2023年2月28日第241回「今月の映画」「THE LEGEND & BUTTERFLY」

監督:大友啓史 主演:木村拓哉 綾瀬はるか 伊藤英明 北大路欣也 本田博太郎

(1)今回の映画は、綾瀬はるかが抜群に素晴らしかったです。綾瀬はるかの「濃姫」を見に行くだけでも、この映画を観に行く価値があると思われるほど、本当に素晴らしかったです。

 「時代劇」にもかかわらず、しかも「戦国時代」の猛烈に激しい時代の映画にもかかわらず、「レジェンド&バタフライ」のタイトルが、私・藤森には少し胡散臭さがありました。しかし、次の「週刊ポスト」で、中森明夫氏がおっしゃっているように、綾瀬はるかが本当に素晴らしかったです。

 

「時代劇が大ヒットの綾瀬はるかは“令和の吉永小百合”になるか」(週刊ポスト、5年2月24日号)

 木村拓哉(50)が織田信長を、綾瀬はるか(37)がヒロイン濃姫を演じる東映創立70周年記念作品の映画『レジェンド&バタフライ』が公開された。9日間で興行収入10億円を突破している。

 映画ライターが語る。「何より綾瀬が演じる濃姫が魅力的です。12年ぶりの共演となった木村とはアクションでも抜群のコンビネーションをみせ、木村もベタ褒めしていました。“孤高のカリスマ”木村と国民的女優の綾瀬の時代劇共演は、かつての高倉健と吉永小百合を彷彿とさせます」

 映画館の大スクリーンでキラキラと光を放つ女優・・・昭和世代がそうして憧れたのが吉永小百合なら、令和の今、綾瀬にも同じような「華」があると語るのはアイドル評論家の中森明夫氏だ。

 「吉永さんはサユリストという言葉が生まれたように野坂昭如さんなど文化人にも愛されましたが、綾瀬さんもニュースキャスターの故・筑紫哲也さんが早い段階からファンを公言し、終戦記念特番では広島出身の綾瀬さんが20歳になったばかりの頃から共演していました。若い女性たちから憧れられるのと同時に偉大な作家やジャーナリストも魅了する。吉永さんに憧れた昭和世代のおじさんたちも、同じように綾瀬さんに魅了されていると思います

 同世代の人気女優たちが続々と結婚するなか、綾瀬は「最後の独身好感度女優」でもあるという。

 「吉永さんが結婚した時にはファンは皆がっかりしましたが、綾瀬さんの時もきっと同じようになるでしょう」(中森氏)

(2)「INTRODUCTION」

 ≪≪東映創立70周年記念作品だからこそ生まれた高い志と挑戦。徹底的にこだわった、その先にある、感動の極み。≫≫

 <人気NO.1の武将>の名にふさわしく、これまで幾度となく映像化されてきた織田信長の人生を、今までとは全く違う新たな視点で描く、総製作費20億円のビッグプロジェクト=『レジェンド&バタフライ』。日本最高峰のキャスト・スタッフが集結し、誰もが知る信長の、誰も知らない<妻・濃姫との30年の軌跡>と<「本能寺の変」の謎>を圧倒的なスケールで描き切る。最後に待つ予想外の展開と圧巻のクライマックスがあなたを、そして日本中を、新たな時代へと突き動かす・・・。

 

(3)「STORY」

 ≪≪最低最悪の出会いが、時代を変える・・・≫≫

 政略結婚で結ばれた、格好ばかりの織田信長(木村拓哉)と密かに信長暗殺を目論む濃姫(綾瀬はるか)は、全く気が合わない水と油の関係。ある日、濃姫の祖国で内乱が起こり、父が命を落とす。自身の存在意義を失い自害しようとする彼女に、再び生きる意味と場所を与えたのは、他でもない信長だった。そんな信長もまた、大軍に攻められ窮地に立たされた時、濃姫にだけは弱音を吐く。自暴自棄になる彼を濃姫は鼓舞し、桶狭間の激戦を奇跡的に勝ち抜く。これをきっかけに芽生えた絆は更に強くなり、いつしか天下統一が二人の夢となる。しかし、戦いに次ぐ戦いのなかで、信長は非常な“魔王”へと変貌してゆく。本当の信長を知る濃姫は、引き止めようと心を砕くが、運命は容赦無く≪≪本能寺の変≫≫へと向かっていく。<魔王>と恐れられた信長と、<蝶>のように自由を求めた濃姫。激動の30年を共に駆け抜けた二人が見ていた、“本当の夢”とは・・・・・。

