2017年11月30日 第184回「今月の映画」
ラストレシピ・麒麟の舌の記憶
原作:田中経一  監督:滝田洋二郎  主演:二宮和也  西島秀俊  綾野剛  宮崎あおい  竹野内豊

●(1)この映画は、偶然に見たのですが、思ったよりも素晴らしかったです。

「映画は、大劇場にふさわしいスケールだった。天皇陛下の料理番による究極のフルコース『大日本帝国食菜全席』のレシピをめぐる暗闘が、日中戦争前の満洲国(当時)と2000年代初頭の2つの時間を並行して語られる。不穏な時代を背景に主演の二宮和也も、料理人役の西島秀俊も“食”という平和の証しと格闘。見終わったあとは、妙に穏やかな気分になった」と高須基仁氏(出版プロデューサー、夕刊フジ、11月30日)が語っていますが、私(藤森)も同じような思いがしました。

今回の映画で、とても印象的だったのが、次の2つです。

<本当に欲しいものは近くにある>
私たちは、どうしても遠くを見てしまいますが、本当に!「本当に欲しいものは近くにある」と気づくと、生きる事がとても「楽」になります。

<何かを得ようと思うと、何かを失う>
まさに「得失一如」です。私たちは、何かを得て喜びますが、その瞬間、何かを失っていることに、なかなか気づかないものです。
逆に言えば、何かを失った瞬間、何かを得ているものです。そういうバランス感覚が身に付くと、何かを一生懸命に追うことも少なくなり、生きる事が、同様、とても「楽」になります。

ある日本のノーベル賞受賞者が、「顕微鏡をのぞいて観察する時間は誰よりも長かった」と胸を張りました。そのために、ノーベル賞を受賞できるだけの業績をあげることができたのでしょう。
しかし、それだけ顕微鏡をのぞけば、かなり他の時間を削っているわけで、もちろん、極めて素晴らしいことですが、同時に、他の何かを、確実に失っているはずです、当然に。

そういうことも深く味わえた素晴らしい映画でした。

〇(2)<INTRODUCTION>

1930年代の満州。天皇の料理番・山形直太朗が人生をかけて考案した究極のレシピ集「大日本帝国食菜全席」。
歴史に消えたそのレシピの謎を追うのは、どんな味でも再現できる、絶対味覚=“麒麟の舌”を持つ料理人・佐々木充。
彼が直太朗の過去を辿っていくうちに、そのレシピが歴史をも揺るがす恐ろしい陰謀を孕んでいることに気がつく・・・・・。
美食を巡る70年越しの感動ミステリー映画が誕生した!
佐々木役を演じるのは『母と暮らせば』(2015)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した二宮和也。
アメリカのアカデミー賞外国語映画賞受賞という日本映画史上初の快挙を成し遂げた名匠・滝田洋二郎監督。

〇(3)<1930年代の満州とは?>

日本人、満州族、ロシア人、中国人など多くの人種が入り乱れ、南満州鉄道(満鉄)の輸送力と豊富な資源に支えられた満洲国(現・中国東北部)。しかし、日本の植民地支配のため満洲に駐屯していた日本陸軍部隊・関東軍によるその強引で横暴な建国過程により、1932年の建国当初から満州国は国内外の厳しい批判にさらされてもいた。

時の首相・犬養毅は満州国の承認を拒否、国際連盟も、満洲地域での日本の優位性を認めつつも満州国の独立性については否定的な見解をしめしたリットン調査団の報告書を採用し、同国を承認しなかった。満州国の正統性を強調し、その存在意義を国内外に主張することは、満洲建国をリードしてきた関東軍にとって重要な課題だったのだのである。

日本人・漢人・朝鮮人・満州人・蒙古人による五族協和のスローガンを掲げ、清朝最後の皇帝・溥儀を執政(後、皇帝)に据えたのも、満洲国の正統性を主張するための大義名分に他ならなかった。

だが、関東軍と溥儀の関係は長続きしない。日満関係を充実させるという点で考えが一致していた両者だが、あくまで日本の支配下に満洲国を置こうとした関東軍と、満洲国皇帝として独自色を模索した溥儀は皇帝としての情熱を失い、満洲皇帝の風紀の乱れも目立ち始める。

そして、関係悪化が顕著になる1937年ごろから、関東軍内部に溥儀の後継者選びに介入し、溥儀の失脚や退位を目論む勢力が現れ出す。両者の関係悪化により顕在化した動きであるが、満洲国のあり方について根本的に考え方の異なる関東軍と溥儀との間の溝は、実は満洲建国のその瞬間からでき始めていたと言えるだろう。

〇(4)<STORY>

2002年。依頼人の「人生最後に食べたい料理」を再現して高額の報酬を得る。通称=最期の料理人・佐々木充(二宮和也)。彼はすべての味を記憶し再現することのできる、絶対味覚“麒麟の舌”の持ち主である。幼少時に両親を亡くした充は、同じ境遇の柳沢健(綾野剛)とともに施設で育ち、自らの才能を頼りに起業。しかし経営に失敗して多額の借金を抱え込み、いまや料理への情熱も失いつつあった。

そんな時、巨額の依頼が舞い込んできた。依頼人の名は楊晴明(笈田ヨシ)。世界各国のVIPが彼の料理を食べに来るという、中国料理界の重鎮。楊の依頼とは、かつて満洲国で日本人料理人・山形直太朗(西島秀俊)が考案したという、伝説のメニュー<大日本帝国食菜全席>のレシピの再現であった。楊は、かつて山形の調理助手としてメニュー作成に協力していたが、太平洋戦争開戦によって消息を絶った山形とともにレシピ集も散逸されたというのである。太平洋戦争開戦直前の満洲国で、山形の身に何が起きたのか・・・・・?なぜ料理は発表されないまま歴史の闇に消えてしまったのか・・・・・?

充は、宮内庁での情報を頼りに山形の助手を務めていた鎌田正太郎を訪ねる。それは「呪われたレシピ」だという鎌田。彼の話から70年前の出来事が蘇っていく・・・・・。

1933年。天皇の料理番・山形直太朗は国命を受けて、究極の日本料理<大日本帝国食菜全席>のメニュー開発のため、妻・千鶴(宮崎あおい)とともに満洲国に移住する。現地での助手は満州人の楊晴明と、日本人青年の鎌田正太郎。たった4人のチームだが、山形にも、一度食べた味を記録し再現できる、絶対味覚“麒麟の舌”があった。

世界中の食材が集まる満州で、山形の才能は大きく開花、斬新なメニューを次々と生み出していく。山形は、日本と他国の料理を融合して新たなレシピを生み出すことが民族間の相互理解の助けとなり、料理で和を成すことができると考えるようになる。そして、これまで以上にメニュー開発に没頭していく。愛する家族のことも顧みず・・・・・。

そんな時、山形にメニュー作成を命令した、ハルビン関東軍司令部の陸軍大佐・三宅太蔵(竹野内豊)から、満洲国への天皇行幸が決定したという知らせを受ける。その晩餐会で、大日本帝国食菜全席をお披露目するのだ。しかしその裏には、戦争へと傾倒する日本軍部が画策した、巨大な陰謀が渦巻いていた。それに気付いた山形は、レシピにあるメッセージを遺そうとするのだが…‥。

70年の時を超えて、充は、真実へと辿りつくことができるのだろうか・・・・・!?

<文責:藤森弘司>

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