2013年3月15日 第90回「トピックス」
「TPP」についての一考察

●(1)<トピックス、第58回「TPP」についての一考察①><第59回「TPP」についての一考察②>に続いての「TPP」第3弾です。

 「TPP」参加で一番怖い部分、第58回の中の下記の部分を再録します。

<<<(7)平成23年11月19日、夕刊フジ<「TPP」「ISD条項」知られざる恐怖>

 野田佳彦首相が前のめりになっているTPPで、「ISD条項」のリスクが注目され始めている。外資企業が「規制によって不利益を受けた」として各国政府を仲裁機関に訴えることができる制度なのだが、海外ではすでに政府側が米国企業に多額の賠償金を支払わされたり、国内の制度を変えざるを得ないケースも出ている。専門家は「毒まんじゅう」「訴訟地獄必死」などと警告している。

 「訴訟大国・米国相手にISD条項を認めるのは狂気だ。賠償金をむしり取ったり、自社が儲かるように制度を変えさせる手段として使うだろう。参加表明国で、米国に次ぐGDP2位の日本は最大の標的だ」
 TPPに詳しい京都大学大学院の中野剛志准教授はこう話した。
 「ISD」は、「Investor-State Dispute」の略で、「投資家と国家間の紛争」という意味。実際に訴訟となれば、仲裁機関が審理を行なう。何が問題なのか。

 11日の参院予算委員会で、ISD条項を取り上げた自民党の佐藤ゆかり参院議員は「(相手国側には)2度おいしい毒まんじゅう」といい、こう解説する。
 「条約なので、ISD条項が国内法よりも上位になる。国内の司法機関が関わる余地はなく、国連の仲裁機関で審査され、決定に不服があっても覆らない。一審で確定する。従わなければ制裁を受ける可能性がある」
 治外法権といえる制度だ。佐藤氏は続ける。

 「例えば、日本の資源である水。地方自治体が安全保障面からも水源近くの土地を守る規制をしても、海外企業が『差別だ』と訴える可能性がある。最終的にはISD条項に従って、国内法を曲げるしかなくなる」
 ISD条項が盛り込まれたNAFTA(北米自由貿易協定)では、米企業が各国を訴えて賠償金を勝ち取った例が続出している。

 <「訴訟地獄」に国内法曲げる事態も>

 1998年、カナダのケースでは、州政府がガソリンへの神経性物質混入を禁止していたのを米企業に訴えられ、1000万円相当の賠償金を取られた。実はこの物質は、米国の多くの州で禁止されていたという。
 中野氏は「エコカー減税のせいで米国産の車が売れない、国民皆保険制度のせいで民間の保険商品が売れない・・・など。国の訴訟リスクは計り知れない」と指摘した。

 オーストラリアは、米豪FTAで、ISD条項を拒否。韓国も米国とのFTA締結にあたり「ISD条項を外せ」との議論が盛り上がっている。一方、野田首相は11日、佐藤氏の国会質問に対し、「ISD条項は寡聞にして詳しく知らなかった」と無知をさらけだした。
 佐藤氏は「(野田首相は)実績を挙げたくて焦っているようだが、外交オンチ極まりない。最低でも、ISD条項に反対する国内世論を盛り上げ、オーストラリアなどの反対派と連携していくべきだ」と話している。>>>

●(2)多分、「TPP」は参加になるのではないかと、私(藤森)は推測しています(3月15日に参加が決定)。

 尖閣諸島の問題が大きくなってきて、アメリカの軍事力に頼らざるを得ない現状では、「TPP」という貢物をせざるを得ないのでしょう。そういう観点から考えると、参加は止むを得ないのかもしれませんが、純粋に「TPP」問題を考えるならば、一般に考えられているような観点とは違う恐ろしさがあるように思われます。
 それは、上記(1)で述べたように、「ISD条項」という劇薬があることです。「毒薬条項」とも言われています。

 さらには、アメリカという国はなんでもありの国で、日本のようなお嬢さん的な外交は赤子の手をひねられるようなところがあります。
 世界の外交は、例えば、オリンピック種目で、レスリングが外されそうになったり、スキーのジャンプで、板の長さを身長に比例させたりするように、勝つためにはなんでもありと考えるのが妥当です。

