2010年1月31日 第89回「今月の映画」
キャピタリズム~マネーは踊る

●(1)映画「ウルルの森の物語」、映画「スノープリンス 禁じられた恋のメロディ」「今度は愛妻家」がとても良かったです。「アバター」は、画面がとてもキレイでした。クラゲのような空中をフワフワする動物が特にキレイでした。3Dなるものは初めて見ましたが、クラゲのような動物が目の前でフワフワしているとき、思わず手が出そうになりました。

さて、今回の「キャピタリズム」、ムーア監督の行動力には恐るべきものがあります。日本の、例えば「沈まぬ太陽」は、今をときめく「日本航空」を題材にしていますが、すべては間接的表現です。
それに比べて、さすがは「肉食国家」アメリカです。猛烈に直接的です。どのくらい直接的かといいますと、<100年に一度の世界同時不況!?失われたおカネを取り戻すために、ムーアが奔走する!!>とパンフレットにあるように、この問題を引き起こした会社の前で、ビルから出てくる社員や役員たちに「強烈」な言葉でインタビューを試みたり、「CRIME SCENE DO NOT CROSS」と印刷された黄色のテープで、その会社のビルを一回りさせてしまう。が、それを誰も止められず、ムーア監督のやりたい放題に、拍手喝采を送りたいです。

いろいろな資料・情報を総合すると、今回のこの世界同時不況は、どうやら想像を絶する地殻変動を起こしそうです。「2010年代は怒涛の10年」になるようです。我々、庶民には如何ともしがたいことですが、少なくても「十分な覚悟」をしておいたほうが良いようです。

簡単に、幾つかご紹介すると、
①「覇権国家の交代・・・アメリカから中国へ・・・その混乱??」
②「今はデフレですが、やがては猛烈なインフレに??」
③「日本の国家の破産または、それを回避するために消費税が15%~20%へ??」などが懸念(???)されています。

今回の<100年に一度の世界同時不況!?>は、まだまだ表に出ていない桁外れの負債があるようです。「○○京円」単位になるようで、その処理がどうなるのか、考えただけでも恐ろしい話です。

そういう観点からも、今回の「キャピタリズム」は、是非、ご覧ください。

○(2)(パンフレットより)

<本当の敵を見分けるマイケル・ムーア監督の感性>森永卓郎(経済アナリスト)

マイケル・ムーア監督が金融資本主義の映画を撮っているという話を聞いたとき、私は小躍りして喜んだ。監督が戦いを挑んでいる相手が、私が批判してきたグループと完全に重なっていることを確信したからだ。アメリカの銃社会がもたらす悲劇を採り上げた『ボウリング・フォー・コロンバイン』、あるいは同時多発テロ後のアメリカの軍事戦略を採り上げた『華氏911』で、マイケル・ムーア監督が痛烈に批判したのは、銃社会や戦争によって、人々の命が奪われ、暮らしが破壊されるなかで、自分たちだけ安全なところにいて、利益をむさぼる「死の商人」たちだった。

ある意味で、彼らの犯罪は分かりやすい。しかし、資本主義の犯罪を暴くことは、さほど簡単ではないのだ。一つの理由は、資本主義が一定の段階までは、我々の生活を改善することに貢献をしてきたからだ。その時の恩恵に浴してきた人たちの多くは、資本主義の擁護をいまだに続けている。二つ目の理由は、資本主義による収奪のやり方が巧妙化したということだ。複雑で難解な金融の仕組みを作り上げ、価値のない金融商品の価格をつり上げて売り付いたり、危険なローンを契約させて、資本主義者たちが利益をむさぼった。その仕掛けを庶民は見破ることができなかった。

