2017年4月10日 第124回「トピックス」
「死の商人」の覚悟は

●(1)2017年4月7日、東京新聞「視点」

 <「死の商人」の覚悟は>

 手や足をなくした自衛隊員が日本の空港のあちこちにいる。想像したくない光景を「耐えられますか」と私に問いかけたのは、武器を製造する欧米系の多国籍企業幹部、Aさんだった。

 2014年4月、武器の原則禁輸を閣議決定で解禁してから3年。取材で出会った彼らの証言は、日本の立ち位置を外からの視点で確認する上でも貴重だった。
 世界の武器市場を飛び回る日本人のAさんが実際にその光景を目の当たりにしたのは米国だった。

 「イラク戦争後、ある空港で傷病兵たちの帰還に出くわした。片腕片足をなくした兵士らであふれ、負傷した女性兵士もいた。ショッキングだった。戦争に関わることの現実をまざまざと見せつけられた」

 米国民が、戦争の悲惨な代償を受け入れるのはなぜか。答えてくれたのは、別の欧米系武器製造企業で幹部を務める日本人のSさんだった。
「わが社の米国の社員は自宅で星条旗と自社の旗を一緒に掲げます。武器企業もある種の尊敬の念を持たれ、社員にも誇りがある。自由な世界を守るんだというメンタリティー(精神性)が国民に根付いていて、そのために戦う軍人さんたちが優位に立てる武器をつくるんだという意識なんです」

 武器をを製造する日本企業はどうか。国内の企業を何社も取材した。共通するのは暗に漂う「後ろめたさ」だった。太平洋戦争を経て、この70年余り、いくつもの戦争を経験した米国と、武力をもって他国と関わることを徹底して避けてきた日本。両国の違いが、それぞれの企業にも反映されているように感じる。

 自分たちの価値観を守り、広めるためなら、痛ましい兵士の現実も受け入れるし、より殺傷力の高い武器もつくり、売りもする。米国民に根付く、そのような覚悟が、果たして日本の人々にあるのだろうか。

 Sさんは、私の戸惑いを見透かしたかのように、話を武器輸出に戻した。
 「いいとこ取りはできないと思う。(オーストラリアに輸出しようとした)潜水艦だって魚雷を撃つしね。やるなら全部、批判を覚悟でやらないと」。「死の商人」と呼ばれて恥じない覚悟が企業にも国民にもあるのか、ということだ。

 「本当に、中東のような場所に武器を売りに行くの?どういう国になるのかも整理されずに、どう売っていくかの手法論ばかり語られている。最終的に、誰が責任を取るのか、ということも、なんだかあいまいだしね」

 もうかりさえすればいいのか、とも聞こえる指摘に返す言葉がなかった。

<文責:藤森弘司>

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