2012年10月15日 第80回「トピックス」
●(1)オバマ大統領の政治力は、いよいよ、民主党政権にソックリになってきました。劇的な政権交代と、その後の政治力の無さ・・・・・内容も経過も、劇的さも、なにもかもソックリです。
「討論会の前は『ロムニー惨敗』とささやかれていたが、今回の論戦を見るかぎり、オバマ大統領は演説がうまいのに討論は下手ということがわかる。ロムニー氏は長くビジネスマンをしていたので、議論は得意中の得意。訓練が全然違う。」(10月13日、夕刊フジ、大前研一氏)とあります。 演説というのは、何とか大学の弁論部ではありませんが、訓練さえすればそれなりにうまくなるものです。しかし、「討論」は人格の全てが丸出しにされます。「知性」や「教養」、「人格・性格」や「経験・体験」などの全てがゴマカしようのない形で表出・・・・・「言語化」「ボディランゲージ(身体言語)化」されます。 私(藤森)は、僭越ながら、当初から、オバマ氏の生い立ち、社会経験不足が気になっていました。それぞれの役職を全うせずに飛躍ばかりして、その全てが中途半端・・・・・しかし、世渡りがうまかったのか、社会経験不足でありながら不思議と飛躍ばかりして、ジックリ、自分を鍛える期間が無いままに来過ぎてしまいました。 学校秀才的で、若く、颯爽としている上に、ある一人のスタッフに恵まれたために、演説は抜群にうまくなったが、実績はほとんど全く無いまま、驚異的な出世をしてきました。 そうやって、世界最高のアメリカ大統領とノーベル賞を達成したならば、後は「ドボン」するだけだと、私(藤森)は僭越にも予想しました。人生の前半、大変失礼ながら、バカヅキしすぎました。運を使い果たしてしまったように思わずにはいられません。 <「今月の言葉」第91回「脚本分析・・・オバマ大統領は大丈夫か?①」><第92回「PART②」><第93回「PART③」><第95回「補足」><第96回「補足②」><第97回「補足③」>をご参照ください。 |
●(2)平成24年10月5日、東京新聞「米大統領選 初の討論会」
<オバマ氏・うつむく 攻め貫く・ロムニー氏> 「公平」重視か「自由」優先か、「大きな政府」「小さな政府」のいずれが望ましいか・・・・・。国の形をめぐる古くて新しい議論が正面切って戦わされる米大統領選候補者討論会。西部コロラド州デンバーで3日行なわれた第1回討論会では、世論調査で引き離され崖っぷちだった共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事(65)が、民主党オバマ大統領(51)の弱点である経済・財政運営に切り込んで巻き返し、逆転勝利に望みをつないだ。 <経済政策で巻き返し> <略> ロムニー氏は8月末の党大会後も支持が伸びず、さらに「国民の47%(に当たる非納税者)を私は気にかけていない」とする失言が明るみに出て、追い込まれていた。しかし、3日の討論では「オバマ政権の4年間で中間層は押しつぶされた」「私は大きな政府路線とは別の道を選ぶ」などと歯切れよく攻め立てた。 支持率で優位に立っていたオバマ氏は、失言さえしなければ乗り切れると考えたのか、守りの姿勢が際立ち、ロムニー氏の「47%発言」の真意すらたださなかった。相手の発言中に下を向いてメモを取る姿勢が目につき、胸より上を映すテレビ映像ではうつむいているような印象を与えた。発言するオバマ氏を正視していたロムニー氏とは対照的だった。 <失敗> 連邦政府の権限を抑制して自由経済や州政府の自立を確保しようとする「小さな政府」の主張は、共和党の屋台骨を支える理念。討論会でも、ロムニー氏は財政再建に向け徹底した歳出削減を訴え、大幅減税と規制緩和の推進を主張した。 これに対し、オバマ氏は「富裕層重視の政策」と批判し、国民全体の利益を追求する姿勢をアピールするなど対立軸は明確だった。 「大統領は経済や財政について話すのはいやだったのだろう。この分野で全く結果が残せなかったから」。討論会終了後、共和党若手のルビオ上院議員が記者団に語った。 討論中に繰り返し下を向いたオバマ氏の姿勢が「経済運営の失敗を認め自信を喪失している」とのイメージを視聴者に与えたとしても不思議ではない。選挙分析に定評があるバージニア大のサバト教授(政治学)は簡易版ブログに「ロムニー氏はこれまでで最高の討論をした。オバマ氏は最悪だった。何回も攻勢のチャンスを逃した」と記した。 <勝敗左右する「見た目」> 米大統領選の候補者テレビ討論会は、過去にも選挙結果に影響を及ぼしてきた。発言内容もさることながら、「見た目」が勝敗の決定打として語られることが多い。 92年には父ブッシュ氏(共和)がしきりに腕時計を見て時間を気にする場面が視聴者の印象を悪くした。 |
