2012年3月31日 第66回「トピックス」
野田佳彦総理大臣についての一考察

●(1)野田総理大臣は民主党の代表選で、「消費税アップを謳って選ばれたのだから、党員であれば、それに従うのは義務である」という意見があります。

 これは「正論」です。これに間違いはありません。しかし、これを正論とするならば、衆院選で掲げた民主党のマニフェストはどうなったのであろうか。民主党の内部の約束事よりも、選挙で国民に約束したことの方が遥かに重いはずです。マニフェストに掲げた約束事は、いとも簡単・・・・・というよりも、平気で破りながら、今の政権が「正論」を説くのは笑止千万です。もちろん、いくら頑張っても達成が困難なことはあります。さらには、社会情勢が激変して、取り組むことが困難なこともあります。しかし、菅政権も野田政権も、まったく取り組む気配が無い重大な問題がいくつもあるにも関わらず、マニフェストに書いていない「消費税の増税」に「不退転の決意」で取り組んでいます。

 前原元大臣が、「政権交代」して熱狂的な中、就任記者会見で、堂々と、八ツ場ダムの建設を中止すると発表しました。どちらが良いのか私(藤森)にはわかりませんが、記者会見で堂々と述べたことくらいは守れよと言いたい。

●(2)消費税の増税派は、「ツケを後世に回すな」と言います。全く以って「正論」です。驚くほどの「正論」です。

 民主党は、予算のムダをチェックすれば、16兆円くらいは出てくると言ったのにどうしたと野党から必ず責められます。菅政権も野田政権も、出てこないから「増税」せざるを得ないと言います。

 本当にそうでしょうか?そうではないでしょう。

 民主党は、本来、「予算の組み換え」や「公務員改革」「歳入庁の創設」「特別会計見直し」などを訴えていたはずです。今回、国家公務員の給与を平均7・8%引き下げることになり、これをもって「公務員改革」を進めたような態度を取っています。しかし、これは本来の「公務員改革」でも「増税」のための改革でもありません。

 東北大震災の援助のためであって、これをここまで遅らせたのは、「増税」のための「改革」と見せかけるために、わざと増税論議が盛んになるこの時期まで遅らせたのです。しかも、わずか2年の時限立法です。「増税論議」と全く関係ない問題さえも増税のための改革のように喧伝する嫌らしさには恐れいります。

 「国家公務員56万人の給与・手当の総額は約3・8兆円。そこから、約6000億円を捻出して、震災復興資金に回すというもの。しかし、たった2年の時限立法。さらに、234万人、予算規模も21兆円と膨大な地方公務員の給与には手つかずのままだ」(自民党中堅議員)(夕刊フジ、3月24日、鈴木哲夫の永田町核心リポート)

●(3)実は「予算の組み換え」に少しでも手を入れさせることは、官僚の存在価値を損ねる大問題なのです。

 逆に言いますと、予算の根本を握っていることが「財務省」を始めとする「官僚」の力の源泉であるはずです。各省の大臣をコントロールすることはいとも簡単なこと。
 一つには、官僚や省庁に対して従順な大臣や、権益に手をつけない大臣は「可愛いヤツ」ということで、大臣の地元に橋を造ったり、公共の建物を造ってあげますよと耳打ちして手なずける・・・・・思い通りの大臣・・・・・つまり、操り人形的な大臣に仕立てるのでしょう。

 少々生意気な大臣には、大臣の苦手な専門用語などの情報を野党に流し、国会で吊るし上げさせる。菅直人元財務大臣はこれで一発で降参したようです。その時の国会でのやり取りを、私(藤森)は偶然みていました。まさかあれが官僚の手口だとは夢にも思っていませんでした。

 さらには、官僚にとって使い勝手のよい有力な議員を手なずけるためにも、「予算」を自由に組み立てる「利権」は、官僚にとって「最大級の権益」なのではないでしょうか。
 その権益を・・・・・つまり、予算の組み換えをしてムダを省いて、何兆円とか十何兆円もの資金を捻出するというのですから、官僚、特に財務省の「権力の源泉」をぶった切られることになります。

