2020年11月30日第214回「今月の映画」「水上のフライト」
監督:兼重淳 主演:中条あやみ、杉野遥亮、大塚寧々、小澤征悦、高杉彩良、冨手麻
(1)中条あやみという女優さんを、私・藤森は全く知りませんでした。しかし、パンフレットを読むと素晴らしい女優さんなんですね。
<<端的に言うならば、「努力の人」。その一言に尽きるだろう。 スラリとしているスタイルや、たたずまいの凜々しさからクールでスマートな人なのかなと想像していたところ、良い意味で泥くさくて根性がある・・・というのが、実際に会ってインタビューをしてみて感じた印象だった。 何より驚かされたのは、役に対するストイックな向き合い方だ。『3D彼女 リアルガール』では、五十嵐色葉という誰が見ても完璧なビジュアルを誇るヒロインを演じるにあたって、原作ファンをがっかりさせたくない一心から、中条本人ですら自身のことをナルシストかと思うほど常に目を意識して、徹底的にこだわり抜いたのだという。 たとえば・・・自宅で過ごす時も役に自分を近づけたいという思いから、色葉がふだんから着ていそうな派手めな服を選んだり、撮影現場へも人目を引くようなファッションで通ったりといった具合だ。なお、ふだんはジャージやスウェットなど、わりとラフな格好で現場入りすることが多いのだとか。 そんなふうに、役と同化するためであれば細々としたことだろうと最善を尽くす。それが、中条あやみという人の本質なのだ。>> このような女優さんとは全く見えませんでした。今回の映画を観てからは、中条あやみの役に打ち込む素晴らしさに感動しました。 また、今回の映画、走り高跳び選手として大活躍をしていた主人公が、交通事故で下半身不随になり、どん底の気分からどのように這い上がるか、とても興味がありました。 <<ある日、ブリッジスクール出身で、義肢装具士をしている颯太が競技用のカヌーを持ってやって来る。そこで宮本から、カヌーを本格的に練習して新たに世界を目指すことを提案された遥は、「そんな甘いものじゃない!」と怒りを爆発させてしまう。その後、やり場のない思いを抱え、あてもなく車椅子を走らせ転倒していたところを、里奈と達也が発見。壊れた車いすを颯太に修理してもらいながら、遥は、自分が色々な人に支えられていることに気付く。 合宿で訪れた山中湖。練習をしていた遥の姿を見た里奈は「お姉ちゃん、空を飛んでいるみたい」と言う。透明度が高い湖面に空が反射し、その上を遥の乗ったカヌーが自由に羽ばたいているようだと。「人生も友達もみんな失ったと思った。でも、本当は自分自身を見失ってただけ。皆は周りにいてくれた」。自らを変えるため、ハンデを受け入れた遥は、カヌー選手として新たなスタートを切ることを決意する・・・。>> 素晴らしい映画でした。 |
(2)「INTRODUCTION」
事故で歩けなくなった走り高跳び選手が出会ったのは“カヌー” 走り高跳び選手として将来を有望視される大学生の藤堂遙。自分の実力に絶対の自信を持つ彼女は、世界を目指すことだけを目標にしていた。だがある日、不慮の事故に遭い、命は助かったものの二度と歩けない身体になってしまう。夢を絶たれた遙は、母親や周囲に心を閉ざし自暴自棄になるが、亡き父の親友がコーチを務めるカヌーに誘われたことを機に、新たな夢を見つけていく・・・。 弱さを知らず、負けも知らず、他者に目を向けることもなく生きてきたヒロイン。不慮の事故により人生が一変した彼女が、初めての挫折を経験し葛藤するなかで、自分はひとりではないことに気付かされる。母の愛、淡い恋心、恩師との約束・・・大切な人たちに支えられて道を切り開いていく姿に勇気と感動をもらえる、珠玉のヒューマンストーリーが誕生した。 |
(3)「STORY」
体育大学へ通う走り高跳び選手の藤堂遙。学生選手権では無敗を誇り、オリンピック強化選手への道も開けていた彼女は、当然のように世界を目指していた。負けを知らず、自分にも他人にも厳しい遥は、「弱いのは努力が足りないから」と後輩を突き放す言葉を放つなど、勝気な性格もあいまって、記者たちからも注目されていた。 そんなある日、突然降り出した雨のなかで帰路を急いでいた遥に、悲劇が襲いかかる。車と衝突する事故に遭い、命は助かったものの下半身に麻痺を抱えてしまったのだ。遥は、飛ぶことはおろか二度と歩けない身体になってしまう。 慣れない車椅子生活を送るなか、後輩選手であるみちるの活躍を横目に、走り高跳び選手としての夢を絶たれた無念さを抱え、心を閉ざしてしまう遥。そんな娘を心配する母・郁子は、苦悩しながら見守るしかなかった。 そんなとき、遥の亡き父の親友で、カヌー教室を開いている宮本が遥を訪ねて来る。宮本は、幼少期の遥にカヌーを教えてくれた人物だった。久しぶりに会う宮本の優しさに、かたくななこころをほぐされていく遥。地元の小学生を預かりカヌーを教えているという宮本から、「気分転換になるから」と、カヌーに誘われる。 ある運河で開かれているカヌー教室。宮本のもとに集まるのは、家庭の事情を抱えていたり不登校になったりして、学校に居場所を見つけられないブリッジスクールの子どもたちだった。遥は、何の偏見も持たずに自分に接してくる里奈や達也らと過ごす時間に居心地のよさを感じ、共にカヌーの練習を始めることに。「カヌーに乗ればみんなと同じ・・・」。遥は、しだいにスポーツとしてのカヌーに目覚めていく。 ある日、ブリッジスクール出身で、義肢装具士をしている颯太が競技用のカヌーを持ってやって来る。そこで宮本から、カヌーを本格的に練習して新たに世界を目指すことを提案された遥は、「そんな甘いものじゃない!」と怒りを爆発させてしまう。その後、やり場のない思いを抱え、あてもなく車椅子を走らせ転倒していたところを、里奈と達也が発見。壊れた車いすを颯太に修理してもらいながら、遥は、自分が色々な人に支えられていることに気付く。 合宿で訪れた山中湖。練習をしていた遥の姿を見た里奈は「お姉ちゃん、空を飛んでいるみたい」と言う。透明度が高い湖面に空が反射し、その上を遥の乗ったカヌーが自由に羽ばたいているようだと。「人生も友達もみんな失ったと思った。でも、本当は自分自身を見失ってただけ。皆は周りにいてくれた」。自らを変えるため、ハンデを受け入れた遥は、カヌー選手として新たなスタートを切ることを決意する・・・。 |
