2022年9月30日第236回「今月の映画」「さかなのこ」

原作:さかなクン「さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生~」(講談社) 監督:沖田修一

主演:のん 柳楽優弥 夏帆 磯村優斗 岡山天音 西村瑞季 中野祥平 前原滉 鈴木拓

(1)私・藤森は、テレビで「さかなクン」さんを見ているだけだったのですが、「さかなクン」さんが、これほど活躍している方だとは驚きました。最後の(5)で詳細に紹介してありますが、東京海洋大学名誉博士・客員教授他、素晴らしい活躍をしている方だったとは知りませんでした。

≪≪お魚が大好き、だけど普通のことはちょっと苦手なミー坊が、社会の荒波に揉まれながらも自分の“好き”を貫き成長してゆく姿・・・勉強ができなくても、ミー坊も母のミチコもちっとも気にしない。ミチコは『魚貝の図鑑』をプレゼントし、ミー坊がリクエストするお魚料理を毎日食卓に並べ、優しく見守っている。ミー坊の活躍を喜ぶミチコ(母親)から、実は、家族みんなお魚が苦手だったことを告げられ、衝撃を受けると同時に、ミチコやまわりの人たちが自分の“好き”を支えてくれたことに気づく。≫≫・・・このことが本当に素晴らしく、そして美しかったです。

 また、「のん」さんが、「さかなクン」さん役がドンピシャリだったのにも驚きでした。楽しく、そして素晴らしい映画でした。

 

「元気いっぱいのん 芸能界を生き抜く術」(夕刊フジ、2022年9月11日)

 女優ののん(29)が先ごろ、主演映画「さかなのこ」(沖田修一監督)の公開記念舞台あいさつに登場し、元気な姿を見せた。 

 タレントで大学客員教授のさかなクンの自伝的エッセイを原作にした作品で、のんはさかなクンがモデルの主人公ミー坊を演じているが、「これがはまり役。純粋に魚愛を貫いた主人公が憑依している」と映画ライターは二重丸を付ける。

 スポーツ紙芸能記者はこう見立てる。

 「ミー坊は成績がイマイチで、生き方も器用ではない。それがのんの生きざまと重なる部分がある。のん自身が、同志を演じたように感じたと明かしていますが、孤軍奮闘するミー坊の姿に、のんが共感したということです」

 ミー坊の原動力になったのは“魚が好き”という思いだけ。前出・映画ライターが再び。

 「のんも、演技以外にも映画製作などをアーティストとしての活動の幅を広げていますが、“好き”になりたい!という力がその源泉だと話しています。演技者としてはオファーが減ってしまいましたが、それをバネに自分自身の新たな領域を切り開いてきた。まだ途上ですが、芸能界で生き抜く多様性をしっかり示している点は、立派だと思いますね」

(2)「INTRODUCTION」

 <ギョギョギョ!!のんがさかなクンに!?>

 お魚への大きな愛と溢れる知識、優しくユーモラスなキャラクターで人気を誇るスーパースターのさかなクン。そんなさかなクンの自伝的なエッセイ「さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生」(講談社)を原作にした映画『さかなのこ』は、お魚が大好き、だけど普通のことはちょっと苦手なミー坊が、社会の荒波に揉まれながらも自分の“好き”を貫き成長してゆく姿を描くライフストーリーだ。

 本作でさかなクンの分身ともいえるミー坊を演じるのは、<俳優・創作あーちすと>として活躍するのん。さかなクンと同じく、既存の枠組みにとらわれず新たな道を切り拓いているのんなら、多様性に溢れたお魚の世界に魅了されたミー坊を、さかなクンのモノマネではなく、本質を体現してくれるに違いない!制作陣のそんな期待に、のんは見事に応えている。

 <さかなクンの全面協力のもとに行われた「お魚ファースト」な撮影>

 ミー坊の人生に大きな影響を与える“ギョギョおじさん”として、さかなクンが映画初出演。演技以外にも魚類の監修はもちろん、題字の執筆、バスクラリネットの演奏など、八面六臂の活躍で本作を支えている。学校のシーンをさかなクンの母校で撮影できたのも、さかなクンの人望あってこそ。撮影時はお魚へのストレスを抑えるべく、お魚たちが暮らす沼津や館山にロケ隊が赴く<お魚ファースト>を徹底した。

(3)「STORY」

 ミー坊(西村瑞季)は好きなものの絵を描くことが大好きな小学二年生。部屋の壁に貼られているトラックや妖怪の絵に、最近はタコの絵が加わった。お魚の生態を描く『ミー坊新聞』の制作に熱中。勉強ができなくても、ミー坊も母のミチコ(井川遥)もちっとも気にしない。ミチコは『魚貝の図鑑』をプレゼントし、ミー坊がリクエストするお魚料理を毎日食卓に並べ、優しく見守っている。