 恐らく、全省庁・・・・・警察も検察庁も裁判所も、国税庁も社保庁も・・・・・今、大問題になっている「AIJ」の乱脈、というよりも犯罪的な会社や、年金問題などの酷さ・・・・・そして、外務省も酷いものです。在外公館はやりたい放題です・・・・・中央省庁はもちろんのこと、考えられるありとあらゆる公共的な組織は、かなりメチャクチャ状態だと言っても過言ではないと思われます。

 「予算の組み換え」を容認したならば、これらが全て「白日の下」に曝け出されます。全省庁だけではありません。あらゆる省庁や、そこにぶら下がっているあらゆる組織を使って潰しにかかるでしょう。
 多くの国会議員が、メディアでいくら吼えても怖くありません。チョット耳打ちすれば、皆、静かになるし、何をどうしたら良いか、十分に分かっている政治力のある議員はほとんどいないので、勝手に吼えさせていればいいのです(松原大臣は、大臣になったら、増税反対意見はシャットアウトのようです)。

 しかし、小沢一郎氏だけは違います。菅元総理大臣との代表選でも「予算の組み換え」を公に訴えたし、それだけの実行力があるので、官僚側の総力を挙げて潰しに掛かったと考えることが妥当なはずです。
 私(藤森)のようなシロウト、雑学的な知識しか持ち合わせていない人間でさえ、このことが読めるようになりました。

●(4)とすれは、母屋でへそくりをつくり、特別会計に積み立てていたところまで手を突っ込むことは、彼らにとっては「生死」に関わるほど重要な問題ではないのでしょうか。
日本中に張り巡らせた情報網や日本の運営の主導権を死守するためには、彼らはなんでもやるでしょう。そういう世界が私にも見えてきました。

 考えてみてください。長期自民党政権の大長老の塩爺こと、塩川正十郎元財務大臣さえ、在任中に「母屋でお粥をすすっているのに、離れではすき焼きを食べている」と発言しました。つまり、全部わかっているのに、塩川氏ほどの大政治家が、その改革をしなかったのは、何故、なのだろうか。

 ここにヒントがあります。
 つまり、塩川大臣でさえ、このことを「公言」していたにも関わらず、手をつけられない巨大な問題であるということと、我々にとっては、塩川正十郎氏は大政治家だと思っていても、官僚の側からすると小さい政治家、つまり、何をホザこうが、手なずけていて、勝手に言わせておけばいいだけの存在と見られているということを意味していることになります。

 しかし、ここが重要です。
 小沢一郎氏だけは、遠吠えだけでなく、本当にやりそうな実行力のある政治家だ。こいつは叩き潰しておかないと大変だということで起きたのが、どうやら「陸山会事件」のように思えてきました。
 しかし、この事件も、石川知裕議員が、万一、隠し録音をとっていなかったならば、凄まじい事件になっていた可能性があります。
 「村木厚子氏の裁判」も、大阪地検の前田検事を始めとする若手検事がお粗末な捜査・取り調べをしたお陰で、これだけ酷い「冤罪事件」として表面化しましたが、もう少しで「完全犯罪」になるところでした。

 つまり、この2つの「冤罪事件」は、いかに「検察庁(オール官僚側)」の思惑で、事件をデッチ上げられるかということを証明しています。こういう事件に関心を持ってみていると、鳥肌が立つほどの空恐ろしいことに気付かされます。

 特に、戦前を考えると、これはもうムチャクチャであったはずです。現代の大政治家や中央の局長でさえこうなのですから、我々、一庶民は、一度狙われたら、ライオンの前のウサギみたいなものになるのでしょうね。どんなに抵抗しても、ただ「食われるだけ」になってしまう恐ろしさを感じます。

 「無実の罪」を着せて「死刑」にしたり、長期の「服役」をさせたり、「政治生命」を抹殺できる「人間性」は、私(藤森)のような「深層心理」を専門にしている人間にとって、どういう育ち(生い立ち)をしているのか、その生い立ちに非常に興味があります。

 もしかしたら、人間は、その立場になれば誰でもやれてしまうのだろうか?そして、私(藤森)がそういう権力の側になる能力が無かったことは「幸運」だったのだろうか?

