2022年11月30日第238回「今月の映画」「線は、僕を描く」

監督・脚本:小泉徳宏 主演:横浜流星 清原果耶 三浦友和 江口洋介 河合優実 細田佳央太

(1)「線は、僕を描く」は、実に素晴らしい映画でした。私・藤森が専門にしている「深層心理」ととても似ている場面が沢山ありました。

 <(3)のSTORY>にもありますが、≪≪水墨画は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術。描くのは「命」。≫≫まさに、これは「交流分析」でいう「脚本」や「深層心理」を意味しています。

 その他にも≪≪(小林)東雲先生いわく、線を一本描いただけでその人の性格が分かるらしいです。≫≫これはその人の「深層心理」が「1本の線」に「投影」されていると解釈できます。

 ≪≪「一瞬なんとなくできたような気になるんですが、実はそこから先が難しい。その奥が相当深い世界なんだろうなと思いましたね。」≫≫これは、「浅い深層心理」から、文字通りの「深い深層心理」に向かう難しさだと感じます。

 会話の一つ一つが「深層心理」的に理解できることが多かった上に、太い筆で・・・まるで、竹ホウキでサッサッと庭を掃くだけのような感じですが、そこに驚くほどの「線」が描かれるその素晴らしさには、本当に感動しました。

(2)「INTRODUCTION」

 『ちはやふる』の制作陣が新たに挑む<水墨画>の世界
青春映画の金字塔、再び。

 2020年「本屋大賞」3位、2019年TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞した。
青春芸術小説「線は、僕を描く」(砥上裕將著、講談社文庫)
「命が芽吹く物語」「青春って素晴らしい!!」「まっすぐで、せつなくて、透き通るような喪失と再生の物語」と、全国の書店員から絶賛されている小説の実写映画化が実現した。
『ちはやふる・上の句・下の句・/・結び・』(16・18)を青春映画の金字塔に仕立て上げた小泉徳宏監督を筆頭に、『ちはやふる』制作陣が再結集!<かるた>の次は<水墨画>に挑戦する。 

 主演を務めるのは、『愛唄ー約束のナクヒトー』(19)、『いなくなれ、群青』(19)、『チア男子!!』(19)の三作品で、第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した若手トップクラスの実力を持つ横浜流星。

 2020年エランドール賞新人賞受賞、第15回ソウルドラマアワードアジアスター賞受賞と、いま最も勢いの人気がある横浜流星は、本作で<水墨画>に初挑戦。瑞々しい演技を魅せる一方で、見事な筆さばきを披露した。

≪白≫≪黒≫のみで描かれる水墨画を≪≪色鮮やかな世界≫≫としてまばゆいほど瑞々しく描いた、王道の青春映画が誕生した

(3)「STORY」

 <水墨画との出会いで、止まっていた時間が動き出す。
これは、喪失と再生の物語。>

 大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で運命の出会いを果たす。白と黒だけで表現された水墨画が霜介の前に色鮮やかに拡がる。深い悲しみに包まれていた霜介の世界が、変わる。

 巨匠・篠田湖山に声をかけられ水墨画を学び始める霜介。水墨画は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術。描くのは「命」

 霜介は初めての水墨画に戸惑いながらもその世界に魅了されてい・・・。

 

(4)「INTERVIEW」

<これまでいろいろな職業の役を演じてきましたが、水墨画が自分には一番合っているなと思いました・・・横浜流星>

・・・原作の印象はいかがでしたか?

 一番印象に残ったのは“言葉”でした。湖山先生や西濱が霜介に言う素敵な言葉がすごく印象に残ったので、映画でも言葉を大事に演じたいというのは(小泉徳宏)監督にも伝えさせていただきました。

・・・霜介とご自身は似ているところはありましたか?

