2016年2月29日 第163回「今月の映画」
スティーブ・ジョブズ
②ー①
<癌とは何か?対策編⑨>

監督:ダニー・ボイル  主演:マイケル・ファスベンダー  ケイト・ウィンスレット  セス・ローゲン  ジェフ・ダニエルズ

●(1)スティーブ・ジョブズ氏の特徴は、下記の・・・・・

<<<(5)用語解説の◆養子

アップル製品は他社製品との互換性がないこと、ユーザーに改造させないこと(クローズド)で有名だったが、それはジョブズの「すべてをコントロールする」という執拗なまでのこだわりから来ている。その個性は、自分が養子だったことが関係していると言われる。本当の両親は若さと宗教の違いから結婚を認められず、ジョブズを養子に出した。シリア出身の父親はサンノゼでレストランを経営しており、互いにそれを知らないまま、店の常連だったジョブズは彼と顔を合わせていたことを後年知る。>>>

ここにあると思っています。

○(2)<STORY>

<1984年 Macintosh発表会>

「今日の9時41分、世界は永遠に変わる。
今世紀の2大事件だ」

「直せ」とスティーブ・ジョブズは冷徹に言い放つ。「無理だ」と部下のアンディが即答する。アップル新製品の発表会本番40分前。今日の主役のパソコンMacintoshが「ハロー」と挨拶するはずが、黙ったままなのだ。マーケティング担当のジョアンナが、音声ソフトは宣伝していないから省こうと説得するが、ジョブズはそれなら発表会は中止だと絶対に譲らない。

廊下に積まれた「タイム」誌を見たジョブズは、“今年の人”に選ばれるはずだったのに、元恋人のクリスアンの娘リサにまつわるスキャンダルのせいで降ろされたと憤慨する。そのクリスアンがリサを連れて控室に現れる。娘の認知を拒否し、「タイム」誌の取材に対して「米国男性の28%は父親の可能性がある」と吐いた暴言に抗議に来たのだ。まだ5歳のリサは、父と信じる男から彼が開発したコンピューターにLisaと名付けたのはだと言われ、小さな胸を痛める。

15分前、音声デモと格闘するアンディを脅し、突然胸ポケット付きの白いシャツを用意しろとジョアンナに命じ、共同創業者で親友のウォズニアックから頼まれたApple Ⅱチームへの謝辞をはねつけるジョブズ。そして2分前、自ら連れて来た新CEOのスカリーと舞台袖で交わした意外な会話とは・・・・・?

<1988年 NeXT Cube発表会>

「またリサの顔にボウルを投げたら
・・・・・君は死ぬ」

「僕はうれしくない」とジョブズは憮然と答える。Macintoshの売上不振から退社に追い込まれ、新たに立ち上げたネクストの発表会。新会社に付いて来てくれたジョアンナから、アップルの連中がお祝いに来ていると言われたのだ。「誰から呼ぶ?」と聞かれたジョブズは、ウォズニアックを指名する。にこやかに現れたウォズに、マスコミ相手に自分を批判したのは、スカリーに強制されたのかと確かめるジョブズ。正直な気持ちだと打ち明けるウォズは、相変わらず傲慢なジョブズに、マシンを創り出したのは自分なのに、何もしていないジョブズがなぜ天才と言われるのかと憤慨する。さらに、今日の主役のNeXT Cubeはパソコン史上最大の失敗作だと通告するのだった。

小学校をサボって会場で遊んでいるリサを、クリスアンが迎えに来る。あの騒動の後、ジョブズはクリスアンに家を買い与え、十分な養育費を送っていた。彼女の浪費と投げやりに見える子育てにジョブズは腹を立て、またしても激しい口論を繰り広げる。養子という複雑な家庭環境に育ったジョブズもまた、娘にどう接していいかわからない。別れ際にふいに抱き付いて「一緒に住みたい」と呟くリサを、不器用なジョブズは抱きしめ返すことさえできなかった。

本番6分前、こっそり潜入したスカリーがジョブズの前に現れる。4年前、誰がジョブズを裏切ったのか、本当は何があったのか・・・激烈な“対決”の後、ジョアンナに告白したジョブズの“復讐計画”とは・・・・・?