●(5)平成24年3月24日、夕刊フジ「日本の解き方」(高橋洋一)

 <「3%成長」は不可能なのか、
98%の国では簡単にクリア、
お金を増やせば財政再建も>

 民主党政権は消費税増税法案を閣議決定しようとしている。党内の事前調査では、もっぱら景気悪化時に増税を停止できる「弾力条項」に議論があるようだ。
 増税慎重派は、条件として国内総生産(GDP)の成長率が「名目3%」を示しているようだが、執行部は数値基準を書かないという情勢だ。このほかにも、増税慎重派からは「実質2%」も示しているようだ。

 この数字は、きわめてまっとうだ。民主党の成長戦略でも、10年間平均で、「名目3%、実質2%」を目標としている。その目標を消費税増税の際にはなぜ採用できないのか、国民のだれも理解できないだろう。
 それは、現政権は今の状況でも何が何でも増税したいからだ。ちなみに、安住淳財務相は22日の衆院予算委員会で、現在の経済状況であれば消費税率を引き上げることは可能だとの認識を示している。その場で、1%の物価上昇率にいかないと消費税率引き上げをやってはいけないということではない、とも言っている。

 <藤森注・・・・・今まで私は、政治にほとんど興味や関心がありませんでした。ですから、安住財務相がこのように発言すれば、当然、それは安住大臣の意見だと思っていました。
しかし、雑学的ではありますが、少し興味を持ってみると、安住大臣は就任したときから驚くほどの
素人大臣ですし、これほど重要な意思表示は、胴元である財務省の考えであり、その意向通りに発言していることが、今やハッキリ認識できるようなりました。
というより(大変失礼な言い方ですが)、安住大臣にはこういう重要な発言をするだけの
個人的意見を持っていないでしょう。少なくても、そのように理解するほうが、状況妥当なはずです>

 「名目3%、実質2%」はそれほど厳しい条件だろうか。世界を見てみよう。データの入手可能な国152カ国で2000年から08年で名目成長率、実質成長率の平均をみると、名目3%以上の国は98%の149カ国、実質2%以上の国は85%の129カ国もある。
 名目3%以上を達成できなかったのは、日本、ドイツ、ミクロネシアだけだ。そのなかでも、日本はゼロ%と断トツのビリだ。

 世界では98%の国が名目3%をクリアしているのに、なぜ日本はダメなのか。それはカネを刷らないからだ。世界のデータをみると、マネー伸び率と名目GDP伸び率には7割程度の強い相関がある。年率10%マネーを増やすと、名目成長率は6%程度になる。
 2000年から08年でみると、日本のマネー増加率は世界でビリである。逆に、先月の日銀のインフレターゲット(インタゲ)ならぬ「“インメド”(インフレ目途)」で10兆円余計に刷るといっただけで、円安で株高になった。

 ここでは、世界のデータを扱う上で、マネーストック(市場に出回っているお金の量)のデータを用いたので、より根源的なマネタリーベース(中央銀行が供給するお金の量)ではどうかという疑問が出てくるかもしれない。
 実は、物価を高めるのはお金を増やすことで政府・中央銀行に発生する「通貨発行益」なので、マネーストックをマネタリーベースに置き直しても、本質的な議論は同じである。要するに、中央銀行が金を刷れば、マイルドなインフレになって名目成長率は高まる。

 実際、筆者は小泉・安倍政権でこの原理を活用して「増税なし」「歳出カット」を行い、プライマリー赤字を2001年の28兆円から07年に6兆円まで改善した実績がある。
 (元内閣参事官・嘉悦大教授)

●(6)もう、こういうことをいくら騒いでも、閣議は通り、法案は国会に提出されたようです。

 しかし、おかしいですね。今、総理大臣が「不退転の決意」で取り組むのは「東北大震災」の復興でしょう。どうやら「復興」が思うように進まないのは、「復興」を人質にして「増税」を目論んでいるからのようです。

 震災が一年を経過して、震災の特集がテレビで沢山ありました。当時は、状況もわからず、夢中でテレビを見ていましたが、改めて震災の番組を見てみると、それぞれの被災地で、想像を絶する困難や悲惨な中、東北の被災者の皆さんは本当によく頑張ってこられたことを痛感しました。

