2012年7月31日 第120回「今月の映画」
監督:羽住英一郎 主演:伊藤英明 加藤あい 佐藤隆太 時任三郎 伊原剛志
●(1)今回の映画は、日本の映画がこれほどのスケールでやれるようになったのかという驚きが大きかったです。
さて、主題は「リーダーシップ」です。「特殊救難隊」という海上保安庁の中の超エリート集団の活躍を描いたドラマですが、中心のテーマは「リーダーシップ」です。 平和ボケした私たちは、「リーダーシップ」の中に潜む「冷たさ」を見落としがちです。十分な「リーダーシップ」を発揮するには「冷酷」なまでの「冷たさ」が求められます。優しさや温かさは、もちろん、重要ですが、その中にある「ある種の冷酷さ」を同時に有しているからこその優しさです。 今の日本には、優しさや温かさばかりが求められて、「冷酷」なまでの「決断力」が失われてしまっています。 東北大震災の復旧と復興がそうです。もちろん、温かさと優しさを持ちながら対応することは当然のことですが、しかし、全体を考えたならば、「冷酷」なまでの「決断力」も同時に求められます。しかし、これが欠けているために、より早く、より良く復旧できることを、小田原評定みたいな・・・・・さらには既得権益の問題が顔を出して、小学生みたいな対応になってしまっています。 また、真のリーダーシップが無いために、「決められる政治」とかで、「決めること」、つまり「リーダーシップ」における「冷酷さ」だけが前面に出てしまっています。これはほとんど「幼児性」の現れです。「自我」が未成熟であるが故の「力み」です。 現代日本に、「冷酷」なまでの「決断力」とはどういうものか、優しさや温かさを含有した本当の「決断力」との狭間で葛藤する出演者達の苦悩を見せてくれる素晴しい映画です。 本物の「リーダーシップ」とか「男らしさ」を学ぶ上で恰好の映画です。 |
○(2)<パンフレットより>
<STORY> 大好きな海で誰も死なせたくない。そんな思いを胸に、海上保安庁の潜水士となった仙崎大輔(伊藤英明)。さまざまな海難現場、仲間との絆、また命を預け合う潜水パートナー=バディとの別れも経験する中で、大輔は持ち前の熱さと明るさはそのままに、より強く、より大きく、潜水士のスペシャリストである機動救難士へと成長していった。 そして今、大輔がいるのは、「海難救助の最後の砦」とされる特殊救難隊。海上保安庁の中でも最高レベルのレスキュー能力を持った、精鋭チームだ。機動救難隊の隊長への昇格が決まっていた大輔だったが、人命救助の最前線にいたいと、自ら特救隊を志願して厳しい選抜を通過した大輔。長年のバディである吉岡哲也(佐藤隆太)もまた大輔の背中を追い、救命救急士として特殊救難隊へ。さらなるステージへと上がったことで、再びルーキーとなったふたり。日々、苛酷な訓練と任務に精を出しながら、充実した毎日を送っていた。 そんな大輔の支えとなっているのが、妻・環菜(加藤あい)と長男・大洋だ。三歳になった大洋の世話に追われる環菜は、現在、第二子を妊娠中。それぞれ仕事と育児に励み、お互いを気に掛ける大輔と環菜にとって、吉岡とその恋人でG-WING社のCA(キャビンアテンダント)の矢部美香(仲里依紗)の進展もまた気に掛かることだった。 前勤務地・鹿児島で開かれたコンパで、たまたま地元に帰省していた美香と出会い、交際を始めた吉岡。吉岡が特殊救難隊に入ったことで遠距離恋愛も解消され、交際も順調に思えたが、結婚の話となると美香ははぐらかしてしまう。環菜を前に、吉岡と結婚する気はないと打ち明ける美香。困惑する環菜だったが、そんな環菜にもまた心痛める出来事があった。大洋が駅で駆け込み乗車の群衆に巻き込まれ、頭を縫うケガを。救急車もなかなか来ず、皆が見て見ぬふりの中で、環菜は出産に対して不安を覚え始めていた……。 一方、大輔もまた仕事で葛藤を抱えることになる。大阪湾で発生した、コンテナ船とタンカーの衝突事故。トルエンを積んだコンテナ船が爆発炎上して、作業員が取り残されている。大阪方面を請け負う第五管区の機動救難士たちも出動していたが、すでに特殊救難隊でしか対応できない事案だ。ヘリから降下した大輔、そして副隊長の嶋一彦(伊原剛志)は、確認できていた2名の作業員を救助。しかしヘリに上がったところで、甲板に新たな男性が飛び出してきた。状況からみてすでに間に合わないと判断する嶋に対して、制止も聞かずに大輔は突っ込んでいく。