●(3)平成24年9月7日、読売新聞
<党大会の会場変更> 米民主党は5日、オバマ大統領が指名受託演説を行なう6日の党大会最終日の会場について、約65000人が参加予定だった屋外競技場から、約15000人しか入れない屋内競技場に変更することを決めた。6日にシャーロット周辺で雷雨が予想されており、大会事務局は「安全に配慮した措置」としている。 |
●(4)平成24年9月6日、夕刊フジ「世界を斬る」(日高義樹)
<「ロムニーが米大統領選大差で勝利」の根拠とは> <略> もともとオバマ大統領の支持層には低所得者が多い。 経済界が、オバマ大統領の規制や増税に反発して、政治献金をやめてしまったからだ。 オバマ大統領は2008年、幾つかの州で身分証明書もなく、1人で投票に来られない人を狩り出し、僅差で当選した。オバマ大統領は、表面上ではロムニー候補と5分の戦いをしている。 <藤森注・・・・・アメリカの大統領選はかなり面白いというか、複雑な制度で、1%でも優勢な候補が。その州の選挙人を総取りできます。そして過去の経験から、共和党なり、民主党が勝つと予測できる州は大体決まっているようです。そのために残りの上記の州で、両者のどちらが勝つかで、ほぼ決定します。 |
●(5)平成24年10月7日、東京新聞「一進一退 最終盤へ」
<オバマ氏 失業率改善 追い風> オバマ大統領は5日の南部バージニア、中西部オハイオ両州遊説で、失業率が就任時の水準7・8%に戻ったことに触れ「米国は再び前進している」と強調。同時に「今も多くの国民が職を探している。この数字を政治的な得点稼ぎに使うことは許されない」と自戒した。 ロムニー氏はバージニア州での演説で、就業者数の増加幅は8月より減ったことに言及し、職探しを諦めた人を計算に入れれば「実際の失業率は11%だ」と指摘。「私が大統領なら、求職を断念した人たちのおかげではなく、本当に失業率を低下させる」と訴えた。 大統領選は9月末までオバマ氏優勢だったが、3日の候補者討論会で情勢が一変。世論調査会社ラスムセンが翌4日に激戦3州を対象に行なった調査では、南部フロリダ、バージニア両州ではロムニー氏が1~2ポイント差でオバマ氏を逆転。オハイオ州でも1ポイント差に迫った。 そこで発表されたのが9月の失業率だ。前月比0・3ポイントの大幅低下で、オバマ氏に再び追い風が吹き始めた。ロムニー陣営はオバマ政権への攻撃材料を失いかねない数字に焦りをあらわにした。 共和党を支持するゼネラル・エレクトリック社(GE)前会長のウェルチ氏はツイッターで「信じられない。(オバマ氏の地元の)シカゴの連中は何でもする。討論が苦手だから数字を変えた」と政権側の不正を疑った。 これに対し、オバマ政権の高官が相次いで「ばかげている」と数値操作を否定し、両陣営の舌戦も過熱した。勝敗の行方は、16、22両日の大統領候補討論会、さらに投票直前の11月2日に発表される10月の失業率が決することになる。 |
●(6)アメリカ大統領選のハチャメチャさを知れば知るほど、ゼネラル・エレクトリック社(GE)前会長ウェルチ氏の疑問を、私(藤森)も感じてしまいます。 ウェルチ氏の疑問に正当性を感じる根拠は下記の諸点です。①あまりにもタイミングが良すぎることです。②映画<第117回「スーパー・チューズデー~正義を売った日~」>にもありますが、日本の常識からかけ離れた米大統領選、この程度のことはやりかねないように思えること。 超エリートのオバマ氏のようなタイプは、劣勢という事態に耐えられないはずです。オバマ氏には「劣等感コンプレックス」が強くあると私(藤森)は自信を持って推測していますが、こういうタイプの人間は劣勢になると「劣等感コンプレックス」が強烈にうずいて堪え難い苦痛を感じるはずです。 そうするとどうするか? それは歴史が証明しています。あらゆる手を使う可能性があります。その一端を、前々回(1)の中から引用します。<<<<追いつめられたオバマ> アメリカのオバマ大統領は11月の選挙まで5ヶ月もあるというのに、大統領本来の仕事を放り出して選挙運動に奔走している。 アメリカの大統領選挙は、各州の人口によって割り当てられた合わせて538人の過半数270人の選挙人を奪い合う、いわば国取り合戦である。