2019年9月30日第200回「今月の映画」「記憶にございません!」

主演:中井貴一  ディーン・フジオカ  石田ゆり子  草刈正雄  佐藤浩市  小池栄子  斉藤由貴
   有働由美子  木村佳乃 吉田羊                     脚本・監督:三谷幸喜

(1)この映画は、まず、娯楽としてとても楽しい映画です。元NHKアナウンサーの有働由美子さんが登場しているのですが、お化粧でかなり変化させているためでしょう、その場面を見ても有働さんだと分かりません。

 次に、私の専門である「心理学」や「深層心理」の観点からみて、極めて素晴らしい「示唆」に富んだ映画です。

 この映画は、かなり評判が悪い首相が演説中に石を投げつけられて入院。その後、記憶喪失。秘書官たちが支えているうちに、首相が素晴らしい人間性に目覚め、政治改革をしていきます。

 「交流分析」という心理学では「リプログラミング(脳の再編成)」、つまり、「自己改革」に取り組みますが、この映画は、石をぶつけられたという手段の違いはありますが、結果的に「自己改革」になる話が、私(藤森)としてはとても興味深かったです。

 手段・方法やきっかけはともかく、「自己改革」するプロセスを眺められたことがとても興味深かったです。

 今まで、すべてのパンフレットには、必ず、映画評論家などのコメントが掲載されていたのですが、この映画に関しては、それが無いので、三谷幸喜監督のインタビューを紹介します。

(2)「Story」

 病院のベッドで目が覚めた男。自分が誰だか、ここがどこだか分からない。一切の記憶がない。

 こっそり病院を抜け出し、ふと見たテレビのニュースに自分が映っていた。演説中に投石を受け、病院に運ばれている首相。

 そう、なんと、自分はこの国の最高権力者だったのだ

 そして石を投げつけられるほどに・・・すさまじく国民に嫌われている!!!

 部下らしき男が迎えにきて、官邸に連れていかれる。「あなたは、第百二十七代内閣総理大臣。国民からは史上最悪のダメ総理と呼ばれています。総理の記憶喪失はトップシークレット、我々だけの秘密です」

 真実を知るのは、秘書官3名のみ。

 進めようとしていた政策はもちろん、大臣の顔と名前、国会議事堂の本会議場の場所。自分の息子の名前すら分からない総理。

 記憶にない件でタブロイド紙のフリーライターにゆすられ、記憶にない愛人にホテルで迫られる。

 どうやら妻も不倫をしているようだし、息子は非行に走っている気配。そしてよりによってこんな時に、米国大統領が来訪!

 他国首脳、政界のライバル、官邸スタッフ、マスコミ、家族、国民を巻き込んで、記憶を失った男が、捨て身で自らの夢と理想を取り戻す!

 果たしてその先に待っていたものとは・・・!?

(3)「三谷幸喜(脚本と監督)」INTERVIEW

 <政界を舞台にしたけど、パロディや風刺ではないんです>

・・・“総理大臣を主人公にした映画を撮る”というのは、かなり前から思い描いていた企画だとお聞きしています。

 この作品に限らず、映画を撮る時って、ずっと昔から考えていた企画が一つひとつ順番に実現していっている感じなんですね。この企画を思いついたのも、確かにかなり前。ようやくまわってきたというのが実感です。子供の頃「自分が総理大臣になったら、まず何をしよう」って考えたことありませんか?例えば僕みたいな、政界に何のしがらみもない人間が、もし突然総理になったら、みたいなことは、実は大人になってからも、首相が新しくなる度に考えてしまうんです。

・・・政界を舞台にしながら、コメディでありファンタジー的要素が強いものにしたいというのもこだわりでしょうか。

 僕が作るコメディって、パロディの要素はほとんどないし、風刺喜劇でもないんですね。特に風刺は苦手。主義主張のために、自分の作品を使いたくないんです。だから今回も現実の政界を批判する気は最初からなかった。あるとするならひとつだけ、タイトルにもなっている「記憶にございません」というフレーズ。政治家がとぼける時の常套句じゃないですか。もしこの映画がヒットしたら、安易にこの言葉は使えなくなる。そういう意味では、抑止力になるんじゃないかな(笑)。

