2024年7月31日第257回「今月の映画」「九十歳 何がめでたい」
監督:前田哲 草笛光子 藤間爽子 片岡千之助 唐沢寿明 三谷幸喜 オダギリジョー LiLiCo
(1)今回の映画は本当に面白かったです。
主人公の草笛光子さんも90歳で、唐沢寿明氏とのやり取りが本当に面白かったです。 戦争や争いごとや悲劇的な映画が多い中では、本当に楽しめる映画でした。是非、お楽しみください。 |
(2)「イントロダクション」
<シリーズ累計175万部の人気エッセイが映画化> <生きづらい世の中を“一笑両断”!> <笑いと共感の痛快エンターテインメント!> 直木賞をはじめ数々の受賞を重ね、昨年100歳を迎えた作家・佐藤愛子。彼女の歯に衣着せぬ物言いが評判を呼び、世代を超えて多くの人に愛されたベストセラーエッセイ「九十歳。何がめでたい」がついに実写映画化! 断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子のもとへ訪れた、頑固な中年編集者・吉川真也。二人の出会いによって連載がスタートしたエッセイは、思いもよらず人々の評判を呼び、断筆生活から一転、新たな人生が切り開かれていく・・・・・という物語。 佐藤愛子役は、昨年10月に90歳の誕生日を迎えた草笛光子。まさに等身大の90歳役を、エネルギッシュかつチャーミングに演じた。彼女とタッグを組む、頑固な中年編集者・吉川真也を、唐沢寿明が新境地で挑む。 愛子の娘役に真矢ミキ、孫役に藤間爽子。吉川の妻役に木村多江、その娘役に中島瑠菜。吉川の勤める出版社の同僚役に片岡千之助。さらに、オダギリジョー、清水ミチコ、LiLiCo、宮野真守、石田ひかり、三谷幸喜など豪華ゲスト陣が多数集結! 監督は『老後の資金がありません!』(21)で老若男女の共感を呼び、今最も注目されるヒットメーカー前田哲。脚本を大島里美、音楽は冨貴晴美が手がけた。 生きづらい世の中を一笑両断!2024年No.1の笑いと共感の痛快エンターテインメントが誕生した! |
(3)「ストーリー」
直木賞をはじめ数々の受賞を重ね、断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子(草笛光子)。友人は皆先立ち、社会との繋がりを絶たれてしまい、新聞やテレビをぼうっと眺める鬱々とした日々。同じ家に暮らす娘・響子(真矢ミキ)や孫・桃子(藤間爽子)には、愛子の孤独な気持ちは伝わらない。のんびりと過ごすために断筆したはずが、かえって気分が沈んでいくばかり。 同じ頃、大手出版社に勤める中年編集者・吉川真也(唐沢寿明)は、部下への昭和気質で前時代的なコミュニケーションがパワハラ、セクハラだと問題となり、謹慎処分が下されていた。妻・麻里子(木村多江)、娘・美優(中島瑠菜)にも愛想を尽かされ、仕事にプライベートに悶々とする日々を送っていた。 そんなある日、吉川の所属する女性誌「ライフセブン」編集部では愛子の連載エッセイ企画が持ち上がる。若手社員の水野(片岡千之助)が愛子へ依頼に向かうも、断筆を理由に断られてしまう。早々に諦めようとする編集長・倉田(宮野真守)に、吉川は異を唱え、その持ち前の昭和気質を活かし、愛子の家を訪れ猪突猛進に口説くも、愛子も一歩も引かず攻防戦に。吉川は手を替え“手土産”を替え、日々説得を試みるが、愛子の断筆の意志が変わることはなく玉砕に終わる。吉川を追い払い、ようやく平穏が訪れたと思った愛子だが、情けなくうなだれる吉川の姿にほだされ、歳。何「九十がめでたい」と、連載タイトルを記した原稿用紙を渡すことに。こうして孤独な二人はタッグを組み、隔週での連載がスタートした! ところが、愛子が書斎に向かうも、書くことがない・・・・・。