2006年3月31日 第44回「今月の映画」
シリアナ

原作:元CIA諜報員、ロバート・ベアの自伝「CIAは何をしていた?」
監督:スティーブン・ギャガン   主演:ジョージ・クルーニー   マット・デイモン

●(私見)本当につまらない映画でした。終了後、後ろのカップルが、「わかんない映画だなあ」と言っていました。
しかし、ここに掲載する理由は、石油やCIAの活動についての情報をお知らせしたかったからです。(プログラムより)<劇中に出てくる「中東某国」とは>
この話は中東の状況を知らないと理解できないでしょうね。アメリカの石油会社が中東に利権を持っていて、中国と対抗している話とか、某国の王位継承の争いや中東の民主化運動とか、アメリカの好きなテーマ。ただCIAと思われる機関が超ハイテク兵器で邪魔者になる王子を抹殺するという恐ろしい話だけど。
まず大前提として、映画で描かれる中東某国は、サウジアラビアのことなんです。世界最大の産油国で、今も王制。中東でなぜ自爆テロが生まれるかという背景には、石油で作られた都市には富と豊かさがあり、近くに恐ろしいほどの貧困が存在している。
その中から自爆テロが生まれるわけです。貧困の根っこにあるのは石油だったり、その国の生き残りをかけた争いがある。
9・11以降、世界が恐れていることの根っこが、この映画にも描かれてるわけです。CIA工作員の謀略活動もそれなりに描かれているけど、普通の映画のように一つのストーリーにそっているわけではないので、観終わって消化しきれない疑問が残る映画。
それが監督の意図なんでしょう。今、起きていることは陰謀なんだな、と観客に考えさせることが狙い。そういう米国の陰謀に対する、反陰謀の自爆テロが世界中で進行しているという皮膚感覚みたいなのを観終わって体感できる。
CIA工作員だったロバート・ベアの手記は僕も読みました。彼が中東にいた1979年、ホメイニ師がパリから戻り、パーレビ王国をひっくり返し、イスラム革命をやるんですね。
80年にはアメリカ大使館の人質事件を引き起こし、いまだにイランとアメリカ間には外交関係がない。だからブッシュ大統領はイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と言っていたんですね。
僕も特派員として、かつてはCIAの謀略の拠点だったイランを体験した。・・・・・・・(鳥越俊太郎氏)(プログラムより)「石油を知る」
<石油とは>
石油は英語でPetroleumと呼ばれているが、これはラテン語のPetra(岩または石)とOleum(油)の合成語である。
石油とは大恐竜たちが地球上を闊歩していたジュラ紀など、1億年以上昔に生息していたプランクトンなどの大量の死骸が地下深く長い年月をかけて変化したものであると言われている。石油は地下から採取されたままの状態では極めて多種の炭化水素を主成分とし、微量成分として硫黄、窒素、金属などを含む液体である(この状態を原油という)が、一般的に利用する場合は、この原油を生成工程にかけて、それぞれの利用目的にあわせた多種類の製品とする(これらを石油精製と総称する)。
石油はその主成分である炭化水素の種類が極めて多く、さらにまた加工によって無限に近い分子構成の変化が可能であることによって、他に例のない広範な用途を持っている。<石油利用の歴史>
自然の状態で地上に噴出した石油の利用は極めて古くから行われ、用途は、医薬品・防水剤・潤滑油などであった。しかし、積極的に石油を求めて地下を探索し、利用するという形になったのは、19世紀半ば以降のことである。
石油産業の始まりは、1859年にアメリカのペンシルベニア州に始まるが、1908年のフォードT型低価格乗用車の量産開始、第一次世界大戦を経て(連合軍は石油の波に乗って勝利にたどり着いた)、その重要性が確立された。
しかし、本格的な石油時代の到来は第二次世界大戦のことであり、戦後の欧州や日本の急速な経済回復と現在に至るまでの発展は、石油の利用によって初めて可能になったと言っても過言ではない。

