2020年9月15日第215回「今月の言葉」「ウィーケスト・リンクとは何か?⑯(天才・大谷翔平選手について)」(weakest link)

(1)大谷翔平選手は超一流の素質を持っている選手だと私・藤森は思っています。さらにその上に、人柄も素晴らしい選手です。すべてが余りに素晴らし過ぎて、結果として、身体を痛めてしまっていることをとても残念に思っています。

 そのことを憂えた結果、2年前に、「得失一如とは何か?」と題して、得るものが多い人に特徴的な「失うもの」について書きました。人柄も素晴らしい大谷翔平選手のネガティブなことを予言(?)するのは辛かったのですが、残念ながら、ドンピシャリになりそうです。

 なぜ、私が推測できたのか。それは、高校野球レベルならばともかく、超一流の選手が集まって戦う「アメリカ・大リーグ」での「二刀流」は、極限まで身体を酷使しなければなりません。そこに見えない「無理」が生じることはやむを得ないことで、何かを犠牲にするから何かが得られるという鉄則があります。

 深層心理を専門にしている私にとっては、深層の部分の「きしみ(悲鳴)」が聞こえるようです(次回に予定している渡哲也氏も同様のものを感じます)。

 2年前の「得失一如」の一部を再掲載して、とても残念ですが、現在のかなり悲惨な状況を、ご紹介します。

 

2018年6月15日第188回「今月の言葉」「得失一如とは何か?(補足①)」(大谷翔平投手①)

2018年8月15日第190回「今月の言葉」「得失一如とは何か?(補足③)」(大谷翔平投手②)

<<<この時点は、大谷選手の成果が最も上がっている頃でした。少々勇気が必要でしたが、その後を見ると、勇気を出して良かったと思っています。天才選手ですので、この困難な状況を乗り越えて、さらに飛躍して欲しいと思っていますが、現時点ではかなり「得失一如」の言葉が相応しい状況になっています。

 天才バッターだった評論家の張本勲氏は、日曜日、朝8時からの「サンデーモーニング」で、大谷投手の二刀流をかなり批判していました。

 私(藤森)は素人で僭越ながら、テレビを見ていつも張本氏の考え方と同じだったために、「そうだ!そうだ!」と声援を送っていました。ところが、張本氏は、大谷選手の成績がどんどん上がってきたために、途中から脱帽してしまいました。それ以後私は、我が家で孤軍奮闘していましたが、だんだん、私の主張のような流れになってきています。

 大谷選手は「超」の字がつくほどの天才であることは私も認めていますが、環境・・・大谷選手の才能を最大限に発揮できるような環境が整っていないように思えてなりません。

 しかも、その環境を整えることは極めて難しいように思えます。もちろん、理論的には簡単なことですが、現実的には難しいように思えます。そして、現時点では、私が考える「よろしくない環境」がどんどん現実になっているように思えます。

 大谷選手の飛び抜けた才能と人柄の素晴らしさ天文学的です。それでもその才能を最大限に発揮することはかなり困難なように思えてなりません。

 それらをこれから詳細にチェックしてみたいと思います。>>>

2018年9月15日第191回「今月の言葉」「得失一如とは何か?(補足④)」(大谷翔平投手③)

<<<大谷翔平選手は本当に素晴らしい選手であり、日々の活躍を追ってみると興味が津々です。

 才能・素質は、ほとんど全てが抜群に素晴らしいのには驚きます。ハートフルな人間性、練習や試合に臨む手抜きをしない前向きな姿勢バッティング能力、ッチング能力・・・これほど色々な面で優れている選手、というよりも一個の人間性を私(藤森)は見たことがありません。

 それだけに是非、成功して欲しい選手ですが、全てがあまりにも素晴らしすぎて、故障などのハードルが待ち受けているように思えてなりません。老人の「杞憂」であって欲しいのですが、これだけ才能が抜群ですと、どこかで手抜きがうまいとか、いい加減さがあれば・・・と思うのですが、何もかもが本当に素晴らしい、素晴らし過ぎます。

 老人の杞憂として、少し、彼の活躍を細かく追ってみたいと思います。>>>

(2)「サクラと星条旗」(ロバート・ホワイティング、夕刊フジ、2020年8月5日)

 <大谷 SHOW TIME いつまで>

 <二刀流フル回転の限界>

 エンゼルスの大谷翔平投手(26)は、今季2試合目の先発となった8月2日(日本時間3日)の登板後、右肘に違和感を訴えて精密検査を受けた。右肘手術から投手として復活したばかりだっただけに、非常に心配されるニュースだ。