 夏休み、ヒヨとモモコと一緒にきた海水浴場で、ミー坊は憧れのタコさんに出会い、捕獲に成功。家で飼うつもりが、父・ジロウ(三宅弘城)にその場で締められてしまう。突然のことにショックを受けたミー坊だったが、ジロウが炙ってくれたタコに泣きながらかじりつくのだった。

 そんなある日、町の変わり者として知られるギョギョおじさん(さかなクン)に声をかけられ、お魚好き同士仲良くなる。「暗くなる前に帰る」とミチコに約束して、ギョギョおじさんの家に遊びに行くが、そこで暮らすたくさんのお魚に夢中になって時間を忘れてしまい、警察が出動する大騒動に。ギョギョおじさんはパトカーに乗せられ、そのままふたりは二度と会うことはなかった。

 ミー坊(のん)のお魚熱は高校生になっても冷めることなく、ミチコと暮らすアパートには所狭しと水槽が並び、お魚たちが泳いでいる。学校でカブトガニをツガイで飼育したところ、日本初の人口孵化に成功し、テレビや新聞の取材を受けることに。ミー坊は「おさかな博士になりたい」という夢を高らかに宣言するのだった。

 とはいえ、誰よりもお魚に詳しいもののまったく勉強ができないミー坊に、大学進学の選択肢はなかった。高校を卒業し、家を出て、社会という大海原へ泳ぎだしたミー坊に、いくつもの荒波が襲いかかる。大好きなお魚たちとふれあいたくて水族館や寿司屋で働いてみるものの、お魚の知識は役に立たず、失敗ばかり。どこに行っても、思っていたのと違う・・・と迷走が続く。 

 26歳になったミー坊は、寿司屋の大将に連れられて行ったキャバクラで、幼なじみのモモコ(夏帆)と再会。モモコの紹介で、歯科医院のアクアリウムの設計を任されたが、マニアック過ぎて、これまた失敗。ところが協力してくれた海水魚を扱うペットショップ・海人の店長さんからその情熱を買われ、店で働かせてもらうことに。

 3年後、ミー坊が仕事から帰ると、モモコがアパートの前で待っていた。3歳の娘を連れて、「行くところがない」と言うモモコを、何も聞かずに受け入れるミー坊。そのまま3人は、まるで家族のように暮らしはじめるが、モモコは自分たちがミー坊の夢を邪魔していることに気づき、黙って姿を消す。

 ふたりが消えたことにショックを受けたミー坊は、やけ酒を飲んで泥酔し、その勢いで商店のシャッターにシシャモの絵を描いてしまう。そこへ高校時代に一緒にカブトガニを育てた総長(磯村勇斗)が通りかかり、近所のスナックにミー坊を連れて行く。マスターは、高校時代にひと悶着あったカミソリ籾こと籾山(岡山天音)だった。ミー坊が食べさせたアオリイカがきっかけで魚の美味しさに目覚め、寿司屋で修行を積んだという。ミー坊は、このスナックを寿司屋に改装予定の籾山から、店の壁にお魚の絵を描いてほしいと頼まれる。

 数ヶ月後、籾山の寿司屋が新装開店。ミー坊が描いたお魚たちの絵で埋め尽くされている。ミー坊の活躍を喜ぶミチコ(母親)から、実は、家族みんなお魚が苦手だったことを告げられ、衝撃を受けると同時に、ミチコやまわりの人たちが自分の“好き”を支えてくれたことに気づく。

 30歳になったミー坊は、テレビ番組のディレクターになったヒヨ(柳楽優弥)から、番組出演のオファーを受ける。ギョギョおじさんから譲り受けたハコフグ帽をかぶり、「ギョギョ!」というジェスチャーを交え、カメラの前でお魚について楽しそうに話すミー坊。ミー坊のお魚愛が、身近な人たちだけでなく、たくさんの人に広がっていく・・・。

 

(4)「TALK 原作:さかなクンx監督:沖田修一」 

 さかなクン・・・映画を拝見して涙することが今まであまりなかったのですが、『さかなのこ』はワンシーンワンシーンでものすギョく感動して号泣しました。この映画はまさに!!沖田監督さまが「さかなクンの映画であってさかなクンの映画ではない」とおっしゃる通りの映画でギョざいます。「あ、こんなことあったなー」というところもあれば、「新たな世界観だ!」と先の展開にワクワクドキドキするところもあり。まさに!!ミー坊になって『さかなのこ』の世界に溶け込んで、うれしい、楽しい、悲しい、面白い、切ないといった色んな感情になりました。