しかし、金融資本主義が作り上げた砂上の楼閣は、ついに崩壊した。そのとき被害を受けるのが、マネーゲームに参加したプレーヤーたちだけだったら良かったのだが、現実にはマネーゲームとは無関係の国民が巻き込まれた。資本主義が牙をむいて、庶民に襲いかかってきたのだ。マイホーム取得のために借りたサブプライム・ローンの金利が上昇して返済が滞ると、銃を持った保安官が自宅に押しかけてきて、容赦なく住人を追い出す。長期間勤務し、一生懸命働いてきた自動車工場をリストラで追い出される。そうやって、金融バブル崩壊がもたらした被害に遭っている人たちには共通点がある。それは、有色人種であったり、学歴を持たなかったり、金融リテラシーを持たないノン・エリートだということだ。一方で、金融バブルの利益を受けてきたのは、ほぼ間違いなくホワイトアングロサクソンのエリートたちだった。

彼らはお金を右から左に動かすだけで、何億円、何十億円という天文学的な報酬を得てきた。社会的な弱者が被害に遭う裏で、強者が莫大な利益を手にするというマネーゲームの構造は、マイケル・ムーア監督が批判し続けてきた戦争とまったく同じだ。だから、この映画が取り上げている「資本主義」は、「金融戦争」と考えた方が理解しやすいのかもしれない。

そして、金融戦争も、本当の戦争も、それを仕掛ける人の思想には共通点がある。それは「自分の利益が増えるのであれば、自分と無関係の人が、泣こうが、わめこうが、死んでしまおうが一切構わない」と割り切っていることだ。マイケル・マーア監督の怒りの矛先は、そうした思いやりのない、つまり愛のない人たちなのだ。

ただ、そうした人たちを、つい数年前までは、私たちは「ヒーロー」として扱ってしまったことを、決して忘れてはならないだろう。構造改革、グローバル化というかけ声の下、マネーの暴走を許してしまったのは、本家のアメリカ人だけでなく、私たち日本人も同じなのだ。
この映画の最後で、マイケル・ムーア監督が挑んだ痛烈な皮肉の表現に、私は大いに溜飲を下げたが、同時に彼の勇気に大きな拍手をしなければならないのだと深く思った。世界の市民一人ひとりが、そうした知見と勇気を持たないと、金融戦争は終わらないだろう。

<森永卓郎氏・・・・・1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学教授。元・UFJ総合研究所・社会政策部長。専攻はマクロ経済・計量経済・労働経済。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)など著著多数>

○(3)<STORY>

<アメリカの資本主義はいつから、いつからこんなことになったのか・・・・・
日本も含めて、どうして世界中が不景気になっちゃったのか・・・・・
そのカラクリのすべてをムーアが教えます!!>

*続出する自宅の差し押さえ・・・資本主義って何だ?
現在、アメリカ各地で住宅ローン延滞の強制執行により自宅を差し押さえられ、立ち退きを迫られる家族が続出している。「真面目に働いている人間になぜこんな仕打ちを?」と人々は口を揃えるばかり。「これがキャピタリズム(資本主義)だ」とムーアは告げる。「ギブ・アンド・テークのはずが、テークする(奪う)方がほとんどだ」。実際、フロリダで「コンド・バルチャーズ(マンションのハゲタカ)」を経営する不動産業者は、差し押さえ住宅を転売して利益を上げている。
資本主義って、そもそも何だ?友人の劇作家は「本来は、社会がどんな品物を求めているか判断する良くできた投票方法だよ」と言うが・・・・・。ムーアが子供の頃の1950年代、父はGMの従業員だった。幼稚園の時にはマイホームがあり、3年ごとに車を買い換え、1年おきに夏はNYへ旅行した。組合の保険で医療費は無料。借金せずとも大学に進み、年金は積み立てられ退職時に受け取れた。あの頃、人々は確かに資本主義を謳歌していた。

