2020年5月31日第153回「トピックス」「検察庁法改正案についての一考察②ー②」

(1)私・藤森が最も信頼している専門家の皆さんが、下記のような「真逆の意見」に接すると、今回の「検察庁法改正」の問題の判断が苦しいです。

 下記の全部が正しいように思われますがいかがでしょうか。

(2)「ニュースの核心」(長谷川幸洋氏、夕刊フジ、5月23日)

 <検察とグルになった左派マスコミの偽善>

 検察官の定年を延長する検察庁法改正案について、安倍晋三政権が今国会で成立を見送る方針を決めた。「検察の独立を侵す恐れがある」などと反発した野党とマスコミの声に配慮したためだ。

 それなら、それでも結構だ。法案は国家公務員全体の定年を65歳に引き上げる別の法案と一緒になっている。成立しなければ、定年延長できず、民間に比べて著しく不公平になる。いずれ、秋の臨時国会で改めて審議されるだろう。今回は、ひとまず水入りにしたにすぎない。

 そのうえで、あえて注文したい。どうせ審議するなら、この際、検察に対する政府のコントロールを強める方向性をもっと明確に打ち出すべきではないか。

 左派勢力は「検察の独立性」を声高に唱えるが、話は逆だ。本当に怖いのは「検察の暴走」である。

 例えば、厚生労働省の村木厚子・元局長が冤罪に問われた2009年の障害者郵便制度悪用事件だ。これは後に、重要証拠である役所のフロッピーディスクが特捜部の主任検事によって偽造されていたことが発覚し、同検事や特捜部の元部長、副部長が逮捕される事件に発展した。

 10年には民主党の小沢一郎元代表(当時)が強制捜査された陸山会事件もあった。捜査自体が強引だったが、それだけでなく、小沢氏の元秘書を調べた東京地検特捜部検事が架空の捜査報告書をでっち上げ、検察審査会に提出する、という前代未聞の事件まで起きている。

 当時、法相だった小川敏夫氏は、でっち上げ問題に厳正に対処しようとしない法務・検察当局に対して指揮権発動を検討したが、野田佳彦首相によって突然、更迭されてしまった。最高検察庁は担当検事や特捜部長らを不起訴とし、減給や厳重注意の甘い処分でお茶を濁した。事件は闇に葬られたも同然である。

 小川氏は当時、私の取材に対して「当時は『検事の勘違いだった』と言っていたが、報告書はほぼ全部が架空なんです。(不祥事の後始末は)ちょろっと『人事で相談して』なんて言っているけど、それでは国民の理解は得られない」と語っていた(拙著『政府はこうして国民を騙す』講談社、13年)。

 検察は逮捕権に加えて、起訴権をほぼ独占し、オールマイティーの存在である。そんな権力を握る検察を誰がチェックするのか。三権分立の原則から言っても、まずは国民から選ばれた議員と多数派政党が構成する内閣だろう。

 法案には、内閣が検事総長ら3人の定年を延長できる仕組みが盛り込まれた。だが、その程度では物足りないどころか、検察監視にならない。根本的に検察の暴走を防ぐ仕組みを盛り込むべきだ。

 マスコミは本来、権力の暴走をチェックする役割を担っているはずなのに、実態はネタ欲しさのために「検察へのゴマすり競争」に堕している。「検察の独立性を侵すな」という主張の裏に隠された本音は「オレたちと検察の聖域に口を出すな」という歪んだ特権意識である。

 とりわけ、左派マスコミの偽善とトンチンカンな言い分に騙されてはならない。

<はせがわ・ゆきひろ氏・・・ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ、。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア・・・本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。>

(3)「『お金』の日本史」(井沢元彦氏、夕刊フジ、5月22日)

 <「身分が違うのに政治に口をだすな!」と言った最初の人は?>

 <略>

 今は、民主主義の世の中である。明治維新のスローガンは「四民平等」であった。「市民」ではない。士農工商の身分差別は無くなったということだ。ちなみに、「四民」以下の身分とされたのが、芸を生業とする人々だ。朱子学はエンターテインメントを基本的に認めない。だから商人と同じで芸能人は「人をだまして稼いでいる悪人」になる。

 その時代から200年近くたつのに、まだ松平定信のような朱子学的偏見を口にする人間がいるのは驚きだ。猛烈に反省してもらいたい。

 ただ、小泉今日子さんを完全に支持するかといえばそうではない。彼女や彼女を支持する人間は、ぜひYouTubeで無料公開されているホリエモンの動画、タイトルは過激だが「検察庁法改正案に抗議しますと言ってる奴ら全員見ろ」か、もっと穏やかな「検察庁法改正 炎上の理由を解説」を見るべきだろう。また彼女は読書家だそうだから『深層 カルロス・ゴーンとの対話』(郷原信郎著 小学館)も読んでもらいたいところだ。昔と違い、民主主義の世界では正義とは相対的なものだ。それは、そうだろう。人間のやることなのだから。

