✴✴✴2019年8月31日第199回「今月の映画」「新聞記者」
監督:藤井道人 主演:シム・ウンギョ 松坂桃李 北村有起哉 岡山天音 本田翼 田中哲司
(1)私(藤森)は、東京新聞の望月衣塑子(いそこ)氏にとても注目し、期待しています。望月氏は2人のお子さんの育児中です。私が育児の応援をして、報道活動に全力を出していただきたいと思うほど、望月氏は素晴らしい活動をしていらっしゃいます。
同業者のご主人も単身赴任中の中、2人のお子さんの育児に奮闘していらっしゃる中で、日本のメディ界全体を見渡しても、望月氏ほど、政権にまともに鋭い質問を繰り返していらっしゃる方は、私が知る限り、いません。 日本のメディアも、野党も、昭和時代と比べると政権を追及する能力がかなり落ちているように思われます。そういう中で、育児に奮闘中の素敵な女性記者の大活躍に最大限のエールを送りたいと思っています。 ただ一つ気になる事は、私が信頼できる他のジャーナリストの中にも、望月氏の質問姿勢にやや批判的な人がいます。その点は、素人の私には全く分かりませんが、少々気になるところではあります。 いずれにしても、勇気と度胸と、そして、女性としても素敵な望月氏を心より応援しています。 |
(2)「INTRODUCTION」
<「リアル」を打ち抜く衝撃の「フィクション」 現代社会にリンクする社会派エンタテインメント> 2019年、夏。「権力とメディア」「組織と個人」のせめぎ合いを真正面から描く衝撃のエンタテインメントが誕生する。それが本作『新聞記者』。フィクションという表現者の武器を最大限に駆使しつつ、私たちの目の前にあるリアルをダイレクトに撃ち抜く、アクチュアルで骨太の社会派ドラマだ。 官邸記者会見で鋭い質問を発し続ける一人の記者、そのジャーナリスト魂に触発されたオリジナルの物語。 原案は、東京新聞・望月衣塑子記者の同名ベストセラー「新聞記者」(角川新書刊)。著者はモリカケ疑惑、辺野古移設など政権にとって不都合な事実について、官邸記者会見で鋭い質問を発し続けるジャーナリストとして知られる。本作は、さまざまな妨害や中傷に屈せず、国民の「知る権利」を守るため取材を続ける彼女の姿勢にインスパイアされた完全オリジナル・ストーリー。メディアへの介入など現実社会とも共振する設定で、近年の日本映画が避けてきたタブーの領域に大きく踏み込んだ。 監督に抜擢されたのは、俳優・山田孝之による初の全面プロデュース作『デイアンドナイト』(19)も高い評価を受けた若き俊英・藤井道人。緻密なカメラワーク、大胆でスタイリッシュな空間設計を用いた映像で、私たちが生きる社会に直結するテーマと、サスペンス劇としてのスピード感・娯楽性が高度に融合した、渾身の一作を撮りあげた。 「そんな理由で自分を納得させられるんですか?私たち、このままでいいんですか?」 東都新聞社会部の若手記者・吉岡エリカ。ある日、彼女のもとに「医療系大学の新設」に関する極秘文書がファクスで届く。首相肝いりの案件らしいが、誰が何のために送ってきたのかはわからない。許認可先の内閣府を洗い始めた吉岡は、神崎というキーパーソンの存在に気付くが、まさにアプローチしようとした矢先、彼は投身自殺を遂げてしまう。 一方、内閣情報調査室(内調)に勤める杉原拓海は苦悩していた。外務省から出向してきたエリート官僚だが、その任務は政権を守るための情報操作やマスコミ工作ばかりだ。有能な公務員としてひたすら上からの指示を遂行してきた彼もまた、外務省時代の尊敬する上司・神崎の死を通じて、官邸が強引に進める驚愕の計画を知ることになる。内調がかけてくる有形無形のプレッシャーと、誤報を出す恐怖。愛する妻子を抱えた一生活者としての立場と、本当の意味で国民に尽くす人間としての矜持。それぞれのキャリアと全人生を賭けた、二人の選択とは!? <初顔合わせ「シム・ウンギョVS.