2013年3月31日 第128回「今月の映画」
だいじょうぶ3組
監督:廣木隆一  主演:乙武洋匡   国分太一   余貴美子

●(1)今回の映画「だいじょうぶ3組」は、<第128回「今月の言葉」「カウンセリングとは何か(八苦)」>の中の「求不得苦(ぐふとくく)」をまさに超越した方、乙武洋匡氏の映画です。

乙武氏は本当に不思議な方です。この映画の中で、乙武氏は小学校の先生になるのですが、他の先生方と同じになる高さの車椅子に乗って授業をしますが、とても不思議な感じがします。
しかし、明るく爽やかに授業をする姿は、ただ、驚くべきものがあります。

以前から、これほどの障害があるにも関わらず、これだけ明るい人間性は、間違いなく、ご両親のすばらしさであることを、私は確信していましたが、今回、初めて、ご家族の一端がわかる情報に接することができました。

誕生して、初めて、我が子に接したときのお母さんの高貴な姿を私(藤森)は初めて知りました。

恐らく、1ヶ月間、会うことができない間に、お母さんは「神仏」に祈ったことと推測します。そして、1ヶ月の間に、私(藤森)の一生分を過ごした後に、「煩悩即菩提」(ぼんのう・そく・ぼだい)の心境に達したことと思われます。有り難い事です。

●(2)平成25年3月15日「THE BIG ISSUE JAPAN」

<スペシャルインタビュー 乙武洋匡>

 大ベストセラー『五体不満足』の出版から15年。
今や教員資格をもち、小学校教師の実体験をもとに描いた小説
『だいじょうぶ3組』の映画化にあたって俳優にも初体験した乙武洋匡さんが、
作品世界と「教育」への思い、そして社会について語る。

 <ただ存在しているだけで称賛されてしまうことに無力感。今度は自分が力を尽くしたい>

 「何年か前、町を歩いていたら、ホームレスの方が『この雑誌あげるから読んでよ』って車椅子にポンと乗せてくれたんです」

電動車椅子で現れた乙武さんは、開口一番、そんなエピソードを教えてくれた。ビッグイシューを知った最初の出合いだったという。「明日の収入になる大事なものを、何かの思いがあって僕にくださった。それからずっと気になる雑誌でした」

さわやかな笑顔に真摯な態度、それに淀みない明朗な語り口はメディアで見る乙武さんそのまま。きりっとした空気に、思わずこちらの背筋がピンと伸びるようだが、場がなごんでくると、違った一面ものぞかせる。「本当に僕が表紙写真でいいんですか?アームレスホームレスが手を組むというわけですね」。そう言うと、すかさず「手がないから組めないけどね(笑い)」と自らツッコミを入れる。自身の身体をもじったブラックな乙武ギャグは、ツイッターではおなじみだ。

乙武さんと言えば、大学在学中に出版した『五体不満足』が有名。「障害は不便だが、不幸ではない」。そのメッセージは、明るくユーモアのある本人の特性ともあいまって、多くの人の共感を呼んだ。大学卒業後はスポーツライターとしての実績を重ねたが、そんな乙武さんも今や教員免許をもち、教師経験をもとに小説を発表、さらにその映画化にあたって俳優にも初挑戦した。まさに八面六臂の活躍だが、「教育」への転身には長い葛藤の末の思いがあった。

「『五体不満足』以降、多くの人から『元気が出た』という声をいただいてきたのですが、僕自身は何かむずがゆさもありました。たとえばマザー・テレサのように、何かの行動によってみんなを勇気づけたのなら、周囲の評価も素直に受け止められたかもしれない。でも、僕はただフツーに生きてきただけ。ただ障害があるというだけで、ただ存在しているだけで称賛されてしまうことに、僕はむしろ無力感も覚えていたし、もっと主体的に社会に働きかけ、人の役に立つことができないかと思うようになった。そうした時、長崎県で中学生が4歳の子どもを殺害するという痛ましい事件が起き、子どものそばにいる大人の責任について考えさせられた。生まれつき手足のない自分が特に卑屈になることなく育ってこられたのは、周囲の大人のおかげであって、今度は自分が力を尽くす番なんじゃないかと思ったんです」

<色とりどりの教員たち。いい意味で混乱してほしい>

 自身の3年にわたる小学校教師としての経験をもとに描かれる『だいじょうぶ3組』は、乙武さん扮する赤尾慎之介が補助教員の白石優作(国分太一)とともに、5年3組の担任教師に赴任するところから始まる。学園ドラマの教師像と言えば、熱血教師や頼れる先生が定番。だが、手足のない赤尾先生は赴任の挨拶で「僕にはできないことがいっぱいあります。だから、僕が困っていたら、みんな手伝ってください」と子どもたちに弱みをさらけ出す。存在が「超個性的」なら、生徒たちとの向き合い方も型破りで、物語ではたびたび学校の方針の壁とぶつかる。

「原作に書いた8~9割は、実際の教師体験で起きた出来事なので、職員室ではリアルに浮いた存在だったと思う(笑)。原作では他の先生が助け舟を出してくれているような場面も、実際にはひたすら怒られるだけだったりと、順風満帆とはいかなかった。明るい物語の中でメッセージを伝えたいという僕の信条からすると、やはり小説である必要がありました」

学校崩壊やイジメ、自殺、体罰問題など、現実の子どもの世界ではまるで何かの蓋が開いたみたいに暗いニュースが連日のように流れる。そんな中で、赤尾クラスの子どもたちが見せる等身大の姿と成長の物語は、さわやかな感動とともに、改めて教育の可能性を思い出させてくれる。

