2018年11月15日第193回「今月の言葉」「自己責任についての一考察(安田純平氏の例)」
(1)安田純平氏の解放に伴って、「自己責任論」がかなりの論争(?)になっているようですが、私の考えを少し述べてみたいと思います。
その前に、いくつかのメディアでの報道をご紹介したいと思います。 |
(2)ZOZO前沢社長が維新丸山議員とツイッターで舌戦(日刊スポーツ新聞社・2018/10/27)
ZOZOTOWN前沢友作社長が、ジャーナリスト安田純平さんを拘束していたシリアの過激派組織からの身代金要求に応じなかった日本政府の対応に疑問を呈し、日本維新の会の丸山穂高衆院議員(34)と議論を繰り広げている。 前沢氏は26日更新のツイッターで、安田さんが解放されたことについて「本当に良かった」と喜ぶとともに、「けれど忘れてはいけない。2015年1月の後藤さんと湯川さん、2004年10月の香田さん、三人とも助からなかった」と過去の例に言及。「いずれも身代金要求に日本政府は応じなかった。人命より、テロとは交渉しないという姿勢を優先した。人命<姿勢???」と疑問を投げかけた。 続けて前沢氏は「身代金を払えば、それが新たな武器購入の資金となり、テロの力を強め、さらなる被害拡大につながる。大方の人の意見がそうなことは知っている。けれども、それは近視眼的な考えだと思う。根本的なテロ問題の解決は、資金源の凍結や、武力による一掃戦略ではなく、話し合いだと思う」と持論を展開。「身代金は、そのテーブルセットのための重要なカードとして使えるのではないかと僕はいつも思う。いくら払ってでも人命第一である、そして払うなら話し合いの機会が欲しいと。そうした姿勢を日本が率先して国際社会に示し、イタチごっこになっているテロ問題解決の新たな糸口にできないものかと」との考えを示した。 丸山氏は前沢氏の一連のツイートに「この社長さんの人類史や中東の地政学すらぶっ飛ばした発想が過ぎて、驚きを隠せない。あまりにも無邪気な」と切り捨て、「ツイートでは思考の全ては分かりませんが、洞察が浅いかと。それができる立場に行くにはどのような条件があるのか、我々はどこにいるのか、そもそも有史以来の過去その発想でどうなったかが見えていないしそれに変わる新手法ですらなく。としか。炎上商法でないとは思いますがそれを疑うレベルですね」と批判した。 前沢氏は丸山氏に対し「それでは、先生はどうしたら良いとお考えですか? テロリストって誰で何が目的でどうしたらなくなりますか? そのために私たち市民にできることは何ですか? もし先生のご家族や身近な方が人質にとられても身代金は断固払いませんか?」と質問。丸山氏は「戦場で仰る『市民』に出来ることは限られています。それでも出来ることは何かというのなら、外務省海外安全HPで渡航中止や退避勧告と書かれている地域にはなるべく行かないでください。私なら仮に自分や家族が人質に取られればなおさら身代金は払いません。政府としては退避勧告を無視されても、手法に批判されても、あらゆる手段を使って邦人を救出する手立てを尽くします、それが政府の役割なので」と回答したが、これに不服の前沢氏は再び「もう一度伺います。テロをなくすにはどうしたらいいですか? 先生個人のご意見をお聞かせください。先生は、私の発言に対し、炎上商法を疑うレベルだとか、小並感だとか、小馬鹿にしたような物言いをされています。一市民である私は、一国会議員である先生からの誠意ある答えを期待しております」と呼びかけている。 |
(3)「安田さん救出の裏で『テロ情報ユニット』が存在感」(夕刊フジ、10月26日)
<拘束された3年間「地獄だった」><5つの政府機関出身の専門チーム> 内戦下のシリアで2015年に行方不明になったフリージャーナリスト、安田純平さん(44)が解放された。国際テロ組織アルカーイダ系の過激派「ヌスラ戦線」が身代金目的で、拘束していたとみられる安田さん救出の背景には、政府が官邸直轄組織として立ち上げた「国際テロ情報収集ユニット」の働きがあった。 「官邸を司令塔とする『国際テロ情報収集ユニット』を中心にトルコやカタールなど関係国に働き掛けた結果だ」 菅義偉官房長官は24日の記者会見で、こう述べた。 ユニットは2015年12月、言語や地域情勢などに習熟した外務省、警察庁など5つの政府機関出身の20人で発足した。現在は80人以上が活動している。 邦人救出事案はこれまで、外務省や警察庁の緊急チームを軸に解決を図ってきた。テロ情報に特化した常設の専門機関をつくることで、海外での邦人の安全管理に厚みを持たせている。 安田さんの救出では、カタールとトルコに武装勢力との折衝などを託したとされている。政府関係者は「情報を入念に収集、分析して協力要請国を選定、独特の駆け引きもしながら集めた成果だ」と指摘した。 一方、安田さんは24日夜、トルコ南部ハタイ県の空港から飛行機に乗り、同国最大の都市イスタンブールに到着した。 機内ではNHKのインタビューに応え、拘束されていた約3年間について「地獄だった。監禁されている状況が当たり前のように感じ始め、非常に辛かった」と語った。安田さんはイスタンブール経由で25日夜にも帰国するとみられている。 |
(4)「安田純平さん解放めぐりツイート ダルビッシュ大炎上」(夕刊フジ、10月28日)