 似ているかは分かりませんが共感できたのは、表面上は明るく振る舞っていても内面は感情に蓋をして、人と一定の距離があるところですかね。そんな霜介を表現するには前髪が大事だなと思ったので、僕から監督に少し重めで長い前髪を提案させてもらったんです。人と会うとき、目を隠したくなる気持ちは僕にもあるし、特に霜介の世界は暗いと思うので、自分の心を外部から遮断するという意味でも長い前髪は演じるうえでの助けになりました。

・・・初めて触れた水墨画の世界はいかがでしたか。

 難しかったですが、楽しかったです。技術的にはまだまだ反省ばかりですが、霜介は水墨画がそれほどうまいという設定ではなかったのでそこは助かりました(笑)。(小林)東雲先生いわく、線を一本描いただけでその人の性格が分かるらしいです。もちろん正解はないし、そもそもその時の感情によっても線が全然違うんです。そういうところは芝居にも似ているなと思いました。これまでいろいろな職業の役を演じてきましたが、自分には一番合っているなとも思いました。ずっと空手をやってきたので、自分の内面と向き合う時の集中力は共通するところがあったのかもしれません。

・・・東雲先生がクランクインの三カ月前くらいから、横浜さんの線が明らかに変わってきたとおっしゃっていましたが・・・。

 全然下手くそなんですけど、“四君子”が不格好なりに描けるようになってきたのかな?という感覚は確かにインの三カ月前くらいにありました。何か“抜けたな”という気はしましたが、そこからテクニックを求め始めるのは霜介としては違うなと思って。本当に奥深い世界でした。

・・・三浦友和さんの湖山としての佇まいも素晴らしかったですね。

 まさに湖山先生のような温かさで霜介を包み込んでくれました。大先輩ですが、三浦さんは僕が気負わずにリラックスできるような空気を作ってくださいました。撮影合間にはたくさんお話もさせていただきましたし、お芝居の面でも勉強になることばかりだったので、本当に幸せな時間を過ごせましたね。

・・・完成作をご覧になった感想は?

 (セリフのない)点描の素晴らしさに衝撃を受けました。正直現場では「これは何に使うカットなんだろう?」と思っていたんですが(笑)、それらが見事に繋がっているのを観て感動しました。あとは監督の音へのこだわりを現場でも感じていましたが、役者の声、音楽、墨のシュッという繊細な音など、音の使い方もすごく印象的に残りました。

・・・パンフレット読者にメッセージをお願いします。

 まずは水墨画の魅力が一人でも多くの方に伝わると嬉しいです。たとえ水墨画でなくても、何かひとつ情熱を注げるものに出会い、人生を楽しめるキッカケになってくれたらいいなと思います。

(5)「INTERVIEW」

 三浦友和(篠田湖山・水墨画の巨匠。霜介を一目見て、弟子として迎え入れることを決める)

 PROFILE・・・1952年1月28日生まれ、山梨県出身。71年、TVドラマで俳優デビュー。映画初主演作『伊豆の踊り子』(74)で第18回ブルーリボン賞を受賞。以降、通称「赤いシリーズ」(74~80)をはじめ主演した多数の映画やTVドラマが絶大な人気を集め、一躍名俳優に。代表作は『潮騒』(75)、『風立ちぬ』(76)など。近年では映画『羊と鋼の森』(18)、『風の電話』(20)、『AI崩壊』(20)、『唐人街探偵 東京MISSION』(21)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(22)に出演。待機作に『ケイコ・目を澄ませて』(22年12月16日公開予定)がある。

 

 江口洋介(西濱湖峰・湖山の一番弟子。少々破天荒気味なところもあり、霜介を翻弄する。根は優しく、霜介・千瑛たちを温かく見守っている)

 PROFILE・・・1968年1月1日生まれ、東京都出身。87年、映画『湘南爆走族』でデビュー。TVドラマ「101回目のプロポーズ」(91)、「ひとつ屋根の下」(93)などで人気を博す。映画『闇の子供たち』(08)、『GOEMON』(09)、『天空の蜂』(15)などで主演を務め、『るろうに剣心』シリーズ(12・14・21)、『孤狼の血』(18)、『コンフィデンスマンJP』シリーズ(19・20・22)、『一度も撃ってません』(20)、『アキラとあきら』(22)、『七人の秘書 THE MOVIE』(22)などに出演している。待機作に『映画 メネシス 黄金螺旋の謎』(23年3月31日公開予定)がある。

(6)「水墨画の世界」

 <水墨画と向き合い続け、水墨画の奥深さに触れた役者陣>

 撮影前から役者たちに課されたのは、水墨画の猛特訓。本作には実際の水墨画の大家である小林東雲(とううん)氏が【水墨画監修】として名を連ね、撮影中はもちろん撮影前から役者たちに指導することが決定した。なかでも誰より熱心に水墨画と向き合い続けたのは、横浜流星。その熱意には監督も「ものすごい気合いだった」と驚きを隠せない。

