2007年4月30日 第57回「今月の映画」
ブラックブック

監督:ポール・バーホーベン   主演:カリス・ファン・ハウテン   セバスチャン・コッホ   トム・ホフマン

 

●(1)この映画はとにかくショックでした。第二次世界大戦末期、オランダの映画ですが、今までの中で一番刺激的でした。
「平和」の対極にある「戦争」の悲惨さを実感することで、「平和」の有り難さが再認識される映画です。○(2)スピルバーグの「シンドラーのリスト」、ポランスキーの「戦場のピアニスト」・・・そしてバーホーベンの「ブラックブック」遂に登場!!!愛と裏切りが渦巻く第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のオランダ。
過酷な運命に翻弄されながらも、戦火の中でこそひときわ強く美しく輝く女神<ミューズ>エリス。○(3)舞台は1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。若く美しいユダヤ人歌手ラヘルは、ドイツ軍から解放されたオランダ南部へ逃げようとするが、何者かの裏切りによって両親や弟をナチスに殺されてしまう。誰が彼女たちの命を売ったのだ。
名前をエリスと変え、ブルネットの髪をブロンドに染め、レジスタンスのスパイとして諜報部のトップであるドイツ将校ムンツェにその美貌と歌声を武器に近づいて行く。だが憎むべき敵であるはずのムンツェの優しさに触れ、彼女は次第に彼を愛するようになってしまう。
一方レジスタンスたちは、ドイツ軍に囚われた仲間たちを救出しようと画策する。しかし作戦は失敗に終わり、ドイツ側に寝返ったという濡れ衣がエリスに着せられてしまう。
果たして真の裏切りは誰なのか?全ての鍵を握る“ブラックブック”とは?エリスはその謎を解くことができるのか。

○(4)実在した“ブラックブック”とは?
本作にも登場する“ブラックブック”については、多くの本がその存在を指摘している。“ブラックブック”は、ハーグの弁護士デ・プールの日記帳である。彼は終戦直後に射殺されたが、犯人はいまだ不明。
デ・ブールは戦争中、無益な流血を避けようと、ハーグのドイツ軍司令部とレジスタンスの仲介役として交渉にあたっていた。“ブラックブック”の行方はようとして知れないが、そこには裏切り者と協力者のリストが載っていて、トップクラスの要人の名も含まれていると言われている。

○(5)レジスタンス
“抵抗”を意味し、権力や占領軍などの侵略者などに対する抵抗運動を指す。特に第二次大戦中、ナチス・ドイツ占領下のオランダやフランスを始めとしたヨーロッパ各地におけるナチスに対する地下運動のこと。
ドイツ国内でもレジスタンス運動はあり、ハンスとゾフィーのショル兄妹を中心としたミュンヘン大学学生のレジスタンス運動を描いた映画「白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々」も記憶に新しい。
オードリー・ヘプバーンは幼い頃、ナチス・ドイツ占領下のオランダで、レジスタンスに加わっていた叔父たちの使い走りをしていたという。同じ時期、同じオランダで、幼いポール・バーホーベンもまた、飢えをしのぎ、通りに横たわるユダヤ人の射殺死体を目にして育っていた。

●(6)裏切り者は誰か?次から次へと変化するスリルは抜群のものがあります。
私(藤森)が史実に基づいて書かれた戦争映画をみるとき、娯楽作品はともかく、「生」に対する「死」と同様、「戦争」に対する「平和」を大切にしたいからです。最近は、60年前にアメリカと戦争をしたことを知らない若者が多くなっているそうです。