 監督・・・いやいやうれしいです・・・!さかなクンのエッセイ『さかなクンの一魚一会』をもとに、映画でしかできないことを考えたので、原作から飛躍した部分もあるんですけど、その中でも、これはもしかして本当のことなのかな?と思ってもらえるような映画を目指しました。さかなクンに、事実と重ね合わせながら面白く観てもらえたようで、ホッとしました。

 さかなクン・・・脚本を事前に読ませていただいていたんですけれども、映画として観ると、全然世界観が違っていました。小さい頃、行ったことのない場所へ自転車で冒険したときの、どんなお魚に会えるんだろう?どんな人に会えるんだろう?どんな光景がみられるんだろう?というような、ドキドキワクワクがありました。

 監督・・・それはうれしいです。ありがとうございます。

 さかなクン・・・さかなクンからお願いしたいこともギョざいました!!小さな頃から大好きなイシガキフグちゃんを、長年、漁師さまの定置網漁業で捕れるたびにいただいて、フィッシュハウスの水槽でケアして大切にしています。元気になると、ジーッと見つめ合ったり、歯磨きをしてあげることもあります。「ミー坊ちゃんがイシガキフグちゃんと見つめ合ったり、歯磨きをしてあげたりから始まったらうれしいです!!」と沖田監督さまに直接お願いしました。

 監督・・・さかなクンがイシガキフグを長い間興味を持ってテーマにしていることがわかったので、イシガキフグで始まるのが絶対にいいなと思ったんです。歯磨きの話も面白かったので。

 さかなクン・・・ありがとうギョざいます!!お魚ちゃんにもかゆい!!気持ちいい!うれしい!という感情があるので、毎日見ていると、「今日も元気で楽しそう!」「今日も元気で楽しそう!」「今日はなんかギョ機嫌斜めだな~。美味しいものをあげよう!!歯磨きもしてあげよう!!」という、ギョミュニケーションができるようになってくるんです。

 監督・・・本当にそうですよね。最初はどう撮っていいかわからなかったんですけど、だんだん魚の気分がわかるようになってきて、「そろそろこっち向いてくれそうだな」という予感がしたり(笑)。仲良くしないと撮れないんですよね。

 さかなクン・・・お魚ちゃんはちょっとでも警戒心があるとビクッとした顔をするんです。でも、『さかなのこ』にギョ出演のお魚ちゃんたちは、と~っても穏やかでリラックスした顔をしているんです。さかなクンのフィッシュハウスからたくさんのお魚ちゃんを登場させてくださって、ものすギョくうれしかったです。

 監督・・・『さかなクンの一魚一会』やさかなクンとの会話に出てきた魚は「撮らねば!」という使命感がありました。撮りながら、「さかなクン、喜ぶだろうな~」と想像しつつ(笑)。

 さかなクン・・・誠に!!ありがとうギョざいます!沖田監督さまのお優しさに、感謝の気持ち大漁でギョざいます。

 監督・・・フィッシュハウスに取材に行かせてもらった時に、ミー坊役をのんさんにお願いすることになりましたと報告したら、さかなクンもお母さんも、ものすごく喜んでくださって。

 さかなクン・・・もう、あの時は、のんちゃんさんが演じてくださると聞いて、「ギョギョギョ!やったー!うれしい!こんなうれしいことがあるんだ!」と大感激でギョざいました!のんちゃんさんは超憧れですし、憧れというよりとっても尊敬でギョざいます!

 監督・・・さかなクンには魚の監修以外にも、ギョギョおじさんの役をやっていただいてしまいました。ギョギョおじさんがハコフグ帽を脱ぐシーンは、「大変なことをやっていただいているぞ・・・!」と気合いが入りました。

 さかなクン・・・いえいえいえ(笑)。脱いだら石になるわけではギョざいませんので!最初にお話をいただいたときは、「おそ松くん」に出てくるイヤミさんの「シェー!」が「ギョギョ!」に変わったような、一風変わったおじさんなのかなと思ったんですけど、お魚が大好き!という気持ちは、自分と同じですので、あ!だったら、これはもう自然に演じさせていただくのが一番だぁ~と思い、とっても楽しく参加させていただきました。

 監督・・・高校のシーンはさかなクンの母校で撮影させてもらったんですけど、理科室にいっぱい貼ってあるさかなクンが描いた絵やカブトガニの剥製を見て、「ここで・・・!」と気持ちが上がりました。他にも、ギョギョおじさんの登場シーンで流れる音楽をバスクラリネットで演奏してもらったり、題字を描いてもらったり、何から何までお世話になりっぱなしで・・・。

