2007年1月31日 第54回「今月の映画」
監督:デイビス・グッゲンハイム 主演:アル・ゴア(元副大統領)
●今回、この映画を取り上げたのは、「地球環境の恐ろしい現実」に目を向けるべきであることが痛感されたからです。地球人である以上、誰でも見るべき映画だと思います。また、ゴア元副大統領の誠実かつ上品な人柄にも、とても魅かれました。 この映画は、ゴア氏が学生時代に出会った一人の教授の影響を受けてから、長年、「地球環境」に関心を持ち、また、京都会議などにも取り組んできたゴア氏が、全米中を講演して回り、外国にも出かけて訴えている姿に感動した映画人が、ゴア氏の講演録のような形でまとめたものです。 最初はわずか77館という小規模での公開でしたが、評判を呼び、150館に拡大。その後、600館までに拡大。アメリカ・ドキュメンタリー史上、記録的大ヒット作品となっています。 |
○(1)<プログラムより> 地球は人類にとって、ただひとつの故郷。その地球が、今、最大の危機に瀕している。キリマンジェロの雪は解け、北極の氷は薄くなり、各地にハリケーンや台風などの災害がもたらされる。こうした異変はすべて地球の温暖化が原因といわれる。年々、上がり続ける気温のせいで、地球体系が激変し、植物や動物たちは絶滅の危機にさらされる・・・・・。傷ついた地球を救うため、一体、今の私たちに何ができるのだろう? そんな時、ある固い決意を胸に立ち上がった男がいた。アメリカの元副大統領、アル・ゴアである。温暖化によって引き起こされる数々の問題に心を痛めた彼は、人々の意識改革に乗り出すべく、環境問題に関するスライド講演を世界中で開き、地球と人類の危機を訴えてきた。そして、その真摯で、ユーモラスな語り口に共感した制作者が、彼を主人公にした映画の制作を決意。現代人にとって耳の痛い問題を正面から描き、見る人すべてに大きな衝撃と感動を与えるヒューマン・ドキュメンタリーの誕生となった。 全米では、有力紙がこぞって大絶賛。興行成績も好調で、最初は77館という小規模の公開から150館に拡大。その後約600館まで拡大し、アメリカ・ドキュメンタリー史上、記録的大ヒット作品となっている。けっして他人事ではない環境問題を豊富なデータを使いつつも、パーソナルな視点でとらえ、観る人の意識を完全に変える新しいタイプのドキュメンタリーとして社会的な反響を呼んでいる。 ゴア自身が問題を強く意識したのは、1960年代後半のこと。環境問題を研究するロジャー・レヴェルの警告に心を動かされた彼は、70年代後半にはこの問題に関する初の聴聞会をまとめる手伝いをした。80年代には各国の首脳たちと話し合いを始め、また、97年には京都議定書など、多くの交渉の場に参加した。 政治家として、長年、環境問題に取り組んできたが、その運動に突き進んだ本当の動機はとても個人的なものだった。89年に6歳の息子が交通事故に遭い、1ヶ月間、生死の境をさまよった末、奇跡的に命を取りとめた。この時、将来の息子が生きる場所への危機感を強めたという。○(2)さらに追い討ちをかけたのが、2000年のブッシュに対する大統領選での敗北だった。その印象を「打撃だった」と、劇中で素直に告白するゴア。やがて彼は失意から立ち上がり、自分の本当に進むべき道を見い出した。そして、スライド講演を決意し、自分の生の声で人々に温暖化問題を伝える活動を始めたのだ。 アメリカだけではなく、ヨーロッパやアジアなどでこれまで1000回以上の講演を行なってきた。そこで明かされる驚愕の事実の数々。北極はこの40年間に40%縮小し、今後、50~70年の間に消滅するといわれている。氷を探して100キロも泳いで溺死した北極グマの悲劇的なレポートも伝えられる。 また、数百万におよぶ渡り鳥が温暖化の被害を受け、種の絶滅の割合は過去の記録の1000倍に達しているという。さらにこの四半世紀の間に、鳥インフルエンザやSARSといった奇病が発生。昨年、ニューオーリンズを襲ったハリケーン“カトリーナ”のような大きな自然災害も増えた。環境破壊のせいで、今後、20万人もの難民たちが大移動する、とも言われている。 多くの政治家たちが耳を貸そうとしない“不都合な真実”。しかし、私たちが日々の暮らしの中で小さな努力を重ねることで、地球を変えていける、とゴアは訴える。それぞれの問題は日常生活の中でつながっており、車の排気ガスを減らしたり、自然エネルギーを取り入れることで、事態は確実に改善されていく。