行き詰まり吉川に相談すると、「日々の生活の中で思うことを書けばいい」と助言を受ける。愛子はいまひとつピンとこないまま、混沌とするこの現代日本において、人々が思っていても口に出せないような、「九十歳のヤケクソ」な本音をエッセイにぶつけることに・・・・・。 すると、いざ書籍化されるなり、その歯に衣着せぬ言葉の数々が、人々に笑いと涙の共感を呼び、全国の書店で売れ行きNo.1に!愛子の家には連日報道陣が訪れ、日本中で「九十歳。何がめでたい」ブームが巻き起こる。愛子も吉川も息を吹き返したように思えたのだが、さらなる苦難が二人を襲うことに・・・・・!? |
(4)「インタビュー 草笛光子・佐藤愛子 役」
<故郷に帰って来て、やっと恩返しができたような 感慨深い気持ちです> ・・・・・佐藤愛子先生と実際にお会いになったことがあると聞きましたが、その時のことを教えてください。 本作の企画が進み、二回ほど先生とお食事をする機会がありました。実は先生と何十年も前に雑誌で対談したことがあり、私に対して他の女優さんとは違う印象をお持ちになっていたそうです。何がどう違うのか恐ろしくてお尋ねしませんでしたけれど、「お互い別れた夫の悪口を言って大いに盛り上がった」と、当時の様子を覚えていらっしゃいました。お食事の最後には、「貴方が私を演じるのも、悪くないわね」とおっしゃってくださり、ホッとしながらも責任の重さを感じ、身が引き締まる思いでした。 ・・・・・実在の人物を演じるにあたって気をつけたことはありますか? どうしたら作家に見えるのかということは考えました。内面から醸し出される雰囲気や風格も表現しなくてはならないですからね。原稿を書いているシーンは一人きりでセリフもありませんから、さて、どうするかと悩みました。ですが、原稿用紙が置かれた書斎のセットに座って顔を上げた時、窓の外にゆらゆらと落ちていく黄色い葉が見えたんです。それがとても綺麗で想像力が自然と湧き出る感覚がしました。 ・・・・・唐沢寿明さんと共演された感想を教えてください。 唐沢さんとは、NHK大河ドラマ「利家とまつ 加賀百万石物語」(02)でお会いしたのが最初ですが、しっかりお芝居をしたのは初めてです。唐沢さんは「草笛さんが主演を務められるということで、何か自分にできることはないかと思い、出演を決めました」とおっしゃってくださって、うれしい限りです。撮影中、私は満身創痍でしたから唐沢さんがずいぶんと気遣ってくださって、助けていただきました。ただ、私がお裾分けした甘いお菓子は絶対に召し上がらない。「僕はいいです」ってシャンと背筋を伸ばしておっしゃる。私は目の前にあるもの、いただいたものはついつい食べてしまいますから自分を律する姿を尊敬しました。彼は下町っ子で、私は横浜っ子。裏表のない性格が似ているのか。現実の愛子先生と編集者の方もこんな感じかしらと思えるような相性を感じました。 ・・・・・真矢ミキさんとは現場ではどんなやりとりがありましたか? とても自然体で飾らないお人柄のままでいらっしゃるので、撮影していてもお芝居という感じがしませんでした。真矢さんは愛子先生と私のことを「美しき武士」とコメントされましたが、私はそんなに美しくもありませんし、強くもありません。ただ90歳になってさらに体裁も気にせず忖度もしなくなって、そういうこと自体が面倒になりましたね。それって強いことなのかしら?確かにどっからでもかかって来い!って感じですけれど。真矢さんは撮影中に美味しいチョコレートを持って来てくださって、孫娘役の藤間爽子さんと三人で女子会をを開いて、楽しくおしゃべりしながらいただきました。 ・・・・・前田哲監督とはどんな話をされましたか? 前田監督とは、『老後の資金がありません!』(21)以来のお付き合いで、毎年元日に我が家を訪ねてくるのが恒例となりました。