*80年代からすべてが変わった。躍進する大企業とリストラの嵐
だが時代は変わり1980年11月、レーガンが大統領に当選。かつてB級映画の俳優としてCMに出演していた大統領の誕生は「ウォール街による国の掌握」を意味していた。投資銀行メリルリンチの会長ドナルド・リーガンが財務長官に就任、富裕層に減税を行い、産業基盤の解体を推し進めた。81年以降、平均株価は1371%増と企業は記録的な収益を上げたが、労働者の賃金は凍結。組合は解散、数百万人がリストラ、CEOと労働者の報酬差は649%増に広がった。
レーガン政権の末期1989年に、ムーアは故郷でGM創業の街フリントを舞台に『ロジャー&ミー』を初監督した。GMの収益は当時40億ドルあったが、数万人のリストラを断行。広報担当者は「競争力を維持するには何万人失業しようが仕方ない」と答えたが、20年経ってGMは倒産した。ムーアは本社へ向かい会長との面会を求めるが聞き入れられず、父と共に工場跡地へ向かう。父は「33年働いて、同僚が一番の思い出だよ」と寂しげに語る。
そして今や至る所で「第二のフリント」が生まれている。シカゴの工場は従業員250人を突然解雇。失業者数は増加する一方だ。それでもブッシュ大統領は任期最後の年を満喫、「資本主義は職業選択の自由を与えるものだ」と繰り返すが、本当に?
ペンシルバニア州の民間更生施設は、些細な少年犯罪にも有罪判決を出してほしいと判事に利益供与を行なっていた。航空会社のパイロットの多くが低賃金で過剰労働を強いられ、墜落事故も増えている。そして従業員が死亡したら会社側が利益を得る「くたばった農民保険」までまかり通っている。神父に尋ねても「資本主義は必ずしも万人に幸福を与えてはいません。それは資本主義の根本的な原理と言えるでしょう」と言う。

*1%の富裕層が全てを奪う社会・・・・・「デリバティブ」って!?
シティバンクの極秘メモによれば、「米国の体制はもはや民主主義でなく『プルトノミー』になった」という。「底辺の95%の合計より多い富を所有する1%の最富裕層が、独占的に支配し、独占的に利益を得る社会」のことだ。民主主義には「1人1票」の投票力がある。なぜ人々は我慢してるのか?シティグループによれば「選挙民の大半は、努力を続けていれば、いつか金持ちになるチャンスが来ると信じてるから」と言う。
ウォールストリート・ジャーナル紙の編集委員は「民主主義がいい経済や政治体制を作るとは限らない。資本主義では人が望むままに自己実現する自由があるが、失敗もあるんだ。米国憲法は幸福を保証してはいない」と言う。そこで憲法の原文を調べると「自由市場」も「資本主義」も記載がなく、「我ら人民」「一般の福祉を推進」とある。それは明らかに「民主主義」だ。もし企業が民主主義だったら?
実際、従業員全員がオーナーとなり給料も平等にして、利益を生んでいる会社は存在する。かつてポリオのワクチンを開発しても特許を取らず分け与えた博士がいた。今の若手科学者は10万ドル以上の学生ローンを卒業後も抱え続けたる。公益どころか返済のため、科学分野でなくウォール街に就職するのが最上の方法になってしまった。
彼らが金融工学に基づいて開発した「デリバティブ」「クレジット・デフォルト・スワップ」の意味が分からず、ムーアはNY証券取引所へ向かい、元リーマン・ブラザーズの社員に尋ねるが、何度聞いてもチンプンカンプン。ハーヴァード大学経済学部の教授さえ説明できないほど複雑な金融商品なのだ。