 ロクなことをしていない私(藤森)でも、涙なくして番組を見られませんでした。こういう悲惨な状況を目の当たりにして、そして、瓦礫が6%くらいしか撤去されていない現状を知り尽くしていながら、何をさておいても東北の復興を応援しようとしない「野田総理大臣」の神経が分かりません。

 むしろ、政治家として、さらには権力を行使できる「総理大臣」として、さらには、わずかでも「武士道精神」が魂の奥底に存在するならば、今こそ、渾身の力を振り絞って、政治家として「死に場所」ができた・・・・・表現は適切でありませんが、そういう政治家としての「根性」を発揮する最重要な場面だと、私(藤森)には思えるのですが。

 それが、よりによって、東北の復興を「人質」にとって、消費税の「増税」に悪用する根性は最悪です。

●(7)平成24年3月30日、夕刊フジ「田村秀男『お金』は知っている」

 <ソロス・チャートが示す円高是正の条件>

 <略>

 「デフレから脱し、インフレ率をプラスに定着させるためには、お札を継続的に増刷する『量的緩和(QE)』政策が欠かせない、というのが経済学上の常識と言ってよい。米連邦準備制度理事会(FRB)はリーマン・ショック後、2度にわけてQEを実施し、ドル札を危機前の3倍以上も刷り、その水準を維持している。一国のおカネの価値は国内ではモノとの交換額、つまり物価で、対外的には外国通貨との交換額、すなわち外国為替相場として表される。

 ということは、理論上の円の対ドル価値とは、ドル札の発行残高の比率と仮定してもおかしくない。現実の円・ドル相場は前述した内外の複雑な要因がからむので、理論値と一致するわけではないが、連動する傾向があるに違いない。そう読んだのは、ヘッジファンドの雄、ジョージ・ソロス氏で、彼は中央銀行の資金供給残高(マネタリー・ベース)の比率を計算して、為替レートを予想した。それは『ソロス・チャート』と呼ばれる。

  本紙でおなじみの、元財務官僚保守本流の高橋洋一嘉悦大学教授は、小泉政権時代、補佐する首相に向かって、ソロス・チャートを参考にして『金融政策次第で円高是正できますよ』と説明した。

首相は『そりゃいい、でも株は上がるか』と、いかにも政治家らしい返答が返ってきた。その通り、円安効果で株も上がる。(略)

 日銀は100兆円以上の規模で量的緩和しないと、1ドル90~100円の水準に戻せない計算になるが、現実の相場は市場の先行き予想で決まる。日銀が明確に、思い切った量的緩和政策をとると表明するだけでよいのだ。が、日銀首脳が代わらない限り無理だろう。」(産経新聞特別記者)

●(8)世の中は、本当に「正論」が通らないものですね、どんな分野も多分そうでしょう。
 そして、恐らく、極端なこと、「関東大震災」クラスでしょうか、そういう極端なことが無い限り(それも無理かもしれませんが)、「予算の組み替え」「公務員や特別会計」などの改革も、本格的に手を加えられるということが無いのかもしれません。3月31日のテレビ番組を見ますと、<NHKスペシャル>「日本新生インフラ危機、橋が、道路が、水道が、ガスが、壊れていく・・・私たちの暮らしを直撃、直すカネが無い」というのがありました。このような状態であり、かつ、「増税」を「不退転の決意」で望みながら、豪華な公務員宿舎一つもまともに整理できない軟弱さ。

 消費税がヨーロッパは15%だ20%だ、しかし、日本はわずか5%だと大マスコミ(記者クラブ会員)も、アリ塚に棲む学者・評論家たちも声高に喧伝するが、ヨーロッパでは、生活必需品は無税であったり、低く設定していて、それらを均(なら)すと日本とあまり変わらないそうです。

 今日(4月1日)の朝のテレビ番組でも、前原言うだけ番長誠司政調会長は、消費税増税のための「公務員改革」はもっと必要だ。「7・8%を2年だけでは不十分だ」とノタマワりました。
 冗談は止めてほしい。これは公務員改革とは一切関係がありません。東北大震災応援のための拠出金です。