<1998年 iMac 発表会>

 「発表会直前になると皆、
酔って本音を言うらしい」

「やったな!」と満面の笑みで、スタッフとハイタッチするジョブズ。iMac発表会の本番前、誘導灯を消して完全な闇にするという長年の願いがようやく実現したのだ。2年前、業績不振でスカリーを解雇したアップルがネクストを買収したのを機に復帰したジョブズは、現在はCEOを務めていた。「うれしいね。ウォズも来てくれてる」と上機嫌で客席を指さすジョブズは、さらにジョアンナから莫大な“売上予測”を聞き、勝利の歓喜に浸るのだった。

だが、ジョアンナはずっと不機嫌だった。ジョブズとリサの深刻な仲違いを聞いたからだ。母親が家を売るのを止めなかったリサに激怒したジョブズが、ハーバード大学の学費を払わないと宣告したのが原因だった。ジョアンナは仲直りしなければ会社を辞めると涙ながらに訴える。一人になったジョブズの瞼に、いつも自分の愛を求めていたリサの姿が次々と去来する。

10分前、舞台に戻ったジョブズにウォズが、Apple Ⅱのチームに謝辞をという頼みを蒸し返す。10億ドルの損失を出し、破産まで90日を切っていたチームだと再びはねつけるジョブズ。記者と大勢の社員がいる前で、二人のバトルが始まる。

開始直前、14年前の「タイム」誌の記事を読んだリサが、父への怒りを爆発させる。発表会は何があっても9時スタートを厳守してきたジョブズが、遅れるのも気にせず、リサに語った真実とは・・・・・?

○(3)<ジョブズ役のマイケル・ファスベンダー>

<ジョブズは他人に弱さを見せたり、心を開くことができない。
彼にはそういう
鎧の光沢があった。>
Q・・・スティーブ・ジョブズの業績についてはもはや議論の余地はないものの、彼のやり方には不人気な部分もあり、特に彼のマキャベリ的なやり方が不評だったと指摘する人も多いです。あなたの目には、その辺りはどう映っていますか?<(藤森注)マキアヴェリズム・・・目的のためには手段を選ばない。権力的な統治様式。マキアヴェリの「君主論」の中に見える思想。権謀術数主義(広辞苑)>

A・・・スティーブ・ジョブズにはマキャベリ的な側面があったと強く思う。残酷な一面も、たぶんあっただろうね。でも、人は挑発されたり、人に操られることも必要とする時がある。役者として言わせてもらうと、監督たちも時として同じ手を使うものだよね。それに仕事ばかりしてると、我慢の限界は確実に短くなってくる。Macintosh発表前の3~4週間前の間なんて、彼らは一日20時間は働いていたと思う。どんなビジネスでも、じっとしていたら競争相手に追い抜かれてしまう。実現しようとしているビジョンがあるとしたら、ずっとそのビジョンに向けて突っ走っていないといけない。ジョブズには、そのビジョンを何十年にもわたって間断なく追い続けなければいけない側面があった。
Macintoshのオリジナルのデザイン・チームの一人が、ジョブズは「現実歪曲フィールド」の中で動いてたって言ったけど、彼が空が緑だと言えば、周りの人間はみんな言う通りだと信じ始めたという意味らしい。彼がパーソナルなコンピューターというアイディアが実現できると信じ込んだのは、その意志の力のおかげであって、我々が彼らに共感して同様に信じ込んだのもそのおかげなんだ。あの意志力がなかったら、果たして彼が成し遂げたことが完遂できたかわからない。でも、彼らの意見はこれで一致しているような感じだった・・・つまり、彼は複雑な人物だったとね。Q・・・今回の作品は、ダニー・ボイルが撮った中でも最長の脚本のはずです。彼は視覚的な語り口の映画的センスで知られていますが、アーロン・ソーキンの早い流れの脚本に、ダニーはどんな演出をしたのでしょうか?

 

A・・・ダニーはポジティブで僕らを激励してくれるし、エネルギーの塊のような人だよ。語り口にも、同じようなエネルギーを吹き込んでくれてると思う。彼がカメラに注ぎ込むエネルギーは、こういう作品ではすごく重要でね。ほら、本質的に、2時間近くしゃべりまくりの映画だからね。ダニーはもともと演劇畑の人で、監督の仕事もそこからスタートした人なので、その世界のことは熟知してるんだね。いろんな面で、この脚本はとても演劇的なストーリーだよね。登場人物が袖から入ってくることが多いし、この作品が一つの演劇として演出されてるのは、とてもはっきりしている。Q・・・ジョブズと同じレベルで対等にやり合い、たまに言いくるめることもできる唯一の人間だったジョアンナ・ホフマンという役柄に対して、ケイト・ウィンスレットはどんな解釈をしたとお考えですか?

