2008年9月30日 第74回「今月の映画」

「闇の子供たち」

原作:梁石日       監督:阪本順治
主演:江口洋介      宮崎あおい

●(1)「幸せの1ページ」は、私の好みでは、なかなか良かったです。
「幸せの1ページ」は、ウェンディ・オアーの同名の人気児童書を映画化した冒険ファンタジー。孤独なベストセラー作家で、対人恐怖症のアレクダンドラ(ジョディ・フォスター)は、何年も自宅に引きこもって暮らしている。新しい小説のネタをネット検索していて、偶然、孤島で暮らす海洋生物学者の娘のニム(アビゲイル・ブレスリン)から、SOSのメールが届き、救援に向かうことになる。
ところが対人恐怖症だから、当然、ドタバタ続き。これがまた、とても面白い。ジョディ・フォスターだからこそか。また、娘役のアビゲイル・ブレスリンがとても良かった。将来、すばらしい女優になる予感がします。
2002年の「今月の映画」でご紹介した「阿弥陀堂だより」で、目の見えない役の小西真奈美を妻に絶賛しましたが、その後、かなりの活躍・特にコマーシャルで活躍しているのを見て、多少は見る目があるつもり(?)でいます。将来のアビゲイル・ブレスリンをご注目ください。
●(2)今回は、本当は「闇の子供たち」を取り上げたいと思っていました。また、いろいろな意味からもこの映画を取り上げるべきだと思っていました。わずかであっても、こういう映画を製作する関係者への応援の意味も含めて。
しかし、あまりにも凄まじい内容なので、映画を観ることを止めました。しかし、やはり紹介はしたいと思い、<第63回「パーフェクト・ストレンジャー」>に続いて、見ない映画のご紹介とします。
どのくらい凄い映画かを新聞の記事からご紹介することと、yahooの掲示板を最後にリンクすることで、見ない映画のご紹介とします。2008年8月7日、夕刊フジ<「闇の子供たち」の挑戦>より<梁石日氏「実現するとは考えていなかった」><子供の人身売買と幼児性愛>アニメが台頭する夏休み気分を一蹴するほど異彩を放つ映画が公開中だ。子供の人身売買と幼児性愛という社会の暗部に切り込んだ「闇の子供たち」。大人が子供をもてあそぶ描写、臓器移植の裏に隠された富者のエゴ・・・映画界が避けて通るテーマに挑んだ力作である。(萩原和也)

テーマはあまりに重い。
タイ駐在の新聞記者・南部(江口洋介)は重い心臓病に苦しむ日本人の子供がタイで臓器移植を受けることを知る。貧困家庭からマフィアに売られた子供が臓器の提供者だった。子供たちが売春宿で幼児性愛の犠牲になっていることを知り、タイのNGOに来ていた恵子(宮崎あおい)らと実態を暴こうとするが、マフィアが牙をむく・・・。

売春させられ、エイズにかかるとゴミ袋に入れて捨てられる子供。知らぬ間に臓器の提供者とさせられる子供。衝撃的な小説は2002年に刊行され、2年後に文庫化された。「映画化が実現するとは全く考えていなかった」
そう語るのは原作の小説を手がけた梁石日(ヤン・ソギル)氏だ。
梁氏の小説は「タクシー狂操曲」が「月はどっちに出ている」として映画化され、「血と骨」も映画賞を総ナメにした。しかし、映画界から注目を浴びる作家も「闇の子供たち」の映像化だけは無理だと思っていた。

この小説を手に取った男がいた。映画会社セディックインターナショナル代表で映画プロデューサーの中沢敏明氏。「岸和田少年愚連隊」「顔」「スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ」など数々の話題作を仕掛けてきた。「映画のパターンが似通ってきて、テレビのヒット番組をそのまま映画にしているだけと思っていた。そんなとき、この原作に巡り会った」と話す。

ビジネスとして「他の人がやらないことをやれば人は振り向く」という計算もあった。出版社に連絡して映画化権を押さえた。誰がメガホンを取るか。重いテーマと商業映画の両立ができる監督は少ない。

<阪本監督は極度の重圧で失語症に>

中沢氏の話に迷うことなく乗ったのが阪本順治監督だった。
「できるだけハードルが高いものをやりたい。手練手管が通用せず、自分が壊される企画をすごく求めている。この話が来たとき、断わる理由は全くなかった」(阪本監督)
出版社から電話を受けた梁氏は「本気でやるんか!監督は誰?と聞いたら阪本さんだと。どうしてこんなややこしい映画に、と思ったね」。むろん、本心はうれしかった。
06年秋に企画がまとまり、タイが雨期に入る前の昨年4月、現地ロケを敢行した。電光石火のクランクインは裏社会からの妨害を避ける狙いもあったという。撮影中、阪本監督は極度の重圧で失語症に襲われた。「そのせいで欲しいカットが2、3撮れなかった悔しさでいっぱい」と振り返る。

<江口洋介、宮崎あおいが新境地>

子供を買う白人役の俳優に逃げられたこともあったが、マフィアに立ち向かう一本木な女性を演じた宮崎も強い信念で作品に立ち向かっていた。
阪本監督が「なんで出たの?」と聞くと、「私はずっと子供の人権問題に関心を持っていたから」と毅然と答えた。
撮影初日からタイの子役たちと始終、一緒になって溶け込む宮崎が現場の雰囲気を癒した。江口はオフの時間も部屋から出ず懸命の役作り。多くの評論家が「新たな一面を見た」と口をそろえる。

中沢氏はこの作品を海外に発信しようとブッキング中だ。すでに世界12大国際映画祭のひとつ、チェコ・カルロヴィヴァリ映画祭への招待が決まった。明言こそしないが「アカデミー賞も・・・」と自信を秘める。
梁氏は言う。「賞を取るかどうかは別に、日本映画界で今までになかった分野を切り開いた」。思いは観客に届くか・・・。

参照<Yahoo映画:闇の子供たち>

<文責:藤森弘司>

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