 「予算の組み替え」にはほとんどまったく取り組まず、欧米には無いという「公務員宿舎」、しかも、豪華な宿舎をストップしたり、減らすこともできない。最近、パフォーマンス的に、一番弱い新人採用を減らすことを決めましたが、いかがなものでしょうか。

 塩爺も訴えた「特別会計」にどれだけ切り込んだのだろうか。
 もう中央省庁には日本を改革したり、再生する能力が無いのかも知れません。考えてみれば、政治や政策を知らない大臣を「介護」したり、「利権の確保」「天下り確保」の政策に血道を挙げていれば、日本を再生するような大胆かつ優れた「政策立案能力」が消滅するのは当然でしょう。

 最近の「AIJ投資顧問」が大問題になっていますが、「厚生年金基金」に天下った「旧社保庁」の役人は、資産運用経験が無い、とんでもない連中です。そういう天下りや利権集団が被害を大きくしています。

 財務省には、「金融政策」を本格的に立案できる役人がほとんどいない可能性があります。「金融政策」を本格的に研究して、常識的な政策を立案したり、提言する官僚は追放(?)されているのでしょう。「天下り」「利権」を確保するための「工夫」や「政策の立案」ができる官僚が局長や次官に出世していき、その省庁全体をそういう人間集団に作り上げてきていることがやっと私(藤森)にも分かってきました。

 経産省もそうです。「原発問題」を見れば、論じるまでもないでしょう。タバコの禁煙問題や幼稚園と保育園の統合などを見ていると厚労省も・・・・・全ての省庁は同様でしょう。「予算の組み替え」で力の源泉を弱め、「公務員改革」を成し遂げ、「特別会計」に踏み込めば、日本は大発展するはずですが、不可能に近いのかもしれません。
 農業も大発展する可能性があります。

●(9)平成24年3月9日、週刊ポスト「狙うは「罰金20万円」で政治生命を断った「金丸方式」か―――」

 <財務省・国税が極秘結成した「小沢一郎・調査班」>

 いくら政敵をを煽っても、特捜検察に期待しても、小沢の息の根を止められない。ならば、自らの手を汚しても葬り去ってやろう――。「反増税」「歳入庁創設」を訴える小沢一郎氏に対し、権力基盤を脅かされた霞が関の首魁・財務省が差し向けたのは、自前の暴力組織「国税」だった。

 <特捜OBも「小沢の政治力が増す」>

 ついに国家権力の中枢・財務省がなりふり構わず牙を剥き出しにした。
 2月17日、小沢一郎・民主党元代表の公判で東京地裁が検察の捜査報告書を不採用にした直後、本誌取材班は財務省中枢の不穏な動きをキャッチした。
 「財務省上層部が東京国税局の資料調査課に、密かに小沢一郎・調査班を発足させるように指示を出した」
 という情報だ。

 資料調査課は通称「料調(リョウチョウ)」と呼ばれ、マルサ(捜査部)と並んで税務調査に熟練した精鋭部隊。1件の調査に何十人もの調査官を集中的に投入して複雑な資金の流れを短期間で解明する能力を持ち、東京地検特捜部も汚職事件の捜査などで非公式に協力を求めることで知られる。
 小沢氏にかわる事件で「料調」の名前が出るのは今回が初めてではない。

 2年前の1月、特捜部が小沢氏の事務所を強制捜査した際、押収した資料の分析に資料調査課が協力したとされる。その直後には、小沢夫人の実家にあたる新潟の中堅ゼネコン「福田組」が関東信越国税局の税務調査を受けて約5億円の申告漏れで追徴課税されていたことも発覚。検察と国税の連携プレーをうかがわせた。

 財務省にとって税務調査権を持つ国税庁は権力基盤を支える重要な「暴力装置」であり、これまでも政治家や企業、メディアに睨みを利かせてきた。「料調」が集めた有力政治家の資産、収入、関係会社の税務内容などの「極秘ファイル」は東京国税局の総務課に保管され、政局がこじれた時、財務省の政策に反対する政治家への恫喝懐柔に利用されてきた――というのが日本の知られざる政界裏面史である。