<本田も参戦!!こちらは終始冷静> シリアで武装勢力に拘束され約3年4ヶ月ぶりに解放されたフリージャーナリストの安田純平さんをめぐる「自己責任論」が、スポーツ界でも物議を醸している。 「危険な地域に行って拘束されたのなら自業自得だ!と言っている人たちはルワンダで起きたことを勉強してみてください。誰も来ないとどうなるかということがよくわかります」 米大リーグ・カブスのダルビッシュ有投手(32)は26日、ツイッターを更新し、こう持論を展開した。ネット上では「とても的を射た意見で素晴らしいです」という声もある一方で、「ルワンダよりもシカゴの事を考えてやれ」などと批判的な書き込みが殺到、大炎上している。ダルビッシュはカブスと6年契約を結んで臨んだ今季、右肘などの故障でわずか8試合登板、1勝3敗に終わったからだ。 これに参戦したのが、豪州メルボルン・ビクトリーに所属する元サッカー日本代表の本田圭佑(32)。「フリージャーナリストの安田さん、いろいろと議論がなされてるみたいやけどとにかく助かって良かったね」と前向きにツイートした。 その後もダルビッシュは「日本が戦争していてたくさんの人が殺されているなかで世界のどの国もが知らんぷりだったらどうするんだろう?」と提起し続け、本田はそれに反応する形で「このまま拘束されたりしたら、ホンマにヤバいかもっていつも思ってます」とツイートとした。 競技は違えど、共に海外で活躍する2人が同じテーマで発言する状況に、ネット上では「夢の対談」と注目する向きもあったが、本田は終始冷静で、解放されたことのみに言及し、踏み込んだ意見は発信しなかった。 ダルビッシュはイラン人の父を持つだけに、中東で起きた問題を他人事とは思えなかったのかもしれない。 |
(5)「ビートたけしの21世紀毒談」(週刊ポスト、11月16日号)
<「英雄か」「自己責任か」安田純平さん論争の本質を語るぜ> <略> そういえば、オイラが『ニュースキャスター』で話したことが、ネットで話題になってるんだって? シリアでイスラム過激派に3年間拘束されていた安田純平ってジャーナリストが解放されて、「自己責任か否か」って話が出たわけだけど、オイラは登山家が山で遭難した場合を例に挙げて、こう意見したんだよ。「(登山家は)成功すればいい写真とか名誉を得られるけど、失敗した場合は救助隊に(自分で)お金を払うでしょ?この人は失敗したんじゃないの?」 ってね。で、それに賛否両論が出てるというんだよね。まァ、これだけ聞きゃオイラは「自己責任論」を肯定してるように見えるだろうけど、言いたいことはそんなに単純じゃなくてさ。 おいらは別に、危険を冒して戦地で取材することを否定しているわけじゃない。だけど、その時「リスク」と「リターン」をしっかり天秤にかけないと、バカバカしいことになっちまう。 今の時代、インターネットやテレビ電話を通じて取材や交渉もできる。衛星を使って戦地の様子を撮影できたりもするわけだよ。 それでも最前線に行くというのなら、スクープ情報がないと意味がない。そのアテがないのに「いくら危険でも現場に行くことにこそ意味がある」って言うんじゃ、ただの精神論だ。それだけの「準備」と「具体的な目標」があったのか。それがオイラにはよくわからないんだよな。 安田さんには、きっとシリアの苦しんでいる人の現状を知らせたいという思いがあったんだろう。 だけど難しいのは、ジャーナリストはそういう社会的な意義だけで動いているわけではないということだよ。いいルポを書きたい、いい写真を撮って名を上げたいという功名心だってどこかにあるわけでね。自分が得るリターンも大きいのに、それをなかったことにして「ジャーナリストの使命だ」みたいな話になっちまうのも何だかおかしい気がするんだよな。 現実問題として、これだけ中東情勢が厳しくなっていると、個人レベルで取材をしていくのは難しいだろう。現地で取材をしたいんなら、フリーのジャーナリストが集まって、「国境なき記者団」みたいな感じで動くしかないんじゃないか。で、スタンドプレーをするんじゃなくて、全員で協力してルポや現地発のニュースを届ける。そのための環境作りを世界各国に働けかけるとか、そういうことこそが前向きな活動だよ。 まァ、これから見物なのは、安田さんがジャーナリストとして、3年間の監禁生活をどう報じていくかだな。これだけの経験をして、大したアウトプットをしないでダンマリを決め込むとしたら、そんなバカなことはないぜ。これからの動きで、この人の評価はいかようにも変わってくるよ。 一方でニッポン国内じゃ、若いヤツラが情けないバカをやって捕まっててさ。 <後略> |
(6)さて、私(藤森)の結論です。
冬山を登って遭難する人がいます。荒れている海や水泳禁止区域で泳いで溺れる人もいます。 富士山をハイヒールで登ってケガをする人がいます。スピード違反をして事故を起こす人もいます。無茶な冒険をする人、飲みすぎて、救急車が出動しなければならない事態もあります。スポーツでケガをする人も。 私たちの人生、本来、全ては「自己責任」です。「自己責任」ですべては行動するべきです。しかしその結果、その人の能力の限界を超えたり緊急性があったりして対応が困難になった場合は、公的機関が可能な限りの対応をすべきです。 プロ野球の試合は自己責任でやっているはずですが、大怪我をした場合、救急車が出動するはずです。キャンプファイヤーをしていて、林に燃え移ってしまった場合、自己責任であるにもかかわらず、消防署が全力で対応するはずです。 安田純平さんの行動も、当然ながら「自己責任」で行動すべきですが、こういう状況になれば、方法はともかく、政府は当然、「全力で救出することに取り組むべき」だと私は思いますがいかがでしょうか。 |
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