか、9ヶ月延滞すると元金が膨れ上がるなど、まるで消費者金融のような事態が横行しているのに、多くの親たちは気づかないままなのです。 ・・・借金づけになった学生たちはその後どうなっているのでしょうか? 堤・・・実はここに深刻な問題があるのです。学資ローンは自己破産ができない仕組み。「サブプライムローン」なら自己破産できます。ところが、学資ローンは、学資ローン会社がクリントン政権に献金をして消費者保護法から外されてしまった。死んでも借金はチャラになりません。仕方なく生活のために、給料の高い派遣会社に入ってイラク・アフガンなどの戦場に行く若者が急増しています。 日本もこのままでいくと同じ道をたどる可能性が高い。9条など変えなくても、若者を追い詰め、自ら戦地に行かせる「経済徴兵制」が敷かれれば同じことですから。 ・・・他にも、今後日本で起こりうることは? 堤・・・11月5日に閣議決定された国家戦略特区構想(*4)をご存知ですか?「秘密保護法」の次はこれがやってくるでしょう。学校の株式会社化がすぐそこまで迫っている。アメリカで起きているようなことが、いよいよ他人事ではなくなります。 (*4)公立学校運営の民間委託を認めることや、海外で承認されている医薬品を使う自由診療と保険診療を併用する混合診療などが盛り込まれている。 |
(5)<500人の国会議員のうち、何人の顔と名前が一致しますか?>
・・・人々が時間をかけてつくってきた公教育は風前のともしびですね。そうならないために、今、日本の市民ができることは? 堤・・・前回の食と農業の話でもそうでしたが、日本の学資ローンもまた、法律によってできたもの。政局ではなく、国会でどんな法案が動いているかをよく見ていてください。 特に参院選以降、国会ではろくに審議も行われず国民にも知らせないまま、たくさんの危険な法案が次々にスピード可決しています。すべて把握するのは難しくても、それらが目指す先にあるものをイメージできるよう、アメリカや韓国の現状を本で読むのもお勧めです。 ただ党や特定の国会議員をたたくだけでは、変えることはできません。あなたは今、500人いる国会議員のうち、何人の顔と名前が一致しますか?株式会社化を望む側は、私たちよりもずっと多くの国会議員を知っていて、彼らに対し、根気よく継続的に、さまざまなかたちで働きかけをしています。そして彼らは目的が一致しているために、分断されるよりも連携して動く。 だからそれに対抗する私たちにとって重要なのは、知ること、あきらめないこと、分断されない(敵をまちがえない)ことなのです。 ・・・最後に、世界で起こりつつある、希望のもてる市民の動きについてお聞きしたいのですが。 堤・・・「貧困大国アメリカ」シリーズを書いた私ですが、人間の未来には希望をもっています。なぜなら世界のかたちがこの20~30年で激変する中で、それに抵抗する勢力もちゃんと広がってきているからです。「公益」とは何か?教育、医療、コミュニティの価値とは何か?取材を通して出会う、原点に戻って考え始めたたくさんの人たちが、アメリカだけでなくアジア、ヨーロッパ、南米、中東、アフリカ、そしてここ日本にも、確実に増えてきているのを実感しています。株式会社に消費される「モノ」ではなく、未来を選び取る自由をもち、かけがえのない自分自身を誇れる、血の通った「人間」として生きること。 そう願い、つながり始めた人たちは本能的に知っているのです。それが数字では決して測れない、けれど四半期などよりずっと長い時間をかけて、私たちの未来にリターンをもたらす、真に価値ある投資であることを。 <敬称略・水越洋子氏> |
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