 日本はルールの中で勝とうとするのに対して、欧米は、勝つためにルールを変えてしまう国です。そういう国家を相手に、日本はまともに戦えるのでしょうか?
 戦後2~30年の日本は、戦争体験がある政治家がいたので根性があったでしょうが、豊かな社会の中でノンビリ育った政治家には、世界のなんでもありの外交は、大人と子どもの戦いみたいな気がします。

 私(藤森)は、基本的には「TPP」参加は反対ですが、しかし、農業を始めとするいろいろな分野での大改革が必要であることは言うまでもありません。
 明治の大改革、戦後の大改革に次ぐ大改革が必要であることは当然のことです。それを「TPP」に参加して・・・・・戦後の占領政策の中でいろいろなことが改革されたように、「TPP」に参加して改革を唱える人が多いのですが、それはなんとも情けがありません。

 自らが大改革を断行するような根性が、今の日本には必要です。そういう大政治家が現れて、21世紀を引っ張って行って欲しいと夢見ます。

 例えば、アメリカのモンサントという会社から米や麦・野菜などの「種子」を買うと、害虫に強いけれど、その種子は一代限りで、毎年、モンサントから種子を買わなければならなくなります。
国民皆保険制度や医薬品、遺伝子組み換え食品など、日本の制度や文化がドンドン壊されてしまうように思われます。米や麦の生産量の違いとか、競争力がどうであるとかの問題以上に、制度や文化が根こそぎ壊されるような恐れを、私は感じます。

 しかし、強大化してきた中国との領土問題のような、国家の危機的状況があるために、「日米同盟」を強化し、防衛力をさらに高めるために、「TPP」という貢物は止むを得ないのかもしれません。

 ある情報によりますと、今年の1月19日午前、早期空中警戒機(AWACS「空飛ぶ管制塔」)が、人民解放軍戦闘機の監視を強めるために尖閣諸島に姿を現した。
 すると、「南京軍区空軍部隊」所属のJ-10戦闘機2機が接近。執拗に追尾する緊迫した場面が続き、那覇空港から航空自衛隊F-15がスクランブル。それに対して、人民解放軍は380キロ離れた基地からJ-10戦闘機がスクランブル発進。日中の戦闘機が「一触即発」状況になったそうです。

 こういう緊迫した場面が多く発生しているようです。そうであれば、ここは「TPP」参加は止むを得ないのかもしれません。

 とにかく中国は空恐ろしい国です。上海の川に伝染病で死んだ豚が6000匹も流されてくる国ですから。伝染病で死んだ豚が6000匹も流れてくることを想像するだけで・・・・・いや、想像を絶する光景に、ただ、唖然とします。魚が6000匹ではありません。豚が6000匹です。
 尖閣諸島にも人海戦術で、しかも、歴史的背景も、理屈も何も抜きに、続々と脅しをかけてくる姿勢は空恐ろしくなります。アメリカに協力してもらう以外に方法が無いのかも知れません。

●(3)平成24年12月11日、夕刊フジ「本当の人生戦略(奥山真司)

 <自分に都合のよい環境を作る>

 <略>

 日本は鳩山政権のときの2009年、デンマークで開催されたCOP15で、会議の前から早々と「1990年比で25%削減」とかなり無理のある宣言をした。ある決まった枠組みの中で必死に頑張る優等生ぶりを発揮するのは、戦術レベルの考え方である。
 ところがイギリスやアメリカは無理なことは宣言せず、彼らはルールづくりの方に力を集中させた。日本よりはるかにユルい条件となる、自分たちに都合のよい環境を作ろうとした。これは戦略レベルの話だ。

 国際スポーツの例もある。同じ選手がスキーのジャンプとクロスカントリーを前半後半に分けて行なうノルディック複合で、日本は一時期、圧倒的な強さを誇っていた。荻原健司選手が前半のジャンプをV字で飛んでポイントを稼ぎ、後半のクロカンで逃げ切るという必勝パターンを確立。ワールドカップの個人総合で1992年から3連覇した。

 ところが日本勢の圧倒的な強さを警戒した国際スキー連盟は、その後にジャンプのポイントの比重を下げるルール改正を複数回行なった。日本勢は98年の長野五輪をはじめ、メダルから遠ざかることになってしまった。

