★★★2021年8月15日第226回「今月の言葉」「アメリカ経済の驚くべき実態(今月の映画・ノマドランドの補充②ー①)」

(1)今回は、6月30日に紹介した「今月の映画」「ノマドランド」の映画の原作となった「ノマド:漂流する高齢労働者たち」にあるように、アメリカ社会の驚くべき実態が書かれた8年前の「ビッグ・イシュー」を発見しましたので、その驚くべき内容を紹介したいと思います。

 資本主義社会はどこに行くのでしょうか???

 まず、下記(2)と(3)に、映画「ノマドランド」の一部を再録します。

 その次の(4)(5)(6)で、「THE BIG ISSUE VOL.226,平成25年11月1日」で、≪≪<堤未果さんに聞く「貧困大国アメリカ」><進行する「フードスタンプ」。米国巨大企業による国民支配>≫≫の驚くべき実態をご紹介します。

 

(2)<<<社会変革を後押しする、ストーリーテリングのパワー>(佐久間裕美子・文筆家)

 映画の原作となった「ノマド:漂流する高齢労働者たち」は、国内の製造業の衰退、2008~2009年の金融危機に伴う住宅バブル崩壊と大量立ち退き、自然災害などの理由によって、家を失ったり、コミュニティを追われたりし、キャンピングカーやバンで生活する人口が急増している。映画の中でファーンが言うように、家は持たないけれど、住処は持っている彼らは、ホームレスとは区別されるが、その多くが「プレカリアート(雇用不安定層)」で、大企業に雇われた派遣会社に斡旋されるのに従って季節労働で食いつないでいく。

 Amazonは、経済的に圧迫され、雇用を渇望する土地で配送部門の業務を展開する。その大半が、最低賃金が全米平均よりも低い共和党州にある。彼らを支援するのは、ないよりわずかにましという程度の最低限の社会保障だけ。労働者としての権利はなきに等しく、働けなくなれば、その生活は破綻する。彼らの存在は、アメリカの資本主義システムが抱える致命的な欠陥を象徴している。

 『ノマドランド』が高く評価されているのは、今、アメリカ社会が、声なき声に耳を傾けようとしているからに他ならない。パンデミックという危機によって、Amazonを始めとする一部の大企業や経営者が一気に冨を増やした一方で、世界一リッチなはずのアメリカの各地に新たなホームレスのテント村が次々と生まれ、RVパークは、車で生活する人々でいっぱいだ。何かがおかしい、間違っている・・・ようやくでき始めたコンセンサスが『ノマドランド』と共鳴している。 

 アメリカのミドルクラスが一番安定していたのは、1960年代後半だった。公立学校システムができ、組合が正常に機能し、フルタイムの仕事さえあれば、家族を養い、老後の備えを蓄えることができた時代だ。しかし、国内の製造業がピークをすぎて、下降路線に転じ、コミュニティ精神が個人主義に取って代わられると、組合は「労働者を怠惰にする」「非効率だ」と攻撃されるようになった。

 クリントン政権時代にNAFTAが締結されると、製造業は賃金の安い海外への流出はさらに加速し、貧しい共和党州の雇用は不安定になった。雇用が不安定になれば、雇用主のパワーはさらに拡大する。その先には、さらに厳しい搾取が待っていた。結果、アメリカの貧富の差は、手がつけられないほど大きくなっていた。

 パンデミックが白日のもとに晒した格差を是正しなければいけない、ようやく今その機運が高まっている。アラバマ州のAmazon配送センターでは、従業員たちが組合結成の是非を問う投票が進行中だ。バイデン大統領は、公約どおり、労働者の組合を組織する権利を支持する立場を明らかにした。『ノマドランド』は、その世論を後押ししている。ストーリーテリングのパワーが、社会変革に手を貸している。今、私たちは、歴史的な転換を目撃しているのだ.>>

 

(3)<<「鈴木棟一の風雲永田町」(夕刊フジ、6月24日)