地球の未来を信じているからこそ、立ち上がった孤高のサムライ。「不都合な真実」はそんな男の勇気と希望に満ちた闘いを温かい視点で見せる異色作だ。○(3)地球温暖化に関するアル・ゴアのプレゼンテーションと「不都合な真実」は、衝撃的な映像が核となっている。 それは、タンザニアの最高峰キリマンジェロやヒマラヤ山脈の写真で、地上で最大の氷河が劇的に、急速に解けていることを示したものだ。そういった変化は我々の身近でも起こっている。ゴアが提示するように、アメリカ、モンタナ州にある壮大なグレーシャー国立公園では、氷河が驚くほどわずかしか残っていないのだ。 その映像が与える衝撃は否定しがたい。その強烈な映像によって、様々な場所で進行する「失われていくもの」に我々は心を痛めるだけでなく、何かが心に芽生える。以前は、自然の変化は目に見えるほど速くはないとか、地球はあまりにも広く、力もあるために、人間が大きな影響を及ぼすことはないと思われていたかもしれない。しかし、今や、それは間違いだということが分かったのだ。ゴアは、広範に及ぶ変化が、今や人間を巻き込み、地球は刻々と変化していることを明らかにしている。 ゴアはさらに否定できない証拠を提示する。観測史上、地球が最も暑かった10年は、すべて1990年以降に記録されているということだ。特に海の温度が急速に上昇したため、破壊的なハリケーン“カトリーナ”やその他の驚異的な嵐が起こり、ますます多くの強烈なトロピカルストーム(風力8~11の台風)やハリケーンが発生している。 降水パターンの変化は、さらにひどい洪水や干ばつを引き起こし、気温の上昇は、世界各地における疫病発生の原因となっている。一方で、温度変化により生息地が奪われたため、世界でも貴重な野生動物の絶滅を招いている。この中にはホッキョクグマも含まれるが、狩のために使う棚氷(たなごおり)を必死で探しながらも見つけられず溺れているホッキョクグマの姿を、ゴアは史上初めて報告している。○(4)科学的に証明された研究がたくさんあるにもかかわらず、あまりにも多くのアメリカ人やアメリカの指導者たちが、いまだに地球温暖化を信じていないことをゴアは嘆いている。専門家による気候変化に関する調査(2004年12月のサイエンス・マガジン)によれば、928人の専門家が地球温暖化対策を支持し、誰一人否定しなかった一方で、マスメディアが手がけた同様の調査では、53%が地球温暖化は立証されていないと発表した。言い換えると、人々が受けているメッセージと実際の現状は異なっているのだ。 ゴアは、我々が抱える最大の問題は誤解だという。その最大の誤解とは、もし地球が巨大なトラブルを抱えているとしても、我々にできることは何もないというものだ。 力を尽くし、知識を駆使し、情熱をかけた戦いをせずに負けを決め込むことを好しとしないゴアは、アメリカ人がこれまでにも、様々な無理難題と思われる問題と対決してきたことを指摘する。奴隷制度の廃止、人類による月面着陸、さらにオゾン層の穴を食い止めることまで・・・そして、地球温暖化も、不可能と思えることにも熱意をもって取り組む偉大な伝統で対処されるべきだと考えている。 ゴアは、ビジネスと環境は常に対峙しているという概念に挑んでいる。つまり、彼は、エネルギーの節約、炭素回収技術、交通輸送手段、代替エネルギー、効率的な工学技術といった分野を我々が真摯に考えていくことで、破壊の潮流を変え、健全な地球を取り戻すという「一大再開発」を思い描いている。 だが、その再開発を導くには、人々が力を合わせ、この事業を支持し、それぞれの生活を改め、さらに多くの活動を行なうように政治家にプレッシャーをかけていかなくてはならない。アル・ゴアは、すでにそうなりつつあると考える。彼は、全米の市民や政党の間で大きな運動が力を増していることに気づいている。そして、ゴアと同様、映画製作者たちも「不都合な真実」が一つの経験となり、その運動に刺激と力を供給できれば、と考えている。 製作者の一人スコット・バーンズがまとめる「アル・ゴアが世界中の全都市へ出かけていって、人々に話して聞かせる時間はありません。この映画は、時間が絶対的に重要な意味を持つまさにこの時に、より多くの人に彼のメッセージを伝えることができます」。 ○(5)アル・ゴア |