 エンゼルスは大谷に大きな期待を寄せてきた。100マイル(161キロ)以上の剛速球を投げ、500フィート(150メートル)のホームランを打てる。そんな男をスタメン起用したくない監督、フロントはどこにもいない。

 特に今季は二刀流で復活。野球専門サイト「ベースボール・エッセンシャル」のロビー・ストラトコス記者は「大谷の投げる球に誰もが驚愕した時期は終わったが、シーズンを通じて投手として投げることができれば、仮に2018年より成績が落ちたとしても、エース級の活躍が期待できる。これに大谷が週に3、4回、DHで加われば打線は“エリート級”になる」とした。

 同時に、「エンゼルスの売りは攻撃力だ。ここで大谷が期待通りに打てば、エンゼルス打線はどんな投手とも互角に渡り合えるだろう。しかし、仮に大谷が期待を裏切った場合はチームのプレーオフ進出は急速に消滅する。これまでの故障歴を考えると、大谷には大きな疑問符がつく」と警告した。

 確かに大谷の健康には不安がある。エンゼルスの所属するア・リーグ西地区はアストロズはじめ、強豪ぞろい。開幕前から、エンゼルスにとってポストシーズン進出の可能性があるのは「ワイルドカードだけ」とみられているが、小さなミスで、それすら危うくなる。その状況を変えられるのは唯一、ピーク時の大谷だろうが、ここまでの大谷を見る限り健康面での信頼性はいまひとつだ。

 大谷は日本ハム時代の2017年10月に右足首の三角骨骨棘除去手術と、右肘じん帯損傷でPRP注射治療(グレード1)を受けた。

 メジャー移籍後の2018年には右肘じん帯のトミー・ジョン手術(側副じん帯再建術)。2019年は9月に左膝蓋骨の手術(二分膝蓋骨)を受けた。

 大谷の若さを考えると、この手術の回数は決して少ないとはいえない。メジャーの代理人はこう言った。

 「はっきりいって、大谷は故障しやすい選手だ。両足に傷痕があり、耐久力を心配する声がある。1シーズンにせいぜい300打数しか打てない選手になる可能性がある」

 昨季までのメジャーでの成績を見ると・・・。

 打者・大谷は2018年、104試合に出場。326打数で打率・285。22本塁打、61打点。

 2019年は106試合、384打数18本塁打、62打点、打率・286。2018年の投手・大谷は51回2/3を投げ4勝2敗、防御率3・31だった。

 大谷はデビューした4月1日~8日の間に2勝をあげ、3本塁打するというMLBの長い歴史の中で誰もなしえなかった記録を残し、2019年には日本人メジャーリーガー初のサイクルヒットも達成した。だが欠場が多すぎる。

 トミー・ジョン手術を受けたことも決して明るい材料ではない。

 1974年にフランク・ジョーブ博士が考案。投手トミー・ジョンが初めて手術を受けた当時、現役復帰できる可能性は「100分の1」と言われた。その後、成功率は飛躍的に伸び、現在では85%が1年からそれ以上経過したあとマウンドに戻っている。

 だが、2度と復帰できなかったり、復帰後、球速が落ちるなど激しい現実に直面するケースも後を絶たない。

 幹細胞療法の権威、ジョンR・シュルツ博士は昨年10月、トミー・ジョン手術の成功率に関して以下のような研究結果を発表した。

 「トミー・ジョン手術を受けたメジャーの投手313人中、83%は1年以内に現役復帰し、手術前と同じか、それ以上のピッチングができた。しかし、残念なことに投手生命は3・6年。高いレベルで戦えるのは2・9年に過ぎない」

 同博士は2014年の研究発表でも「じん帯損傷は普通に再発する。術後、成績が極端に下がったケースも目立つ」と指摘した。結論からいうと、手術を受けた投手は復帰後のパフォーマンスが落ち、キャリアが短くなり、肘を痛める率が高いのだ。

 もちろん、例外はある。カブスのダルビッシュ有(33)は手術前より球威を取り戻した。

(3)(続き)

 <少なくない故障歴を不安視、先発からリリーフ転向案も>

 ナショナルズのスティーブン・ストラスバーグは2010年9月にトミー・ジョン手術を受けたが、1年後に復帰。2012年以降の8シーズンで7度の2ケタ勝利をマークし、昨季は自己最多の18勝でワールドシリーズでMVPに輝いた。

 一方、松坂大輔(現西武)はレッドソックス時代の2008年、167回2/3を投げ18勝3敗、防御率2・90という信じられないようなシーズンを送ったが、その後、腕の故障に悩み、2011年にトミー・ジョン手術を受けたあとも、本来の姿を取り戻すことはなかった。