松坂桃李」 若手記者・吉岡エリカを演じるのは、『サニー 永遠の仲間たち』(11)や『怪しい彼女』(14)で知られる韓国の若手トップ女優、シム・ウンギョ。本作では全編日本語の芝居に挑戦。圧倒的な表現力と存在感で「父は日本人、母は韓国人、育ちはアメリカ」という多元的アイデンティティを持つキャラクターを完璧に体現してみせた。 またエリート官僚・杉原拓海役には『娼年』『孤狼の血』(18)などで新境地を開き、人気・実力ともに日本映画界の最前線をひた走る松坂桃李。家族への愛と公僕としての理想の間で引き裂かれ葛藤する姿を、文字どおり迫真の表情でスクリーンに定着させた。日韓の若手演技派による演技のケミストリーが、新しい日本映画の可能性を示す。 |
(3)「STORY 内閣官房vs.女性記者」
<リークか?それとも誤報を誘う罠か?> 文科省元トップによる女性スキャンダルが発覚した。かつて官邸からの圧力で辞任を余儀なくされたと言われる人物だ。マスコミは、先を争うように疑惑を報道。その社会的信用を失墜させるその情報がはたして真実なのか、裏取りも検証もろくになされない。 東都新聞社会部の若手記者・吉岡エリカはそんな状況に危機感を抱きつつ、日々ニュースを追いかけている。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育った彼女は、記者クラブ内の忖度や同調圧力にも屈しない。一人の「個」として発信する姿勢は、社内でも異端視されている。彼女もまた、今は亡き父の母国で新聞記者となった本当の理由を、周囲に語ってはいなかった。 ある夜、社会部に「医療系大学の新設」に関する極秘公文書が匿名ファクスで送られてくる。認可先は文科省ではなく、内閣府。表紙には羊の絵が描かれ、その眼はなぜか真っ黒に塗りつぶされていた。内部リークか、それとも誤報を誘発させる罠か?上司の陣野から書類を託された吉岡は、真相を突き詰めるべく取材を始める。 <俺たちは一体、何を守ってきたんだろう・・・> 内閣情報調査室、通称「内調」で働く杉原拓海は葛藤していた。外務省から内閣府に出向したエリート官僚。だが、国民に尽くすという信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権を維持するための世論コントロールだ。公安と連携して文科省元トップのスキャンダルを作り、マスコミやネットを通じて情報を拡散させたのも、実は内調。上司の内閣参事官・多田は、官邸に不都合な事実をもみ消すためには民間人を陥れることも厭わない。もうすぐ娘が生まれる杉原は強い疑問を抱きながらも、有能な官吏として上からの指示を粛々とこなしていた。 妻・奈津実の出産が迫ったある日。杉原は久しぶりに外務省時代の上司・神崎から飲みに誘われる。新人だった杉原に公務員のあるべき姿を教えてくれた、恩義ある先輩。5年前にある不祥事の責任を一人で負わされて失脚し、今は内閣府に移って別の案件を担当しているらしい。楽しげに思い出を語り、したたかに酔っ払う神崎。ところが旧交を温めたほんの数日後、杉原の携帯に謎めいた言葉を残し、神崎はビルの屋上から身を投げてしまった。「杉原、俺たちは一体、何を守ってきたんだろうな」 <交差する人生、浮かび上がる衝撃の事実> 独自の取材で神崎に迫りつつあった吉岡は、彼の自死に強い衝撃を受ける。実は彼女の父親は、アメリカと日本の両国で活躍したジャーナリストだった。だが政府絡みの不正融資について誤報を出し、責任を追及され自殺に追い込まれていたのだ。だが父の強さを誰よりも知る彼女はその経緯に疑念を抱き、今も真相を調べ続けている。それが日本で新聞記者の道を選んだ大きな理由だった。神崎こそ情報のリーク元だったのでは?そう考えた吉岡は、彼が背負い込んだ重荷について事実を知るため懸命の取材を続ける。 杉原もまた、官僚としての生き方を根底から揺さぶられていた。