 つまり圧倒的な「技術」を持っていた荻原選手のような日本人も、ルール改正という「戦略」には太刀打ちできなかった。
 日本は確かにルールを決めてもらい、与えられた枠組みなどの「環境」の中で頑張るのは得意だ。が、「環境」そのものを自分に都合よく変えるという発想がなく、致命傷となっている。つまり、目の前のバトル(戦術)に勝とうとするばかりに、それよりも高いレベルのルールづくり(戦略)に目が向かない。

 ではどうすればいいのか。逆説的かもしれないが、日本は勝負で勝とうと思ってはいけない。むしろ「自分の都合のよい場」をつくって相手(そして自分自身も)をコントロールすることを心がけるべきなのだ。
 この視点を理解できたときに、日本人は本当の「戦略思考」をはじめて手に入れたといえる。

 <おくやま・まさし・・・・・1972年生まれ。戦略学博士(PhD)。専門は地政学と戦略論。ブリティッシュ・コロンビア大(カナダ卒)。英レディング大学院で戦略学の第一人者、コリン・グレイ教授(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。『世界を変えたいのなら一度“武器”を捨ててしまおう』(フォレスト出版)など著書、訳書多数。ブログ「地政学を英国で学んだ」で日々情報を発信中>

●(4)平成25年3月6日、日刊ゲンダイ「リークされたTPP草案・売国の中身

 <ヤバイのはコメだけじゃない!>

 TPP参加に突っ走る安倍政権への批判が噴出しているが、新たにとんでもない事実が判明した。米国と参加国の“秘密交渉”で詰められていた「TPP草案」が外部に流出し、そのデタラメ実態が白日の下にさらされたのだ。

 <米告発番組が物議>

 問題のTPP草案は、米市民団体「パブリック・シチズン」がリーク情報をもとに告発したもの。米独立系放送局「デモクラシー・ナウ」の番組上で暴露された。その内容には驚きを通り越して、背筋が寒くなる。

 告発によると、草案は全26章から成るが、日本で議論になっているコメなど貿易関連のテーマはわずか2章のみ。残りは、いかにして米国企業に強大な権限を与え、各国の権限を奪い取るかに割かれているという。

 市民団体のロリ・ウォラック氏は、<TPPは1%が大多数の人々の生存権を奪うツールだ>とこう告発している。

 <TPPは表向きは貿易協定ですが、実質は企業による“世界統治”です><各国が国内法や司法を使って権利を守ろうとしても、企業は別建ての司法制度を持ち、お抱えの弁護士たちがインチキ国際法廷に加盟国の政府を引きずり出し、無制限の賠償を命ずる><地域産業の優先を禁じ、地産地消や国産品の愛好は許されない。環境や人権に配慮する商品も提訴されかねません>

 米企業は医薬品や種子の独占権を強化し、薬価をつり上げるため、後発医薬品(ジェネリック薬品)の販売を阻止する案も画策。各国の金融規制を緩和し、高リスク金融商品を禁止できなくする、とも警告している。

 <「貿易自由化」は表向き、実質は米企業の“世界支配”>

 さらに、<600人の企業顧問に草案へのアクセス権を与えながら、米上院貿易委員会も蚊帳の外。貿易協定という名の『企業の権利章典』の中身は見られない>とも指摘。徹底した秘密交渉に加え、<交渉内容は、締結後4年間は非公開という密約もあった>というからムチャクチャだ。

 15分間の告発番組には、米テキサス企業協会の関係者がパーティーでスピーチをしている映像が流される。その内容も仰天で、「TPPは市民の意見におかまいなく、企業利益を最大にするものだ」と大ハシャギしているのである。

 安倍は、こんなインチキ協定にノコノコと参加しようとしているのだ。元外交官で評論家の天木直人氏がこう言う。
 「このリーク情報は昨年の大統領選のときに公表されたものですが、これまで一切報道されてこなかった。参加国の国民に知れたら、ただでさえ交渉が難航しているTPPはますます糾弾される。

 だからオバマ政権が隠蔽し、米国民をもダマし続けてきたのです。日本は交渉のテーブルに着いたが最後、あらゆる市場を開放させられ、経済は崩壊し、国民の食も健康も米国に支配されてしまうでしょう。逆らえば、米企業が法外な賠償金を求めて訴えてくる。国はひとたまりもありません。
 当然、日本政府と役人はすべてを知っているはずですが、日米安保条約の密約と同じでヒタ隠しにしているのです」