 国税局関係者は小沢調査班結成の意味をこう受け止めている。
 「今になって料調を動かすというのは、財務省の上層部が、小沢氏に無罪判決が出た場合に備えて脱税容疑の調査に乗り出したことを意味する」
 財務省の誤算は、公判の重要証拠不採用をきっかけに、「小沢有罪論」を書き立ててきた大メディアが一斉に及び腰になったことだ。
 <特捜の惨敗? 小沢氏側「有罪の証拠消えた」>(読売)
 <共謀認めた石川議員の調書、地裁が却下 小沢氏公判>(朝日)

 注目すべきは検察の立場で小沢批判を繰り返してきた若狭勝・元東京地検特捜部副部長のコメントだった。
 「無罪の可能性の高まりで、小沢被告が政界で力を増すことが予想され、政治の動向にも注目が集まる」
 公判で小沢氏を血祭に上げる計画が風前の灯火になった特捜が漏らした“本音”かと思わせた。まるで政治的思惑の国策捜査を自白したような光景だ。

 もちろんまだ無罪と決まったわけではない。検察を中心とした法曹官僚たちは最後まで小沢抹殺に全力を挙げるだろう。
 この3年間というもの、検察は政権交代直前に小沢氏の秘書を逮捕して民主党代表辞任に追い込み、政権を取った後は小沢氏自身への強制捜査で幹事長を辞任させ、それでも検察が起訴できないとなると検察審査会(事務局は東京地裁)が強制起訴に導いた。秘書たちの裁判では、証拠がことごとく否定されたのに、「推認」を重ねて世にも奇妙な有罪判決が出た。

 その焦る検察を尻目に、悪の親玉よろしく動き始めたのが霞が関の支配者である財務省だった。
野田首相を操って消費税増税に突き進む同省は、公判の形勢逆転で、「もう検察は期待できない」と見限った。

 財務省は福田内閣の社会保障国民会議から足かけ5年、政権交代をまたいで増税準備を進めてきた。その大詰めになって「消費税法案の採決には反対する」と公言して立ちはだかっている小沢氏に万が一でも無罪判決が出れば、民主党内の増税反対派が一段と勢いを増す。何としても復権を阻止したい動機がある。

 しかも、小沢氏はその財務省に大きな“爆弾”を仕掛けようとしている。本誌は前号で、小沢氏が国税庁と旧社会保険庁(現・日本年金機構)を統合して歳入庁を創設する構想を掲げ、消費税増税反対とセットで財務省の権力基盤である国税庁を解体に追い込む計画を描いていることを報じた。

 財務省には何としてもやりたい消費税増税と、絶対潰したい歳入庁創設がある。どちらの成否も小沢氏を政治的に封じ込められるかどうかにかかっている。自ら手を汚して危ない橋を渡るのは、このエリート官庁の流儀ではないが、今回ばかりは特別なのだろう。

 思い起こされるのは、竹下派のドンと呼ばれて権勢を振るった金丸信・元副総裁のケースだ。東京佐川急便事件(92年)で金丸氏が同社から5億円の違法献金を受けたことが発覚し、捜部は略式起訴で罰金20万円とした。
 ところが、国民から「5億円もらって罰金20万円で済むのか」と検察批判が高まると、東京国税局が脱税事件の調査に動き、特捜部は金丸氏を逮捕した。

 財務省はそれと同じ手法で、検察も検察審査会も小沢氏を有罪にできない時は、いよいよ国税を動かして、自ら小沢氏の政治生命を断とうとしているのである。
 ただし金丸氏のケースには決定的な違いがある。当時は特捜部が金丸氏との事実上の“司法取引”で微罪にし、それ以上の捜査をしなかったことに国民の批判が集中したため、検察と国税庁は国民の声に押されて改めて政界捜査に乗り出さざるをえなかった。

 それに対して、小沢氏への捜査は財務省、検察、裁判所が最初から1人の政治家を排除するために権力を恣意的に行使している。国家権力の暴走という極めて危険な状況なのだ。
 4月の判決に向けて、小沢氏が国税庁を潰すか、国税庁が小沢氏の動きを封じるかは、この国が「官僚独裁」の道を辿るかどうかの大きな岐路にもなる。