しかし、救助活動にも限界はあった。 男性を助けられず、肩を落とす大輔。そんな大輔の甘さを指摘する嶋。あくまで冷静な見極めを第一とする嶋は、大輔に言い放つ。「六年前のフェリー事故、一昨年のオイルリグの事故。お前が遭難者を助け出したんだって?たいした活躍じゃないか。だがな仙崎、結局はお前が仲間に救助されてる。俺に言わせれば、そういう状況を作ってしまったこと自体が、すでに失敗なんだよ」。 そんな次元でやっていては、また遭難しかねないうえ、仲間まで巻き込んでしまう。その言葉に、大輔はうなだれるばかり。一方で、そのオイルリグの事故で大輔と出会い、現在は第五管区の機動救難士となっていた服部拓也(三浦翔平)は、絶対にあきらめない大輔が目標だと眼を輝かせる。大輔は「俺なんかを目標にしてちゃダメだ」と返すしかなかった。 そんな中、シドニーから羽田へ向けて飛行していたジャンボジェット機が、コントロール不能になるという事態が発生。事故対策本部が招集され、大輔の元上司で海上保安庁警備救難部の救難課長である下川(時任三郎)も羽田空港に駆けつけることになる。特殊救難隊は、墜落に備えて羽田沖で待機することに。しかし吉岡の顔には、いつも以上の緊張と動揺が走っている。便名は、G-WING206便。美香が乗務している飛行機だった。 機長・村松貴史(平山浩行)が必死に操縦桿を握りながらも、206便は迷走を続けている。油圧系統が壊れた206便に残された着陸手段は、ただひとつ。海面にライトで滑走路を作っての海上着水だ。しかし、着水に成功したとしても、機体が浮いていられる時間はわずか20分。その間に、乗員乗客346名全員を救出しなければならない。出動準備に取り掛かる吉岡、機内で事態に必死に対処する美香、TVで事態を見守る環菜たち。そして、それぞれの信念を胸に現場に立つことになる、嶋、大輔。さまざまな人々の思いが交差する中、ジャンボジェット機は高度を下げ、着水態勢に入っていく――。 |
○(3)<コックピット部分とキャビン部分を原寸大で再現! リアルな迫力が追求されたジャンボジェット機セット>海上着水を余儀なくされる、G-WING206便。全長70.7mのジャンボジェット機と同型という設定の機種だが、撮影に当たっては、なんと原寸大のコックピットとキャビンがセットで作られている。 まず行われたのは、ジャンボジェット機の規格の測定。飛行機の詳細な図面は一般には公開されていないため、美術スタッフはさまざまな資料や画像に当たることに。機体や機内を撮影しまくるスタッフが、航空会社の方に怪訝な顔をされる一幕もあったのだとか!?また、精巧に作られた模型を3Dスキャンするなどして、ジャンボジェット機の独特のRを割り出して設計をしている。それぞれのセットの大きさは、コックピットが全長約4m。キャビンは全長約28m。キャビンは通常のジャンボジェット機の1/2の部分がセットとして再現されることになった。一方で、操縦桿や操縦席、客席や酸素マスクなどは、なんとすべて本物。ジャンボジェット機の中古機材を、タイにある中古航空機を扱う会社から購入している。タイのコーディネーターの間では“日本の制作会社がジャンボジェット機を丸ごと1台かいにきた!”という噂も広まったそうだが(!!)、ドアや窓、計器や機内表示も実際のものを買っているため、外側を残してジャンボジェット機をほぼ丸ごと1台買ったようなもの。このうち予備をのぞき、キャビンにはイス206席、窓72枚、ドア6枚が設置されている。セットを目にした伊藤英明は、「すごいよね……。いよいよ“来たな”っていう感じですよ」とコメント。本物と寸分違わないジャンボジェット機に、キャスト・スタッフがまさに乗り込む形で撮影はおこなわれた。 コックピットとキャビンは、シーンの状況に応じて、セット自体に傾斜をつけながら撮影されている。コックピットは水平から始まって上向きに20度と50度、キャビンも水平から始まって左横向きに10度と下向きに20度。しかし見た目の角度はそれ以上で、実際には10度であってもセット内は真っすぐ立っていられないような状態で、三半規管がおかしくなってきてしまうほどだ。伊藤や伊原を始めとした特殊救難隊のメンバーは、このコックピットの上部に立ち、雨風を浴びながら身体を張った熱演を放っている。また機長・村松貴史役の平山浩行も、50度に傾いた操縦席でほぼ天井を見るような形で芝居を続け、水を受けながら体当たりで臨んでいる。 さらに今回は、キャビンまわりのシーンでは、スタジオ内にプールを作り、そのプールにキャビンセットを入れる形で着水後の様子が撮影されている。これまでにもさまざまな撮影方法を採ってきた『海猿』シリーズだが、スタジオにセットと同時にプールを作るというプール付セットは初。左横向きに10度、下向き20度傾いたキャビンのセットからプールも登場して、要救助者をゴムボートに誘導するカットや、乗客が海中に飛び込むカットが撮影されている。 |