●(6)週刊ポスト、2007年1月26日号と2月2日号<メタルカラーの時代「温暖化防止に向けたCO2削減の速効策」>より ゲストは大隈多加志さん・・・東大理学部で地球化学を専攻。東京工業大学助手を経て、1987年電力中央研究所に入所。高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究などに取り組む。2000年から財団法人地球環境産業技術研究機構を兼務。CO2地下貯留の研究と、実証実験「長岡プロジェクト」などに従事。「CO2の地下封じ込めはすでに確立した技術」 「地球温暖化」の解決を目指すダイナミックなプロジェクトが多く登場してきた。地球温暖化の原因は、大気中に人間が放出してしまった温室効果ガスだが、その最大のものが、石炭や石油など化石燃料の大量消費で出る二酸化炭素(CO2)だ。この「ガスごみ」ともいうべきCO2を地下深くに閉じ込める技術が、最近注目されるようになってきた。山根一眞氏・・・「CO2の地中貯留」は、欧州が先手を切ってきたということ? 大隈多加志氏・・・そうでもないんです。北海ガス油田が舞台となる以前から、アメリカの石油業界では「あたりまえの技術」として確立していたものなんです。 山根氏・・・どういうこと? 大隈氏・・・原油増産のために、油井にCO2を圧入していたんです。まず、油を狙って井戸を掘ったが、ガスも油も出ず、CO2しか出てこなかったという井戸がある。それで、掘り賃の足しにと売り先を探したら、石油屋さんが買ってくれたというのがコトの始まりです。70年代ごろからの話です。 山根氏・・・石油増産のためなら、わざわざCO2じゃなく空気を押し込めばいいのでは? 大隈氏・・・CO2だと効果が高いんです。気体のCO2を高い圧力で地中に入れると「超臨界」となりますから。 山根氏・・・「超臨界」? 大隈氏・・・気体と液体の性質をあわせ持つ状態が「超臨界」。圧力や温度の条件を整えるとそうなります。山根氏・・・その「超臨界CO2」を原油の井戸に入れるとどんなことが起こるの? 大隈氏・・・気体はどんなスキマにも入り込む「拡散性」がある。一方、液体はさまざまな物質を溶かしこむ「溶解性」をもつ。「超臨界CO2」はその2つの性質をあわせ持つわけです。 油井では最初はサラサラの油が出てくるが、次第に粘度が上がりベトベトし、だんだん出にくくなってくる。そこで深い部分に水を注入し、油を押し出すなどの方法を使います。しかしそれでも採りきれない油が地層中に残る。これを採るのがCO2だったわけです。 山根氏・・・CO2を送り込むと? 大隈氏・・・井戸から入れれば地層に侵みわたり、油を溶かし込んでサラサラと流れやすくなるわけです。井戸から出て地層で1気圧になれば、CO2は自然に蒸発して油だけが残る。大げさな分離プラントも不要なんです。 山根氏・・・蒸発したCO2は捨てる? 大隈氏・・・いや、再注入し、何度でも再利用できます。 83年の第2次オイルショックの頃に誕生したビジネスモデルです。1バレル当たりの原油価格が12ドル台から40ドル台へと高騰、「これなら石油増産のためのCO2がビジネスになる!」とコロラド州のベンチャー企業が名乗りを上げ、火力発電所から出る1日数千トン規模の排ガスからCO2を分離、テキサス州の原油会社に売ろうとしたわけです。 山根氏・・・化石燃料である石油を絞り出すためにデビューした「CO2の地中圧入技術」が、温暖化の元凶であるCO2の削減策として脚光を浴びるとは・・・。 大隈氏・・・アメリカはこういう技術蓄積があるので、のんびりと期が熟すのを待っているように思えます。ヨーロッパほどは焦っていないな、と。 山根氏・・・「GO!」が出れば、アメリカはCO2の削減を一気に進められる? 大隈氏・・・政権が変わればすぐにでも可能でしょうね。 山根氏・・・火力発電所から出る大量の排ガスからCO2を得るとおっしゃいましたが、その技術的方法は? 「CO2処分を理念とした経済共同体をアジアにも」 <インタビュアー:山根一眞氏・・・メタルカラー①金属製の襟(カラー)。②日本の工業力を世界のトップ水準に引き上げた産業界の主役。③創造的技術開発者の総称。ホワイトカラーとブルーカラーという従来の就労者分類からこぼれていた集団に対して「金属の輝く襟を持つ者」として、1993年に山根一眞氏が命名した新しい概念である。その人口は約10万人と推定される> |
<文責:藤森弘司>
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