 <「資本主義行き詰まり」本がブーム>

 <略>「ゼロ金利」については。

 「識者らは『金利をゼロにすれば、借り手は銀行などの前に列をなし、お金は住宅ローンや設備投資に回り、経済は急回復する』と思ってきたようだ。だが、こうした思惑が外れた。借り手は現れず、経済は冷え込む一方になった。実は、ゼロ金利は、資本主義の存在意義を根っこから揺さぶる大事件なのだ。『資本は利益や利息、利子を生む』との大原則に、もとる。お金が利息を生まないゼロ金利は、あり得ないはずだった。資本主義への疑念が、『確信』に変わり始めた」

 「格差」とは。

 「産業革命で格差が生じたのに触発され、マルクスは『資本論』を出版した。いま、経済学者らの研究で、労働者の賃金の伸びよりも資本家のマネーの運用益の伸びの方が、はるかに大きい。以前から格差は存在していたのだが、修復し難いほどに拡大している」>>

(4)「連載スペシャル企画①」(THE BIG ISSUE VOL.226,平成25年11月1日)

 <堤未果(つつみ・みか)さんに聞く「貧困大国アメリカ」>

 <進行する「フードスタンプ」。米国巨大企業による国民支配>

 2001年同時多発テロ後、変節する米国に危機感を抱いた堤未果さんは、長年住んでいた米国から帰国しジャーナリストに転職、日本の数年後を警告するケーススタディとして、『ルポ 貧困大国アメリカ』『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』を次々に執筆した。

 今年(藤森注・平成25年)6月には完結編『(株)貧困大国アメリカ』が発行された。

 その間10余年、三部作を通して見えてきたことを3回のインタビューを通して、堤さんに聞く。今回はその第1回、テーマは「食と農業」

 

つつみ・みかさん・・・ジャーナリスト。東京生まれ。NY市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連婦人開発基金(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナルNY支局員を経て、米国野村證券に勤務中、9・11同時多発テロに遭遇。以後、ジャーナリストとして各種メディアで発言、執筆・講演活動を続ける。『ルポ 貧困大国アメリカ』『同Ⅱ』『(株)貧困大国アメリカ』(各700円、720円、760円+税・岩波新書)、『社会の真実の見つけかた』(岩波ジュニア新書)、政府は必ず嘘をつく』(角川SSC新書)など、著書多数。J-WAVE Jam the world 水曜日ナビゲーター。≫≫

(5)≪≪5千万人突破! SNAP(フードスタンプ)受給者、労働者の3人に1人≫≫

 米国ではついに、SNAP(スナップ・補助的栄養支援プログラム、Supplemental Nutrition Assistance Program)の受給者が5千万人を突破!・・・・堤未果さんの衝撃的なこの言葉で、インタビューの幕が上がった。

 SNAPとは、2008年に名称を変えた旧フードスタンプのこと。米国政府が低所得者や高齢者、障害者や失業者などに提供する食料支援プログラムだ。カードで、SNAP提携店だけで食品のみを購入できる。

 「アメリカは先進国でありながら、まさに貧困大国です。何とか飢え死にしないために、労働者の3人に1人がSNAPを受給しています。この数値はアメリカ国内のフルタイムの労働者数を上回り、しかも毎日平均2万人新規の申し込みが入るという勢いで増え続けている。しかも受給者の9割は受給要件である貧困ライン(年収200万円以下)をはるかに下回る生活をしています」

 08年にオバマ政権になって以来、米国政府のSNAP広告予算は急増、国民に対し積極的に申請を呼びかけてきた。その結果、受給者が増え続け、08年から3年間でSNAPへの支出は2倍に膨れ上がった(図1・・・藤森注・スマホも使えない技量未熟で、掲載できないために省略させていただきます)

 しかし、ここで素朴な疑問がわきあがる。

 米国は16兆ドル(約1600兆円)の借金を抱えているため、13年3月、オバマ大統領は今後10年で3兆94億ドルの強制歳出削減案に署名している。なのに、国家や自治体の予算を圧迫するはずのSNAPを奨励するのはなぜなのか?

