2023年5月31日第244回「今月の映画」「劇場版 TOKYO 走る緊急救命室 MERMOBILE EMERGENCY ROOM)」

監督:松木彩 主演:鈴木亮平 賀来賢人 中条あやみ 菜々緒 杏 仲里依紗 石田ゆり子 

(1)アニメーション映画「BLUE  GIANT」を観て、私・藤森は本当に驚き、そして感動しました。そして、この映画を観ながら、5月15日の「今月の言葉」「『本気!』『真剣!!』『一所懸命!!!』とは何か?」に活用しました。

 ところがさらに驚きました。今回の映画「劇場版 TOKYO MER~走る緊急救命室~」は、「BLUE  GIANT」よりもさらに、さらに「『本気!』『真剣!!』『一所懸命!!!』とは何か?」を的確に表現している映画だったのです・・・というよりも、そういうタイトルに相応しい映画だったのです。

 横浜ランドマークタワーで爆発事故が発生して、数千人が逃げ惑う前代未聞の緊急事態。爆発が次々と発生する中、取り残された193名。救命隊が、文字通りの「『本気!』『真剣!!』『一所懸命!!!』」に取り組む映画!!!でした。

 横浜ランドマークタワーの火災の画面は、どうやって撮影したのだろうかと思っていましたが、最近、「AI」関係の情報が溢れている中で、「AIの偽像」という言葉に出会いました。「AIが偽像(創作)」した「映像」だったのでしょうか?

(2)「INTRODUCTION」

 横浜が、炎に包まれる・・・

 前代未聞の緊急事態発生。

 地上70階、取り残された193名。

 待っているだけじゃ、救えない命がある。

 すべての命を救うため・・・MER、出動。

 2021年に放送されたTBS日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」。物語の主役である“MER”とは「モバイル・エマージェンシー・ルーム」の略称。

 東京都知事の命で新設された、救命救急のプロフェッショナルチームである。彼らの使命はただ一つ・・・それは、死者を一人も出さないこと。

 最新の医療機器とオペ室を搭載した大型車両“ERカー”で、重大事故・災害・事件の現場に駆けつけ自らの危険を顧みず、どんな困難にも立ち向かう。

 患者の命を救うために・・・。

(3)「STORY」

 横浜ランドマークタワーで爆発事故が発生。数千人が逃げ惑う前代未聞の緊急事態に。

 「待っているだけじゃ、救えない命がある」。TOKYO MERチームドクター・喜多見(鈴木亮平)はいち早く現場に向かうべきと主張するが、厚生労働大臣が新設した冷徹なエリート集団YOKOHAMA MERの鴨居(杏)チーフは「安全な場所で待っていなくては、救える命も救えなくなる」と真逆の信念を激突させる。

 地上70階、取り残された193名。爆発は次々と連鎖し、人々に炎が迫る!混乱の中、重傷者が続出するが、炎と煙で救助ヘリは近づけない。まさに絶体絶命の危機・・・。さらに、喜多見と再婚した千晶(仲里依紗)もビルに取り残されていることが判明。千晶は妊娠後期で、切迫早産のリスクを抱えていた・・・。

 絶望的な状況の中、喜多見の脳裏に最愛の妹・涼香を亡くした、かつての悲劇がよぎる・・・。

 もう誰も、死なせはしない。命の危機に挑む医療従事者たちの、勇気と絆の物語。

(4)「INTERVIEW」(鈴木亮平さん・・・喜多見幸太・TOKYO MERのチーフドクター)

 <この映画は、本当の意味で喜多見がTOKYO MERの仲間たちに心から信頼をよせる話だと思っているんです>

・・・劇場版の撮り方をドラマと変えるべきか松木彩監督が悩んでいた時、「ドラマ版と変えない方がいいと思います」という鈴木さんのひと言で、迷いが吹っ切れたと聞いています。

 僕自身もそこは同じように考えていたことでもあったんです。TVドラマ仕様のお芝居を大きなスクリーンで観ると、ちょっとやりすぎな印象を受けることがあるので・・・。でも、「TOKYO MER」という作品を愛してくれた人たちが劇場へ観に来てくださった時に、シームレスにドラマと同じ世界に入ってもらうためには、僕らが何か新しいことをしたり変に変えようとするのではなく、そのままを見せた方がいいのかなと思ったんですよね。そういった思いを松木監督にお話しさせていただいた・・・と、記憶しています。

