2010年1月31日 第5回「トピックス」
前原大臣と日本航空

●(1)2010年1月19日 日刊ゲンダイ「だまし討ちだ!」

 <個人株主38万人の標的になった前原大臣>

 JALの株主という千葉県の男性がきのう(17日)の朝日新聞「声」欄に怒りの当初をしていた。男性は、福岡に住む母親の介護で3ヶ月に1度帰省するため、株主優待制度を利用しようとJALの株主になったという。
 「昨年末ごろまでは政府は、日航の経営維持のために融資への政府保証を言明してきました。国が支援するから安心してください、との意味だと私は受け止めていました。しかし、年が明けて上場廃止や100%減資の方針・・・。これでは一般株主を惑わせておいて切り捨てるだまし討ちではないかと言わざるを得ません」

 明日(19日)、JALは裁判所に会社更生法を申請し、株券はパーになる見通しだ。しかし、この男性同様、38万人の個人株主は政府に“だまし討ち”されたという思いでいっぱいだろう。その批判は前原誠司国交相に向かっているが、仕方ない。政権発足後から4ヶ月の前原大臣のコロコロ変わる発言を<表>にした。いかに“無責任”にブレているかがよく分かる。

 「前原さんの発言と株価の推移が一致しています。大臣に就任後、それまでの自民党時代の再建案を蹴飛ばし、タスクフォースを送り込んだけど失敗。しかし前原さんは、『政府は破綻させない』と言い続けたので、マーケットは法的整理はないと判断した。『企業年金を減額できないと法的整理』という発言についても、裏を返せば、合意できれば法的整理はないと理解できた。ところが、政府保証でモメ、『法的整理しないとは言っていない』と百八十度逆の発言。これで株価は100円割れです。根拠がないのに誤ったメッセージを出して、結果的に投資家をだますことになったのです」(証券関係者)

 挙句の果てには、年明けに法的整理の方向が固まると、「支援機構が『公的整理』する」とワケの分からない造語を使って、姑息にも自らの過去の発言にフタをしてみせたのだ。
 JAL個人株主でなくたって、前原大臣のフラフラ発言は、もう怖くて信用できない。

 <株を手放せなかった4ヶ月間のブレ発言>

 <前原国交相の“迷走”発言>

①2009年9月17日「(前政権からの)有識者会議を白紙に戻す」
「(ANAとの)2社体制はこれからも維持」

②2009年9月24日「(法的整理は)現時点では一切考えていない」

③2009年9月26日「JALタスクフォース立ち上げ」

④2009年9月30日「日航の自主再建は十二分に可能」

⑤2009年10月20日「飛行機が飛ばない状況だけは絶対に避けなければいけない。しっかりバックアップしていく」

⑥2009年10月29日「JALタスクフォース解散」

⑦2009年11月6日「年金などのコストカットをしなければ会社の存続自体が厳しい」

⑧2009年11月10日「日航が資金繰りに困って運航が困難になった場合、日航への融資に政府保証などの予算措置を検討すると、5閣僚が確認」

⑨2009年11月18日「法的整理しないととは言っていない」と国会答弁

⑩2009年12月22日「(国が全額出資する)政投銀の融資に政府保証をつけるのは二重の政府保証になる」

⑪2009年12月25日「(政府保証を可能にする特別立法を)引き続き検討している」

⑫2009年12月29日「支援機構が法的整理案を銀行団に提示したことが判明」

⑬2009年12月30日「必ずしも法的整理ありき、というようなことではない」

⑭2010年1月8日「政府として支援機構を介した『公的整理』をする」

●(2)私(藤森)がみるところ、どうも、故・松下幸之助氏が自費で設立した「松下政経塾」出身の政治家は、「ヤワ」で、筋の通っていない「素人大臣」や、「素人政治家」っぽい人が多いように思います。
 ほとんど給料同然の金額を受け取り、何の心配も無い中で、ひたすら「政経塾」で勉学に勤しみ、いろいろなことを体験してきたはずの松下政経塾を卒業した政治家が、こんなにヤワなのは、やはりタブーかもしれないが、松下幸之助氏の本質的な問題ではないのだろうか??確か、ナンセンス極まりない「ニセメール事件」のときの民主党代表が「前原誠司大臣」だったはずです。その時の国対委員長だったか、民主党の幹部が「野田佳彦」氏で、彼は数年前の代表選挙の前に、「ボコボコになっても出たい」と言いながらでませんでした。私たちはボコボコになりたくないから無理をしないのであって、ボコボコになっても良ければ、選挙に出ない理由は一切なくなるはずです。