*住宅ローン崩壊、リーマン・ショック・・・・・それでも利益を得る奴ら!
今のウォール街はまるで「狂ったカジノ」、マイホームさえも賭けの対象になってしまった。「金融の神様」と呼ばれたグリーンスパンFRB議長は、「住宅資産の活用を」と呼びかけ融資規制緩和を実施。住宅を担保に融資を与え、さらに再融資して利殖できるようにした。契約書には極小文字で「利子が高くなる」と書いてあったが、返済できなければ家を差し押さえればいい。住宅ローン最大手のカントリーワイドは一般庶民に、そんな「サブプライムローン」を売りまくった。
一方、同社の会長は「友人」であるVIPには金利を優遇、その中にはウォール街を監督する立場にいる議員も含まれていた。住宅ローンの支払いが焦げ付き始めると、大手金融機関のCEOは合併や買収を通して「勝ち逃げ」を決め込み、莫大な報酬を手にした。そして、08年9月15日、リーマン・ブラザーズが破綻し、株価は大暴落。もともと不健全だった金融システムが遂に崩壊したのだ。
元ゴールドマン・サックス会長のポールソン財務長官らブッシュ政権の幹部は、ウォール街のCEOと不良債権の買取にいくら必要か極秘会談を繰り返した。国民の税金7千億ドルを投入する救済法案が審議され議会は紛糾、一度は下院で否決されるが株価の大暴落と政治工作を経て、結局法案は可決。国が政治家でなくウォール街に動かされる「金融クーデター」が起きてしまった。
ムーアは議会監視委員会の委員長に「7千億ドルはいったいどこへ?」と尋ねるが、「分からない」と言われてしまう。ポールソン財務長官に電話しても、名乗った途端に切られる始末。それならば、実力行使しかない!ついにムーアは大型トラックに乗り込み、$マークのついた大袋を片手に「僕たちの金を返してくれ!」とNYウォール街へと突入して行く・・・!!

○(4)<リーマン・ショック、金融救済法案、そして世界同時不況へ>

2008年9月15日、米国4位の大手証券会社リーマン・ブラザーズが破綻。また同じ日にバンク・オブ・アメリカによる証券3位メリルリンチ買収、翌16日FRB(連邦準備制度理事会)は保険世界最大手AIGへの緊急融資を発表。21日には米証券1位のゴールドマン・サックスと2位のモルガン・スタンレーが銀行に衣替えすることが決まった。

議会はこの状況に対して金融救済法案を早急に成立させる必要に迫られたが、9月29日、7千億ドル(約63兆円)もの公的資金の投入に異議が唱えられ下院で否決という異例の事態が発生。ダウ平均株価は終値で777ドル安と史上最大の下げ幅を記録、日経平均も7千円台まで下落した。

10月3日に修正法案が2度目の採決で可決されたが、ダウはさらに連日暴落を繰り返し、世界中の株式市場に波及、世界同時不況へ陥っていった。

○(5)<リーマン・ショック直後に届いたムーアからの手紙>

<ウォール街を救うための10か条>

<「マイクの救済計画」明快・単刀直入な10項目>
9月29日の下院による否決後、再可決を行なう直前の10月1日、ムーアは自分の公式HPで「ウォール街の混乱のおさめ方という一文を発表、メーリングリストにも流している。以下はその一部抜粋である。<訳・藤谷英男>

皆さん、400人のアメリカの最裕福層、そう、「たったの400人」が底辺の1億5千万人を全部合わせた以上の財産を持っています。ブッシュ政権の8年間に彼らの富は「7千億ドル近く」膨らみました。7千億ドルはちょうど救済資金として我々に支払いを要求しているのと同額です。彼らはなぜブッシュの下でこしらえた金で自ら救済しないのでしょうか!
ただし我々は徒に抗議し続けるだけではなく議会がなすべきことをきっちりと提案しなければいけません。下記の私の提案は「金持ちは自分のプラチナの踏み台に乗って自分を引っ張り上げるべき」という単純明快な考えから自然に導かれるものです。

①<ウォール街で、承知の上で今回の危機到来に加担した者を犯罪者として起訴するため、特別検察官を任命せよ。>

②<救済経費は富裕層が自ら負担すべきである。>
もし彼らが必要だと言う7千億ドルが真に必要なものならば、それを簡単にまかなう方法を提示しよう。
1)年収100万ドル以上の全ての夫婦と年収50万ドル以上の独身納税者は、5年間10%の追加所得税を支払う。これで3千億ドルが出来る。
2)殆どの民主主義国家のように、全ての株取引に0・25%を課税する。これで毎年2千億ドル以上が出来る。
3)株主は四半期の間配当の受領を辞退し、その分を財務省による救済資金の足しにする。
4)米国の大企業の25%は現在連邦所得税を全く払っていない。企業からの連邦税収は現在GDPの1・7%であるが、これは1950年代には5%であった。もし企業の所得税を1950年代の水準に戻せば更に5千億ドルが出来る。

