2005年7月31日第36回「今月の映画」「皇帝ペンギン」
投稿日 : 2018年3月12日
最終更新日時 : 2018年3月12日
投稿者 : k.fujimori
2005年7月31日 第36回「今月の映画」
監督:リュック・ジャケ 日本語吹替版:父ペンギン(大沢たかお)・母(石田ひかる)・子(神木隆之介)
○(プログラムより)皇帝ペンギンたちの行進する目的は、ただひとつ。種の存続だ。眼前に立ちはだかる氷丘や氷塊、強風吹きすさぶ氷原を、短い足を不器用に動かしながら、ときに腹這いになって氷を滑り、歩んでいく困難な道のり。営巣地に辿り着いたペンギンたちは、愛を交わす唯一のパートナーを見つけるために、愛の儀式ともいうべき求愛のダンスを繰り返す。
そして授けられる新しい命。だが卵を産み落とし、体重の五分の一を失うほどに痩せ細ったメスたちは、やがて生まれ出る、まだ見ぬ我が子のため、エサを求めて群れを離れなければならない。
その間、卵を託されたオスたちは、120日間におよぶ絶食と、時速250km以上の激しいブリザードに身をさらされながら、ひたすら我が子の命を守り続ける。旅立っていったパートナーが、必ず帰ってくることを信じて・・・・。○監督を務めたのは、動物行動学の研究者であり、主に南極を舞台にした数々の科学ドキュメンタリーを手がけているリュック・ジャケ。
フランス極地研究所の協力のもと、3年間の準備期間を経て南極に飛んだ彼は、たった3人の仲間と一緒に8880時間かけてフィルムをまわし、皇帝ペンギンたちの愛らしくも威厳に満ちた姿を、余すところなくカメラにおさめた。
新しい命を外敵の危険から守るため、こんなにも壮絶な繁殖活動を行なうのは、数あるペンギンの中でも、唯一皇帝ペンギンだけである。○海中から魚雷のように飛び出し、棚氷に着地した彼らは、真っ白な氷の砂漠を行くキャラバンのように、隊列を組んで行進を開始する。目指すは彼ら自身の生誕の地でもあるオアモック(氷丘のオアシス)。
数百メートルにわたってアイスバーグ(氷山)続き、外敵すら容易に近づくことはできない、南極の中で唯一、皇帝ペンギンが安心して、子供を産み、育てられる場所なのだ。○20日あまりの行進の末、オアモックに辿り着いたペンギンたちは、何千羽といる群れの中から、その年、唯一の結婚相手を選ぶために、求愛のダンスと歌に興じる。自分をアピールするための挑発的な鳴き声と官能的なポーズが、群れのあちらこちらで繰り広げられる。
○産卵を終えたメスたちは、それぞれのパートナーに大切な卵を託すと、これから生まれる雛と自分の命の糧を求めて、再び20日間・100キロ近く離れた海へと旅立っていく。
産卵までに体重の五分の一を失うほど痩せ細ったメスたちは、海氷の彼方に広がる餌場を目指し、不器用な足取りで黙々と歩き始める。
○一方、卵を孵化させる役目を担ったオスたちは、足で抱えた卵をしっかりと羽毛でくるみ、ひたすらメスの帰りを待ち続ける。
太陽は1日2時間ほどしか顔を出さず、マイナス40℃というとてつもない寒さの中、さらに時速250kmにおよぶ激しいブリザードが吹きつける。
氷上で「ハドリング」と呼ばれるスクラムを組み、お互いに身体を温めあいながら踏ん張るオスたちを生き長らえさせるのは、水のかわりについばむわずかな雪と、パートナーを信じる気持ち、そして、我が子の誕生を待ち望む思いだ。
その苦行は2ヶ月以上続く。
○その頃、ようやく海への入り口をみつけたメスたちは、深海まで餌を求めてダイブし、束の間の解放感を満喫する。
しかし、ここにも危険は潜んでいる。同じように腹を空かせた肉食のヒョウアザラシたち。彼らが母ペンギンに襲いかかれば、たちまち二つの命が奪われることになる。母ペンギン自身の命と、彼女から餌がもらえずに餓死する運命をたどる子ペンギンの命である。
○体力を回復し、胃袋にたっぷりと食べ物を蓄えた母ペンギンたちは、夫と子供が待ち受けるオアモックに向けて、3度目の長い行進を開始する。
その頃、父親の羽毛の下では、卵から孵った雛が元気な産声をあげる。小さなくちばしをパクパクさせて、父に餌をねだる雛。
しかし、すでに4ヶ月間、何ひとつ食べ物を口にしていない父親には、充分な食事を与えることができない。あと1日、あとひと晩・・・・・。お腹をすかせた雛を抱きかかえながら、父親たちは命の限界に挑む。
○そんな彼らの前に、ようやく母ペンギンたちが姿を現す。出発前に取り決めた鳴き声のサインに従って、何千羽もの群れの中から、自分の夫と子供を見つけ出す母ペンギンたち。それはまさに感動的な家族再会の光景である。
このとき初めて母親と対面した雛は、母の羽毛の下に移ると、小さな頭を母の口の中に突っ込み、旺盛に餌をついばむ。
○家族が一緒にいられる時間は短い。今度は父ペンギンたちが、餌を求めて海へ旅立つ番なのだ。すでに12~15キロほど痩せ、極限まで体力が衰えた彼らにとって、それは最も辛く、危険な旅路だ。
毎年この行進の途中で多くの父親たちの命が失われていく。