 <キャスト陣の、あまり知られていない魅力を>

・・・そして今回も豪華なキャスト陣が揃いました。まずは主演の中井貴一さんについてお聞かせください。

 中井さんはお芝居が上手なのはもちろんですが、ハートでお芝居をされるうえに技術もある。喜劇俳優としてのテクニックをすごくお持ちの方なんですね。以前WOWOWの「short cut」(11)というドラマで、鈴木京香さんとほぼ2時間ワンカットの長回しという撮影をやったんですが、その時の中井さんはやはり素晴らしかった。追い詰められた時のあの慌てぶり・・・表情だけじゃなくて全身の動きがもうおかしい、喜劇的な要素を強く感じました。今回、中井さん演じる総理は前半、周囲に翻弄されっぱなしですが、後半はどんどん自立いていく。コメディ、シリアス両方の中井さんを楽しめるようになっています。

・・・ディーン・フジオカさん、石田ゆり子さん、草刈正雄さん、佐藤浩市さんについても。

 ディーンさんとは初めてのお仕事だったのですが、ドラマを拝見していても本当に二枚目な方で、実際にお会いするとやっぱりすごい二枚目で。撮影が始まって僕がちょっとふざけて話しかけても絶対に崩れない。それくらい真面目な方だし、「これぞ僕の求めていた二枚目だ!」と思いました(笑)。今回はそんな究極の二枚目のディーンさんならではのシーンをいろいろ用意しています。

 石田ゆり子さんとは舞台を何本かやらせていただき、ドラマでは、「古畑任三郎」シリーズで古畑のお母さんもやっていただきました。石田さんにはまだまだ隠れた魅力があるとずっと思っていて、映像のコメディでいつかご一緒したかった。天真爛漫な奥さんというキャラは、女優石田ゆり子としては、結構、珍しいんじゃないでしょうか。

 草刈さんは舞台「君となら」(14)に出てもらった時、コメディアンとしてのセンスを感じました。大河ドラマ「真田丸」(16)の真田昌幸はお茶目で渋くて格好良くて、草刈さんにぴったりのキャラクターだったんですが、今回はその昌幸をもっとふざけさせてもっと悪くさせたような鶴丸官房長官。一番の悪役ですので期待してもらいたいです。

 佐藤浩市さんに関しては、縁起ものというと怒られますが(笑)このところ僕の作品には必ず出てもらっています。最初の出会いは「新選組!」(04)だったんですが、素顔はかなり面白い方で。まだまだ世間が知らない佐藤浩市がいる、と気付きました。

・・・中井さんと佐藤さんのワンカット&長回しのシーンにはしびれました!

 中井さんは舞台もやられるし、長回しにも慣れていらっしゃるんですが、佐藤さんはこれだけ長いシーンをワンカットで撮ることがなかったみたいで、かなり緊張されていました。それを見ているのが楽しかったです(笑)。でもやっぱり底時からのある方なので、本番は完璧。すごくいいシーンになりました。あの密度の濃いやりとりは、カットを割っていたら見えてこなかったと思うな。

 <同じ「ことば」を持った俳優さんと、その先を目指したい>

・・・小池栄子さん、斉藤由貴さん、木村佳乃さん、吉田羊さんという4人の女優さんも新たな魅力を放ってらっしゃいました。

 小池栄子さんは「子供の事情」(17)という舞台に初めて出てもらったんですが「こんなにコメディエンヌのスキルが高い人なんだ!」と思ったのと同時に、僕と共通言語を多く持っているなと直感しました。その舞台の時に歌ったり踊ったりしてもらったので、それをぜひ映像にも残したく、今回ダンスシーンを付け加えさせてもらいました(笑)。

 斉藤由貴さんとのお付き合いは長いです。去年やったドラマ「黒井戸殺し」で久々にご一緒して、その時に魅力的かつとても重要な役をやっていただいて、改めていい役者さんだなと実感しました。今回もいい味を出してくれています。

 アメリカの大統領役に関しては、実はなかなか決まらなかったんです。トム・ハンクスさんも候補に挙がっていたんですが、ギャラの問題があって・・・(笑)。で、悩んだ末に、最近バラエティーでも大活躍されている木村佳乃さんはどうだろう、と。流暢に英語を話していて、それが嫌みに聞こえない人って、彼女しかいないんじゃないだろうかと、常々思っていたものですから。

 吉田羊さんは彼女が世間的にはまだ無名だった頃、僕らがやっていた劇団(「東京サンシャインボーイズ」)の公演に出てもらった。クールビューティーのイメージだけど、羊さんにはいつか妖艶な役をやってほしかった。今回はセクシーな彼女を見ることができます。