(4)「REVIEW」
<努力の人、中条あやみの女優としての“進化”>(平田真人・映画ライター) みなさんは、中条あやみという人にどんなイメージを抱いているだろうか? 女優?ファッションモデル?それとも、アイスクリームやアパレルをはじめとして、CMにたくさん出ている人?はたまた、少し前までMCを務めていたTV番組「アナザースカイ」の人? やたらと「?」が続いて質問攻めみたいになってしまった。何にしても言えるのは、それほど彼女のイメージは多彩だということ。ただ、ここに列挙したのはあくまでも肩書き的なものであって、本質を表すものではない。 では、中条あやみの本質とは何なのか? 端的に言うならば、「努力の人」。その一言に尽きるだろう。 スラリとしているスタイルや、たたずまいの凜々しさからクールでスマートな人なのかなと想像していたところ、良い意味で泥くさくて根性がある・・・というのが、実際に会ってインタビューをしてみて感じた印象だった。 何より驚かされたのは、役に対するストイックな向き合い方だ。『3D彼女 リアルガール』では、五十嵐色葉という誰が見ても完璧なビジュアルを誇るヒロインを演じるにあたって、原作ファンをがっかりさせたくない一心から、中条本人ですら自身のことをナルシストかと思うほど常に目を意識して、徹底的にこだわり抜いたのだという。 たとえば・・・自宅で過ごす時も役に自分を近づけたいという思いから、色葉がふだんから着ていそうな派手めな服を選んだり、撮影現場へも人目を引くようなファッションで通ったりといった具合だ。なお、ふだんはジャージやスウェットなど、わりとラフな格好で現場入りすることが多いのだとか。 そんなふうに、役と同化するためであれば細々としたことだろうと最善を尽くす。それが、中条あやみという人の本質なのだ。 その労を惜しむことなく芝居に取り組む姿勢は、『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』や『覆面系ノイズ』といった“実技”系ムービーで目にすることができる。前者は文字通りチアダンス、後者では“イノハリ”こと4人組バンド「in NO hurry to shout;」の中心メンバー・アリス=有栖川仁乃としてボーカル&ギターに挑み、いずれも吹き替えナシで自ら実演。また、『覆面系ノイズ』の公開前後にはイベントなどで歌声を響かせ、堂に入ったパフォーマンスも披露した(さらに、劇中曲「Close to me」で“イノハリ”の一員として実際にメジャーデビューまで果たしている)。 役者からすれば、演じる人物の特技を体得するのは当然のことなのかもしれない。しかし、単にマスターするのみならず、限られた時間の中で高いレベルまでスキルを磨いていくことが並大抵じゃないことは、あらためて語るまでもないだろう。まさに努力の賜物。 その体験がある中条あやみが演じたからこそ、本作『水上のフライト』でカヌーを駆る藤堂遥という主人公は、スクリーン越しにも血の通った人物として感じられるのではないか。そんなふうに思えてならないのだ。 物語冒頭、有望な走り高跳び選手として登場する遥だが、誰よりも高く跳ぶことにこだわるあまり、他者への思いやりがやや足りないようにも映る。この時点では、良くも悪くも“女王”という称号が似合う人であり、ストイックなあまり笑うことがなく、ある種の近寄りがたさが漂っている。 ほどなく、交通事故に遭って下半身不随となってしまい、生活環境も一変。二度と高く跳ぶことはもちろん、自分の足で立って歩くこともできなくなる。生きていくことが残酷にも思える現実と直面する中で、生意気が失われた顔からは表情が消え、もはや笑顔など望むべくもない。 だが、遥はやがてカヌーという生きる糧と出合い、また周りの人たちに支えられていることにも気づき、いつしか前向きな気持ちと他者への感謝、そして笑顔までも取り戻していく。 その心情の変化が織りなすグラデーションと、カヌーをあたかも身体の一部のように操るようになっていくさまは、まさしく中条あやみの真骨頂と言えるだろう。努力することをまったくもって努力だとは思っていない。これまでの経験から培われた感覚を持つ中条自身と遥がピタリ重なった時、次の一節は単なるセリフではなく、生きた言葉として観る者の胸に迫り、やがて福音の鐘のように響きだす。 「調子が良くても悪くても、やることは結局同じ。努力だよ。ただ自分を信じて努力するしかないの」 “努力することにおける天才”の真髄、ここにあり。『水上のフライト』は女優・中条あやみをまた一歩、次へと進ませた。 |
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