2020年6月15日第212回「今月の言葉」「ウィーケスト・リンクとは何か?⑬(日本の朱子学について⑩-②)」(weakest link)

(1)下記の、いろいろな「実例」をご覧ください。

 いかに日本の中に、日本の文化や人間性の中に、奥深く住み着いているかをご理解いただきたいと思っています。

(2)「激闘の日本史~アヘン戦争から戊辰戦争まで~幕末維新編」(井沢元彦氏、夕刊フジ、平成25年2月19日)

 <三章「黒船とは何だったのか」⑤>

 松平定信が林子平を処罰した理由。

 それは子平の著書である「海国兵談」の内容が誤りだと思ったからではない。

 地方の藩の医者の弟という分際で、こともあろうに天下の御政道を批判した事、それ自体が許せぬという理由なのである。

 これも実は朱子学の影響だ。朱子学では士農工商以外の身分、たとえば医者や重要では無い分野の職人を巫医百工(ふいひゃくこう)などと呼んで侮辱する。子平はその医者ですらない、今で言えばフリーターだ。そしてここが一番肝心なことだが、朱子学の影響で日本人は、人間を身分だけで判断するという悪癖に染まってしまったのである。

 江戸時代よりも前の安土桃山時代、たとえば織田信長は木下藤吉郎という身分の低い士の意見を「あの者は身分が低いから、意見を出す資格すらない」と退けたか?

 事実はまったく逆で藤吉郎がまだ足軽以下の小者であった時代から、その意見が正しいと思えばどしどし採用したではないか。

 確かに同じ戦国大名とはいえ、今川義元はそういう事はしなかっただろう。しかし信長は人間の身分あるいは外見で人物を判断するなどということは、決してしなかった。醜いサルのような男が言う意見でも、それが正しいと確信すれば、当たり前のように採用した。そして信長の薫陶を受けて天下を取った藤吉郎いや豊臣秀吉も、桶作りの職人修行をしていた福島正則を堂々たる武将に育て上げ、寺の小坊主だった石田三成を天下の財政担当に抜擢した。

 <人間を身分だけで判断する悪癖>

 だが幕府の政策によって朱子学の毒が日本中に広まった結果、日本人はこういう能力を失ってしまった。特に定信のようなガチガチの朱子学徒はまず「こいつの身分は?」という目で人間を見る。そして身分が低いと判断すれば、どんな優れた意見であっても決して受け付けない。

 いや正確に言えば、「身分の低い人間が優れた意見など言うはずがないと決めつけてしまう」ということなのである。これが朱子学の生み出す最大の偏見の一つだ。

 「昔の人はバカだなぁ」なんて思ってないでしょうね?

 東大卒だから当たり前のように他の大学卒より優れていると考えるのも、実は朱子学のもたらした偏見が今も尾を引いているのである。朱子学体制というのは試験によって人間を選別する。合格した人間は利口で落第した人間はバカだ。

 最初からそのように決め付けるから、本当の意味で人の意見を判断する能力を失ってしまう。確かにハーバード大学を卒業するのは大変なことかもしれない。しかしアメリカにはハーバード大卒だからといって無条件にその人間を優秀だと思い込む人は、少なくともまともなビジネスマンにはいない。そして木下藤吉郎のような人間がトップに登りつめる余地は、ちゃんと残されている。

 しかし戦前の帝国陸軍では木下藤吉郎は大将になれない。理由は簡単で、藤吉郎は陸大を出ていないからだ。おわかりだろう。これも朱子学の悪影響なのである。

 老中松平定信にとって、幕府に貿易という商売をさせようとした田沼意次は極悪人であった。その極悪人が派遣した蝦夷地探検隊が意次の失脚後、江戸に帰ってきた。当然彼等は役人の義務として報告書をまとめて提出した。

 それは幕府にとっても貴重な資料のはずである。しかし定信はそんなものは必要ないと破棄してしまったのである。いかにメンバーが気に食わないとは言え、調査は公的費用で行われた公務である。そしてそれは老中だからといって、ドブに捨てさせていいものでもない。貴重な公的財産ではないか。それを定信はやったのである。

 再び言う。どうしてこんな男が名君と言えるのか!

 そしてそんな定信をあざ笑うように、ロシアの使節が通商を求めて蝦夷地の箱館(函館)に現れた。

(3)麻生財務相は、今まで、下記(4)の<<財務省と見解の近い経済学教授>>たちの考えを強く持っている政治家でした。

 それがどうしたことか、下記の田村秀夫氏が驚くほど、思想信条を大きく変えました。<<財務省と見解の近い経済学教授>>たちは日本式、朱子学徒的な日本のエリートです。

 麻生財務相は、学習院大学の学生時代にロールスロイスを乗り回すほどのエリートですが、どういう訳か、考えを変えたようです。

 私・藤森は経済のことは全く分かりません。ただ、下記の田村氏や元内閣参事官・嘉悦大学教授の高橋洋一氏たちが書いていらっしゃるものを拝読していると、財務省や<<財務省と見解の近い経済学教授>>たちの見解は間違っていると強く思っています。

