2014年8月31日 第145回「今月の映画」
INTO THE STORM
監督:スティーブン・クエイル  主演:リチャード・アーミティッジ  サラ・ウエイン・キャリーズ  マット・ウォルシュ

●(1)アメリカの中西部は竜巻街道と呼ばれるように、多数の竜巻が、毎年、発生する。にもかかわらず・・・・・

<<<竜巻渦は“吸い上げ渦”と呼ばれるように、激しい上昇流を伴うが、渦の中がどうなっているか誰も見た人はいない。>>>

<<<メソサイクロンは肉眼で見ると、雲底下に垂れ下がった巨大な雲の渦巻き(壁雲)として確認できるが、この大きな渦巻きであるメソサイクロン内で直径数100mの渦が地上に達したものが竜巻である。メソサイクロンからどのように竜巻が形成され地上にタッチダウンするのかが、竜巻の最大の謎といえる。>>>

とパンフレットにあります。

人類は月まで行きました。また、火星に人工衛星を到達させたり、小惑星探査機「はやぶさ」が、20億キロメートル先の小惑星「イトカワ」に到着して帰還できる時代に、毎年、多数の竜巻が発生し、甚大な被害が出ているにもかかわらず、<<<渦の中がどうなっているか誰も見た人はいない>>><<<メソサイクロンからどのように竜巻が形成され地上にタッチダウンするのかが、竜巻の最大の謎>>>というのも不思議なものです。

竜巻の被害はもの凄いもので、竜巻が通った後は、ほとんどすべてが破壊されます。牛や車が空から降ってきたら、二次被害も大きいものがあります。日本では魚が降ってくることがありましたが、車や牛が振ってきたら、喩えようもないショックです。家一軒がメチャメチャになります。

竜巻の恐ろしさを具体的に分かるためにも、この映画は必見です。

全体の4分の3くらいから最後までが素晴らしい。

○(2)(パンフレットより)<STORY>

 アメリカ中西部、コロラド州シルバートン。6月16日、ゲイリーが教頭を務めるシルバートン高校では卒業式を当日に控えていた。彼には同じ高校に通う3年生の長男ドニーと2年生の次男トレイというふたりの息子がいたが、母親を亡くして以来、ビデオ撮影が趣味の内気な長男ドニーとの仲はどうもうまくいっていない。

同じ頃、ドキュメンタリー影像を撮影するべくピート率いる竜巻ハンター・チームが装甲車“タイタス”で竜巻の発生場所を探していた。彼らは気象学者の女性アリソン博士を竜巻の捜索のために雇っているが、もう3ヶ月、ただの雲しか撮れていない。しかしアリソンはついに怪獣並みの破壊力を持つ巨大竜巻の発生を確信し、一行はシルバートンの町へ向かう。

そんなプロのストーム・チェイサー(竜巻を追って観測する研究者)がいる一方、スリルを求めるアマチュア・チェイサーの集団もいた。You Tubeにおバカ動画をアップし、有名になることを目論むボンクラ男たちのチームだ。彼らはTVで見たタイタスを路上で目撃し、興奮してその後を追いかけていく。

再び高校。卒業式の時間が近づく頃、ドニーは秘かに想いを寄せる女子生徒ケイトリンが、インターンの課題提出用の動画ファイルが壊れてしまい困っていることを知る。そこで彼は彼女と一緒に閉鎖した製紙工場に出向き、環境問題についての課題影像を撮り直すことを提案した。

そして卒業式が始まった。しかしその最中に天候は急速に悪化。まもなく信じられないほど猛烈な巨大竜巻が学校を襲う。生徒たちは校長の指示でシェルターに一時避難するが、校舎は破壊され、まだ危険は収まらない。そんな中、学校にドニーがいないことを知ったゲイリーは息子の捜索のために外に飛び出す。
そして偶然、竜巻を追うアリソンたちと合流するのだが・・・・・。

圧倒的で未知なる脅威を前にしながらも、果敢に大切な仲間や家族を想い、懸命に守ろうとする人々。そこには自然の猛威に立ち向かう親子の絆も描かれる。一瞬にして崩れ去る日常。前代未聞のパニックの中、想像を絶する24時間を生き残る術はあるのか?そして史上最大の“怪物”から、愛する者を守ることはできるのか・・・!?