 堤さんは言う。「アメリカでは現在、食の産業が一つの大きな利権になっています。SNAPの支給額は一人月1万円前後。一食120円位しかないために受給者は価格が安く満腹感がある加工食品やファーストフードを購入してしまいます。すると大手加工食品業界や安売りスーパーがものすごく儲かる。たとえば業界最安値を掲げるウォールマートは、SNAP食品購入先の50%以上を独占しており、毎月税金から巨額の利益が流れ込んでくる仕組みです。

 大人も子どももそんな食生活を続けているので、アメリカでは肥満虫歯心臓病糖尿病が急増し、特に子どもの病気と肥満は深刻な社会問題となっています。すると今度は製薬会社や医療保険会社が儲かる。さらに州政府の導入費用やカード手数料で金融業界が莫大な利益を得る。こうした業界は大統領や国会議員に巨額の献金をしています。本当は栄養のある生鮮食品を買えるだけの賃金を得られる雇用を増やすべきなのに、そこではなくフードスタンプ受給者拡大に予算が注ぎ込まれる。もうこれは、国家ぐるみの貧困ビジネスと言えるでしょう」

(6)≪≪独占禁止法骨抜き、4社が全米養鶏業界の60%支配、98%の生産者を傘下に≫≫

 米国の食がビジネスとなり、政治と結びついていった経緯を知るには、過去30年の食の歴史をさかのぼらなければならないと、堤さんは説明する。最新刊『(株)貧困大国アメリカ』によると、1950年代には米国の農業は95%個人農家経営に支えられていたという。だが、石油価格急騰と異常気象による70年代の世界食料危機で一気に潤ったことをきっかけに、「食」を他国への武器にする自由貿易政策へと舵を切ってゆく。特にレーガン政権以降は「規制緩和」が次々に実施され、独占禁止法までも骨抜きにされてしまった。

 それ以降、「低コスト」「短期大量生産」の競争が続き、小規模の畜産農家は急速に消滅、農家は巨大な工場型産業へと変貌したという。

 『(株)貧困大国アメリカ』にはまた、大企業の下請けとなった養鶏場のすさまじい実態が描写されている。鶏舎に鶏を詰め込み感染症を防ぐために大量の抗生物質を注射、成長促進剤で体重は25年前の8倍になった。鶏の内臓や骨の成長はそれに追いつかず、大半が6週間目で足が折れてしまう。だがコストはぎりぎりまで下がり、一度に大量の肉がとれるのだ。

 ここで、誰もが思うだろう。「だが、食品安全のための規制があるはずだ」と。

 しかし堤さんは首を振る。「すでに86年に畜産安全審査予算が削減され、病気や死亡した鶏を取り除くというプロセスも廃止されました。ベルトコンベアに載った加工前の鶏を1分に46羽チェックしていた安全検査官は、今やその速度を1分に175羽に増やされて肉眼で見ることもできない状態です

 寡占化によって巨大化した企業は政治やマスコミへの影響力を増し、政治献金の上限はなくなった。ブッシュ政権でも法律改正が行われ、13年にはオバマ大統領も「養鶏安全検査官の25%削減」を提案している。

 巨大なピラミッドの末端にいる契約養鶏者や養豚場、農家の境遇は悲惨だという。

 「大草原の小さな家のようなイメージの、かつてのアメリカ農家はもう昔と同じではありません。農家が主権を失うということは、国民が食の主権を失うことを意味するのです」

 そして、この食の構造がフードスタンプにつながってくるのだ。

 「フードスタンプを増やすということは、国民を死なないギリギリのところでキープしておくこと。貧困状態にある人々は生きるのに精いっぱいになり、政治に口を出す余裕がなくなってゆく。そして業界も閏うという構図です。食というライフラインに依存する国民が増えるほど、削減されないためには政府の出すどんな条件でも黙認してしまう空気すら出る。ただし、この数十年に食の業界に何が起こったかの背景を知らないと、単純に『アメリカは福祉が充実している』と思いこんでしまうでしょう。実は日本でもすでに自民党内で、生活保護にフードスタンプを導入する案が出てきています

 ≪≪TPPは米国巨大企業モデルの世界展開≫≫

 そして10年10月、日本に突如現れたTPPへと話はつながっていく。15年までに工業製品、農産物、知的所有権、司法、金融サービスなど、24分野において例外なしに関税その他の貿易障壁を撤廃するという経済協定だ。しかし、こうしたTPPは米国で成功したビジネスモデルを他国でも展開するのが狙いだと、堤さんは言い切る。