神崎の死後、杉原は「内調」が生前の彼をマークしており、自分だけが蚊帳の外に置かれていたことを知る。尊敬する元上司は、「医療系大学の新設」という名目のもとで何を強いられていたのか?彼が死に追い込まれるリスクを冒してまで止めたかったプロジェクトとは一体? 世間の注目のなか営まれた神崎の通夜。無遠慮な質問を投げつける記者を注意してしまった吉岡は、遺族に付き添っていた杉原と偶然出会い、言葉を交わす。「私は、神崎さんが亡くなった本当の理由が知りたいんです」。運命に導かれるように交差した、二人の人生。それぞれの立場で真相を追いかける若手記者と官僚はやがて、大学新設の名を借りた利権の構造に突き当たる。しかもその先には、官邸が強引に進めようとする、ある驚愕の計画が隠されていた・・・・。 |
(4)<「映画」こそ真の自由であることを願って>(原案/企画・製作/エグゼクティブ・プロデューサー、河村光庸)
2019年、新しい元号「令和」が始まり、参議院選挙、翌年に控える東京オリンピックの開催。かつて経験したことのないような時代の大きなうねりの中で、人々はどこからどのような情報を得ていかなければならないのでしょうか。 第二次安倍政権の発足以降、下がり続ける「世界の報道の自由度ランキング」(国境なき記者団)で日本は2016年、2017年には連続72位と、ついにG7各国の中で最下位となったことはすでにご承知かと思います。 フェイクニュース、メディアの自主規制は蔓延し、官邸権力は平然と「報道の自由」を侵す・・・。 この数年で起きている民主主義を踏みにじるような官邸の横暴、忖度に走る官僚たち、それを平然と見過ごす一部を除くテレビの報道メディア。最後の砦である新聞メディアでさえ、現政権の分断政策が功を奏し「権力の監視役」たる役目が薄まってきているという驚くべき異常事態が起きているのです。 それとともに、そしていつの間にか暗雲のように社会全体に立ち込める「同調圧力」は、人々を萎縮させ「個」と「個」を分断し孤立化を煽っています。そのような状況下、正に「個」が集団に立ち向かうが如く、官邸に不都合な質問を発し続ける東京新聞の望月衣塑子さんの著書「新聞記者」に着想して、企画構想したのが映画『新聞記者』です。 そしてこの数年日本で起きた現在進行形の政治事件をモデルにしたドラマがリアルに生々しく劇中で展開していくという映画史上初の試みとなる大胆不敵な政治サスペンス映画に着手しました。 「これ、ヤバいですよ。」「作ってはいけないんじゃないか」という同調圧力を感じつつの制作過程ではありましたが、映画『新聞記者』は完成しました。皆さま、この機会に是非この映画にお心を向けて下さい。「映画こそ自由な表現を」の旗を掲げ、ご覧頂いた皆さまのご意見ご感想を糧に、映画『新聞記者』は前人未踏の道を進んでまいります。 <河村光庸・・・1949年生まれ。98年にアーティストハウスを設立し数々のヒット書籍を手掛ける一方、映画出資にも参画し始め、映画配給会社アーティストフィルムを設立。08年にスターサンズを設立し、『牛の鈴音』(09)、『息もできない』(10)などを配給。エグゼクティヴ・プロデューサーを務めた『かぞくのくに』(11)では藤本賞特別賞を受賞。ほか企画・製作作品に『あゝ、荒野』(17)、『愛しのアイリーン』(18)など。>
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(5)下記は、2017年7月にネットにアップされた情報です。映画のパンフレットとは違う情報です。