 <4月解散で小沢の手足をもぐ>

 もうひとつ財務省をイラ立たせているのが野田内閣のもたつきだ。
 財務省のいうがままに増税に邁進してきた野田佳彦・首相が泥沼にはまっている。「消費税法案を3月末までに国会に提出する」と大見得を切ったものの、法案提出には小沢氏ら党内の増税反対派の激しい抵抗が予想されるうえ、強引に提出しても、自民党や公明党との協議がまとまらない限り成立は不可能だ。

 しかも、自公は増税協議のテーブルに着くことさえ拒否し、国会では与野党対立で来年度予算案の審議が大幅に遅れて14年ぶりの暫定予算の編成が必要な情勢になっている。予算成立が遅れれば震災復興にも国民生活にも支障が出る。支持率は急降下だ。
 野田首相や岡田克也・副総理が冷静なら、支持率20%台の政権がねじれ国会で大増税法案を成立させることなど、針の穴に象を通すより難しいとわかるはずだ。

 それでも、財務省は野田首相に社会保障・税一体改革素案を閣議決定させ、「与野党協議に期待しているが、年度内に法律を出す」(藤村修・官房長官)と成立の見通しもない見切り発車で法案提出を決めさせた。小沢氏との対決に勝利するためには総理大臣すら私兵に使う傲岸不遜が見える。

 財務相経験者である谷垣禎一・自民党総裁は、「首相が小沢氏と一対一で話し、『(消費税増税に)反対なら出て行ってください』と整理しないと、政治の力は生まれない」と、与野党協議の条件に「小沢排除」を突きつけた。の“耳打ち”があったのだろうか。

 野田首相は、自公が解散・総選挙を条件に消費税法案に賛成する「話し合い解散」に一縷の望みをつないでいる。財務省は首相に「小沢を検察か国税が排除すれば、自公との話し合いの状況ができる」――そう囁いて操っている。

 その裏で、財務省は自民党には全く別の工作をしていた。野田首相への問責決議案の提出だ。そのうえで今国会での消費税法案成立を断念し、「4月解散、5月20日総選挙」の日程が勝栄二郎・財務次官の腹にあるとされる。
 自民党参院国対幹部が得意顔で解説してみせる。

 「勝次官は民主党内がここまで混乱し、野田政権と自公の信頼関係もない状況では消費税法案成立は難しいと判断している。やはり増税には民自公の連立で衆参ともに過半数の安定政権が必要になる。それなら野田政権をズルズル延命させても益はなく、野田首相の最後の役目は解散・総選挙で民主党政権を終わらせ、政権組み替えの捨て石になってもらうことだ。

 どうやって解散させるか。3月末に消費税法案を国会に提出すれば、野田首相は後へは退けない。そこに自公が4月中旬の予算成立直後、参院で首相問責決議案を可決する。その後は一切の法案が成立しないから、野田首相は総辞職か解散・総選挙で信を問うしかない。消費税に政治生命を賭けるとあれだけいった以上は『消費税で信を問う』解散に踏み切るだろう。4月中旬解散、5月20日総選挙が財務省が検討している最短の日程で、選挙の後、自民、公明、民主で消費税増税の連立政権を組む」

 それだけではないだろう。総選挙になれば小沢支持が多い新人議員の多くは議席を失う。小沢氏の手足をもぎ、そのうえで官僚に従順な政治家を糾合して大連立を仕掛けようという究極の霞が関シナリオが、それに乗った政治家にさえ見破れないとは情けないばかりだ。
 すでに勝シナリオは動き始めている。

 自民党の溝手顕正・参院幹事長、脇雅史・参院国会対策委員長は予算成立後の野田首相への問責決議案提出を公言し、野田政権に強硬姿勢を見せている。
 同時に、財務省とパイプの太い林芳正・自民党政調会長代理と民主党の櫻井充・前財務副大臣という増税派の2人がこの2月から民自両党の参院議員約20人ずつを集めて連立を睨んだ勉強会「日本型国家を創る会」を開いた。この勉強会のバックには勝次官がいると見られている。