○(4)<海上保安庁の巡視船艇に加えて消防局の消防船も!> <全国3ヵ所で撮影された大船団のダイナミズム>『海猿』のダイナミズムを象徴しているのが、事故現場に集まる大船団のシーン。今回、さらにそのスケールはアップしている。ジャンボジェット機の海上着水という未曾有の事態に臨むべく、劇中では警察や消防の船艇、民間船も着水地点に集まるが、撮影でも海上保安庁の巡視船艇やヘリコプターのみならず、さまざまな船が撮影現場海域に集結した。海上保安庁からは災害対応型の巡視艇<いず>や拠点機能強化型の巡視船<しきね>、消防艇<ひりゅう>。また東京消防庁からは消防船<みやこどり>や<すみだ>、千葉消防局からは消防船<まつかぜ>などが撮影協力をしていて、放水もおこなっている。着水地点近くの沿岸のロケ地となった千葉港・Iバースにも船艇が集結。巡視艇に乗った海上保安官と、消防船に乗った消防士たちが、珍しそうにお互いの船をながめる姿も見られた。実際には海上に着水する飛行機がないため、前作『THE LAST MESSAGE 海猿』のレガリア、前々作『LIMIT OF LOVE海猿』のフェリー同様、合成の目印にするための船・通称<ターゲット船>を海上に停泊させて撮影している。今回のターゲット船となったのは、縦幅36m・横幅12mのクレーン付台船。 G-WING206便は全長70.7mという設定のため、約半分の長さしかないということになるが、それでもかなりの迫力。またターゲット船は、各船の間を行き来する小型ボートの休憩所としても使われた。その小型ボートもまた大事な“出演者”だ。乗っているのは、拡声器を持ったウエットスーツ姿の助監督と汚しメイクのエキストラさんたち。本番となれば、拡声器は隠されて、小型ボートも救助艇に早変わりすることに。 今回、海洋ロケは、さまざまなシーンにあわせて、東京湾、大阪湾、博多湾の3ヵ所で撮影。12月12日、13日の博多湾ロケで本編のクランクアップも迎えられている。最後のカットにOKが出て、監督の乗ったキャメラ船がメイン船のPLH(ヘリ搭載)巡視船<ちくぜん>に接近すると、エキストラの福岡FCや海上保安官の方々から拍手と歓声が。クランクアップの感動もスケールアップとなった。 |
○(5)<リアルにこだわったロケとセットが生み出す臨場感> 本編クランクインとなったのは、まだ残暑の残る2011年9月17日の東京国際空港ロケ。G-WING206便のトラブルに際して、時任三郎演じる下川が東京国際空港・第一庁舎空港事務所の玄関で車を降り立つシーンから、『BRAVE HEARTS 海猿』の撮影はスタートした。 同事務所は、実際にも総合対策室や記者クラブが置かれている建物。東宝スタジオにセットで作られた総合対策室の内部も、同事務所の総合対策室の喫煙スペースに飾られている飛行機の絵画も、実際に同事務所にあったもの。装飾スタッフが交渉して借り受け、セットに飾られることになった。今回、航空機を描くに当たって、第一庁舎空港事務所のほか、東京国際空港では展望ロビーや滑走路でもロケがおこなわれ、リアリティを生み出している。また、海上保安庁においても、羽田航空基地の格納庫を始め、さまざまな場所で撮影を実施している。なかでも、羽田特殊救難基地、関西空港海上保安航空基地の施設に撮影カメラが入るのは、ドキュメンタリーをのぞいて今回の『海猿』が初。また、本作では航空機事故においての各省庁・各関係機関の動きも綿密な取材に基づいて構成されている。警察や消防のほか、日本赤十字社も全面的に撮影をバックアップ。日本赤十字カーや医療器材、また本職の方々がエキストラとして出演している。これまで以上にディテールにこだわった描写と撮影で、圧倒的な臨場感が生み出された。さらに各地から集まったボランティアエキストラのなかにも、自ら休暇を利用して応募していただいた海上保安官、消防士、医師の方々が多数参加。ロケ地も人物の動きも、これまでのシリーズ以上にリアルで臨場感あるものに仕上がっている。 |