 「もともと水墨画は練習してもらうつもりでこちらもお願いはしていましたが、あれほど自分から積極的にやってくれるとは正直思っていませんでした。本当にストイックな人だと思います」。多忙を極める横浜だったが、少しでも時間が空くと「練習がしたいです」と連絡が入る。

 監督や制作陣は慌てて東雲氏のスケジュールを確認するということもしばしばあった。その真摯さは東雲氏にも伝わり、自然と練習も熱を帯びてくる。東雲氏によると「線を見るとある程度はその人の内面が分かる」そうで、横浜の描く線は「最初は意外にもズシッと重たかった。線が強いというか、独特の風格がありました」とのこと。その線に水墨画のセンスを感じ取った東雲氏は、横浜が“うまくなる”ことを確信したという。横浜も霜介同様、やればやるほど奥深い水墨画の世界にどんどん魅了されていった。「真っ白な紙と墨と水だけで、あんなに華やかな絵が完成されるのはやっぱり不思議だなと思うし、毎回驚かされます。その時の自分の感情によっても描く線は違うし、見る人によっても全然違ってくるので、本当に奥が深い世界だなと。何より東雲先生が誰よりも水墨画が好きな人で、いつも水墨画の魅力を伝えてくれたから、僕ももっと水墨画を知りたいと思えました」(横浜)

 コロナ禍で撮影が一年後に延期になった間も横浜は水墨画への想いを止めることなく、東雲氏との対面の指導が叶わない時はオンライン上で作品を送り続け、東雲氏はそれらを丁寧に採点して送り返すというやり取りが行われていた。しかし先行きが不透明な現状に、「もともとがネガティブな人間なので、一度は心が折れかけていた時もある」と言う横浜。そんな時北島Pからの激励の手紙を受け取り、「こんなことで不安になっていたらダメだな。情けない」と自分を鼓舞しながらひたすら真っ白な画用紙に向き合い続けた。その甲斐あって、横浜の水墨画の腕前は周囲も驚くほどめきめきと上達。描く絵はもちろん、その所作、姿勢なども到底初心者のそれではなくなっていた。「役者さんが実際に描けるのと描けないのでは、撮影の手法も全然違ってくる」と監督が言う通り、横浜の努力が撮影の様々なバリエーションを生むことにもなった。「振り返ると撮影が延びたことは、自分にとっていい準備期間になったなと思います」(横浜)

 本作の台本にはあえて横浜が初心者の頃に描いた“春蘭”が印刷されている。素人目には十分美しい絵だが、横浜は「全然完成されていないし、微妙だと思います」と笑う。しかしこの初心を忘れない心を役者&スタッフ全員が共有することで、自然と現場の士気も上がるという北島Pの英断だった。同時に向かい合った蘭の花は、互いをリスペクトし支え合う霜介と千瑛の姿を意識して描いたとも横浜は明かしてくれた。

 清原、江口、三浦もそれぞれ東雲氏の指導を受けながら、それぞれの“自分の線”を模索していく日々を送っていた。東雲氏は「お三方ともお世辞抜きでとても素晴らしかった」と賛辞を惜しまない。

 「最初は“自分にできるの?”と不安になりましたが、褒めて伸ばしてくれる優しい東雲先生のおかげで、自由な心で絵を描ける楽しさを感じました。水墨画というとちょっと敷居が高く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、紙と墨さえあればどんなものを描いてもOKなので、この作品で興味を持ってくれる方が増えたらいいなと思いますね。私自身水墨画がとても好きになれたので、出会えてよかったです」(清原)。

 「一瞬なんとなくできたような気になるんですが、実はそこから先が難しい。その奥が相当深い世界なんだろうなと思いましたね。でも家で墨の匂いを感じるとメンタルも落ち着くし、集中して作業できる時間は新鮮でした」(江口)

 「技術的なことを学んでいくとある程度の形にはなりますが、それなりの形になるだけに、逆に葉っぱ一枚が難しい。どうしてこんなに自分と先生の絵が違うんだろう?という差が分かってくるんです。奥深い世界ですね」(三浦)