 <反増税派の団結は絶対阻止>

 なぜ、勝次官は解散・総選挙を急ぐのか。
 背景にあるのは、橋下徹・大阪市長率いる大阪維新の会や、河村たかし・名古屋市長の減税日本、みんなの党など政界第3極の勢力拡大である。
 とくに台風の目になりそうな橋本氏の維新八策には、「国民総確定申告制」「特措法の原則廃止」「年金制度の一旦精算」「保険料強制徴収」をはじめ、霞が関と真っ向から対立する発想が基軸にある。

 第3極の地方政党は総選挙を睨んでこの3~4月から相次いで政治塾を開催し、候補者養成を始める。維新政治塾には3000人以上、河村政治塾にも1000人近い応募者が殺到するなど、旋風を巻き起こしつつある。
 次の総選挙は否応なく増税が争点となるが、どちらも増税を掲げている野田民主党と自民党では政策的対立軸にはなり得ない。むしろ、小沢氏ら民主党の反増税派、あるいは自民党の増税慎重派が第3極と共同歩調をとって候補者調整ができれば、増税連立派vs反霞が関連合の新たな選択肢が有権者にクローズアップされる可能性がある。国民がどちらを選ぶかは火を見るより明らかだ。

 そうした事態を避けるには、第3極勢力や小沢氏が準備を整える前に、解散・総選挙を打つ必要がある。
 維新政治塾は3月下旬、河村政治塾と大村秀章・愛知県知事の東海大志塾は4月開講だ。「4月解散、5月20日総選挙」であれば、いくら促成栽培でもまともな候補者選びはできないという計算がある。

 狙われる立場にあるみんなの党の渡辺喜美・代表は財務省の早期解散戦略を百も承知で警戒している。
 「財務省が野田政権では増税は無理だと判断して早期解散を仕掛ける可能性は十分ある。その場合、自民党と民主党はガチンコで戦うふりをしながら、裏では総選挙後の増税連立を話し合う談合選挙になる。野田首相は解散で増税のレールを敷いたということで名誉の退陣だろう。しかし、選挙時期が先になるほど維新の会や我が党の準備が整い、総選挙で勢力が増え、増税にストップがかかる。財務省が地方政党、民主党内の反増税派の準備不足の隙をついて解散を狙うとすれば3月末から常在戦場になる」

 さる2月16日夜の小沢氏、鳩山由紀夫・元首相、輿石東・民主党幹事長の3者会談で、「鳩山さんは輿石幹事長に『このまま増税路線をとればたいへんなことが起きる』と釘を刺した」(鳩山側近)という。
 野田首相があくまで官僚の私兵となって民主党が国民に約束したマニフェストと戦うのであれば、小沢勢力が“オリジナル民主”を名乗って野田おろしに動く、という最後通牒だ。

 野田氏らが警告を聞き入れて改心すれば、今こそ官僚支配に終止符を打つチャンスだが、そんな度胸はないだろう。であるなら、国会も霞が関も財務省と小沢勢力が胸突き八丁で対峙する緊張に包まれる。そして、小沢氏の背後からは、財務省の隠密部隊「国税」が音もなく忍び寄っている。

■捜査報告書不採用/2月17日の公判で東京地裁は検察官役の指定弁護士が証拠申請していた小沢氏の元秘書、石川知裕・代議士の供述など検察の捜査報告書の大部分を不採用にした。石川供述は検察審査会が小沢氏の強制起訴を議決した際の有力な根拠とされた部分だが、取り調べを担当した検事への証人尋問で報告書がでっちあげだったことが明らかになったためだ。それにより小沢氏が政治資金規正法違反に関与していたとする根拠が失われた。

■歳入庁/国税庁と日本年金機構を統合してできる組織。別々に行われている国税と社会保険料の徴収を一体的に行うことで、年間10兆円とみられる事業者からの厚生年金保険料の徴収漏れを回収できる。民主党の09年マニフェストや社会保障・税一体改革素案にも創設が盛り込まれているが、「国税庁廃止」を嫌う財務省は強硬に反対している。

<文責:藤森弘司>

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