撮影中はお互いに、ああ言えばこう言う。傍から見ればケンカ腰かもしれませんが、言いたいことはその場で口に出してしまった方が、後腐れがなくて私は好きです。今回は、「モノマネしなくていいですが、見た目は少し近づけたい」とのご要望に応じて、眼鏡をかけ、地のグレーヘアを少し黒く塗って、衣裳も愛子先生の過去の写真から似たようなものを衣装さんが作ってくれて、近づけてみました。 ・・・・・完成した映画を観たときの感想を教えてください。 わざとらしく、感動させようとか笑わせようとかしていなかったのが良かったです。私の映画デビューが『純潔革命』(53)。以来120本以上の映画に出演してきましたが、単独主演は今回が初めて。しかもそれが松竹作品ですから、特別な映画となりました。出戻り・・・・・じゃなかった。故郷に帰って来て、やっと恩返しができたような感慨深い気持ちです。 <プロフィール・・・くさぶえ・みつこ・・・・・1933年10月22日生まれ、神奈川県出身。50年、松竹歌劇団に入団。『続サラリーマン忠臣蔵』(61/監督:杉江敏男)などの「社長シリーズ」をはじめとする東宝喜劇に多数出演。58年から開始した音楽バラエティ「光子の窓」では自ら司会を務め人気を博す。日本ミュージカル界の草分け的存在で、「ラ・マンチャの男」「シカゴ」の日本初演に参加。市川崑監督と縁が深く、“横溝正史シリーズ”では『犬神家の一族』(76)を筆頭に全作に出演。映画出演の近作に『沈まぬ太陽』(09/監督:若松節朗)、『武士の家計簿』(10/監督:森田芳光)、『殿、利息でござる』(16/監督:中村義洋)、『ばあちゃんロード』(18/監督:篠原哲雄)、『老後の資金がありません!』(21/監督:前田哲)、『次元大介』(23/監督:橋本一)などがある。近年の舞台出演作には「新6週間のダンスレッスン」(18)、「ドライビング・ミス・デイジー」(19)、など。99年紫綬褒章受章。> |
(5)「インタビュー 唐沢寿明・吉川真也 役」
<吉川は愛子先生と出会って、自分を変えることができた> ・・・・・「草笛光子さんのためなら」と、本作のオファーを快諾したそうですね。 共演は、NHK大河ドラマ「利家とまつ 加賀百万石物語」(02)以来です。ずいぶん間が空きましたが、今回の話が来たとき「草笛さんが主演なら、いいなあ!」って、誰かのためにできる何かがあることに、喜びを感じる年齢になったというのか。もちろん、チャレンジングな作品や役への興味は常にあります。本作の、これまでになかった役どころも、役者冥利に尽きるなと。 ・・・・・数多の名優たちとも親交の深い唐沢さんが感じる、草笛さんの魅力とは。 草笛さんの品のある雰囲気が好きなんだろうね。今回もその印象はまったく変わらなかった。嘘のない人だから。そういう彼女に合った役だったんじゃないかと思います。 ・・・・・草笛さん扮する大作家・佐藤愛子さんとは、愛子の兄・サトウハチロー役を務めた「ハチロー 母の誌 父の誌」(05)でも、縁がありますね。 佐藤さんの著書を読むと、小さな怒りが自分の中にたくさんある。怒りがなくなると、生きる望みもなくなっちゃうけど、何か起きれば、グワッと怒って、それが生きる糧になる。ご自身も、旦那さんや家族のことでリアルに苦労していて。今ならDVやハラスメントと言われるようなことが当たり前にあった時代から、女性の怒りを代弁してくれる、頼もしい作家だったのだろうと思います。 ・・・・・妻の麻里子(木村多江)に愛想を尽かされる、吉川像をどう捉えましたか? 吉川は、ステレオタイプな時代遅れの男だね。ちゃんと仕事をして、家に給料を持って帰っているのだから、別に家族サービスなんかしなくてもいいだろう?という考え方。