 2020年7月26日(同27日)、投手・大谷は復活登板を果たしたが、1死もとれず、5失点。「防御率が無限大」という結果に終わった。

 2試合目の先発も制球が定まらず1回2/3を5四球、2失点。防御率は37・80。球速が100マイルを超えることはなかった。そして、再び右肘に違和感を訴えた。大谷が昨年9月、左膝の手術を受けたことも気がかりだ。

 大谷はエリート級のアスリートだ。それは、いいことでもあり、悪いことでもある。若くて健康で、人より早い回復を望めるが、二刀流でのフル回転は非常に負担が大きい。投手として投げることで常に膝に負荷をかけ、膝や足に問題が生じる可能性が高い。これはエンゼルスのファンが耳にしたくない話だろうが。

 大谷を週に1回先発させ、パートタイムでDHとして起用するのは大谷の才能を生かす最良の方法ではないかもしれない。多くの専門家は、毎日DHで出場し、リリーフとして起用するのがベストではないかと言っている。そうすれば、腕や足への負担が減る。

 しかし2018年のデータを見る限り投手・大谷が先発した日の観客動員は普段より11%も多い。これは無観客試合でなくなればチームにとって大きな収入源だ。

 という訳で、大谷には先発として投げられなくなる日までマウンドにあがり続けることを期待しよう。だが、そうでなくなる日は、あなたが予想するより早いかもいしれない。

 心配事はもうひとつ。彼は右投げ左打ち。打席に立ったときに右手に死球を受け、投手として投げられなくなる恐れが常につきまとう。

<Robert  Whiting・・・作家。米ニュージャージー州生まれ。『和をもって日本と成す』(1990年)で日本のプロ野球の助っ人外国人を描き、独特の日米文化比較論を展開した。この逆バージョンともいえる本コラム「サクラと星条旗」は2007年から好評連載中。>

(4)「外野や一塁守備の練習を始めた裏側・大谷」(夕刊フジ、2020年9月9日)  

 <エンゼルス首脳陣に看破された器用貧乏> 

「要するにエプラーGMとマドン監督が断を下したということですよ」 米西海岸のさるスカウトがこう言った。 

 日本時間8月25日、エンゼルスの大谷翔平(26)が右翼や一塁の守備練習を始めたことに関してだ。 日本のスポーツマスコミは「三刀流へ」「今季中にも守備」と、投打の二刀流に加えて野手としての役割もこなすことになると大騒ぎ。「彼の能力を生かすには守らせない手はない」というマドン監督のコメントを真に受けているが、守備練習を始めた理由はまったく逆。「大谷の能力がある意味、見限られたからだと聞いています」と、前出のスカウトがこう続ける。 

 「大谷には投手より打者としての才能がある。右腕を痛めた今季は、その打者に専念しながら成績はいまひとつ。打者として一流と判断されていれば、間違いなくDHに専念させる。ケガの危険が伴う外野手や一塁手などやらせるはずがありません。つまり打者として、そこまでの選手ではないからこそ、起用のオプションを増やそうという判断が働いたのでしょう」 

 メジャー1年目の2018年は投手として4勝2敗、打者として22本塁打。かのベーブ・ルース以来の二刀流として全米の注目を集め、オフには新人王も獲得した。球速、パワー、足の速さ・・・投手としても打者としても随所に光るものをみせ、投手、あるいは打者に専念したら、いったい、どれくらいスゴい数字を残すのかと野球ファンを興奮させた。

 その後、トミー・ジョン手術を経験。今季は右腕の故障もあって期せずして打者に専念しているものの、日本時間7日現在、打率・192,5本塁打、20打点、6盗塁。低迷する打率を除き、本塁打も盗塁もそこそこの数字にとどまっている。

 「大谷は投げても打っても走っても、並以上だが、投手としても打者としても突出した選手ではない。つまり何でもほどほどにできる、投手と打者の二刀流として、どっちもやれる器用な選手と受け止められたのです。

 だったらさまざまなことをやらせた方がオプションが増え、使い勝手もいい。今回の守備練習にしてもキャンプで外野ノックはやっていましたが、いざ開幕したら打者としていまひとつ。それなら外野だけでなく一塁も守らせて、よりさまざまな役割をこなしてもらうのが得策ということでしょう」(前出のスカウト)

 何でもできるといえば聞こえはいいが、要するに大谷はエンゼルスの首脳陣に「器用貧乏」とみられているようなのだ。