<石油埋蔵量>
埋蔵量の定義はいろいろあるのだが、通常、単に「埋蔵量」という場合は、すでに存在が確認され(存在確率90%以上)、かつ、現在の石油価格や回収技術の水準、原油国の税制等の条件で、商業的に採取可能な油田の埋蔵量を示す(これを確認可採埋蔵量と呼ぶ)。
現在、世界の確認可採埋蔵量は約1兆3000億バレルであり、今のまま掘り続けると、あと40年後ぐらいで確認可採埋蔵量はゼロになる計算だが、調査・開発が進み、確認可採埋蔵量は着実に増えているため、その心配は少ない(ちなみに、30年ほど前に「石油の寿命は30年」と言われていたが、現在の石油の寿命は40年以上になっている)。
地域別に見ると、サウジアラビアが全体の4分の1を占め、ついでイラク・アラブ首長国連邦・クウェート・イランの順になっており、これら中東5カ国だけで、世界確認可採埋蔵量の60%以上になる。

<石油生産>
世界全体の石油の生産量は1日当たり8000万バレル以上であり、石油産出国のベスト10は下図の通り。

順位 国名 生産量(1日あたり) 輸出量(1日あたり)
1 ロシア 964 715
2 サウジアラビア 950 681
3 アメリカ 634 2
4 イラン 387 268
5 メキシコ 386 211
6 中国 366 16
7 カナダ 315 158
8 ノルウェー 298 265
9 アラブ首長国連邦 260 217
10 ナイジェリア 246 235

(単位:万バレル)

<石油業界の悩み>
新規の油田を調査して発見し、開発し、生産能力維持のための生産メインテナンスを行って、石油を生産する事業を「石油の上流事業」と言う。石油産業の収益の源泉はこの上流投資に有るが、現在、上流投資は非常に巨大になり、リスクの高いものになっている。
原油国に発展途上国が多いため、投資を行う石油会社にとって政治的リスクが高いという要素もあるが、新しい油田を発見するには、大規模な地表調査を実施した後、地下数千メートルに達する1本10億円程度の探査坑井を平均して数十本採掘してはじめて、商業化できるだけの量の埋蔵量を有する新たな油田を発見することができる。
したがって、平均して数百億の資金を投入しないと、次の新たな商業規模の油田は発見できないのであり、これに耐えられる規模の企業しか石油の上流事業を行うことができなくなっている。

<OPECの悩み>
OPECは1960年、サウジアラビアとベネズエラを中心とする大手石油産出国が、一致団結してメジャーと輸出価格交渉を行おうとして結成された機関である。1970年代の2度にわたる石油危機を通じて、石油価格を11倍に引き上げることに成功したが、あまりにも人為的な価格引き上げの反動として需要が急激に減少し、これにより、86年に石油価格が暴落して、OPECの国際価格カルテは崩壊した。
国際石油市場における生産のシェアは70年代前半に60%近くに達していたのだが、80年代半ば以降40%程度で横ばいである。
価格決定権も「市場」、特に、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)とロンドン国際原油取引所(IPE)の原油先物市場に奪われ、投機化の思惑により乱高下する原油価格に一喜一憂する状態にある。

<代替エネルギーの開発>
1970年代の2度にわたる石油危機を契機に、先進諸国を中心に代替エネルギーの開発が行われたが、その中での数少ない成功例は原子力エネルギーである。
日本では供給される電気の約4割が原子力発電により産出されているが、それでも一次エネルギー供給の約5割はいまだに石油に依存している。
第二次石油危機当時、「近い将来、原油価格が100ドルになる」との予想のもと、太陽電池や燃料電池などの様々な代替エネルギーの開発が進められたが、その後、原油価格が暴落したため、その多くは、石油燃料をベースにしたエネルギーシステムにコスト面で勝ることが出来ず、導入が進まない状況にある。
特に、ガソリン自動車の価格・性能面の有利さは群を抜いており、最近燃料電池自動車などが話題になっているが、政策的な支援なしではまったく歯が立たない。

<ピークオイル論>
2004年から始まった原油価格高騰を背景に、「世界の石油産出量が近い将来にピークを迎える」というピークオイル論が注目を集めている。
この説は、1970年代におけるアメリカの実際の生産量のピークを10年以上前に予測した理論を世界全体に当てはめようとするものであるが、その妥当性には疑問があるといわざるをえない。
アメリカの予想がなぜあたったかについては、1950年代から70年代にかけての米国内の探鉱密度が非常に高く正確な予想を行うに足るデータが揃っていたからであるが、米国を除く世界全体が1970年時点のアメリカの探鉱密度に達するまでには、あと400年かかると言われており、世界全体の予測を正確に行うに足るデータが十分蓄積されていないからである。