<<<子育てしながら権力と対峙する——菅官房長官に切り込む東京新聞・望月記者に聞く>>>(BUSINESS INSIDER JAPAN 浜田 敬子,小島寛明、2017年7月17日) 菅義偉官房長官の会見で、日々食い下がっている女性記者がいる。東京新聞社会部の望月衣塑子さん(42)だ。政権ナンバー2に向けられる長くてしつこい質問は、整然としていた首相官邸の記者会見場の“ルール“を破壊し、政権や官邸記者クラブから煙たがられる一方で、読者らの熱い支持も得ている。「権力の監視役」を自認してきた大手メディアが、その役割を見失いつつあるようにも見えるいま、メディアはどう権力と向き合うべきなのだろうか。霞が関で、望月さんの話を聞いた。 官房長官の記者会見は、原則として月曜から金曜日の午前と午後に開かれている。出席するのはおもに、首相官邸記者クラブに所属する新聞・テレビなど主要メディアの政治部の記者である「官房長官番」たちだが、加計学園問題など政権中枢に関わる疑惑について直接質問する目的で他部の記者が参加することがある。曜日によっては、フリーランスの記者も参加できる。 Business Insider Japan(以下、BI):社会部の記者である望月さんがなぜ官房長官会見に出席することになったのですか? 望月:現在の私の取材テーマは軍学共同と武器輸出で、あとは散発的に、事件などの発生ものをヘルプしています。2人目の子どもを産んで、復職したあとに 武器輸出を解禁する「防衛装備移転三原則」が決まり(編集部注:2014年4月1月閣議決定)、そのときに、子どもがいると取材先への朝回りと夜回り( 編集部注:記者が、職場以外で政治家や行政職員、検察官などに接触を試みる) ができないので、上司から「なにかテーマをもって取材をしたほうがいい」とアドバイスされ、比較的自由に取材をさせてもらっています。事件取材が長いので疑惑系のニュースには関心があって、森友学園問題や加計学園問題についても、自分から手を挙げて入っていきました。その流れで、官房長官会見に出席するようになりました。 「この問題を放っておいてはいけない」 BI:初めての官房長官との“対決”は6月6日でしたね。 望月:加計学園問題の取材を進めているうちに、「総理のご意向」と書かれた文書が出てきて、いつも淡々と返す菅さんが、「出所不明で調査にあたらない」と発言して、彼にしては、珍しく怒っているなとテレビの会見映像を見て思ったのです。その流れの中で、前川さん(編集部注:前川喜平・前文科省事務次官)の出会い系バー通いの報道が読売新聞に出たんですね。 読売がこの段階で出すということは、将来、これは事件にでもなるのかな?と一瞬思いましたが、現在でも何の動きもありません。正直、読売新聞の事件報道は、「固い」という印象があったので、記者としてショックを受けました。その後、実名で文書の存在を証言した前川さんにようやくアクセスでき、6月1日に3時間ほどインタビューをしました。 一方で、安倍晋三首相と関係が深いと言われている元TBSのワシントン支局長で、フリージャーナリストの山口敬之氏から、性的な被害を受けたと訴えているフリージャーナリストの詩織さんにもインタビューをしました。山口氏の逮捕に至らなかったことについて、政権の関与や官邸と関係の深い警察幹部の配慮が働いた可能性があるではないかと考えて、この問題を放っておいてはいけないと思っています。 BI:6月8日には官房長官に対して、1人で20分間、質問を23回されました。 望月:知り合いのテレビのディレクターからも官房長官の会見は、追及が甘いんだよねということを聞いていました。それまで会見は、テレビを見るか、新聞でコメントを読むぐらいでした。記者が一度質問をして、官房長官が「そんな事実はありません」と答えたらそれで終わりという感じで、なぜ畳み掛けないのかと思っていました。 社会部記者の感覚からすると、畳み掛ける質問はわりと当たり前ですが、政治部は一言聴くだけです。一方で、稲田朋美防衛相の失言などは、さまざまな角度から質問が出ますから、記者としてのアンテナの立ち方が政治部と社会部では違うのかなと思うことはあります。失言は辞任に直結するという意識もあるのでしょう。