<いざわ・もとひこ氏・・・1954年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局入社。80年、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞受賞。独自の歴史観からの作品が人気。夕刊フジの好評連載単行本化『天皇の日本史』(KADOKAWA)、『コミック版 逆説の日本史』『日本史真髄』(小学館)など著書多数。>

(4)「法務省側からの提案はあり得ない」(日刊ゲンダイ、5月21日)

 元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が言う。

 「すべての発端は、今年2月8日に63歳で定年退官を迎えるはずだった黒川氏の定年を延長1月31日に閣議決定したことです。検察庁法では検事の定年を63歳、検察トップである検事総長の定年を65歳と厳格に定めていて、黒川氏の定年を半年延長したことは、検察庁法に違反している。

 つまり、法を執行する高検検事長が違法に職にとどまっていることになります。この違法状態を解消するためには、検察庁法の改正がどうしても必要なのです。いったん無理を通した以上、官邸も法務省も後に引けない。一蓮托生で法改正に突き進むか、閣議決定を取り消すしかないのです」

 「百歩譲って、安倍首相は本当に何も知らず、補佐官や秘書官らの側用人が法務省に圧力をかけたのかもしれませんが、其れは何の言い訳にもなりません。官邸側からの働きかけが無ければ、法解釈を変えなければ実行できない人事案を法務省が提示するわけがない。どう言い訳しても、検察庁法違反の人事を突き返さずに、閣議決定した責任は免れません」(郷原信郎氏)

 国民民主党の小沢一郎氏も事務所の公式ツィッターで<総理は嘘ばかり。もはや嘘と自慢が主たる業務になっている。総理が嘘ばかりなら、国民は何を信じればよいのか>と断罪していた。

 毎日新聞によれば、政府が閣議決定した黒川氏の定年延長について、法務省がその違法性や訴訟提起の可能性を検討した文書は存在しないという。

 これまで法務省は「検察官に国家公務員法の定年延長は適用されない」という解釈を維持していたのに、今年1月に森が口頭で解釈変更を決済したとされる。

 前例のない閣議決定に際し、省内の会議や内閣法制局などとの打ち合わせに関する文書を保存していないなんてことが、あり得るか。

 <略>

(5)「“検察は正義”の情報操作に大マスコミが加担」(日刊ゲンダイ、5月23日

<略>

 実際、黒川氏と記者らはズブズブの関係だ。4人の賭けマージャンは月2~3回のペースで、3年間の長きにわたって行われていたことが分かったと、きのう、朝日が発表している。こ

<略>

 産経は、黒川氏の定年延長が閣議決定されたことを野党が問題視し、国会での追及が激しくなっていた2月26日付の紙面で、解説記事を掲載。<黒川氏は日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告の逃亡事件の指揮という重要な役割を担っていることもあり、定年延長という形を取らざるを得なかったとみられる><検事総長は内閣に任命権がある。検察の独善や暴走を防ぐため、政権の意向が反映されるのは当然だ>などと、黒川氏の定年延長が次期検事総長への起用含みであることを是認するかのような内容だった。この記事を書いたのは、黒川氏と一緒にマージャンをしていたA記者である。

 さらに、ゴーン事件のために黒川氏の定年延長が必要不可欠、という解説に関して付け加えると、産経と朝日はゴーン事件でも検察寄りの姿勢が目立っていた。ゴーン逮捕をスクープしたのは朝日で、社会面で展開された舞台裏に迫る記事は、まるで“従軍記者”が執筆したかのようだった。産経も前述のB記者(藤森注・<略>の前に出てきたA記者の元上司)が、ゴーン事件をめぐる日本の検察の「人質司法」批判に反論する記事を書いていた。

 つまり、こうしてメディアが当局に取り込まれ、検察にとって都合のいい記事や検察のシナリオに沿った記事が量産される。その結果、検察の情報操作にメディアが加担し、国策操作は正当化されていくのである。

 元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が言う。

 「検察とマスコミと裁判所のトライアングルです。これは私が長年主張してきたことでもありますが、検察とマスコミの癒着関係により、マスコミが検察、特に特捜部の言うことをそのまま記事にし、世間に検察が正義だと思い込ませる。こうした構図の下で裁判所は判断するので、特捜部が扱った事件で無罪判決が下されることがないのです。検察だっていろいろな人間がいる。丸ごと正義だなんてあり得ません。司法メディアと検察は運命共同体であり、利益共同体。検察幹部と付き合って重要な情報を取ってきた記者が、社会部キャップや社会部長になるなど出世する。だから決して批判は書かない。検察イコール正義をつくり上げたマスコミの罪は重い

 <略>