2015年1月1日 第109回「トピックス」
チョコレート募金とは?

●(1)平成26年12月26日、週刊ポスト「ジタバタしない」鎌田實著

少し前にも取り上げたが、スンニ派の過激派集団「イスラム国」の脅威は、日々増すばかりだ。連日、僕のところへもイラクのアルビルから悲痛な報告が送られてくる。アルビルには僕が代表を務める
 JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)のイラク側の拠点があるのだが、恐怖の暴力集団であるイスラム国がアメーバ状に侵略を展開し、病気の子どもたちにまで危険が及んでいる。脳腫瘍で11歳のアーサーくんは、イスラム国の過激派に追われ、各地を転々とするうちに病状が悪化。現在、意識不明になっている。
 同じく11歳で白血病のナブラスちゃんは、イスラム国の攻撃から逃れるために山中に身を隠した。食料どころか、ろくに水もない。 こんな悲惨な子どもたちが、命からがらアルビルに救いを求めてやってくる。JIM-NETでは、難民キャンプと病院で、薬の援助や医療支援を行なっているのだが、とても捌ききれない。
イラク戦争をきっかけにJIM-NETを立ち上げ、ちょうど10年の歳月が流れた。劣化ウラン弾という非人道的な兵器が原因で、小児がんが増えてくると予想され、先手を打ったのだ。当初は、戦争で傷ついた子どもたちを助ける活動を始めたが、イラク国内でのテロが多くて簡単には事は運ばなかった。隣国であるヨルダンのアンマンからイラクの4つの病院に薬を送ったりもした。

 1度はテロリストに襲撃され、薬を搭載していたトラックが爆破されたこともあった。

 あれから10年・・・・・。ようやく光が見え始めたかと思いきや、またもやアルビル周辺は戦地と化している。
 そもそもイスラム教徒の人口は約16億人で、全世界の20%を占めている。632年、マホメッドに始まり、彼の死後、後継者問題がこじれて、やがてスンニ派シーア派に分かれた。シーア派はイラン、イラク、レバノンなどを中心に分布し、全体の15%ほど。シリアのアサド政権はシーア派である。
 一方のスンニ派は85%で、圧倒的にスンニ派が多いのが現実だ。かつてイラクを掌握したフセインもスンニ派だった。

 2006年には、イラク・イスラム国が宣言され、彼らは勝手に国家を自称したものの、周辺国からは受け入れられず、イスラム世界の中で力を失っていた。
 そのまま衰退してくれれば良かったのだが、シリアのアサド政権に抗議する民主化運動が起き、反政府軍のひとつとしてイラクとシリアのイスラム国が勢力を持ち始める。さらに、権力の上にあぐらをかいて、やりたい放題のアサド政権に反対する勢力に、世界中が共感してしまった。

 その後はシリアの主だった地域と北イラクに侵攻した。金融機関を傘下に収め、油田まで制圧したばかりではなく、異教徒には人頭税を要求し始めた。一人当たり250ドル。貧しい人たちにとって、法外な金額だ。毎月、給料の半分をよこせと脅かされたイラク人もいると聞く。
 なかでもクルドのヤジディ教徒に対する弾圧は激しく、少女たちを連れ去ってイスラム国兵士たちの性の奴隷にしており、今や悪の象徴だ。最近ではイスラム国の矛先は、第一次世界大戦中に、イギリス、フランス、ロシアの間で締結された“サイクス・ピコ協定”にまで向かっている。

 オスマン帝国領の分割を約束した秘密協定で、現在の中東諸国の国境線の原型になったもの。植民地を奪い合っていた西洋諸国が決めた国境線など関係ない。イスラム国として立ち上がろうというのである。部分的には彼らの主張も分からないでもないが、実際のところ、過激なその破壊活動によって、全世界は彼らを問題視している。

  *

 11月の半ば、一人のイラク人青年と日本で会った。ムスタファ・イマッドくん、20歳。バクダッド出身。
 8歳のときにイラク戦争を体験している。その際、アメリカのヘリコプターの攻撃を受け、足に大けがを負った。その手術は12回にもおよび、今も彼の脚にはほとんど筋肉がない。長期のリハビリでなんとか歩くことはできるようになったが、就学できなかったので、今、ようやく高校に通っている。将来は航空技術者になるのが夢だという。

 僕は彼に「かつてイラクではスンニ派とシーア派は仲良しで、男女が好きになれば結婚していた時代もあったのではないか」と質問した。
 ムスタファくんは答えた。
 「スンニ派とシーア派は、イスラム教という大きな枠の中で

 仲良くしていました。僕自身はスンニ派ですが、僕の叔母はシーア派です」さらにムスタファくんは続ける。
 「今対立しているのは、スンニ派という名前を掲げている民兵のイスラム国と、シーア派という名を掲げる民兵同士です。若者だけではなくイラク人全員が思っていることだけど、イスラム国というのはテロリスト集団であってイスラム教徒なんかではない。イスラム教は人に親切にすること、優しくすることを説いています。人を脅かしたり、国を乗っ取ったりすることは経典にありません」イラクの子どもたちに義足を送る“希望の足プロジェクト”が始まったことは過去にも書いたが、今年も12月1日から“2015年

 チョコ募金”がスタートした。
今度もまた、イラクの白血病やがんの子どもたちがチョコの缶に“いのちの花”を描いてくれた。1缶に10枚のチョコレートが入り、4缶セット2000円。北海道の六花亭が原価で提供してくれ、今年は16万個用意している。このチョコの売り上げでイラクの子どもたち、シリアの難民、福島の子どもたちを助けていく。16万個を売り上げるのはとても大変で、多くの支援が必要な状況だが、クリスマスのプレゼント、香典返し、結婚式の引き出物などにも使ってくれる人が増えた。

 それでもやっぱり、最大の需要はバレンタインデーの義理チョコである。このチョコの応援で、イラクの若者たちがイスラム国に洗脳されないように、愛の手を差し伸べていくことが大事である。
 イスラム国の侵攻で疲れている人々が少しでも元気に新年が迎えられるといい。みなさんも、どうか応援して下さい。

 <鎌田實氏・・・1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『大・大往生』『1%の力』など・・・チョコ募金の申し込み先・JIM-NET事務局、℡03-3209-0051 ホームページは http://jim-net.org/

<文責:藤森弘司>

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