最近、私の甥と話をする機会がありました。40代の甥は、ある化学関係の会社に勤めています。大きな工場ではいろいろな物を作っていますが、チョッと油断すると、そこには大きな危険と隣り合わせです。
そこで一番怖いのは「慣れ」だそうです。例えば、10メートルくらいの間隔があるところで、高速で糸を巻いていると、糸が止まって見える。そういう状況に慣れてきて、油断すると大変です。高速で巻いている糸に、万一、チョッとでも触れると、指が簡単に切り取られてしまうそうです。もし、首が触れたら、ギロチンのように切り取られてしまうのではないでしょうか?
工場では、そのような危険な場所が沢山あるために、常時、初歩中の初歩の注意事項を徹底させているそうです。恐らく、幼稚園生や小学生に横断歩道を渡るときの注意事項を徹底させるようなものなのでしょう。
そういえばもう10年くらい前になるのでしょうか?東海原子力発電所で、バケツでウランだか何かを入れていて大事故が発生しました。巨大な事故が発生する可能性がある原子力発電所で、バケツを使うという恐ろしいことがありましたが、これも日頃の慣れがそうさせたのではないでしょうか。銀行員が毎日お札を数えているので、現金が単なるモノに見えてくるというのも同様でしょう。

●(7)先人が苦労に苦労を重ねて手に入れた参政権も、慣れてしまえばただの権利であって、気楽に棄権してしまいます。昨今の投票率の低さはまさにこれでしょう。
「健康」という人間にとって最高に大切なものが、毎日、健康に過ごしているという錯覚や「慣れ」が、油断を生じさせてしまいます。そして大病を患ったり、大怪我をして、初めて、元気に過ごせていることの有り難さがわかります。この健康問題は、案外、東海原子力発電所の、バケツを使うという信じられない初歩的な大ミスと同じくらいの問題かもしれません。

●(8)私は戦争映画が好きなのではなく、戦争映画を見ることで、今の平和を再認識したいと思っています。戦争映画を見ると、その悲惨さ、恐ろしさは言語に絶します。
現に、戦争屋さんみたいなブッシュ大統領も、確か、ベトナム戦争を忌避したのではなかったでしょうか?どんなに威張ったり、意気盛んなことを言っていても、一発の弾丸が当たれば、泣き叫びます。ましてや味方が負傷者を放置して、退却せざるを得ない場合を想定してみれば、その恐怖たるや想像を絶するものがあります。
裏切りもあれば、異常な判断もあれば、食糧不足にもなるし、医薬品もなくなるでしょうし、伝染病も蔓延するかもしれません。雨に降られてびしょ濡れにもなります。体調不良にもなるでしょう。メガネが壊れたらどうするのでしょう!
ただもう悲惨!悲惨!悲惨!なだけなのが戦争です。
また、万一、生き延びて帰国することができても、あまりにも悲惨、残酷な体験をしてきたために、平時で生きるのが、とても困難になるそうです。ベトナム戦争を体験した多くの兵士たちがそのようですし、イラク復興に活躍して帰国した日本の自衛隊員に「自殺」が多いという報道もあります。

●(9)とにもかくにも、可能な限り戦争は避けるべきです、当然のことですが。
ところが平和が続くと、その有り難さが薄れてしまって、好戦的な感情になってしまったり、「平和」ではなく、「退廃」的になってしまう傾向にあるようです。育児や社会的な事件をなどを見ても、平和に対する「慣れ」が、人心の荒廃、退廃になってしまい、そういう雰囲気が、一部の刺激を求める人たちを好戦的な気分にさせてしまうのかもしれません。
ところがどんなに大暴れしている人間でも、どんなに威張ったり偉そうに強気に振る舞っていても、わずか一発の弾丸が手や足に当たれば、苦痛に悶絶しそうになったり、極端に弱気になってしまいますし、状況によっては、治療どころか、重傷を負っている自分が戦場に放置されることもあります。

●(10)実際にあった戦争中のいろいろな出来事に対しては、二度とこのような戦争を繰り返さないためにも、また、その結果として得られた「平和」を大事にするためにも、「平和」の対極にあるこのような映画を見るべきではないかと私(藤森)は思います。
個人の理性や論理も、正義も能力も努力も、愛も友情もプライドもズタズタにされ、権利も権威も財産さえも、何もかも濁流に押し流されてしまう悲惨、残酷極まりない戦争を絶対に避けるためにも、理性ある「平和」を維持させる必要があるのではないかと思います。
自己成長に取り組んでいて、今、あまり悲惨なものに触れたくない方はともかく、できるだけ多くの人たちに鑑賞していただきたい映画の一つです。

 

<文責:藤森弘司>

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