(4)「織田信長 木村拓哉」

 ≪≪戦国時代のカリスマ武将。尾張の「大うつけ」と呼ばれる。濃姫を正室に迎えるが、反りが合わない。≫≫

・・・登場シーンの16歳から49歳まで、特に魔王になっていく変化に驚きました。

 台本を拝見した時、16歳のシーンもあったので大友監督に、さすがに十代は勘弁してくれませんかって言った記憶があります。演じるにあたって、それぞれの部署のプロフェッショナルたちがすべて担ってくださったので、僕は何もしていない。信長の心境だったり、信長としての気持ちの整理はもちろん必要でした。ですが、それも周りの共演者の方が共存してくださっていたので、自分ひとりで何かを立ち上げるというよりはその場にいる全員で空気を作って、気持ちの重さを作っていったことを今改めて思い出しています。

・・・京都で信長を演じたいという夢も叶いました。

 過去に別の作品「宮本武蔵」で太秦(うずまさ)の東映京都撮影所におじゃまする機会をいただいた時、それまではずっと東京中心で撮影することが多かったので、こんなところがあったのかと感動しました。太秦で出会った職人たちと、また京都で作品を作りたいと思ったんです。以前、テレビドラマで信長の若い頃をやらせていただきましたが、もう一度、あの東映京都撮影所に信長として戻ってきたいと、勝手な夢を口走ってしまった。そしてそれが現実になった・・・。もちろん責任も感じていましたが、また太秦で作業ができるということが、すごく嬉しかったです。

・・・信長の葛藤や愛情にこちらの心も動かされましたし、綾瀬さん演じる濃姫から見た信長の姿も新鮮でした。

 綾瀬さんじゃなければ、あの濃姫の芯の強さは実在しなかっただろうと思います。見た目はほわんとしているんですけど、初夜のシーンにしても刃物を持った直後に豹変するので、こんなに早く動けたっけって。また、こんなに柔らかかったかなとか、こんなに温かかったかなとか、向き合う自分に対して彼女から色んな大切なパスがくる。そのおかげで色んな感情を引き出してもらえたと思っています。こうやって撮影をふり返りながら話をしていると、どのシーンもどの瞬間も、ものすごくリアルに自分のなかに残っていますね。

・・・そのなかで特に聞きたいのは、やはり最期のシーン。あの台詞で幕を閉じるというのは驚きでした。

 古沢さんがプレゼントしてくれた、あの一言ですよね。その想いを濃姫に伝えるにあたり、僕のなかで必要だったのは「合点じゃ」という彼女の言葉でした。京へ発つ前の会話で「帰ってきたらば、南蛮の楽を聞かせよ。・・・よいな」という信長に、濃姫は「合点じゃ」って返してくれるんですが、そのシーンよりも前に本能寺を撮っていて。本能寺の撮影の時、綾瀬さんにあるお願いをしたんです。別れの時の「合点じゃ」を音声として送ってくれないかと。そのシーンを撮っていなくても、音声として濃姫が実在してくれたら、本能寺での最期に臨める。自分のなかで彼女の「合点じゃ」をインプットした状態で、古沢さんがプレゼントしてくれたあの一言「ずっと、好いておった」を言えると思ったんです。なので、撮影は時系列通りではなかったけれど、想いはちゃんと繋がっていましたね。

・・・あの「合点じゃ」にはそんな秘話があったんですね。ラストシーンの信長の表情、忘れられない表情として焼きついています。

 きっと映画の見方は人それぞれで、ラストシーンの受け取り方もそれぞれだと思います。僕が今伝えたいのは、この映画は、歴史上の人物ですし、入り口は時代劇ですが、出口は時代問わず共有できる、共感できるラブストーリーになっている。なので、好きな人やパートナーに対して、今一度その人を好きになったことや、一緒になったことをフィードバックするような感覚になれたのであれば、言いたい時に言っておいたほうがいいよ、伝えたい時につたえておいたほうがいいよって、そんなことも思っています。

 ≪≪濃姫に想いを伝えるにあたり、僕のなかで必要だったのは、「合点じゃ」という彼女の言葉でした≫≫

≪≪1972年11月13日生まれ、東京都出身。主な出演映画は『武士の一分』(06)、『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(09)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10)、『HERO』(15)、『無限の住人』(17)、『検察側の罪人』(18)、『マスカレード・ホテル』(19)、『映画ドラえもん・のび太の新恐竜』(20/声の出演)、『マスカレード・ナイト』(21)など。時代劇初出演となった「織田信長 天下を取ったバカ」(98/TBS)以来25年ぶりに本作で信長を演じる。≫≫