 

A・・・ジョアンナはスティーブにかなりのインパクトを与えたと思う。ジョブズがアップルを追われた後、ひきこもってNeXTに没頭するくだりでは、彼女はジョブズに一切攻撃を加えてないのがわかるよね。彼女のおかげでジョブズは素直になるわけで、ケイトの演技はそこをよく掴んでると思う。ジョブズの中にある人間的分部をすべて引き出せるのはジョアンナだけで、それは普段は隠れてるんだよ。僕から見ると、スティーブは四六時中ガードを張ってて、時としてそれが、ほとんどご乱心という形になって噴き出してくるんだ。彼はブロックしてるせいで、人に対して感情的な弱さを見せたりとか、心を開くことができないんだ。僕は彼のインタビューを何度も観たけど、いつもそういうのようなものでガードしてるように見えたね。彼にはそういう鎧の光沢があった。Q・・・ジェフ・ダニエルズは「ニュースルーム」でアーロンと組んだことがあるので、ソーキン印の脚本には準備万端だったのでしょうね。

 

A・・・ドライなジェフ・ダニエルズ炸裂だね。彼ほどドライなユーモアのセンスを持ってる人に、僕は出会ったことがない。信じられないほどの知性をこの作品にもたらした。そういうのを彼はずっとやってるからね。彼はミシガンで劇団を運営してて、ストーリーテリングというもののすべてを熟知してるんだ。彼がやるのは些細なことなんだけど、第一幕で、ジョブズがワインを飲んでるのを、スカリーはただそばで見てる。ああいうニュアンスは面白いね。表には出てこないもっと複雑な関係みたいなのが、バシッと表れてる。スティーブとは正反対の全く別の世界から来ただけに、ジョブズはスカリーに魅かれたんだと思う。あれ以上かけ離れたバックグラウンドもない。スカリーはいい家庭のいい教育を受けた東海岸の

特権階級の出身で、ジョブズはある意味、そういうものに対して反逆したんだ。ところが、心のどこかに、純粋に敬愛する気持ちがあって、スカリーには彼も一目置いていた。アップルの製品発表に際してスティーブが正装するのは、ジョンのスタイルの向こうを張ってるんだね。Q・・・セス・ローゲンとマイケル・スタールバーグについてはいかがでしょうか?

 

A・・・セスのような人は、あらゆる撮影現場に必要だと思う。すごく心が広く、気さくでリラックスしてるけど、今まで共演した誰よりも仕事に対して厳しい人だ。彼はやるべきことをすんなりとこなしてみせるし、しかも楽々となんだけど、みんな知っての通り、彼は脚本も書くし、監督も、演技もこなし、そのすべてにおいて一流だ。彼が演じる役は、人間性がにじみ出てるし、すごく正直だよね。マイケルはかなりシリアスな俳優で、休憩の間やリハーサルの期間であっても、彼からアンディ・ハーツフェルドが抜けてないことが多かった。彼は役作りに関してかなりテクニカルなこだわりを持ってて、できうる限り、役を吸収したがった。観てる人が気づけばの話だけど、彼は脚本のリズムやソーキンの抑揚をちょっと崩した唯一の役者なんだ。本当に壊したわけではなくて、リズムを変えるんだよ。彼は脚本を大事にはしてるんだけど、間を挟み込むんだ。彼はこの映画に独自のハーツフェルド像を持ち込んでいるね。

○(4)<Review i>

<驚くほど大胆で洗練された手法で、解読不可能な天才の、人間性に迫る。>(立田敦子・映画ジャーナリスト)

PCを使い始めた80年代から長い間、私はどちらかというとWindows派だった。周囲にはアップルの信者も多く、彼らはそのデザイン性の素晴らしさを熱く語っていたし、その機能美には惹かれもしたのだが、基本的には軽くて持ち運びやすいという利便性からの選択だった。正直なところ、あんまりこだわりはなかったのだ。しかし、10年ほど前からはiPod、iTunesなど音楽系の製品からアップルの洗礼を受け、Mac Book Pro、Mac Book Air、iPhone、iPad miniなど、みるみるうちにアップル製品が増え、いつの間にかバリバリのMacユーザーの道を歩むようになった。

そんなわけで、伝説のプレゼンター、スティーブ・ジョブズに関しても、熱狂的なファンというワケではなく、むしろちょっと距離を置いて見ていた。
しかしながら、2012年に翻訳本が出たウォルター・アイザックソンによる伝記「スティーブ・ジョブズ」を読むと、すっかりジョブズに魅せられてしまったのだ。

米国「タイム」誌やCNNのCEOを務めたジャーナリストでアインシュタインやキッシンジャーの伝記も手掛けているアイザックソンが、ジョブズ自身に2年にわたって約50回のインタビューを行い、また彼に関わった100人の人々に話を聞いてまとめた約900ページに及ぶ力作である。