 「日米関係として語られがちなTPPは、国家と国家の話ではない。国家は市場の一つにすぎず、巨大企業のためにグローバルな市場環境をつくることが目的。企業から政治献金をたくさんもらっているオバマ大統領は、もちろんそれをわかっています」

 特に、「ISD条項(*2)は要注意」と堤さんは言う。「国内法より優先され、国家と企業が対等に裁判できると言われますが、裁判の勝ち負けを決めるものさしは、投資行為に対して企業側に被害があったかどうか、つまりすでにルールは企業よりなのです。NAFTA(*3)を見てもわかるように、そもそもルールが国家にきわめて不利になっていることに注意しなければなりません(藤森注・表1はカットさせていただきます。TPP単体ではなく、NAFTA、米韓FTA、米国とEUの自由貿易条約、EUとインドの自由貿易条約、そして日本とアメリカの間のEHI(*4)、すべて方向性は同じです。『誰のための自由なのか』を見定めることが重要です

≪≪(*2)・ある国の政府が外国企業、外国資本に対して不当な差別を行った場合、当該企業がその差別によって受けた損害について相手国政府に対し賠償を求める際の手続き方法について定めた条約。

(*3)・1992年にカナダ、メキシコ、米国によって署名された自由貿易協定。94年1月発効。

(*4)・「日米経済調和対話」。地域・グローバル課題への連携、貿易円滑化、ビジネス環境の整備、個別案件への対応等について日米両国が協力して取り組むための事務レベルの会合≫≫

 「それだけではありません」と堤さんは言う。「この米国産ビジネスモデルはすでに世界的に展開されています。たとえばイラクでは『USAID』(米国国際開発庁)がイラク農民に米国製の小麦のGM(遺伝子組み換え)種子と農薬、農機具を提供し、イラク農家は大規模な農業ビジネスとGM種子栽培へと舵を切らざるを得ない状況に追い込まれました。債務超過に苦しむアルゼンチンや巨大地震災害にあったハイチでも、それぞれ手法は違いましたが食における乗っ取りが行われたのです。NAFTAのメキシコでは、バイオ企業がトウモロコシや豆のGM種子を商品化、特許を取得して、食料自給国を飢餓国家へと転落させました」(藤森注・図2はカットさせていただきます)

 ≪≪巨大企業は政治家(国家)には強いけれど、消費者(市民)には弱い≫≫

 一連の話は、まるで眩暈がしそうなSFのようだ。絶望的な思いにとらわれそうになるが、希望の芽はあると堤さんは言う。

 「今、TPPなどの自由貿易に対する反対はかつてないほど膨れ上がって、アメリカ、韓国、カナダ、オーストラリアなど、国境を超えた地球規模のネットワークが形成されつつあります。マレーシアの元首相は絶対反対を表明しています」

 さらに、こうつけ加える。「企業は政治家には強いけど、消費者には弱い。企業という巨人にも必ずアキレス腱があるんです。たとえば13年5月、EU議会は、市民たちからの50万通のメール、260万人の署名を受けて、農薬ネオニコチノイドの使用を禁止した。GM作物のラベル表示が一切ない米国でも、オーガニックスーパー『ホールフーズ』が実はGM作物を販売していた事実について市民団体が店員の証言をネットで拡散、その後ホールフーズ社は18年までにGM作物の仕入れを全廃する宣言を出しました。私たちは、たとえ今国民として不利な状況にいても、消費者としては思っている以上に力があるのです」

 「この本には報道されないこうした実態とともに、たくさんの成功例も書いてあります。教育、暮らし、保育、反戦分野で、ごく普通の人が起こすささやかなアクションが社会に大きな変化をもたらした例が本当に多くあるからです。それを読者の方に一つでも多く共有してほしい。私たちの最大の敵は政党でも企業でもない、あきらめや無力感です。知り、発信し、つながるという行動は地道に見えますが、こうした敵を跳ね返し、私たちに力を与えてくれ、最後には必ず社会を変える。それを伝えたくて、私は書き続けるのです」
(水越洋子氏)