(5)「Column」(森直人氏・映画評論家」)

 <「ふたりでひとり」の夢の跡>

≪≪歴史劇に最新の時代精神を吹き込む“THE LEGEND & BUTTERFLY”の意義≫≫

 信長と濃姫を描く。その際にはいまの日本における、男女の在り様やパートナーシップのロールモデル(規範)を、時代の要請に応じて、新しく提示し直すというテーマが必然的に浮上してくるだろう。

 監督の大友啓史と脚本の古沢良太がまず考えたのも、歴史劇という“解釈と再構築”が決め手となる表現のフレームに、最新の時代精神を吹き込むことだったのではないか。冒頭ショット、戦場で息絶えた兵士のごとく地面に横たわるバッタの側を、カマキリがうろうろと通り過ぎる。この昆虫、女性上位を象徴する存在でもあるが、果たして2023年Ver.の戦国リーダーカップルの肖像は如何に・・・?

 1549年の春、尾張の那古野城で若き信長と濃姫が出会ってから、33年間もの長きに渡る関係の行方がダイナミックに展開する。最初の政略結婚の日、見栄えにこだわる洒落者の信長(木村拓哉)は、ド派手な赤い腰紐を取り巻きたちにおだてられ、まるでガキ大将。このやんちゃでチャーミング、だが未熟な男の子に対し、美濃から嫁いできた濃姫(綾瀬はるか)は、すぐに大人びた格上の才を見せつける。「赤」を好む信長に対し、雄大な大海の「青」を愛する濃姫・・・そんな彼女は封建社会のコードなど物ともせず、夫となる相手に勇ましくこう言い放つ。

 「まるでわっぱじゃ、ただのわっぱ!醜し!」

 艶笑喜劇の風味もあり、軽妙なやり取りのボーイ・ミーツ・ガールが楽しい。『真夏の夜の夢』『じゃじゃ馬ならし』といった、シェイクスピア流儀のロマンティック・コメディなども思わせる。ただし濃姫は、父・斎藤道三(北大路欣也)の悲願の天下取りのため、秘かに信長の命を狙っているという「魔」の心を抱えつつ・・・乱世の物語は続いていく。

 主人公のふたりの半生を演じきるのは、木村拓哉と綾瀬はるか。言うまでもなく日本を代表するトップスターの彼らは、時代のアイコンとして、信長と濃姫を再定義する役割も担っている。評価の表舞台に立つ夫と、それを裏で支える妻・・・これまで長らく“美談”として扱われがちだった男性優位の慣習を問い直す批評的な眼差しは、スウェーデン・米・英合作映画『天才作家の妻40年目の真実』(17/監督:ビョルン・ルンゲ)など、近年の世界的潮流ともなっているが、『レジェンド&バタフライ』が創出するのは単なるパワーバランスを超えた、「ふたりでひとり」という運命的な絆のかたちだ。

 しかし周知のとおり、信長をめぐる史実は「めでたし、めでたし」で幕となる穏便なものではない。物語のターニングポイントとなるのは1568年の秋、京の祭りの場だ。一般の民にまぎれた信長は不意に金平糖を盗まれ、そのままスリの子供を追って貧しい集落に足を踏み入れる。住人たちに襲われた濃姫は、とっさに刀を抜き、彼らを斬りつける。あっという間に血塗れの修羅場となったショッキングな光景。そのあと異様な興奮状態へと高ぶった濃姫は、自分から信長にキスをする。そのシーンは「ふたりでひとり」になるための儀式のようでもありつつ、同時に濃姫に宿っていた「魔」が、信長に移植された瞬間にも見える。

 かくして信長は、人から鬼になる。おのれの権力のためなら、殺戮や粛清、どんな残虐な仕打ちも辞さない「魔王」に。先ほど例に出したシェイクスピアに喩えるなら、四大悲劇のうちに数えられる『マクベス』や『リア王』に近い世界だ。「逆らえば、殺す」とばかりに暴走する信長を、もはや濃姫は案じながら見守ることしかできない。いや、「負の連鎖」の巨大な歯車がいったん回り出せば、自制が効かなくなり、信長本人さえも容易に事態を止めることはできないのだ。

 ここで大友啓史監督のファンなら、『るろうに剣心』シリーズ・・・特に『最終章 The BEGINNING』(21)で鮮烈に描かれた、「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心と、雪代巴の関係を連想するのではなかろうか。となれば、殺伐とした信長の孤独を癒やし、「魔」をゆるやかに溶かすのは、愛の力しかない。そう観客の多くは願うのではないか。