シリア人の父と米国人の母との間に生まれるが生後すぐに里子に出され、養子として育てられた子供時代。ズバ抜けてIQが高く飛び級で進学した高校時代からドラッグにハマり、ヒッピー的生活を送った青春時代。大学を中退し、インドへの放浪の旅から禅の影響を受け、自宅ガレージで天才エンジニア、スティーブ・ウォズニアックとのアップルの創業。成功と挫折が交互に訪れる企業家として歩み、そして、癌との闘病と死。ジャーナリストらしく淡々としたアイザックソンの筆致にもかかわらず、56年という短い人生を怒涛のように駆け抜けたジョブズの人生は、ドラマティック過ぎるほど、ドラマティックだった。最も興味深いのは、彼が成し遂げた“偉業”やその伝説的なプレゼンテーションの上手さではなく、その強烈なパーソナリティである。

最高のものしか評価せず、あとはゴミ扱い。多感で感極まると会議中でも涙し、他人を辛辣な言葉で傷つけた。いわゆる“嫌なヤツ”で“サイテーな男”であるのだが、それでも魅力的な、複雑なキャラクターなのである。

そうしたジョブズの“人間性”に迫った映画が、ダニー・ボイル監督の『スティーブ・ジョブズ』である。
エピソードも盛りだくさんで、登場人物たちの顔ぶれも華やか。一見、映画のテーマにうってつけのようなジョブズの人生だが、(2013年に製作されたアシュトン・カッチャー主演Xジョシュア・マイケル・スターン監督の伝記映画『スティーブ・ジョブズ』がそうだったように)表面的な“事件”にとらわれすぎると陳腐なものになりかねない。本質を見失ってしまうのだ。

だが、ボイル版『スティーブ・ジョブズ』は、3つのイベント=製品の発表会の舞台裏だけを描くという、高難度の裏技を使い、驚くほど洗練された手法で、ジョブズという人間の魅力を122分で見事に描き出した。

第1幕は、1984年のMacintoshの発表会だ。1977年の起業から7年、アップルの上場で約2億ドルの資産を手にし、IT長者の仲間入りをしたジョブズは、世界を変えるPCを創り出すという野心に燃えていた。その舞台裏では、リサという娘をもうけた元ガールフレンドとの間にいたたまれない確執があり、共同創業者ウォズニアックとの心のすれ違いがあり、自ら迎えたCEOジョン・スカリーとの戦友の契りもあった。

第2幕は、1988年のNeXT Cubeの発表会だ。Macintoshの業績不振から自ら創業したアップルを退社に追い込まれたジョブズ。彼が立ち上げた新会社の勝負作であるPCの発表会の楽屋裏である。4年前、自分を退社に追い込んだスカリーとの対面。旧友ウォズとの確執、そしてどう接していいかわからない娘リサの存在。

第3幕は、1998年のiMacの発表会である。アップルによるNeXTの買収によってアップルに復帰し、スカリーを解雇、ジョブズはCEOの座についていた。お祝いに駆け付けた人のいいウォズニアックと、スタッフの前で言い争いをし、大学生となった娘リサからは14年前の「タイム」誌の記事の件で猛抗議を受ける。

これらの3幕は、彼の人生において、最も実業家として恵まれた時期だったとはいえない。高い志のもとに作ったPCは話題にはなるが、ことごとく売れなかった。iPodやiPhone、iPadなどデヴァイスで輝かしい業績を上げる前の話だ。その葛藤の時代に焦点を当てているのが輝かしい業績を上げる前の話だ。その葛藤の時代に焦点を当てているのが面白い。

登場人物も限定されている。アップルの共同創立者で旧友のウォズニアックと数名の技術者、CEOスカリー(アップルのCEOにジョブズが彼を誘った時の口説き文句「一生砂糖水を売り続けるか?それとも世界を変えるチャンスに賭けてみるか?」は有名なジョブズ語録の一つだ)。娘リサ、そしてジョブズに真っ向から反対意見を言える数少ない人間の一人であるマーケティング担当のジョアンナ・ホフマンだ。

ほとんど会話劇といってもいいこの40分X3幕に、複雑なジョブズのキャラクターと人生がぎゅっと凝縮されている。
脚本は、『ソーシャル・ネットワーク』(10)でアカデミー賞を受賞しているアーロン・ソーキンが手掛けた。前述のアイザックソンの伝記を参考に、自らも取材をして書き上げたというが、ジョブズのトレードマークであるスピーチシーンさえ描かず、裏舞台に徹する大胆で潔いアプローチは見事で、感動に値する。会話分部だけで(ほとんど全編そうなのだが)200ページにもわたっているというが、どのセリフをとっても無駄がない。