 多分、諸般の事情があったからでしょうが、いかなる理由があろうとも選挙に出て、そしてボコボコになれば筋が通ったのではないでしょうか?いかに彼らの言葉が軽いかです。その野田氏は今「財務副大臣」です。「八ツ場ダム」の場合も、大臣になるや否や、大向こうをはって「中止する」と発言したのに、今や声が小さくなってしまいました。民主党は、ダム建設に関わる経緯が何もわからずに「マニフェスト」に載せたのだろうか?

 高速道路の無料化やガソリン税などの問題は、経済状況の激変という理由が成り立つが、ダムの建設中止は、訴えたのだから、訴えたように実行したら良いのではないかと思います。
普天間飛行場の移設や八ツ場ダム建設中止の問題は、発言してから、必死になって対応しているように見え、幼稚すぎるだけでなく、滑稽にさえ見えます。

 諫早湾の干拓事業も、あれだけ「中止」を訴えていたのに、今は、言わなくなってしまいました。一つのものが持つ「多面性」が全く分からずに、一面だけを見て反対論を述べていたのだろうか?市民活動家だった菅副総理は、かなり熱心に見学もし、反対もしていたはずなのに。

 前原国交大臣については、田中康夫氏が痛烈に批判していますので、そちらをご紹介します。

●2010年1月21日 日刊ゲンダイ「にっぽん改国」(田中康夫)

 <理念も覚悟もなきお子ちゃま大臣よ>

 会社更生法適用を申請した日本航空に対し、「公的機関の企業再生支援機構が支援を決定。政府も通常運航に支障が出ないように前面支援を表明。日航は機構の管理下で再建。金融機関の債権放棄や資本増強策等で財務体質を改善。2013年迄に再建を完了させる考え」と報じられています。

 が、その実態は、「一般債権や顧客のマイレージ等を保護。債権者平等負担の原則から逸脱し、実質的には『私的整理』に近い内容」と「共同通信」も看破する如く、政権交代から4ヶ月、無為無策な問題先送りの間に1日あたり10億~20億円もの赤字を垂れ流し、半官半民の機構を通じて今後も投入されるのは国民負担と血税、という不条理が展開されています。

 故に、「責任は取りたくないが、運航は継続したい」から、「支援機構を噛ませる事で『直接、責任を取らずに済む』と安直に法的整理を選択した」と「週刊ダイヤモンド」は喝破し、「お子ちゃま大臣」と「週刊文春」も命名したのでしょう。
 理念も覚悟も無き、指導者失格な前原誠司国土交通大臣の存在こそ、日本国民にとっての不幸です。金融支援の額が当初の2500億円から7300億円へ3倍増。投入される公的資金(出資+融資)も4800億円から1兆円へ2倍増の過剰支援。借金棒引きで短期的には“身軽”となる日本航空は、全日本空輸に対して価格競争という体力消耗戦を仕掛けるのは必至。

 他方で、2012年には1157億円の営業黒字を達成と謳う再生計画原案は、如何なる根拠を以ってか、客単価が2割も上昇する笑止千万な内容です。
 加えて、現在はユナイテッド&全日空のスターアライアンス、アメリカン&日航のワンワールド、デルタ&ノースウエストのスカイチームで日米間の旅客便数は3等分ずつ切磋琢磨しています。が、同一資本のデルタ&ノースの軍門へと日航が下ったなら、そのシェアは50%を優に超え、血税投入とは無縁の自助努力を続けてきたシェア15%の全日空は一気に競争力を失い兼ねません。

 而して当の日航も、民主党の支持母体たる連合傘下の労働組合に気兼ねして、賃金体系&労務管理の抜本的改定を断行せずして、企業再生し得る筈もありません。
 その結末は若しや、血税投入の熨斗紙に包んで日本長期信用銀行を、白い色したハゲタカに献上したニの舞になりはしまいか。大人になれない“お子ちゃま学級会”な政治の迷走に慨嘆します。(水曜掲載)

<文責:藤森弘司>

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