 コミック原作であっても、実録ベースの歴史劇であっても、フィクション(虚構性)とドキュメンタリズム(現実性)を融合し、現代のリアルな問題を作品に照射する形で考察を重ねるのが大友啓史の一貫した流儀だ。独裁者の虚無と憂鬱を見据えつつ、戦争の構造を映し出す『レジェンド&バタフライ』に際しては、ロシアのウクライナ侵攻など世界情勢の混乱も、大友の念頭にあったのではないかと思える。

 我々の世界と歴史は、否応なく大きな暴力と政治で回っている。その非常のメカニズムを反映させた超大作仕立てながら、この映画はあくまで個性的な、「ふたりでひとり」の小さな世界を軸に設計されていることが肝だろう。クライマックスに用意された甘美な夢のパートは、ラブストーリーとしての最大の意義だ。1582年の初夏、本能寺が焼け落ちる音と、西欧の弦楽器リュートが奏でる響きのなかで・・・。

 つわものどもが夢の跡。伝説のなかで舞い踊る胡蝶の切ない優美。端正にデザインされた作品の世界像と、精鋭の座組みによる充実のチームワーク。申し分の無い記念碑がここに立ち上がった。

(6)   <<織田信長年表>>

1534年 織田信秀の嫡男として、尾張国(現・愛知県)・那古野城で生まれる。吉法師(きっぽうし)の幼名を授かる。

1542年 父・信秀より那古野城を与えられる。

1546年 元服し、「織田三郎信長」を名乗る。後見役を織田家の忠臣・平手政秀が務める。

1548年 尾張と敵対していた美濃国(現・岐阜県南部)の領主・斎藤道三と信秀が和睦。

1549年 濃姫を正室として迎える。≪ルイス・フロイスの書簡に、信長は「酒をのまず」とある。映画の祝言と初夜のシーンでは、酒を口にしてむせており、濃姫の「飲まれん酒を~」という台詞からも酒が弱かったことが伺える。後半、魔王となりワインを飲むシーンもあるが、自分の弱さを克服するために飲んでいたとも受け取れる。≫

1551年 信秀の死去により家督を相続。

1555年 清洲城(現・愛知県清須市)を奪取。

1560年 駿河の今川義元を桶狭間の戦いで討つ。

1567年 斎藤氏の稲葉山城を攻め落として居城する。

1568年 室町幕府15代将軍・足利義昭を擁して上洛。将軍職就任を助け、天下を取ることを目指す。≪≪映画のなかでは、濃姫と一緒に京の街へ繰り出した時、初めて金平糖を知る設定になっている。当時は砂糖が貴重なものだったこともあり、ルイス・フロイスらが信長に謁見する際には、瓶入り金平糖や菓子の砂糖漬けを贈っていることがフロイスの書簡に残されている。≫≫

1570年 金ヶ崎の戦い。姉川の戦いにて織田・徳川軍が、義弟・浅井と朝倉の連合軍を討つ。≪≪正月の饗宴で明智光秀が信長のために用意したのは、仇敵のしゃれこうべを薄濃(はくだみ)にした盃。その盃で酒を飲むシーンがあるが、『信長公記(しんちょうこうき)』『甫庵信長記(ほあんしんちょうき)』によると盃にはしておらず、しゃれこうべを見ながら酒を飲んだとされれいる。映画では盃に織田家の家紋がデザインされ、明智の狂気が伺える。≫≫

1571年 浅井・朝倉軍を匿った、比叡山延暦寺を焼き討ちにする。

1573年 足利義昭を畿内から追放。室町幕府滅亡。

1575年 長篠・設楽原(したらがはら)の戦い。火縄銃を用いた織田・徳川軍が武田勝頼軍を討つ。

1576年 琵琶湖東岸の安土山(現・滋賀県近江八幡市)に安土城の築城を開始。楽市・楽座令などの自由経済政治で、城下町の繁栄を図る。

1579年 安土城に拠点を移す。≪≪信長が濃姫のために薬草園を作ったというのは、映画における二人のラブストーリーをより深く描くためのものであり、そういった史実があったのかは不明。ただ、『南蛮寺興廃記』『切支丹宗門来朝実記』などには、宣教師が薬草園を作りたいと信長に願い出て伊吹山の地を与えられたと記述がある。≫≫

1582年 徳川家康を饗応の儀に招待する。明智光秀による本能寺の変により自害。