 平成の31年間で日本の経済力がどれだけ落ちているか、増税するたびに経済力が落ちている「デフレ経済」を推進してきたことが明確であるにもかかわらず、朱子学徒的な分野の専門家は、相も変わらず、同じことを言っていることに驚きます。

 そういう中で、麻生財務相が主義・主張を変えたであろうことに驚きです。財務相ですから、素晴らしい経済政策を実行できる立場にあります。

 日本的・朱子学徒的な超エリートの財務官僚に取り囲まれている麻生財務相ですが、彼らに立ち向かって、日本が発展できる令和時代の礎を構築してくださることを期待したいです。

<<<「金利が上がるぞ、上がるぞと言ってオオカミ少年みたいなことをやっているわけだよね」「今のうちにさっさとそれを最大限に活用してやっていかなければ、経済対策、財政政策を考えなければいけないということだと思いますね」。麻生氏はどうやらコロナ・ショックで目覚め、正論に立ち返ったようだ。>>>

 下記をじっくりとご覧ください。

(4)「『お金』は知っている」(田村秀男氏・産経新聞特別記者、夕刊フジ、6月5日

 <麻生財務相はコロナショックで正論に目覚めたか>

 5月28日付朝日新聞朝刊の解説記事は、コロナ恐慌対策のための大型補正予算を「打ち出の小づち」と揶揄し、「国債市場などで日本への信認が揺らぎかねない」と断じた。メディア各紙をじっくりみると同種の財政出動警戒論が頻繁に掲載されている。

 5月30日付日本経済新聞朝刊の土井丈朗慶応大学教授の「経済論壇から」の見出しは「公的債務の膨張に警鐘」で、財務省と見解の近い経済学教授たちの論考をまとめていた。

 それによると、学習院大学教授の伊藤元重氏は「コロナ後に世界の景気が急回復していく中で民間部門の資金需要が拡大していけば、長期金利が上昇する要因となりうる」、東京大学名誉教授の岩井克人氏は「人々の間でお金がジャブジャブ広がれば、貨幣に対する信頼が失われて流動性が崩れ、ハイパーインフレーションが起きる可能性も否定できない」、立正大学教授の池尾和人氏は「生産回復に先行した需要刺激策は、特定品目の物価上昇を招きかねず当面不要」と論じている。

 伊藤、岩井両氏は国債発行の膨張の結果、国債暴落や悪性インフレ・リスクが高まるとみなし、池尾氏は家計への現金給付や消費税減税は不要と言わんばかりである。

 朝日も日経も学者たちも財政均衡主義で共通している。財務官僚はこれからも同様のキャンペーンを期待していることだろう。

 肝心の麻生太郎財務相は以上の言説に影響されているのだろうかと思って、最近の記者会見をチェックすると、さにあらず。5月29日には「経済が活性化しないと財政の改善もできない。増税に頼るのではなく景気回復によって税収を伸ばすことを目指すのが第一だと思う」と、まるで拙論の以前から主張と同じである。

 5月12日には、記者から「国の借金が過去最大で、さらにどんどん膨らんでいくことによって日本の財政への信頼というのが損なわれてしまうのではないか」と聞かれると、国債発行残高が膨らんでいるのに、国債がどんどん買われて金利が下がっているという現実を取り上げ、「金利が上がるぞ、上がるぞと言ってオオカミ少年みたいなことをやっているわけだよね」「今のうちにさっさとそれを最大限に活用してやっていかなければ、経済対策、財政政策を考えなければいけないということだと思いますね」。麻生氏はどうやらコロナ・ショックで目覚め、正論に立ち返ったようだ。

 麻生氏は「国債が増えても、借金が増えても金利が上がらないというのは普通私たちが習った経済学ではついていかないんだね」と述べている(藤森注・グラフは省略)

 拙論の答えは簡単で、財務省の緊縮財政と消費税増税のためにモノの需要が萎縮する慢性デフレに陥り、国債に代表されるカネの価値がモノに対して上がっているためだ。この不都合な真実を認めたくない財務官僚や学者はひたすらオオカミ少年を演じ、世を惑わす。大学教授方、麻生氏の設問にきちんと答えたらどうか。

(5)「『日本』の解き方」(高橋洋一氏、夕刊フジ、6月11日)

<消費の落ち込みは当面続><安倍政権は消費増税一時停止を><いまこそドイツを見習うべきときだ>

 <略>

 消費は国内総生産(GDP)の過半を占めるので、このような消費減退は、GDP成長率にも悪影響である。

 もともと昨年10月からの消費増税により消費が弱含んでいたのが根本原因であるので、少なくとも昨年の増税分は一時的に止めるべきだ。さらには安倍晋三政権によって引き上げられた14年4月の消費増税分も含めて一時的に停止したらいい。

 財務省周辺は「緊縮財政のドイツを見習うべきだ」と言ってきたが、そのドイツでさえ、今年7月から12月までの期間限定で、付加価値税の税率を19%から16%へ引き下げる消費減税を行う。

 今こそ、これを見習うべきだ。定額給付金と異なり、すぐに実施でき効果が出る政策だ。<元内閣参事官・嘉悦大学教授>