○卵から孵ったばかりのヒナは、自分の体の中に卵黄の残りを少しもっているので、すぐに餌を与えなくても心配はない。とはいえ、産卵後、海に食べものをとりにでかけたメス親がもどってくるまで何も食べないでいられるわけではない。そんな時、オス親は最後の手段として「ペンギン・ミルク」を与える。
その正体はオス親自身の胃壁や食道の粘膜がはがれたもの。オスは文字通り我が身をけずってヒナの命を守るのだ。
○平均寿命は20年くらい。平均体長は115~120cm。オスの体重は35~40kg。メスの体重は28~32kg。繁殖期に絶食状態となり、半分の体重にまで痩せてしまうことがある。
流体力学にかなった流線型の身体を持つ潜水の達人。進度400~500mの海に、20分間以上潜ることができる。潜水記録は565m。
地上を歩行する際の平均時速は0.5km。足を使って、氷の上を腹這いになって滑ることもできる。このときの平均時速は6~8km。
○繁殖から子育て期間の絶食は、オスの場合115~125日間、メスの場合40日間におよぶ。ひとたび一緒になったつがいは。繁殖期のあいだ貞操を守る。
絶食明けの行進に耐えられないオスが多いことから、メスの数がオスを上回るコロニーもある。そのため、求愛のダンスでは、メス同士が熾烈なライバル争いを繰り広げることもある。
○年1回の交尾によって産まれる卵は1個。平均的に、産卵された卵の半数しか雛にならないとされている。卵のサイズは長径120~124mm、短径82~85m、殻の厚さ1.1~1.2mm、重さ約450g。
雛は、親の鳴き声を十分の二秒聞いただけで親を識別できるだけでなく、6デシベル以上で発せられる6羽の他の親鳥の声に自分の親の声がまざっていても、同じように親を認識することができる。
●(私見)アイスバーグが続く氷の上を、時速0.5kmのスピードで歩くペンギン。人間は時速4~5kmくらいでしょうか。その十分の一くらいのゆっくりした歩みで、100kmを20日間(1日に10時間として×0.5km=5km×20日=100km)かけて、体を左右に揺らしながら黙々と行進する姿は、まるで雪中を行く敗軍のようでした。
●さて、20日間の困難な行進をして辿り着く場所は、南極の中では少しは安全な場所です。しかし、片道20日、往復で40日間の絶食の行進。パートナー探しの求愛ダンス。それからメスが産んだ卵を、オスは一切の食事無しで抱卵します。
抱卵中、マイナス40℃、時速250kmのブリザードが吹き荒れます。身を防ぐものは何も無く、押しくら饅頭をしながら、吹き荒れるブリザードに黙々と耐える姿は息が詰まります。
抱卵中はもちろん、卵から孵った雛をも、メスが帰るまで両足の中に入れて守ります。70日間くらいを、絶食しながらほとんど動かず!両足からこぼれたら、卵や雛は、マイナス40℃の外気に数秒で絶望です。
往復40日間を含めて、絶食の期間が合計で120日。それだけではありません。メスが帰るまでに、空腹で鳴き声を上げる雛のために、オス親自身の胃壁や食道の粘膜をはがして、「ペンギン・ミルク」として、雛に与えます。
壮絶な育児であり「種の保存!」
●万物はこのようにして、常に「空腹」と戦ってきました。空腹が満たされなければ、植物も動物も、全て、淘汰されてしまいます。
ところが豊かさと文明の利器が発達した現代日本では、有り余って捨ててしまうほど、食料が豊富になりました。
その結果どうなったでしょうか。
私たち日本人はわずか数十年前まで、餓死者が出るほどの貧困な生活をしていましたが、今や、急激に豊かになったために、豊かさの中でのまともな生活の仕方がわからず、育児がメチャクチャになってしまっています。ストレスなどで食欲が湧かない子供に、無理やり食べさせようとする親が増えてしまいました。
生き物の歴史を見れば、すべては食料確保の歴史です。食べ物にありつけばガツガツ食べるものです。それを親が子供に無理やり食べさせようとする姿は、あきらかに日本人の精神が狂ってしまっていると言わざるをえません。
●皇帝ペンギンの姿は、少々特殊かもしれませんが、でも昔の親は、これに似たような状況の中で、似たように必死で育児(食料確保)をしてきました。
私(藤森)は思うのですが、何百年、何千年、何万年、いやそれ以上の膨大な歴史を、空腹と戦って来た我々日本人が、猛烈なスピードで豊かになったために、豊かな中で生きる「生き方」を学習する暇がなく、日本全体がハイテンション状態になっているのかもしれません。スロットマシンで大当たりをして、金貨がジャラジャラ溢れるほど出てきたようなハイテンションかもしれません。
遊びや運動が十分になされていれば、食事の時間は腹いっぱい食べるものです。いやそれどころか、食事の時間まで待てないものです。それが育ち盛りの子供というものです。
それを無理やり食べさせなけれならないのは、何かが狂ってしまっているのだと思います。
この点で苦労している親御さんは、是非、この映画をご覧ください。 |
<文責:藤森弘司>
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