○(3)<ABOUT THE STORM>

<スーパーセルとトルネード>
<巨大竜巻のメカニズム>

 アメリカ中西部は、「竜巻街道」と呼ばれるように竜巻の多発地帯として知られている。この地域で発生する巨大な竜巻は、トルネード(tornado)と呼ばれ、通常の竜巻とは区別されている。巨大竜巻を生み出すのは、巨大に発達した特別の積乱雲であり、スーパーセルという。スーパーセルは、鉛直(えんちょく)方向に風が変化する影響で、積乱雲自体が回転するのが特徴であり、雲内の回転は直径数kmのスケールを持ち、メソサイクロン(竜巻低気圧)と呼ばれる。メソサイクロンは肉眼で見ると、雲底下に垂れ下がった巨大な雲の渦巻き(壁雲)として確認できるが、この大きな渦巻きであるメソサイクロン内で直径数100mの渦が地上に達したものが竜巻である。メソサイクロンからどのように竜巻が形成され地上にタッチダウンするのかが、竜巻の最大の謎といえる。

スーパーセル内の親渦であるメゾサイクロンから生じる竜巻は複雑な構造を示すことが多く、しばしば直径1kmの竜巻渦の中により小さな渦が何本も回転する、“多重渦”の構造を示す。竜巻渦は“吸い上げ渦”と呼ばれるように、激しい上昇流を伴うが、渦の中がどうなっているか誰も見た人はいない

アメリカ中西部は、地上付近ではメキシコ湾からの暖かく湿った風が入り込み、上空ではロッキー山脈を越えた渇いた風と偏西風が卓越し、スーパーセルが発生しやすい条件が整う。こうしてできたスーパーセルは直径が数100kmにも達し、寿命も長いもので24時間を超える。さらに、スーパーセルが複数発生すると、いくつもの州にかけて数10個の竜巻が発生する、“トルネード・アウトブレイク”が起こる。

スーパーセルは、単に竜巻を生み出すだけでなく、降雹、強雨、ダウンバースト(下降流突風)、落雷を伴うので、まさに嵐(サンダーストーム)である。日本でもスーパーセルはしばしば発生しており、2008年からは“竜巻注意情報(気象庁)”が発表されるようになった。

<トルネードの脅威と対策>

 トルネードは、しばしば風速が100m/sを超えるような激しい風を伴い、地上の構造物には壊滅的な被害が生じる。竜巻に伴う風速を直接測ることは不可能といってもよく、被害の状況から竜巻の強さのレベルを推定する。この竜巻の被害スケールは「Fスケール」と呼ばれ、日本人の藤田哲也博士(シカゴ大学)のイニシャルをとったものである。現在は、「EFスケール(Fスケールの改良版)」が用いられており、EF5は最強クラスの竜巻で、風速は90m/s以上に達する。EF5の竜巻になると、牛や車が降ってくるなど、“ミステリー”が起こり、想像を絶する現象が生じる。竜巻の怖い点は、単に風速が速いだけでなく、気圧の降下により吸い上げる効果とミサイルと呼ばれる飛散物による破壊の連鎖である。

最大級のスケールを有するトルネードとなると、低層階の構造や窓など開口部を少なくして竜巻対策をとっていても、鉄筋の構造物自体が壊滅することもある。つまり、最強の竜巻に対しては、地下シェルターに逃げるしかないのである。

直径100mの竜巻を観測的に捉えることは難しく、アメリカでは複数台の車載型レーダーで竜巻を追いかけて至近距離から観測する、大規模な野外観測実験が実際に行なわれている。その際、“戦車”のような観測車両を作らないと、竜巻には太刀打ちできない。

アメリカでもスーパーセル雲内のメソサイクロンをドップラーレーダーで検出して気象警報を出しているが、雲底下で回転するメソサイクロンからトルネードが発生する瞬間を捉えることが予測向上の決め手となり,”ストームチェイサー(竜巻追跡者)”による竜巻渦の目視観測が重要な情報となっている。

F0  風速17~32m/s    煙突やアンテナが壊れる・・・・・・・・・・・
EF0 風速29~38m/s
F1  風速33~49m/s    屋根瓦が飛ぶ、車の横転・・・・・・・・・・EF1 風速39~49m/s
F2  風速50~69m/s    屋根のはぎとり、非住家倒壊・・・・・・・EF2 風速50~60m/s
EF3 風速61~74m/s
F3  風速70~92m/s    住家倒壊、車が飛ばされる・・・・・・・・・EF4 風速75~89m/s
F4 風速93~116m/s    住家がバラバラに・・・・・・・・・・・・・・・・・EF5 風速90m/s~
F5 風速117~142m/s   ミステリーが起こる・・・・・・・・・・・・・・・・・ 〃   〃
<TEXT BY小林文明(防衛大学校地球海洋学科教授)>

<文責:藤森弘司>

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