僕より一回り上の世代の、うちの親父もそういう感じでした。時代が変わると、当然そのゆがみが出てくる。総じて女性の方が時代の変化に敏感だから、言ってもどうせわからないし、もういいやって、出ていっちゃうわけだよね。話し合う価値のない、自分を変えられない人。だから吉川の人生はうまくいかない。 ・・・・・そんな器の小ささもどこか憎めず、哀愁すら漂う“昭和のおじさん”吉川に、共感を寄せる男性客も多いのだとか!? よっぽど人生がうまくいってないんじゃないの(笑)。「俺には、こういう生き方しかできない」って、一見恰好よく聞こえるけど、そういう人は苦労するよね。だって周りは、その人のために変わってくれないんだから。自分が変わる勇気さえ持てば、簡単なことなのに、一円にもならないプライドが邪魔をする。プライドなんて、一秒でも早く捨てた方が、人生はうまくいくよ。職場でも吉川は、若い子にセクハラやパワハラをしないようにしなきゃ、というところまでしか思いが至らない。それは変わったうちには入らないよね。人として変わる努力をしたわけじゃないから。そんな彼が愛子先生と出会って、自分を変えることができた。 ・・・・・強烈かつ愛すべきキャラクターという点で、吉川と愛子先生は似ていると思いましたか。 いや、似てはいないんじゃない?ただ、いろんなことを言い合ううちに、お互いのことが少し理解できたんだと思う。人を理解するって、なかなか難しいことだよ。世の中全員他人なんだから。だからこそ、ちょっとわかり合えると、もう少し深い話をしてみようかと思ってみたり、愛子先生にしても、ああでもない、こうでもないと言ってくれる人ってあまりいなかっただろうから、吉川のことが面白くなったんじゃないかな。 ・・・・・草笛さんとの共演はいかがでしたか。 草笛さん自身が面白いから、撮影中も楽しかったですよ。連載の依頼にお邪魔したとき、愛子先生が腱鞘炎だって嘘をつくシーンがあるんだけど、僕が差し入れを持って帰ろうとしたら、咄嗟に草笛さんが、包帯をまいている方の手で遮ろうとして、役と同じ感覚で、嘘をついていることを、本人がリアルに忘れちゃってて。思わず「痛くないんですか?」って聞いたら「痛い」って(笑)。 ・・・・・最後に、吉川のセリフになぞらえて、人生百年、輝いて、生きるためのアドバイスをお願いします! お金がある、なしの話ではなく、五感を刺激されやすい人の方が得なんじゃないかな。ささやかな幸せって、いくらでもあるからね。ただ高い酒を一人で呑むより、家族で焼き肉の食べ放題に行く方が幸せかもしれないよ。皆で笑いながら、食べる方が楽しいじゃない? <プロフィール・・・からさわ・としあき・・・・・1963年6月3日生まれ、東京都出身。87年に舞台「ボーイズレビュー・ステイゴールド」でデビュー後、NHK大河ドラマ「利家とまつ 加賀百万石物語」(02)や「マクベス」(01・02)など数々のドラマや舞台などで活躍。森田芳光監督作『おいしい結婚』(91)で映画デビュー。主な出演作に、TVドラマ「白い巨塔」(03~04)、「ルーズヴェルト・ゲーム」(14)、「THE LAST COP/ラストコップ」(15~17)、「ボイス 110緊急司令室」(19・21)、NHK連続テレビ小説「エール」(20)、「24 JAPAN」(20~21)、連続ドラマW「フィクサー」(23)、映画『ラジオの時間』(97/監督:三谷幸喜)、『嗤う伊右衛門』(04/監督:蜷川幸雄)、『20世紀少年』シリーズ(08・09/監督:堤幸彦)、『イン・ザ・ヒーロー』(14/監督:武正晴)、『杉原千畝 スギハラチウネ』(15/監督:チェリン・グラック)など多数。> |
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