 さかなクン・・・とっても尊敬いたします沖田監督さまと素晴らしいチームのみなさまに、こんなにかわいくて素敵なミー坊と、お魚さんと、ファミリーや仲間のみなさまとの素晴らしい世界を映画として誕生させてくださり、夢のようです。さかなクンも参加させていただき、光栄でギョざいます。そして大好きなバスクラリネットを吹かせていただきめちゃくちゃうれしかったです♪

 監督・・・さかなクンは低い音がお好きだと聞いていたので、ギョギョおじさんの登場シーンでバスクラリネットの音を流したい、と、音楽のパスカルズさんに提案したら、「うちには吹ける人がいないなあ。誰かいない?」となって。「じゃあもう、さかなクンにお願いしましょう」と。

 さかなクン・・・ギョギョ!!うれしいです♪さかなクンも、お魚の道をどう進んで行くのが正しいのかがわからずにグネグネしてきましたが、ミー坊ちゃんの道もまっすぐではないので共感する部分がとっても多いです。お魚が大好き!という気持ちを貫いて進む姿に、「がんばれミー坊!」となります。生き生きと自然体でとっても素敵なのんちゃんさんに、「どうぞよろしくお願いします」と、頭のハコフグちゃんを引き継いでいただきたい気持ちになりました。

 監督・・・二代目さかなクン(笑)。引き継ぐというか、僕たち大人には、さかなクンみたいに生きてみたいという憧れがあるんですよね。そういう憧れを持って作ったこの映画が、大人だけでなく子供にとっても、忘れられない映画の一つになったらうれしいです。

 さかなクン・・・みなさまおひとりおひとりに、夢中なことや大好きなこと、得意なこと、といった<宝物>があると思います。この映画は『さかなのこ』ですけれども、「うたのこ」「ねこのこ」「しぜんかがくのこ」夢がたくさんギョざいますね!!ぜひ、夢を大切に持ち続けて、この映画のラストで子供たちと笑顔で走っているミー坊ちゃんのように、「レッツ・ギョー!!」でギョざいます。<取材・文:須永貴子氏>

 <フィッシュハウス・・・さかなクンの自宅に併設されたお魚さんたちの住まい専用の建物。食用として流通しないお魚などを漁師さんからいただき、一緒に暮らしている。

 

(5「原作:ギョギョおじさん さかなクン」

 東京都出身。館山市在住。東京海洋大学名誉博士・客員教授、画家。お魚の生態や料理法について豊富な知識を持ち、お魚の魅力を多くの人に伝えたいと、わかりやすい表現で執筆や講演を行っている。2010年には絶滅種とされていたクニマスの生息確認に貢献。海洋に関する研究や啓発活動の功績が認められ、「海洋立国推進功労者」として内閣総理大臣賞を受賞。14年には食育文化功労賞、ベストスイマー2014年などを受賞。15年には東京海洋大学名誉博士の称号を授与され、22年には同学の客員准教授から客員教授へ昇任。ほか、農水省「お魚大使」、文科省「ユネスコ国内委員会広報大使」、環境省「サステナビリティ広報大使」、外務省「海とさかなの親善大使」など、30を超える役職に就いている。また、20年に公式YouTubeチャンネル「さかなクンちゃんねる-FISH BOY-Sakana-kun」を開設。本作では、原作、出演、魚類監修のほか、ギョギョおじさんの登場シーンでのバスクラリネット演奏、題字の執筆、ミー坊の白衣の絵の描き下ろしなど、多岐にわたり参加。

 

<さかなクンのギョギョ!なエピソード>

≪≪小学6年生≫≫自由課題として毎週提出していたお魚についてのレポートが先生の間で話題になり、「今週のミー坊新聞」として張り出される。

≪≪中学3年生≫≫学校にカブトガニが寄付されたが育て方がわからないと、吹奏楽部顧問の鈴木先生に相談され、飼育を引き受ける。ツガイで育てたところ、孵化に成功し、新聞の取材を受ける。

≪≪高校3年生≫≫「TVチャンピオン」(TXN)の「第3回全国魚通選手権」に出場し、準優勝。その後、同番組で5連覇の偉業を達成し、殿堂入りを果たす。

≪≪21歳≫≫バイト先のお寿司屋さんで3ヶ月かけて描いた壁画が評判になり、イラストを描く仕事が入るようになる。

≪≪さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~≫≫(講談社刊・著者:さかなクン 1、430円・税込み)