○石油を巡る国際情勢とその渦中にある日本・・・・・藤和彦
2004年から急上昇を始めた原油価格は、昨年8月末、米国のハリケーン「カトリーナ」の影響を受けて、1バレル(=159リットル)当たり70ドルを突破した(04年3月5日時点では、約37ドル)。
1年で60%もの価格上昇に、「中国・インドの経済成長に発する需要急増と供給逼迫」を警戒する声が高まり、一部には「1バレル100ドルまで上昇」の予想まで出ている。だが、こうした警戒論はいかがなものか。誤解を恐れずに言えば、この価格の急騰の「犯人」は、国際石油市場における「投機筋」(★1)であり、イラク戦争、中国バブル、インド、ハリケーン、さらにはイラン核開発などと、供給不足をあおる「ストーリー」が作られやすい石油という商品の特殊性を依拠した「市場集団ヒステリー」がその正体であろうといっても過言ではない。実際、世界全体で石油は供給不安どころか、むしろわずかながら需給緩和になりつつある。日本では価格がここまで高騰しても、社会不安は起きていない。にもかかわらず、警戒論が強いのは、1970年代に中東紛争に端を発した「オイルショック」(★2)のトラウマが今も残るからだろう。

73年秋、日本ではスーパーの開店と同時に人々がトイレットペーパーを求めて殺到した。なぜパニックが起きたのか。それは、アラブ産油国の禁輸を受けて一般消費者を巻き込んだ、強烈な「仮需要」を生んだからである。こうした「パニック買い」の背景となった要因が3つある。メジャー(国際石油企業)(★3)による石油業界支配、OPEC(石油輸出国機構)による禁輸・生産制限、そして「埋蔵量は限定されている」という枯渇説の3点である。
しかし実際には、現在こうした要因は既に効力を失った「神話」と化し、石油を巡る状況は変貌している。詳細は紙面の関係上拙書「石油を読む」(日経文庫)を参照されたいが、その変化こそ、現在の価格高騰を招く「新たな石油危機」の要因でもあるのだ。これら神話は「終焉した」とまでは断言できないが、確実に「黄昏期」に入っている。もはや石油を「武器」として使う中東発のパニックは考えにくく、価格カルテルの退場により、石油はかつての「戦略物質」から完全な「市況商品」となった。しかし、それなのに、なぜ、新たな石油危機が起きる可能性があるのか。

それは、原油価格を定めるニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)(★4)などにおいて、事実上、石油先物市場が「カジノ化」していることに起因する。国際カルテルを失ったことは、彼らが引き起こすパニックの危険性を軽減させたが、一方、投機化の影響力が強まることによって、石油市場のポラティリティー(価格変動性)を強めたのである。
石油事業は、事業開始時に巨額の資金が必要で工程も長い。価格が上昇しても新規投資で生産を増加させるには時間がかかるため、価格の乱高下に常に後手、後手の対応になる。今や、ボーダレス経済の最先端を行くオイルビジネスに、各国政府はまったく追いつけず、石油市場には致命的な「情報の不全性」が生じている。誰もが世界石油市場の実需給動向をリアルタイムに把握することが出来ない。そして、政治的な不安定要素や余剰生産力の低下など、市場に影響するストーリーを作りやすく、ポラティリティーを糧とする投機を呼び込み、群集心理が発生しやすくなっている。
カジノ化した石油市場での、新しい形の石油危機は、例えばこうであろう。