2008年の選挙では、オバマ大統領が365人の選挙人を手にしてマケイン候補に圧勝したが、今回はバージニア州やノースカロライナ州、インディアナ州といった、もともと共和党の地盤だった州を奪回されそうになっている。 こうした情勢になっているのは、アメリカの人々がオバマ大統領の3年半の仕事に幻滅を感じているからである。つまり08年のオバマ熱がほとんどさめてしまった。 つい先頃、ミズーリ州ジョスリンで行なわれたオバマ大統領の演説会では、1000人近く入る会場に半分しか人が集まらなかっただけでなく、コロラドスプリングスの空軍士官学校の卒業式での演説も一向に盛り上がらなかった。 アメリカ経済界も回復を阻害するようなオバマ大統領の政策に反発し、これまで大統領選挙には関わらないという姿勢をつらぬいてきた全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長は、5000万ドル(40億円)の資金を投じて反オバマのキャンペーンを開始した。アメリカの経団連ともいえる大企業の集まりのビジネスラウンドテーブルも、ビジネス界出身のロムニー候補を支援する姿勢を明らかにしている。 それと前後して08年には多額の選挙資金を提供したウォール街、とくにヘッジファンドがオバマ大統領の高額所得者に対する特別増税や、ヘッジファンド批判にハラをたて、資金を出さないことを決めた。>>> ③ウェルチ氏をパソコンで検索したところ、アマゾンの本の紹介のところにウェルチ氏の紹介がありました。そこにも述べられているようにウェルチ氏は世界一評価の高いビジネスリーダーです。日本でいえば松下幸之助氏のような方でしょうか。 <<<Amazon.co.jp 次の(7)は、オバマ政権と野田政権(民主党)が悪い点でいかにソックリか、ジックリご覧ください。 |
●(7)「ロムニー大統領で日米新時代へ」(日高義樹著、徳間書店) <第四部 進歩派の中心地、ウィスコンシンでオバマの労働組合勢力が敗れた>ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事は2012年6月5日、ミルウォーキーで行われたリコール選挙に勝ち、歴史に名を残すことになった。それまでアメリカ政治史上、リコール選挙に勝った知事は一人もいなかったからである。スコット・ウォーカー知事は、全米で最も強力なウィスコンシン州の公務員組合を相手に大立ち回りを演ずるような、猛烈な政治家には見えない。スリムで、いつも微笑みをたたえた人付き合いの良い好紳士である。リコール選挙の前々日の6月3日、ミルウォーキーから少し離れた小さな街の集会に出席したウォーカー知事は、昼食会のあとオムレツと野菜を食べたあとのお皿を自分で洗っているところを写真に撮られたりしている。庶民的で好ましいイメージの政治家である。 リコール選挙は五分五分の大接戦といわれたが、ウォーカー知事は七パーセントの大差で勝ち、アメリカの保守勢力のチャンピオンになった。大げさに言えば、2016年の次の大統領選挙戦に大統領候補として推されるのではないかと言われるほどの騒ぎになっている。ウィスコンシン州でいったい何が起きたのだろうか。 一昔前、私も取材に出かけたことがあるが、ウィスコンシンはアメリカ保守旋風の標本とされた反共主義者のマッカーシー上院議員を生んだ場所である。チーズとビールが美味しいことでも有名だ。アメリカ中西部の最も北に位置し、このところは民主党進歩勢力の中心地となっている。 ウィスコンシン州から隣のミネソタ一帯は、民主党勢力の強い場所と言われているが、その中核になっているのは、消防士や警察官、教員を中心とする公務員組合である。 アメリカの労働組合は1960年代から民主党の中心勢力として力を持ち始め、その数を背景に強力な政治力を行使してきた。とくにアメリカの労働組合が強くなったのは、教員や警察といえども、団体交渉権を与えられ、力でもって地方自治体の指導者と対決してきたからである。その結果、東部のマサチュセッツ、ペンシルベニア、オハイオ、中西部のインディアナ、工業地帯のミシガン、イリノイ、さらにミネソタといった、大統領選挙戦に強い影響を与える大きな州を動かしている。 アメリカの労働組合は、団結力で民主党政権の樹立に力を示し、同時に自らの利益も手にしてきた。アメリカ労働総同盟AFLCIOの中核に位置するアメリカ公務員組合は、団体交渉権を行使することによって、組合費を本人の承諾もなく給料から差し引いて集める権利や、労働組合の幹部を選挙するにあたって、投票の内容を幹部がチェックできるという、考えられないような特権まで手に入れてしまっている。