2016年8月24日 第119回「トピックス」
果たして「日露」は動くのか?!

 9月2日、(2)を追加しました

●(1)平成28年8月23日、夕刊フジ「歳川隆雄の永田町・霞が関インサイド」

 <大統領府長官に新世代の側近・日露は動く

 少し前のことだが、産経新聞(8月13日朝刊)に「露大統領府長官にワイノ氏=元在日日本大使館員、『新世代の側近』抜擢」という記事が掲載された。
 同紙モスクワ特派員の送稿記事の末尾に、恐らく本社デスクが書き加えたであろう、以下の件が正鵠を射たものである。

 「日本政府関係者は、『大統領府が中心となって北方領土交渉に臨んでくる』と〝知日派”のワイノ氏の長官就任を前向きにとらえていることを明らかにした」
その通りである。筆者は、実は4年前の当コラム2月20日号に「ロシア対日政策のカギを握るワイノ官房長官」を書いている。

 大統領府(クレムリン)の新長官アントン・ワイノ氏(44)は、モスクワ関係大学(日本専攻)卒業後、外務省に入省。在日ロシア大使館勤務などを経て、大統領府儀典第1課長、首相府儀典長官、同官房長官、大統領府副長官を歴任し、8月12日付で長官に抜擢された。

 前任者のセイゲイ・イワノフ氏は、プーチン大統領と同じ旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で、最側近とされた人物。
 イワノフ氏解任の理由は3つある。①リオデジャネイロ五輪前に発覚したドーピング問題で側近の誰かに責任を取らせる必要があった②プーチン氏周辺の旧KGB出身者と、実務能力のある官僚との権力抗争③息子がいないプーチン氏が、ワイノ氏を実の息子のようにかわいがっている・・・が挙げられる。

 ロシアは2年後の2018年春に大統領選挙が予定されており、この9月には下院選挙が実施される。
 プーチン氏が再選を目指すのか、それとも自身は立候補せずに院政を敷く積りなのか、現時点では不透明である。

 ただ、今回の人事でハッキリしたのは、ワイノ氏が「ポスト・プーチン」が有力視されるセルゲイ・ショイグ国防相(61)の後継候補に躍り出たということだ。
 そのワイノ氏が、日本で言えば、内閣官房長官に相当する大統領府長官に就任したのである。

 まさに産経新聞が指摘したように、安倍晋三首相が9月2日からウラジオストクを訪れてプーチン氏と会談する前に、クレムリンからシグナルが発信されたのだ。
 これを受けて、安倍首相は日露首脳会談で、対露経済協力の目玉として、ロシア人の平均寿命向上のための総合的かつ、具体的な案件をプーチン氏に提示する。好感しないはずがない。日露は動く
 <ジャーナリスト>

●(2)平成28年9月2日、東京新聞「本音のコラム」(佐藤優・作家、元外務省主任分析官)

 <プーチン大統領訪日>

 今日、ロシア極東のウラジオストクで安倍晋三首相とプーチン大統領の会談が行われる。この会談の目標は年内のプーチン訪日についての合意であるが、これはすでに達成されているようだ。なぜなら、8月30日にロシアのウシャコフ大統領補佐官(国際問題担当)が、プーチン大統領が12月に日本を訪問すると発表したからだ。ウシャコフ補佐官は、<訪日日程については合意に達しており、日本側の同意を得て発表されると説明した。またロシアは日本と平和条約締結に向けた交渉を続ける用意があると述べた>

 歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の帰属に関する問題を解決して平和条約を締結することについては、プーチン大統領も2001年3月のイルクーツク声明で明示的に合意している。従って、12月に山口県において行われることになるであろう安倍・プーチン会談で北方領土問題について話し合われることは確実だ。

 プーチン大統領としては歯舞群島・色丹島を日本に引き渡すことについては覚悟ができている。しかし、国後島、択捉島についてはロシア領であり、日本に返還する必要はないという立場を貫くであろう。日本側としては本質的な妥協をせざるを得なくなる。どのような腹案が日本政府にあるのかが全く見えてこない。

<文責:藤森弘司>

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