・・・ロケは天気との戦いでもありますが、鈴木さんが現場にいる間は降雨することが少なかったそうですね。

 確かに・・・比較的、僕は晴れることが多いかもしれないですね。でも、夏梅さん(菜々緒)の方がすごいです。僕の場合、自分がいるシーンの間で晴れていたりするんですけど、菜々緒さんはもっとピンポイントで、彼女がクローズアップされるカットのみ雨が止む、というパターンもあるんです。今でもすごくよく覚えているんですけど、ドラマの第3話を豊橋で撮っていた時期が梅雨で、スタッフもキャストも雨に悩まされていて。ところが、菜々緒さんが現場に来た瞬間に雨が止んだんです。そこからまた、断続的に降ったり止んだりしていたんですけど、カメラが菜々緒さんを向いた瞬間だけ、パーッと晴れて。菜々緒さんは、正に“天照大神”でした。あの人の晴れ女パワーは、ちょっとすごすぎます(笑)。

・・・劇場版の撮影は前半が梅雨でしたが、明けてからも猛暑の中でロケが行われましたね。

 僕が一番暑かったと感じたのが、横浜みなとみらいの日本丸メモリアルパークでのロケですね。横浜ランドマークタワーの火災を前にして、「俺一人で行きます」と言う喜多見(鈴木亮平)に、TOKYO MERのメンバーも「いや、私たちも行きますよ」と返すシーンです。あそこを撮っていた時、あまりの暑さに初めて頭の中が真っ白になって、セリフが飛びました。言おうとしてもセリフが出てこないし、思いだすのを脳が拒んでいるような謎の状態に陥りまして。あれはセリフが飛んだというよりも、僕自身の意識が飛んだと言うべきかもしれません。もちろん、僕だけが大変だったわけじゃなくて、音羽先生(賀来賢人)はテントの中で撮影した時、摂氏48度だったらしく、そういう状況でお芝居をする俳優陣もそうですが、汗を拭くメイクさんはもっと大変だったと思います。映画になってみると、そんなに目立っていませんでしたが、実際は汗ダラダラでメイクもどんどん落ちていって・・・。それを気づかせないように直すスタッフの方々には、本当に感謝しかありません。

・・・感謝つながりで・・・喜多見が「ありがとう」と伝えるラストシーン、鈴木さんはどんな思いがありますか?

 この映画自体、喜多見が本当の意味でTOKYO MERの仲間たちと向き合って、彼ら彼女らに心から信頼をよせる話だと思っているんです。そして、真の意味で妹の涼香の死も乗り越えるのだと。なので、単なるパニック映画にとどめてはならないと撮影前から捉えていました。実は僕自身、「自分ががんばらなきゃ」と気張っていたところがあったんですけど、TOKYO MERの仲間たちと一緒に撮影をしていく中で、「自分には仲間がいるから大丈夫だ」と思えるようになっていって。

 たとえばドラマの大8話、心停止していた喜多見が音羽先生に救われるシーンは寒い中、雨降らしの撮影だったんですけど、僕が冷えないようにと数時間にわたって、MERチームのみんながお湯を僕にかけてくれていたんです。そういった一つひとつの出来事が、僕の中では一人ひとりに対する感謝の気持ちとしてふくらんでいって・・・劇場版の撮影中は、扮装をした仲間たちの顔を見るだけで涙が出てくるような心理状態だったんです。

 つまり、喜多見が仲間たちに対して抱いていた思いや感謝、信頼といったものを僕自身も共有していたので、本当に心の底からの「ありがとう」という気持ちをそのまま、一人ひとりの顔を見て伝えたかった・・・というのが、ラストシーンを撮っていた時の自分の感情でした。台本で読んだ時は「そうか、この言葉で終わるのか」と、すごくシンプルな言葉だからこそどういうふうに伝えればいいのか考えたりもしたんですけど、ドラマと映画の撮影を通じて、常に仲間たち一人ひとりに心の中でかけていたり、口にもしていた言葉だったので、現場では“そのまま”を改めてつたえようと心がけた、という感じでしたね。何回か違うテイクも撮りましたが、僕はその都度まっさらな気持ちで「ありがとう」の思いを届けようとしていたので、あのラストにはリアルが映っていると思っています。

・・・では、もしも『TOKYO MER』の続編が今後つくられるとしたら、どういう物語を希望しますか?