そしてこの特権は、十分な経済的利益に直結している。 ウィスコンシン州の公務員組合では、年金の積み立てに組合員が出資しなくてもよい。全てを雇用者側が負担することになっている。健康保険もほぼ同じように無料になっている。こうした仕組みが地方自治体を財政的に圧迫するのは当然で、固定資産税を大きく値上げしなければならなくなった自治体も出ている。また公務員ではない一般庶民から、組合員に対する手厚い仕組みに反発する声が高まっている。 2010年11月の総選挙で当選したスコット・ウォーカー知事は、ただちにこういった特権的なことをやめさせ、年金は6.2パーセント、健康保険は28パーセントを自己負担させたうえ、組合費の天引きをやめてしまった。 ウォーカー知事がこの法案を州議会に上程した際、ウィスコンシン州の民主党議員達は議会に入らず投票を妨害し、ウォーカー知事が警官を動員するや、隣のイリノイ州へ逃げ込んだ。続いてウォーカー知事がやったのは、強力な組合から団体交渉権を取り上げることだった。 労働組合の団体交渉権を取り上げれば、教員をはじめ警察官や消防士の首切りも容易になり、州予算の削減が大きく進む。このためウィスコンシン州では16億ドルにのぼる財政赤字の削減に成功し、固定資産税を減額することもできた。 こうしたウォーカー知事の措置に労働組合側が猛反発したのは当然である。公務員労働組合は、住民の25パーセントの署名を集めてウォーカー知事をやめさせるためのリコール選挙を6月5日に実施することになったが、このリコール選挙をめぐってウィスコンシン州のあちこちで住民どうしの衝突が起きた。 動員をかけられた学校の教員が、いわば子供を人質にリコールに賛成するよう両親に働きかけたり、ウォーカー知事を支援する人物の犬が毒殺されたり、家庭内で夫と妻の意見が分かれて喧嘩さわぎになったりと、常軌を逸したような騒ぎが起きたのである。ついにはリコール賛成派の妻が反対派の夫に車をぶつけて重傷を負わせるという事件まで発生した。 すでに述べたようにリコール選挙ではウォーカー知事が勝利をおさめたが、もともとこのリコールは、公務員労働組合にとって政治的にきわめてきわどい行動だった。正規に当選した知事に対して1年半後に、政策を理由に否認のためのリコールを行うというのは、民主主義に反するという声が、味方の民主党員からも出ていたからである。 この選挙について『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、ゴルフで言えばマディガン、すなわち一打目を失敗して二打目を打つのと同じでルール違反だと非難したが、あまりにも強い組合とその猛烈なエネルギーに、ウォーカー知事が敗れるのではないかという見方が強かった。 ウォーカー知事がリコール選挙に勝ったのは結局、公務員組合の動きがあまりにも自己中心的であり、一般市民の共感を得ることができなかったからである。企業や組織の圧迫から労働者を守るために組織された労働組合は、弱者を助けるという大義名分があるため、さわってはならない「聖なる牛」として扱われて来た。ウォーカー知事が組合に立ち向かい、特権を取り上げた時、多くの政治家はウォーカー知事が無謀な戦いをしかけたと懸念した。 ウォーカー知事の勝利をきっかけに、全米の組合の力を削(そ)ごうという動きが出始めている。これまで歴史的に民主党の州、ブルー・ステートと見られて来たウィスコンシン州で共和党が勝てるのではないかという見通しも出て来た。共和党のウォーカー知事の勝利は、ウィスコンシン州だけでなく、ペンシルベニア、オハイオ、ミシガンといった州にも波及効果を与えると見られている。 ウィスコンシン州のリコール選挙の結果は、オバマ大統領の政治的な立場にも大きな影響を与えると思われる。労働組合はオバマ大統領にとって重要な政治基盤である。オバマ大統領は組合勢力を丁重に取り扱ってきた。組合の役員を選ぶ選挙に、投票の票を見せるという、誰が見ても馬鹿げたチェックシステムを支援することすらやった。 オバマ大統領は、労働問題を解決するための労働関係委員会に、組合関係者を任命することまでやってのけた。この委員会は、ワシントン州の航空機産業ボーイング社が新しい大型旅客機の製造を、組合のあるワシントン州から組合のないジョージア州に移すと決定した時、組合つぶしであるとして激しく反対した。 ウィスコンシン州でスコット・ウォーカー知事が「聖なる牛」を倒したことはアメリカの政治を大きく変えるきっかけになった。