●(5)平成25年3月8日、日刊ゲンダイ「TPP参加、悲観論」

 <韓国の愚かさを真似するのか・喜劇的な安倍政権>

 安倍首相は来週13日にもTPP参加を正式表明する。農業などは「聖域にできる」とし、反対世論を封じ込めるつもりだろうが、その結果、この国はどうなるのか。一番のお手本は「TPPのひな型」(米通商代表部)とされる「米韓FTA(韓米FTA)」を締結した韓国だ。

 今や、米国の経済的植民地と化しただけではない。独立国家の立法権(権限)すら侵害され、さながら統治領である。
 韓国は二酸化炭素の排出量が少ない車の購入には補助金を出し、逆に排出量が多い車には負担金をかける制度を導入すべく、法整備を準備していた。

 ところが、これに米国がクレームをつけた。「米国大型車の輸入を阻む非関税障壁でFTA違反」というのである。そのため、法案は成立していたのに導入は延期となったのだ。

 「独立的検討機構」なる組織もできた。ここが国民健康保険適用の医薬品の採択や価格決定の再審査を行なおうとしている。機構にはもちろん、米国関係者が居て、「米製薬会社が儲けるための拠点」なんて言われている。米韓FTAの専門家のソン・ギホ弁護士はこう話す。

 「韓国はジェネリック薬品の依存度が高い。ところが、機構の横ヤリで、外資系製薬会社の高価な薬の比率が増えると、健康保険制度が崩壊する恐れがあります。こうした事態を避けようと韓国政府は、独立的検討機構の権限の解釈をめぐって論争をしています」

 遺伝子組み換え食品の表示にも米国は噛み付いている。「学校給食への遺伝子組み換え食品禁止」を明記したソウル市の条例も撤廃される懸念が浮上している。

 それやこれやで、米韓FTA履行のために、締結から1年間で改正をすることになった韓国の法律は63にも及ぶのだ。分野は自動車・保険・医薬品・税法・著作権など多岐にわたり、今後もさらに多くの法令変更が必要になるとみられている。米国と同じルールを押し付けられ、独自の法律や条例が認められなくなり、その解釈をめぐって論争になると訴訟に発展する。一体、誰のための関税撤廃なのか。韓国の愚かさは、もはや、喜劇的レベルなのだが、日本も同じ道を歩もうとしている。

●(6)平成25年3月7日、東京新聞「後発国 再交渉できず」

 <TPP 日本に不利な極秘条件

 環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加問題で、2011年11月に後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた9カ国から「交渉を打ち切る権利は9カ国のみにある」「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた。複数の外交関係筋への取材で7日分かった。

 <打ち切る権限も先発国>

 各国は今年中の交渉妥結を目指しており、日本が後れて参加した場合もカナダなどと同様に交渉権を著しく制限される可能性がある。

 関係筋によると、カナダ、メキシコ両政府は交渉条件をのんだ念書(レター)を極秘扱いしている。カナダなどが交渉終結権を手放したことによって、新たなルールづくりの協議で先発9カ国が交渉をまとめようとした際に、新規参加国側は拒否権を持てなくなる。

 交渉参加に前向きな安倍首相は、「『聖域なき関税撤廃』が前提ではないことが明確になった」と繰り返している。カナダとメキシコが突きつけられた厳しい条件を国民に明らかにしていない。日本がこうした条件をのんで参加した場合、「聖域」の確保が保証されない懸念が生じる。

 カナダ、メキシコも一部の農産品を関税で守りたい立場で、日本と置かれた状況は似ている。国内農家の反対を押し切り、対等な交渉権を手放してまでTPPの交渉参加に踏み切ったのは、貿易相手国として魅力的な日本の参加とアジア市場の開拓を見据えているからとみられる。

 TPPは、関税の撤廃や削減、知的財産の保護など21分野でのルール作りを協議している。そのうちすでに8分野で合意に近づいているとの見方があり、カナダなどと同様の条件を課されて交渉参加した場合、日本がルール作りに関与する余地はない。

 TPPは06年、「P4」と呼ばれたシンガポールとニュージーランド、チリ、ブルネイによる4カ国の経済連携協定(EPA)でスタート。10年に米国などが加わって9カ国に拡大した。
 この9カ国が「最恵国待遇」を受けられるよう、新しい交渉参加国を不利な立場の扱いにしたとみられる。

<文責:藤森弘司>

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