「教育の世界に入る前は、僕も『最近の子どもたちは・・・・・』とかなりうがった見方をしていたんです。だけど、実際に接してみると、子どもたちがもっている特性は昔も今も変わらない。それは、映画の子役たちにも感じました。教育現場では『個性を育てよう』とよく言われる。でも、子どもたちの個性というのは育てなくてもすでにあるものであって、それを大人のストライクゾーンに押し込めるのではなく、それぞれの個性をどれだけ認めてあげられるかということが問われている気がするんです」

実は、物語の中にはちょっとした隠し味がある。登場する赤尾、白石、青柳、紺野、黒木という教員の名字にはすべて色が入っており、「まずは教員一人ひとりがもっと色とりどりの存在であるべきじゃないか」という乙武さんなりのメッセージが込められている。

「もちろん、先生の方針は統一すべきとの意見もあると思う。でも、実際の社会に出れば、本当にいろんな人がいて、あっちの上司とこっちの上司の言うことが違う中でうまくやっていくということがあるわけで、子どもたちにはいい意味で混乱してほしいんです。その中でこそ、自分で考える力も養われると思う」

<大切にしているのは自己肯定感。最も伝えたい言葉は「だいじょうぶ」>

 教育界では今、障害のある者もない者も同一環境でともに学ぶ「インクルーシブ教育」の整備が進められている。インクルーシブ(包含)という意味では、15年前の『五体不満足』はクラスの中に障害のある生徒がいる物語であり、『だいじょうぶ3組』は担任教師が障害者の物語だ。さらに、乙武さんの続編小説『ありがとう3組』では、クラスに発達障害の生徒がいる物語が描かれる。今やクラスに2、3人はいるといわれる発達障害の問題は、周囲の理解という面では身体障害以上の難しさがあるという。

「たとえば、僕が逆上がりできないのを見て、『なにサボってんだ!』と言う人はいないんですね。でも、忘れ物が減らないとか、じっとしていられないという発達障害は脳機能の問題だから目に見えないし、そもそもコミュニケーションが苦手という特性があるから周囲に伝えることもままならない。この15年で、僕のような目に見える障害への理解はずいぶん進んだ。今度は、目に見えにくい障害の番かなと思うんです」

乙武さんがこれまで一貫して伝え続けてきたこと。それは、「みんなちがって、みんないい」というメッセージだ。
「僕は教員時代、ジグソーパズルのようなクラスづくりを目指していたんです。一つひとつのピースはいびつな形をしているけど、こっちのデッパリとあっちのへっこみが組み合わさっていけば、最後には1枚の美しい絵になる。みんな完璧じゃないけど、それぞれが得意なことを活かし、苦手なことを補って支え合っていけば、豊かな人間関係が築いていける。それは学校だけでなく、社会も同じだと思うんです」

乙武さんは今、地域全体で子育てしていくことをコンセプトにした保育園の運営にも携わる。子ども教育には、家庭、学校、地域の三位一体の取り組みが欠かせないとの思いからだ。

「皮肉にも、教員生活で痛感したのは、やはり家庭が一番大事ということでした。急に忘れ物が多くなったり、授業中のおしゃべりが増えたような子の話を聞いていくと、たいていは家庭環境の変化に行きつく。一方で、安定した家庭で育った子は落ち着いて勉強もできるし、チャレンジ意欲も旺盛で、スタートラインでの不平等さをすごく感じた。理想はすべての子どもが家庭の愛情を受けて育つことだけど、現実に難しいということであれば、地域社会で子育てする仕組みをつくっていく必要があると思うんです」

手と足がない状態で生まれた乙武さんのスタートライン。それは、まさに不平等そのもの。あまりにもショックが大きすぎるとの配慮から、母親は1ヶ月もの間、わが子との対面を許されず、迎えたその日には、卒倒することを予期して空きベッドも用意された。だが、対面の瞬間、母親の口をついて出た言葉は「かわいい」だった。

「教育者として、2児の父として、僕が子どもと向き合う時に最も大切にしているのは、自己肯定感を育むということなんです。それを実践する上で最も役立ってくれたのが、“だいじょうぶだ”という言葉。3年間の教員生活の中で、これほどたくさん口にした言葉はなかったと思いますね」(稗田和博)

●(3)インターネット「シネマトウディ」より

解説: 「五体不満足」の著者、乙武洋匡が自らの教師体験を基に手掛けた小説を映画化したヒューマン・ドラマ。主人公の補助教員を『しゃべれども しゃべれども』などで俳優としても活動するTOKIOの国分太一が、新任教師を乙武自身が演じ、生徒たちと共に成長する2人の教師の姿を映し出す。共演にも、榮倉奈々、田口トモロヲ、余貴美子など魅力的なキャストが集結。国分、乙武の2人と生徒たちを本番で初めて対面させるなど独自の方法を取り入れ、リアリティーあふれる子どもたちの姿を活写した『軽蔑』『きいろいゾウ』の廣木隆一監督の手腕が光る。

あらすじ: 4月の新学期を迎えた東京郊外の松浦西小学校。補助教員の白石優作(国分太一)と新任教師の赤尾慎之介(乙武洋匡)が、受け持ちの5年3組の教室に現れると、生まれつき手足のない赤尾の姿を見た生徒たちの表情に驚きと戸惑いの色が広がった。普段の授業をはじめ、運動会や遠足などのイベントを経て、2人の先生と28人の生徒たちは信頼を深めていく。

<文責:藤森弘司>

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