ウィスコンシン州の十の選挙人がそのままロムニー候補に行かなくても、州を越えて政治の勢いは広がっていく。 オバマ大統領はこうした事態を恐れてか、リコール選挙の前日、ウィスコンシン州の両隣である自分の地元のイリノイ州とミネソタ州まで選挙演説のために足をのばしながら、ウィスコンシン州にはやってこなかった。 「オバマ大統領は結局、天気の良い時だけの友人」 ミルウォーキーの新聞はこう皮肉ったが、組合を負かしアメリカの政治史を変えた、強力で効率の良いウォーカー知事の行動は、事なかれ主義に陥って、安易な行動しかとらなくなっているアメリカ政治に貴重な一石を投じた。 弱者であった筈(はず)の労働組合がいつの間にか強大な力を持ち、一般市民が持てないような特権を持ち、退職後も手厚い恩恵を受けているといった行き過ぎと偏りは、オバマ大統領が熱心にすすめている福祉政策にも顕著である。 オバマ大統領は「恵まれない人を助ける」と言って福祉費を増やし続けると同時に低所得者に対する様々な援助に予算をつぎ込んでいる。なかでもフードスタンプとよばれる食料券を大幅に増やしたため、「キング・オブ・フードスタンプ」と呼ばれるようになっている。 食料券はタバコと酒を除いて食料なら何でも好きなものを買える。なかには400ドル近いフードスタンプをもらっている家族もいるといわれるが、本当に必要な人々に渡っているかどうかは分からない。日本でも生活保護の必要がない人がもらっていることが問題になっているが、アメリカも同じである。以下は友人から聞いた話である。 「急に必要になって夜おそくスーパーマーケットに買い物に行った。同じキャッシャーの列に黒人の親子が並んでいた。母親の買い物は大きなケーキだった。子供が値段を見て、41ドルもすると言った。母親は政府発行のフードスタンプで支払っていた」 別の友人はデザイナードレスを着た女性がスーパーマーケットで、フードスタンプを使っているのを見たことがあると言ったが、オバマ大統領のやり方は明らかに貧しい人々をあまやかし放題にしている。 オバマ大統領の行なっていることは貧しい人に対する思いやりというよりも、選挙の票を集めるための一種の賄賂(わいろ)だと批判する人もいる。その賄賂のためにオバマ大統領は片手でドルを刷り、もう一方の手で税金を集めて貧しい人に与えている。つまり大統領は、貧しい人々を買収して票を集めているということもできる。 アメリカではこうした動きに反発する地方の政治家や知事が増えている。今度のウォーカー知事のリコール選挙には大勢の共和党の知事が駆けつけた。民主党勢力が強いニュージャージー州で、個人的な人気と政策によって当選したクリス・クリスティー知事、ルイジアナ州のボビー・ジンダル知事、フロリダのリチャード・スコット知事などがウォーカー知事のために強力な支援活動を繰り広げた。クリスティー、ジンダル、スコットといった知事は、共和党の議会政治家達よりもはっきりとした政治イデオロギーを持っている。オバマ大統領のように税金を使って票を集めようという考えは全くない。 2012年、アメリカでは、日本と同じように政治力のない議会政治家に対抗して、自分の力で自分の信じるイデオロギーをもって政治を行おうとする知事が増えてきている。日本と違うところは、州知事が日本の知事よりもずっと強い力を持っていることである。 USA、ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカという呼称にも明らかなようにアメリカは州が集まって作られた国である。日本のように国が県を作ったのではない。アメリカの州は独自の法律を持ち、知事の権力は日本の知事とは比較にならないほど強い。 カンザス州の共和党サム・ブラウンバック知事は2013年、州の所得税を6.45パーセントから4.9パーセントに減らすことを決め、議会に提案している。また中小企業の所得19万1000ドルを限度に減税を行おうとしている。もっともカンザス州では、州議会の上下両院の過半数を民主党が握っているため、審議の行方がいま一つ明らかでない。 ネブラスカ州、オクラホマ州でも所得税を減らそうとしている。オクラホマ州のメアリー・ファーリン知事は所得税を5.2パーセントから4.5パーセントに減らそうとしている。このようにアメリカの各州で、オバマ以降を見すえた新しい政治の動きが始まっている。 |
<文責:藤森弘司>
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