2017年6月30日 第179回「今月の映画」
監督:篠原哲雄 主演:野村萬斎 市川猿之助 中井貴一 佐々木蔵之介 佐藤浩市 高橋克実 森川葵
●(1)平成29年6月21日、日刊ゲンダイ「映画『花戦さ』堅調の裏に2つのブーム」
<假屋崎省吾氏が語る「いけばな」の醍醐味> 意外や意外、野村萬斎(51)主演の時代劇エンターテインメント「花戦さ」(東映)が堅調な動きを見せている。公開4週目にしてランキング7位。スリリングな展開を見せる犯罪サスペンス「22年目の告白 私が殺人犯です」やディズニーの「美女と野獣」、人気ドラマの続編「昼顔」といった多種多様な作品が並ぶなか、大健闘である。 なぜウケているのか。主人公は戦国時代に実在した花僧・池坊専好なる人物で、華道の家元。池坊の当主だけにその世界では有名だが、お世辞にもメジャーとはいえない。織田信長や豊臣秀吉といった時の権力者の乱心に草花をもって仇討ちするストーリーで、時代劇の醍醐味である殺陣のシーンはほぼ皆無だ。 しかし、「今夏公開の『関ヶ原』をはじめとする王道の大作時代劇がある一方で、チャンバラや殺陣の少ない作品もここ数年の時代劇の潮流のひとつ。日本人の心を投影させた文化や伝統を題材に扱い、人間ドラマに重きを置いた作品は、一定層の観客から支持される邦画の新機軸として評価したい」(映画ジャーナリストの大高宏雄氏) 昨今のいけばなブームも大きい。ガーデニングなる外来語が市民権を得て久しいが、植物をこよなく愛するボタニカル系男子を発端に、いけばな教室に通ういけばなMENの存在が各紙誌で取り沙汰されている。この勢いを肌で感じているひとり、華道家の假屋崎省吾氏はこう言う。 「NHK大河『おんな城主 直虎』でも毎回、いけばなの場面が必ずといっていいほど登場し、私自身も出演させていただいているバラエティー番組『プレバト!!』では、いけばなの才能を芸能人が競い合ったりしています。いまだかつてない、いけばなブームが巻き起こるなか、いけばなと花の力をテーマにした映画が公開されたことは非常に喜ばしい。 『花戦さ』は初代・専好の人となりが随所に描かれていて、それを重厚感のある俳優の演技や本物志向のスタッフにより完成された素晴らしい作品だと思います。全編を通して、いけばなの醍醐味が十二分に発揮されていました」 なかでも最も心に響いたいけばなのシーンは? |
〇(2)<STORY>
<けったいな男による、前代未聞のけったいな いけばな> 1573(天正元)年、“物騒”なことで知られる天下人・織田信長の居城、岐阜県。天を衝く昇り龍のような巨大な松の枝と菖蒲の花がその大座敷を埋めていた。花をいけたのは、京の都のど真ん中、頂法寺六角堂の花僧・池坊専好(野村萬斎)。権力にも世俗にも興味のない、よく言えば天真爛漫、花をいけることにのみ無上の喜びを感じるけったいな男。 前代未聞のいけばなを前にした、豊臣秀吉(市川猿之助)、前田利家(佐々木蔵之介)、そして茶人の千利休(佐藤浩市)ら信長の家臣たちは息をのむ。この趣向は受け入れられるのか? 気に入られなければ命はない。「うぬら、この花、いかに見る?」信長の問いに返答できず、固まる家臣ら・・・・・。緊張でその場が爆発する直前、信長は扇で膝を叩き、「見事なり!池坊!」と大絶賛。しかし、その直後、ボキッ!不穏な音を立てて松の枝は折れる。まさかの大失態を犯した専好は絶体絶命!!一同が凍りつく中、専好を救ったのは、なんと若き秀吉だった。「扇ひとつで松の枝を落とすなど、それがしには神業としか思えませぬ」と、当意即妙なものいいでその場を収めてみせた! 花僧・専好と、後の天下人・秀吉・・・・・思えば、これが運命の出会いだった。 <花と茶・・・よきライバル、専好と利休> それから10数年。本能寺の変に散った信長に代わり、豊臣秀吉の治世となり、世の中は安定する。やがて専好も本人の意に反して六角堂の執行(しぎょう・住職)として池坊の顔となり、寺を運営する立場になっていた。六角堂は、今日も花僧の指導で花をいける町衆の活気で溢れていたが、実務に追われる専好は、いつしか無心で花と向き合うことが出来なくなり、幼なじみの町衆・吉右衛門(高橋克実)も心配するほどに悩んでいた。 その頃、専好は河原で死体のように打ち捨てられていた娘を助ける。その娘は、不思議と専好が採ってきた蓮が開花する「ポンッ!」という音とともに生命力を取り戻し、部屋いっぱいに蓮の絵を描きだす。「花の力や!」専好は蓮で生き返った娘をれん(森川葵)と名付けた。 ある日、京の町で偶然専好の花を見かけた利休は、彼を自分の草庵に招く。草庵に差し込む柔らかな光、静寂に響く柄杓や茶筌の音、一服の茶を取り囲む風情が渾然一体となった利休のもてなしに心溶かされる専好。 <これは「戦さ」や。花の力で世を正す!> 投げ入れには一輪の美しい朝顔。しかし、咲き誇る一面の朝顔を楽しみに利休庵を訪れた秀吉は、花が刈り取られた生垣を見て激高する。黄金の茶室の悪評や、秀吉よりも利休の茶に人々が群がった天神さんの大茶会も秀吉を苛立たせたが、二人の断絶を決定的にしたのは、信長の葬儀を行った大徳寺ご門上に設置された利休像。秀吉がその門をくぐる度に利休の足下が秀吉の頭を踏みつけるかのようだと・・・・・。 専好は、前田利家の依頼で秀吉に詫びるように利休を説得するが、彼の心はすでに決まっていた。秀吉の命で利休は自刃する。その後間もなく、秀吉の愛息・鶴松が病死する。利休の呪だとする噂は秀吉の耳にも入り、れんや吉右衛門らにまで粛清の手は及び、多くの町衆が犠牲となった。 「花には、抜いた刀をさやに納めさせる力がある・・・・・」 |
〇(3)<次期家元 池坊専好(四代)>
華道家元池坊の初の女性家元に指名されている次期家元継承者。2015年に専好を襲名。映画の主人公と同じ専好を襲名したのは実に281年ぶりとなる。紫雲山頂法寺(六角堂)の副住職も務める。いのちをいかすという池坊いけばなの精神に基づく多彩な活動を展開。いけばな文化をさらに後世へ継承するため、日本国内のみならず世界中で活躍している。 【池坊といけばな】 室町時代1462年・・・・・池坊専慶が花をいけた記録が『碧山日録』に記される。武将鞍智高春の施食会で菊花を瓶に挿し、会衆を感嘆させる。 室町時代1536年・・・・・天文法華一揆が起こり、六角堂が下京町衆の中心となる。 安土桃山時代1582年・・・本能寺の変 江戸時代1600年・・・・・・・関ヶ原の戦い 2015年(平成27年)・・・・・四代・池坊専好襲名 |
<文責:藤森弘司>
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