○(6)<セット撮影なのに迫り来る波と雨と4tの水!クランクアップもまた水の中で迎えられる> 本シリーズには付き物である、“水”。今回もまた、現場は大量の波と雨に見舞われ、キャストもスタッフも水まみれとなった。 航空機事故の前に描かれる大阪湾でのタンカーとコンテナ船の衝突事故では、スタジオに25度傾けたコンテナ船の甲板セットを建造。4t以上の水を一度に放出させながら、救助シーンを描いている。セット上から荷落としを担当するスタッフは、コンテナを背に隠れて座り込むようにしてスタンバイ。その上から放物線を描くようにして、大量の水が甲板と縁すれすれのところにいる伊藤英明や伊原剛志に振りかかる! しかし当然、コンテナを背にするスタッフにも水が。監督もまたこの位置で芝居を見続けていたため、レインコートは着ていたとはいえ、ずぶ濡れとなった。そんな『海猿』の現場にこれまた付き物なのが、監督が手にするビジコン(ハンディモニター)の水避けカバー。ビジコンを覆う袋状のカバーは、なんと料理用のポリエチレンパック!歴代、何枚が使用されたのか……。さらに海上着水後のキャビンを描くに当たって作られた簡易プールでは、大輔が大阪湾に投げ出されて、荒波に揉まれるというシーンも撮影されている。キャビンシーンで映し出される機体左横とは反対の右横が大阪湾として飾られ、そちらには落ちたコンテナや積み荷が漂うことに。セットのプールとはいえ、実際に荒波が立てられ、上からも水が降ってくるということで、伊藤はまさに水にのみ込まれた状態となった。また左横のキャビン外では、仲里依紗と三浦翔平もプールに飛び込み、波、雨、風の洗礼を受けることに。気迫がこもった芝居がそこに生み出されている。そして、伊藤英明、佐藤隆太のオールアップの場となったのは、まさに水の中。『海猿』シリーズで毎回使用されている。甲府のスポーツ公園内にある飛び込み用プールだ。本作では、スタジオから運んできたコックピットセット、キャビンセットをそれぞれプールに沈め、水中での探索・救助シーンを撮影している。2011年11月29日から12月2日までの4日間を掛けて撮影はおこなわれ、佐藤は11月30日、伊藤よりもひと足先にクランクアップ。12月2日、伊藤もついに全撮影を修了。 「何事にもあきらめない、意識の高い現場が僕自身大好きで、本当に皆さんいい環境を作ってくださって、ありがとうざいました。この『海猿』での経験はこれからの現場にも活かせると思うし、感謝の言葉しかありません」 |
○(7)<特殊救難隊の一日>
全海上保安官約1万2600人のうち、わずか1%の潜水士、さらにその潜水士のなかから選抜された、36名の精鋭集団が<特殊救難隊>(正式名称・第三管区海上保安部羽田特殊救難隊)だ。特殊な事案に対応すべく、高度な体力と専門知識、それに裏付けされた技術を持つ彼らは、6隊(第一隊~第六隊)で構成されていて、それぞれ隊員は6名。<隊長><副隊長>以下、<レンジャー><潜水>< 火災及び危険物><救急救命士>と役割が決められている。その6隊のうち、常に1隊は羽田にある特殊救難基地に待機。全国どこにでも駆けつけるべく、24時間体制での出動準備が取られている。 仙崎大輔と吉岡哲也が配属されているのは、このうち<第二隊>。角倉大吾隊長、嶋一彦副隊長のもと、レンジャーを山根直人、潜水を仙崎大輔、火災及び危険物を戸川弘樹、救急救命士を吉岡哲也が請け負っている。このうち、レンジャー、潜水、火災及び危険物はあくまで役割分担だが、救急救命士は国家資格の有資格者による専門職。吉岡は潜水士であると同時に、救命士として要救助者の救急救命処置もおこなっている。映画の中では、日々苛酷な訓練に励みながら、大阪湾で起こったタンカーとコンテナ船の衝突事故、そしてG-WING206便の海上着水に対処することになる特殊救難隊。果たして彼らは、どんな一日を送っているのか。映画の中の出来事と照らし合わせながら、その業務に迫ってみた。 <1日の主なスケジュール> 9:05 課業開始(当直交代・事務引継) |
<文責:藤森弘司>
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