第一に、乱高下に恐れをなした石油企業や産油国の過少投機の状態が続くことで、結果として需要に見合う供給が出来なくなる可能性が出てくる。
次に、NYMEXに参加している石油分野の素人である、ファンドなどが石油の需給関係が逼迫してくるにつれて価格をつり上げ、さらに追従者が「買い」を入れる行為で、価格が需給関係などのファンダメンタルズ(★5)と遊離した形でつり上がっていくことである。
以上の経過をたどって今回の原油価格の高騰が起きたが、日本にとって問題なのは、価格高騰でそれ自体より、高値と供給不安感によって、世界における石油が、「市場商品」から再び「戦略物質」に逆戻りすることである。その兆候は既に中東産油国の外資締め出しなどにもあらわれているが、最悪の例が、昨年5月の中国海洋石油公司(CNOOC)(★6)による米国ユノカル買収騒動(★7)だ。
資源獲得に暴走する中国を警戒するのは当然としても、米国的経営を自負し、エクソンモービル社(★8)のようなM&Aを行うつもりだったCNOOCに対し、米国議会が政治介入したのは、大きなミスだったのではないか。米国が「石油を戦略物質としてとらえている」というメッセージを中国政府に送ることになってしまったからだ。
米国と中国という、石油消費量で世界1位、2位を競い、軍事力も強い超大国同士が、石油を「戦略物質=軍事物資」として認識してしまうと、この2国を中心に世界中で資源の分捕りと囲いこみが起きかねない。パニックの連鎖で市場に石油が出なくなれば、これから日本はどうすべきか。
まず、資源ナショナリズム復活の中、再び戦略物質となりつつある石油を国際市場に取り戻すことである。そのため、価格の安定感に何が必要か考え、積極的に貢献することだ。例えば、増産投資が進まない石油産業のためにODA的な資金協力で世界全体の投資を下支えする。あるいは、産油国のWTO(世界貿易機関)入りを支持し、その際、貿易だけでなく投資の自由化も含めた、マイナスサムからプラスサムに向かうインフラ作りにイニシアティブをとるなどだ。なぜなら、国際石油市場の恩恵を最も受けているのは、他ならぬ日本だからである。安定した市場の分配性に目を向けるという現実的な方策に加え、シーレーン(★9)防衛の強化も同時並行的に進めていくべきである。
 「石油を戦略物資に後戻りさせない戦略」こそ、資源ナショナリズムが勢いを増しそうな分岐点の現在、日本が世界に発しするメッセージなのである。

(★1)(石油の)価値を現在の株式の価値よりも高いと見て、将来株価が上がることを期待して先買いする投資家のこと。
(★2)70年代、第四次中東戦争とイラン革命によって2度引き起こされた、原油供給逼迫および価格高騰、経済混乱。デパートのエレベーターの運転中止など様々な社会現象が発生。04~05年にかけての原油高騰も石油ショックの再現と懸念されている。
(★3)資本力と政治力で石油の探鉱から販売まで全段階を行う、市場シェアの大部分を占める石油系巨大企業複合体。特に、第二次世界大戦後から60年代まで、石油の清算をほぼ独占状態に置いた7社(現在は4社)をセブン・シスターズと呼んだ。OPECが主導権を握るまで、世界の石油を支配していた。
(★4)COMEXとNYMEXの2部門からなり、COMEX部門の金とNYMEX部門の石油価格は、国際的な指標とされている。
(★5)経済の基礎的条件のことで、経済のマクロ面あるいは個別企業の財務状況などのミクロ面についての指標の意。
(★6)中国3位の石油・ガス企業。拡大一途の中国の石油需要に対応するため、世界中で石油・ガス資源の確保に奔走する国営の石油会社。
(★7)05年、米国の老舗石油会社ユノカル社が、米国のシェブロンテキサコ社との合併が合意していた中で、CNOOCがこの合併に名乗りをあげ、米国議会が介入するという騒動となった。この中国企業による初の米国エネルギー大手買収は、米国議会の猛反発によるCNOOCの撤退によって幕を閉じたが、石油利益を巡る「米国VS中国」の構図があらわになった。
(★8)米国を本拠に、200カ国以上で事業を行う民間石油会社で、石油メジャーのひとつ。日本ではESSO、Mobil、ゼネラルのブランド名を所有。
(★9)一国の通商上・戦略上、重要な価値を持ち、有事に際して、国家が存立するために確保しなければならないとされる会場連絡交通路。

文:藤 和彦(エネルギーアナリスト)
1960年名古屋市生まれ。84年早稲田大学法学部卒業後、同年通商産業省(現経済産業省)入省。大臣官房、産業政策局、資源エネルギー庁、中小企業庁、石油公団などの勤務を経て、現在、内閣官房内閣参事官。著書に「世界を動かす石油戦略」、「石油神話-時代は天然ガスへ」、「石油を読む」等がある。

<文責:藤森弘司>

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