③<緊急救済すべきは住居を失う人々だ。8つ目の住宅を建設する連中ではない。(注:マケイン氏が全米に7つの邸宅を所持しているのを皮肉っている)>
現在130万軒の住宅が抵当として取り上げられている。そこで資金を銀行に贈与するのではなく、1人当たり10万ドルでこれらの住宅ローンを払いきる。そして住宅の持ち主が時価に基づいてローンを返済するべく銀行と交渉できるように要求する。この救済措置の対象は持ち主の住宅のみとして、家転がしで儲けを企んでいる者や投機家を確実に排除しておく。この10万ドルの返済と引替えに政府はそのローンの債権を共有して幾らかを回収できるようにする。このようにすると住宅ローンの焦げ付きを解消する費用は7千億ドルではなく千五百億ドルですむ。

④<あんた達の銀行や会社が我々からの「救済金」を少しでも受け取れば、我々はあんた達の主人だ。>
もし我々が家を買うために銀行から資金を借りれば、全額を利子も付けて返済するまでは銀行がその家を「所有」する。ウォール街についても同じだ。

⑤<規制は全て回復しなければならない。レーガン革命は死んだ。>
今回の悲劇は狐に鶏小屋の鍵を持たせたことが原因である。1999年に、フィル・グラムがウォール街と銀行を支配する全ての規制を撤廃する法案を起草し、クリントンが署名した。この法案は撤回されなければならない。

⑥<失敗が許されないほど巨大なものは存在も許されない。>
多くの企業が合併で余りにも巨大になりすぎて、その破綻を考えるだけで一国の経済全体が破綻に至るほどになってきた。1つや2つの企業がこれほどの威力を持つことがあってはならない。

⑦<いかなる会社重役も、従業員の平均賃金の40倍を超える報酬を受け取ってはならず、会社のための労働への妥当な給与以外にはいかなる「落下傘」(注:墜落する企業から退散する時の巨額の退職金など)も受け取ってはならない。>
1980年には米国の平均的な最高経営責任者は従業員の45倍を得ていた。2003年には自社従業員の254倍を稼いだ。8年のブッシュ時代が過ぎて、今では従業員の平均給与の400倍を得ている。公的な会社でこのようなことが出来る仕掛けは正気の沙汰ではない。英国では平均的な最高経営責任者は28倍、日本では17倍に過ぎない!
役員は誰もこの混乱から脱出するために受ける援助から利益を得てはならないのは勿論、会社の破綻に責任ある役員は会社が何らかの援助を受ける前に辞職しなければならない。

⑧<連邦預金保険公社を強化して、国民の預貯金にとどまらず年金と住宅の保護のモデルとせよ。>
昨日オバマが国民の銀行預金に対する連邦預金保険公社による保護の範囲を25万ドルにまで広げるよう提案したのは正しかった。しかしこれと同様の政府系保険で国の年金基金も保護されなければならない。

⑨<深呼吸をし、落ち着いて、恐怖に日々を支配させないことが誰にも必要だ。>
テレビを消そう!今は「第二の大恐慌」などではない。7%の下げは1987年に株価が1日で23%暴落jしたブラックマンデーにはほど遠いものだ。80年代には3,000の銀行が閉鎖された。しかし米国は破産しなかった。絶えず上がり下がりの波に遭いながらも結局は何とかなった。そのはずだ。金持ちは自分たちの富を粉々にしたくはないのだから!