また、ソーキンの脚本の真意を正しく解釈し演じきった、主演のマイケル・ファスベンダーもまた素晴らしい。強気で、人を傷つける辛辣な言葉を吐く一方、誰よりも繊細で情熱があり、志に忠実なジョブズの弱さや魅力を十二分に表現している。

ジョブズは、話術の巧みさで知られるが、その実、不器用な人間でもあった。彼を表現する時に使われる言葉「現実歪曲フィールド」に象徴されるように、相手をパワーでねじ伏せ、自分の思い通りにしてしまうカリスマ性の裏に隠れていた人間性がこの映画では浮き彫りになる。

2015年の12月、来日していたスティーブ・ウォズニアックにこの映画の感想を聞いてみた。「YouTubeのない時代だから、本当に何が起こったのか、今となっては誰にもわからないよ。でも、このフィルムメーカーのアプローチは洗練されているし、素晴らしいと思うよ」という返事が返ってきた。実際、ここで描かれるジョブズは、ソーキンなりの解釈によるジョブズであろう。だが、これまで読んだどんなジョブズ評よりも、核心を突いているように思えてならない。

<立田敦子・・・・・大学在学中より編集・ライターの仕事を始め、映画ジャーナリストとして活躍。インタビューや映画祭など、海外での取材も精力的に行うほか、「エル・ジャポン」「フィガロ・ジャポン」「GQ JAPAN」「すばる」「In Red」「キネマ旬報」など、様々な媒体で執筆している。著書「どっちのスター・ウォーズ」(中央公論新社、監修:河原一久)が発売中。>

○(5)<Timeline & Glossary>

<スティーブ・ジョブズ 年表>

◆1955年(0歳)
2月4日、スティーブ・ジョブズ生まれる。誕生前から養子に出されることが決まっており、大学に進学させることを条件にポール&クララ・ジョブズ夫妻に引き取られる。

◆1971年(16歳)
5歳年上のスティーブ・ウォズニアックと出会う。ウォズとともに無料で長距離電話をかけられる「ブルーボックス」を開発し、売って歩く。

◆1972年(17歳)
高校の後輩であるクリスアン・ブレナンと交際を始める。卒業後、オレゴン州ポートランドにあるリード大学に進学するが、すぐに中退。

・・・・・

◆1991年(36歳)
ローリーン・パウエルと結婚。

・・・・・

◆2003年(48歳)
膵臓に腫瘍が発見される。

◆2004年(49歳)
膵臓癌の摘出手術を受ける。

◆2005年(50歳)
スタンフォード大学の卒業式でスピーチをする。

・・・・・

◆2009年(54歳)
病状が悪化しCEOを休職、療養に入るが半年で復帰。

◆2010年(55歳)
「iPad」発売。アップルの株式時価総額がマイクロソフトを抜く。

◆2011年(56歳)
10月5日、パロアルトの自宅にて死去

<用語解説>

◆Lisa(1983年)
本体・ディスプレイ・メモリー体型のオフィス向けパーソナルコンピューターで、16ビットマイクロプロセッサーを搭載。アップルは販売当初、「Lisa」という名称は“Local Integrated Software Architecture”の頭文字をとったものと発表していたが、 伝記「スティーブ・ジョブズ」執筆のためのウォルター・アイザックソンによる取材では「僕の娘にちなんだ名前に決まってるじゃないか」とジョブズは答えている。高価な価格設定もあり、発売から2年も経たずに製造打ち切りとなった。

◆ジョブズのアップル退社劇(1985年)
Macintoshを売ることに力を入れるべきだと主張するジョブズと、売れていないMacintoshより会社全体の利益を考えると言う取締役会が衝突。ジョブズはスカリーの中国出張中に行われる経営幹部会議でクーデターを画策していたが、そのことを知ったスカリーは出張を取りやめ会議に出席。自分とジョブズのどちらを支持するかを聞き、その場にいた全員がスカリー支持を表明した。ジョブズとスカリーの蜜月の終わりだった。

◆養子
アップル製品は他社製品との互換性がないこと、ユーザーに改造させないこと(クローズド)で有名だったが、それはジョブズの「すべてをコントロールする」という執拗なまでのこだわりから来ている。その個性は、自分が養子だったことが関係していると言われる。本当の両親は若さと宗教の違いから結婚を認められず、ジョブズを養子に出した。シリア出身の父親はサンノゼでレストランを経営しており、互いにそれを知らないまま、店の常連だったジョブズは彼と顔を合わせていたことを後年知る。

<文責:藤森弘司>

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