古い政治記者に聞くと、昔はもうちょっと緊張感があったとも聞きますが、いまは、そういうものとは、異質なものになっている。政治部も自分たちで疑惑を取材していれば、もっと違うのかもしれませんね。 「空気を破っているよね」という雰囲気はあった BI:なぜ、他の記者は“疑惑”について突っ込んだ質問をしないんでしょうか? 望月:政治記者は日々、北朝鮮によるミサイルの発射や災害など幅広い出来事について日本政府のコメントを引き出すことを日常的にやっていて、自分とは立場が違う。であれば、自分で聞くしかないと思っています。政権を敵に回すだろうなとも思いましたが。 ただ、最近はジャパン・タイムズや朝日新聞の記者が続いて質問してくれることがあって、心強いです。 BI:6月8日に望月さんが20分以上質問をしていた時の周囲の記者の雰囲気は。 望月:空気を破っているよね、みたいな雰囲気はありました。こういう状況が続くようであれば、質問を短くされるとか、会見そのものが短くされるとかいった懸念があるという意見を、私に伝えようという動きが官邸の記者クラブ内にあったと聞いています。 私は質問する際、状況を説明し始めると長くなりがちで、そこは反省をしています。6月8日以降、会見の司会役からは、「質問は手短にお願いします」と連発されるようにはなりました。それでも菅官房長官は、私が手を挙げていて、無視することは絶対にない。その点はさすがだなと思います。ほかの大臣は公務を理由に全ての質問に答えず、会見を打ち切ってしまうことありますが。菅官房長官は、きっちりやり取りはしてくれている。あの場での受け答えで政権がどう考えているかは分かりますから、非常に重要な場です。 その後も、社内外の記者から「質問を短く」とか、「ルールを守れ」と言われることもありますが、疑惑があっても追及をしない姿勢に違和感があるから続けています。週刊誌で菅官房長官に関する疑惑が報道されても、政治部の記者はだれも追及しない状況は続いています。 基本は9時から6時。表でどんどん聞いていく BI:時の政権を敵に回す、権力と真っ向から対峙する。怖くないですか。 望月:政権側に批判的な質問をする出る杭ですから、打ちたいという思いはあるでしょう。多くの人に今の状況を理解してもらって、万が一、自分が潰された時にも、そういうふうにメディアに圧力をかけるのかという動きが出てくればいいなと覚悟はしています。自分の質問がテレビで報道されたことで、会社に応援のメールや手紙、電話をたくさんいただきました。発言をしていくことが自分を守ることにもつながるのかなとも思っています。私以上に、詩織さんの声も伝え続けないといけません。胃がキリキリすることもありますが、疑惑がある限りは質問し続けます。 BI:政治部、社会部を問わず、会見で闘わず、情報は朝や夜やオフレコ懇談などで取ろうという発想になりがちです。オープンな場でどんどん質問をする望月さんのような人はあまりいなかったのかもしれません。 望月:2人の子どもがいて、同業者の夫も単身赴任中ですから、時間に制約がある中では、時間をかけて裏に回ってという手法が取れません。一方で、武器輸出の取材を通じて、表でどんどん聞いて書いていくやり方もあるなということが分かってきました。遅くなる日もありますが、午前9時に仕事を始めて午後6時ぐらいには切り上げ、子どもを迎えに行くというサイクルで働いています。 一線を引いて言うべきことを言えないような関係が、政治記者と政治家の間にあるのではないかと思っています。(編集部注:政権への影響力が強いと言われる読売新聞グループ本社代表取締役主筆の)渡辺恒雄さんの本を読んでいても、かつての政治記者はもっと政治家に厳しかったのに、いまの政治記者にはそれを感じません。アメリカのホワイトハウスみたいに、もっと丁丁発止でやればいい。すこしでも政治、そして日本がいい方向に向かうといいと思っています。 (撮影:今村拓馬) <<望月衣塑子(もちづき・いそこ):1975年東京生まれ。東京新聞社会部記者。千葉、横浜、埼玉の各県警察本部、東京地方検察庁特捜部など事件・裁判を中心に取材。現在は軍学共同、加計疑惑を主に取材しており、著書に『武器輸出と日本企業』 (角川新書)『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(あけび書房) 。2児の母。>> |