⑩<民衆の「国民銀行」を作ろう。>
どうしても1兆ドルを印刷するとしたら、それは一握りの大金持ちに与えるのではなく我々自身に与えようではないか。フレディーとファニー(2大政府系住宅ローン会社)が我々の手に落ちた今こそ、国民の銀行を作ろうではないか。自宅の購入、小規模事業の起業、通学、癌治療、或いは次の大発明のための資金を望む全ての人に低金利の融資を行なう銀行である。また、米国最大の保険会社AIGも我々の手に落ちたのだから、次の段階に進んで全ての人に医療保険を提供しよう。これで長期的には節約が出来るだろう。

○(6)<世界同時不況を引き起こした、
真の「犯人」とは
一部の人々が陶酔する「欲望のゲーム」だった>
(堤未果・ジャーナリスト)
世界同時不況を引き起こした、真の「犯人」とは誰だろう?2008年末のアメリカで大手金融機関が次々に破綻してから、同じ問いが世界中を駆け巡ってきた。
巷にはありとあらゆる書物が流れてくる。「サブプライムローンが悪い」「アメリカが悪い」「某財務長官が悪い」といった内容だ。アメリカの大物投資家ウォーレン・バフェットは、破綻のきっかけとなったデリバティブ商品を「金融版大量破壊兵器」と呼んだという。だが大半の人はそんな説明を聞いてもますます混乱するばかり。
このままじゃ経済が破綻する、大恐慌がやってくる。マスコミは繰り返し恐怖をあおり、政府は破綻した金融機関を救うために70兆円の税金投入政策を押し通した。歴史的な政権交代を実現したオバマ大統領は群集を前にこう言った。「アメリカは変わる。YES WE CAN!」
だが本当にそうだろうか?失業率が10%を超え、家を差し押さえられる人やホームレスが急増し、医療破産や学費破産で中流層が転落する一方で、銀行家たちは10億円単位の巨大ボーナスを手にしてほくほく顔だ。私たちは再び混乱する。悪名高きブッシュ大統領がいなくなった後も、この図がちっとも変わっていないことに。
そう、私たちが欲しいのは金融用語てんこ盛りの理論でも切り貼りの報道でもない、あとを追うように失業率とワーキングプア人口を拡大させる日本が脱出するためのヒント、アメリカという国の実態なのだ。

マイケル・ムーアの新作「キャピタリズム」には、その答えがはっきりと描かれている。一言で言うと奴隷のように働く99%の労働者と、その全員を合わせたより多い財産を持つ1%の大富豪たちが織りなす超格差社会。それを象徴するショッキングな例が、軽快な音と映像でこれでもかというほど現われる。
いきなり解雇され路頭に迷う労働者たち、差し押さえられた家の前で泣きながら家具を燃やす夫婦、ワーキングプアばりの低賃金でこき使われ借金と過剰労働から航空事故を起こすパイロット、きわめつけは受取人を会社にした生命保険を社員にこっそりとかけ、社員が死ぬと保険金をまるまる会社が手に入れる、悪魔のような「くたばった農民保険」。今『貧困大国アメリカⅡ』を執筆中の私も、これには思わずのけぞった。

息もつかせぬスピーディは展開に浮かびあがる犯人像は、いかに効率よく巨大な利益を上げられるかを日夜考える、ウォール街の強欲富豪とその仲間たちだ。
そこで私たちは気づかされる。この映画のテーマが、決してアメリカ一国の話ではないことに。国家の行方を左右する穀物や石油、為替だけでは飽き足らず、医療や教育、人々の暮らしまでギャンブル商品に変えられる。規制を緩めるために巨額の献金とネットワークで政治に圧力をかけるそのゲームに、国境などないからだ。

ムーア監督は最後に言う。「あなた達みんなの力が必要だ」と。
真の犯人がサブプライムローンでもアメリカという国でもなく、一部の人々が陶酔する「欲望のゲーム」だと知った時、私たちの目に映る世界は形を変えるだろう。映画がヒットするたびに圧力を受け、今やSPと共に移動するムーア。
彼は知っているのだ。狂ったゲームを止めるためには、真実を知る人々の数こそが力になることを。

<堤未果(つつみみか)氏・・・・・国連婦人開発基金(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナル・ニューヨーク支局員を経て、米国野村證券に勤務中「9・11同時多発テロ」に遭遇。帰国後、アメリカ~東京間を行き来しながら、ジャーナリストとして活躍。『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)ほか、著書多数。『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』が2010年1月に刊行予定。>

文責:藤森弘司

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