 まだ徳丸くん(佐野勇斗)のプライベートに謎が多いので、チーフとしては彼のストーリーを見てみたくて。あと、ミンさん(フォンチー)のバックグラウンドや千住さん(要潤)の家族がどうなっているのかも、もう少し知りたいですね。実は脚本の黒岩(勉)さんが考えた各キャラの裏設定を僕だけ読ませてもらって知っているので、そういった知られざる『TOKYO MER』の物語にスポットを当ててほしいなと思います。

≪≪鈴木亮平氏・・・1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。これまでの主な出演作品:【映画】『HK/変態仮面』(13)、『俺物語!!』(15)、『ひとよ』(19)、『孤狼の血 LEVEL2』(21)、『燃えよ剣』(21)、『土竜の唄 FINAL』(21)、『バズ・ライトイヤー』(22/声の出演、『エゴイスト』(23)、『シティーハンター』(24/Netflix 配信予定)/【TV】「花子とアン」(14)、「西郷どん」(18)、「テセウスの船」(20)、「レンアイ漫画家」(21)、「エルピス ー希望、あるいは災いー」(22)≫≫

(5)「STAFF INTERVIEW スタッフインタビュー」<監督:松木彩氏> 

 ≪≪「目線が合う」「声が届く」といった“伝達”を人と人を繋ぐ象徴として描きたかったんです≫≫

 TVドラマの場合、「撮影して、すぐ編集してオンエア」の過程を2日間ぐらいで一気にやってしまうこともあるんですけど、映画は撮りおわってからの方が時間があって。何ヶ月もかけてCGを合成したり、音楽もボリュームまで細かく調整させてもらったりと、丁寧に仕上げることができて、とても贅沢な時間でした。

 私はTVの世界で育って、「TVドラマは毎シーンがクライマックスだと思え」という先輩の教えを大切にしてきたのですが、今回映画にさせていただくと聞いて、大きなスクリーンで2時間も集中して観るお客さんには、ゆったり落ち着けるシーンがないと疲れてしまうんじゃないか、TVのやり方ではだめなんじゃないかと、いろいろ迷ったりもしました。でも、そもそも疲れるのが『TOKYO MER』だったじゃないかと思いだしまして。鈴木亮平さんの「劇場版だからといって、撮り方を変えなくてもいいと思います」という言葉にも背中を押されて、ドラマ版を撮っていた時に自らに課した「すべてのシーンにワクワクするポイントをつくる」というスタンスに立ち戻ることにしました。いっそ今までで一番疲れる作品にしてやると(笑)、作品への愛情が深いスタッフ陣とともに「これが『TOKYO MER』です!」と胸を張れる一作を完成させることができた、という手応えを、手前味噌ながら今は感じています。

 劇場版では、「目線が合う」「声が届く」といった“伝達”を裏テーマ的に描こうと、こっそり自分の中で意識していました。今回はキャラクターがあちこちに散らばるのですが、時には肉声で、時には電話やヘッドセットを通して常に誰かが誰かと繋がっているというのを大切にしたかった。逆に相手がそばにいるときは、多くを話さなくても目線だけで伝わる。終盤で、ヘッドセットを失った喜多見が振り絞った声も、意識の戻らない千晶に呼びかけ続けた声も、そうやってずっと繋がってきた相手だから、届いたのかなと。

 もし2回目を観てくださる方がいらっしゃいましたら、そういうところも注目していただけたら、とても嬉しいです。

≪≪松木彩氏のPROFILE・・・これまで演出を手がけた主な作品に「半沢直樹(第2期)」(20)、「テセウスの船」(20)、「天国と地獄~サイコな2人~」(21)など。「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(21)で第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞を受賞≫≫