(6)「三枝成彰の中高年革命」(日刊ゲンダイ、2019年7月6日)
<映画「新聞記者」のスタッフ、演者、芸能事務所、スポンサーが示した勇気の「尊さ」> 先週、渋谷の映画館で「新聞記者」を見た。権力によるメディア支配を描いた社会派サスペンスだ。作品の出来には物足りなさも感じたが、安倍1強といわれる今、政治の暗部にメスを入れた勇気に拍手を送りたい。 映画の原案になったのは、東京新聞の記者・望月衣塑子さんのベストセラー「新聞記者」だ。これは、ご自身のこれまでの記者人生を振り返った自伝である。一方で映画を著書を下地にしたフィクション。現実の疑惑や事件は一切登場していない・・・ことになっている。ただ、国家による情報操作、レイプ被害者の会見、官僚の自殺など、見る側に「あのことだろうなあ」と想像させるシーンは数多い。 最も印象に残ったのは、医療系大学の新設に絡んだ疑惑だ。映画では、生物兵器を造るために設置がごり押しされたことになっている。ナチスの研究に取り組むわけで、さもありなんという感じがしてくるから不思議だ。なぜ彼の友達の学校が関門をスルスルとくぐり抜けて認可されたのか、本当の理由は今なお明らかになっていない。疑惑はくすぶったままだ。この映画を見ると、すべてがフィクションなのかと考えさせられる。 内閣情報調査室の役人で、“謀反”を起こす人物を演じている松坂桃李さんと、キャスティングにOKを出した事務所の態度にも感心させられた。もう一人の主役は韓国の女優さんだ。日本人が尻込みしたからではないかと考えてしまうが、そんな中でも引き受けたのは立派。所属事務所の社長はナベプロの創業者・渡辺晋さんの次女で、今はナベプロの社長も兼務している。大きな事務所で心配ないだろうが、それでもこの先、いろんな圧力があるのではないかと心配してしまう。 スポンサーに名を連ねたイオンの名誉会長・岡田卓也さんは、一代で四日市の呉服屋を日本を代表する小売業の大手に育てた人。気骨がある経営者だ。その長男は会社を継ぎ、次男は政治家、三男は東京新聞の記者となった。こうして見ればカネを出すのも自然に思えるが、現政権の体質を考えると、ためらうところもあったのではないか。 仕事を失う恐れがあったり、立場上、なかなか難しいこともあるかもしれない。でも、勇気をもって行動することの尊さを忘れないようにしよう。 多くの人が勇気を出して完成させた作品、ぜひみさんにも見てもらいたい。 <<さえぐさ・しげあき・・・1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシェア」「優駿ORACION」など。2017年、旭日小授章受章。>> |
(7)<「誰が何の目的で?」映画「新聞記者」への嫌がらせが止まらない>(日刊ゲンダイ、2019年7月6日)
<1週間で興収1億円突破> 安倍政権に渦巻く数々の疑惑や官邸支配に焦点を当てた政治サスペンス映画「新聞記者」をめぐり、奇妙な出来事が続発している。先月28日の公開直後から、公式サイトが断続的にサーバーダウン。29日の舞台挨拶で、主演した松坂桃李は「『新聞記者』のホームページがきのうパンクしたらしくて、みなさんの感想が多くて。それくらい熱量のある作品なんだなと」とネタにしていたが、どうやらそんな生易しい話ではないようだ。 「当初は観客の書き込み殺到でサーバーがパンクしたのかと楽観的に受け止めていたのですが、とんでもありませんでした。サーバー業者の説明によると、特定のIPアドレスから集中的なアクセスを受けた可能性が高いと。トップ画面の動画データに対し、同一のIPアドレスから人力ではあり得ない数のアクセスを受けているというんです。SNSに出している広告でもおかしな動きが出ていて、相次ぐ通報で掲載の制限を受けている状況。どういう人たちが、どんな目的でやっているのか。とにかく不気味です」(配給関係者) 事実は小説よりも奇なりではないが、筋書きさながらの展開である。東京新聞社会部の望月衣塑子記者の同名著書が原案のこの作品は、権力とメディアの裏側、組織と個人のせめぎ合いに迫る。ギョッとするのが、政権の手足として動く内閣情報調査室の仕事ぶり。十数人の職員がPCに向かい、政権に都合の良い情報をネットにひたすら書き込み、情報操作を画策するシーンが何度も出てくるのだ。 人気俳優の主演作にもかかわらずテレビではほとんど取り上げられず、出足からトラブルに見舞われてはいるものの、評判は口コミで広がっているようだ。 全国143館上映で、動員数は9万3000人を超え、興行収入は1・1億円を突破(4日現在)。参院選真っただ中の政治の季節、どこまで数字を伸ばせるか。
(7)「“官邸のアイヒマン”がNSS局長に就任で警察国家に一直線の恐怖」(日刊ゲンダイ、9月3日) <ナチスさながら> 剣呑な人事だ。「官邸のアイヒン」が国の外交・安保政策のトップに立つという。 今月の内閣改造に合わせて、国家安全保障局(NSS)の谷内正太郎局長(75)が退任。政府は後任に「官邸のアイヒン」こと北村滋内閣情報官(62)を起用する方針だと複数のメディアが伝えた。 「NSSは第2次安倍政権が2014年に発足させ、事務次官も務めた外務省OBの谷内氏が初代局長に就任して長期政権を支えてきたが、高齢を理由に交代することになった。北村氏は警察庁出身で、第1次安倍政権では総理秘書官を務めた腹心です。民主党政権時代から内閣情報官の任にあり、内閣情報調査室のトップとして国内の機密情報を一手に取り扱っている。総理に近いジャーナリストの“レイプ事件もみ消し疑惑”でも暗躍したといわれています」(官邸関係者) NSSは首相、官房長官、外相、防衛相らで構成する国家安全保障会議(日本版NSC)の事務局で、外交・安保政策の司令塔とされる。局長の下には防衛省と外務省出身の2人の局次長がいるが、外務省OBの指定席になるかと思われていたNSSのトップに警察出身の北村氏が就くわけだ。 人事案が本当なら、露骨な“外務省はずし”にも見える。外務省の頭越しに繰り広げる無定見な“官邸外交”に拍車がかかりそうだ。 「警察官僚が情報機関で重要な役割を果たすことはあっても、外交・安保のトップに立つことは、世界的にも珍しい。外交の世界には独特のプロトコルがあり、各国の文化を熟知した上で進める必要があるからです。警察官僚のメンタリティーで外交事案を扱うことに危うさを感じます」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏) 北村氏は朝鮮労働党幹部と極秘に接触するなど、北朝鮮問題で動いていたことが知られているが、NSCでは国防の基本方針に加え、武力攻撃事態などへの対処も審議することになっている。米中対立など世界情勢はキナ臭く、隣国との関係も悪化している時期だけに、警察官僚の跋扈には不安が募る。 ナチスさながらの警察国家による市民弾圧、圧力行使の恐怖は、すぐそこだ。 <*剣呑・ケンノン「剣難・剣呑・・・ケンナンの転という。「剣呑は当て字」・・・あやういこと。あやぶむこと。」 *プロトコル・・・①(条約の)原案。議定書。②外交儀礼。>(広辞苑)> |
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